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レイ

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 「アーレイバーク級ミサイル巡洋艦、大破!」

 8時方向で巡航していたミサイル巡洋艦が、巨獣の高速の体当たりで吹き飛んだ。
 時速500キロで衝突したにも関わらず、巨獣は無傷だった。

 「ハーちゃん! 中へ入って!」
 「レイ! あなたこそ早く中へ! ここはあたしとルーで喰い止めるよ!」
 「何を言ってるの! アレには50ミリ機関砲もミサイルだって効かないのよ!」
 「だからだよ! もうあたしたちしかいないんだから!」

 全長100メートル、体高70メートルの巨大な生き物。
 海上を恐ろしい速さで移動する。
 その数、14頭。
 突如として現われ、軍艦の攻撃も戦闘機の攻撃をもものともせずに突進してくる。
 既にインディペンデンス級フリゲート艦二隻と多数のF15とF16、そして今、アーレイバーク級ミサイル巡洋艦が喪われた。

 ルーとハーは、高速輸送船の甲板に立ち、並んでこちらを向いている巨獣を睨んだ。

 「ルーちゃん、ハーちゃん!」
 レイが後ろで泣き叫んでいた。

 「レイ、大丈夫だよ! あなたのことはあたしたちが絶対に守るからね!」
 「ルーちゃん!」

 二頭の巨獣が両側から突進して来た。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 御堂が帰った翌日の月曜日。
 一江からの報告を聞いていた。

 「以上であります! 御清聴ありがとうございました!」
 「あんだ?」
 「それではこれで失礼いたします!」
 「おう?」
 出て行こうとする一江を呼び止めた。

 「おい、ちょっと待て!」
 「ヒィッ!」
 「そういえばお前には言ってなかった。明日、レイチェル・コシノがここに来るからな」
 「え? 前におっしゃってた双子ちゃんを送ってくれたという?」
 「そうだ。しばらくうちに泊まるから、明日来たらお前と大森も挨拶しておけ」
 「はい」
 俺は手を振って出て行けと示した。

 「あの、部長」
 「あんだよ」
 「そのレイチェル・コシノさんは、お綺麗な方ですか?」
 「ああ、そうだな。結構な美人だ。背が高くてなぁ。180センチくらいあったぞ」
 「オッパイは?」
 「え? 大きかったな。六花くらいはあったと思うぞ」
 「流石オッパイ専門家!」
 「ワハハハハ!」

 「それで御堂さんが帰っても落ち込んで無かったんですね」
 「なんだよ、それは?」
 「明日からお愉しみですね! このエロ魔人!」
 一江の頭にチョップを入れた。

 「下らねぇことを言うな! さっさと仕事に戻れ!」
 「へいへい」
 一江は部屋を出て、部下たちに両手を横に拡げて見せた。
 セーフ、という意味のようだ。
 何がセーフなのか。

 俺は今週のノルマの論文を部下たちに配った。
 分厚い量に、みんな顔を青くする。

 「一江、フランス語の論文もあるからな」
 「え! 私フランス語はあまり」
 「なんだよ?」
 「何か重要な内容があるんですか?」
 「いや、俺がフランス語が好きだから」
 「ゲェッ!」
 「必ず読めよ! 週末に意見を聞くからな!」
 「……」
 一江が部下たちを見る。
 話が違うだろうという目で睨まれていた。





 院長室へ行った。

 「石神、入ります!」
 院長はいつもの各部科からの報告書を読んでいる。

 「院長、来月にうちの子どもたちが海外旅行に行きます」
 「おう、そうだってな。皇紀くん以外だったな」
 「はい」
 「しょっちゅう会ってるわけじゃないが、いないと知ると寂しいものだな」
 「はい。院長には特に双子が懐いてますので、双子も同じ気持ちのようです」
 「そうか!」

 「それでこんなものを」
 「ん?」
 「二人で互いに描いた絵です。院長に持っていてもらいたいと言っていました」
 「俺にか!」
 「はい」

 双子の肖像画だ。
 院長は額装された絵を見て喜んでいた。

 「大切にすると言っておいてくれ。ああ、ありがとうってな!」
 「はい、お伝えします」

 俺は部屋を出た。

 あいつらは、何かを感じている。
 俺には何も言っていないが、無事に戻れない可能性を感じているのかもしれない。
 大好きな院長にと、俺に託しやがった。




 翌日の火曜日。
 俺が出勤すると一江がレイがもう来ていると伝えて来た。

 「なんだよ、夕方に来るはずだったのに」
 「それが、早い便に乗れたということで」
 「今どこに?」
 「響子ちゃんの部屋です」
 「分かった」
 俺は響子の病室へ行った。
 笑い声が聞こえる。
 入ると、ベッドに半身を起こした響子が、レイと楽しく話していた。
 レイは明るく笑っており、こんなに優しい笑顔をする女なのかと驚いた。

 「タカトラ!」
 「おう、おはよう。レイ、早かったな」
 「おはようございます。はい、早い便が捕まったので、少しでも早くと思いまして」
 「そうか。悪いけど夕方まで家には誰もいないんだ。この後どうする?」
 「響子と一緒にいます」
 「ほんとにぃ!」
 響子が喜んだ。

 「じゃあ、昼は一緒に食べに行くか」
 「やったー!」
 六花にベルエポックに1時に予約するように伝えた。
 六花もニコニコしている。
 もうレイの優しさが分かったようだ。
 それに響子が喜んでいる。
 響子の笑顔は、六花にとって何よりも大事だ。

 俺はオペがあるからと、部屋を出た。



 午後1時。
 少し響子の昼食が遅くなったが、レイとの再会で楽しんでいる。
 問題ない。
 四人で江戸見坂を上がった。 
 響子は俺が抱えている。
 ベルエポックで席に座り、料理を待った。

 「響子、レイと会えて嬉しいか?」
 「うん!」
 「お前、大好きだって言ってたもんなぁ」
 「うん、向こうにいるときも、一杯遊んだもんね!」
 「そうですね」

 「私のね、身体がおかしいって最初に気付いてくれたのもレイなの」
 「そうなのか」
 「うん。ちょっと疲れやすいのがひどいって。それでシズエに病院で検査するように言ってくれたのね」
 「そうか」
 「レイが気付いてくれなければ、私はもっと酷いことになってたってシズエが言ってた」
 それはとっくに命が無かったということだ。

 「いえ、私はそんな」
 「私を日本に運んでくれたのもレイなんだよ!」
 「そうだったのか」
 「うん。一杯大事にしてくれたよね、レイ?」
 「それは当然のことです。響子は私にとっても大切な人間ですから」
 「うん!」

 「でも安心しました。こちらでも石神さんや六花さんが響子を本当に大事にして下さっているので」
 「聞いたと思うけど、六花は響子の専任なんだ。こいつも響子が世界の中心でなぁ」
 「そうです。あと私は石神先生の大事な女たちの一人です」
 「え?」

 「六花、お前はもう帰れ」
 「エェッー!」
 レイと響子が笑った。

 「六花はね、タカトラの曜日係なの」
 響子が言う。

 「ヨウビガカリ?」
 「そう。何曜日にどの女の人がタカトラと一緒にいるのか決めてるのね」
 「響子、やめてくれ」
 「レイさん。もう全部の曜日が決まっていますので、レイさんは虎曜日になりますが」
 「トラヨウビ?」

 「もうやめろ!」
 レイは意味は分からなかったが、楽しそうに笑った。




 食事から戻り、響子は寝た。

 「レイ、アビーには?」
 「はい、これから伺うつもりです」
 「響子が寝ることも知っていたか」
 「はい」
 「4時頃には起きるからな」
 「はい」
 「出来ればその前に帰って来いよ」
 「?」
 俺は響子が起きる前にモゾモゾするのだと教えた。

 「これは知らなかっただろう。カワイイぞ!」
 「ありがとうございます。是非見たいです」



 俺がすべての仕事を終え、5時頃に響子の部屋へ行った。
 
 「石神さん、響子のモゾモゾが見れましたよ!」
 レイが嬉しそうに言った。
 
 「そうか」
 俺はレイの荷物を持った。

 「それでは響子、また来ますね」
 「うん! レイ、またね」
 裏のタクシー乗り場へ行く。
 レイの荷物をトランクに入れる。
 20分ほどで家に着いた。


 「ようこそ、レイ。しばらくゆっくりしてくれ」
 「はい、よろしくお願いします」



 俺たちは門を潜った。
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