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御堂 Ⅴ
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翌朝。
朝食を食べ、御堂は俺の部屋に来た。
ロボがベッドで気持ちよさそうに寝ている。
「石神、世話になった。とても楽しかったよ」
「そりゃ良かった。もう終わりか。残念だな」
「僕もだ」
「また来てくれな」
「ああ、もちろんだ。お前も僕の家に来てくれ」
「もちろんだ」
「ああ、家まで送ろう! アヴェンタドールをみなさんに見せたいしな!」
「いいよ、電車で帰る」
御堂は笑ってそう言った。
「頼みがあるんだ」
「なんだ! 何でも言ってくれ」
「山中の墓参りがしたい」
「!」
「分かった。駅に送りがてら行こう」
御堂は荷物をまとめ、子どもたちに挨拶をした。
「みんな、本当にありがとう。楽しかったよ」
子どもたちは口々にまた来てくださいと言った。
俺はベンツを出した。
「これで石神の車はコンプリートだね」
「アハハ、そうだな」
俺は足立区の墓地に向かった。
俺が用意した山中夫妻の墓がある。
二人で掃除し、買って来た花を供えて線香に火をつけた。
二人で般若心経を読経した。
「山中、僕が見て来た。お前の子どもたちは幸せそうだったよ」
御堂が話しかけた。
「急なことで、お前もさぞ心配だっただろう。でも大丈夫だよ。石神がしっかり育てているから」
「御堂……」
「奥さんも安心して下さい。石神はいい奴ですからね」
俺たちは駐車場に向かった。
「あの墓は石神が建ててくれたんだろう?」
「ああ。山中の家には子どもたちの養育費以外は無かったしな。俺は使う宛の無い金があったし」
「ありがとう」
「お前が礼を言うことじゃないだろう」
「いや、言わせて欲しいよ」
「そうか」
俺たちは再びベンツに乗り込んだ。
「最初はな。あの墓に子どもたちを連れて行くのを迷ったんだ」
「そうか」
「親を喪ったって一番感じてしまう場所だからな」
「うん」
「でも、一周忌に連れて行った時は、大丈夫だった。あいつらは両親を大事に思ってはいても、もう引きずってはいないと感じた」
「そうか」
「だけどな。こないだ双子と散歩した時にな。小さな子どもが両親に手を繋がれて歩いていたんだ」
「うん」
「双子がそれをじっと見ていた。あれは辛かったな」
「そうか」
「それで俺が二人を放り投げて元気をだせってなぁ」
「そうだったか」
「そうしたらハーが着地に失敗して地面に突き刺さった」
「アハハハハ!」
「救急車を呼ばれそうになって、慌てて逃げたけどなぁ」
「アハハハハ!」
「あいつらは普段は元気いっぱいだけどな。でもやっぱり親を求めている」
「お前がいるじゃないか」
「まあな」
「亜紀ちゃんとお酒も飲んでる」
「あの世で山中にまた怒られそうだな」
「アハハハハ!」
東京駅が近くなった。
「僕が一緒に行ってなだめてやるよ」
「頼む!」
「だからお前は僕の後から来いよな」
「それは分からんだろう」
「ダメだ。柳を幸せにしてゆっくり来い」
「分かった」
駅の駐車場に入れようとしたが、御堂が断った。
「ここでいい。また来るからな」
「ああ、待ってるよ」
「僕もね」
「それじゃあ」
「それじゃあ」
俺たちは別れた。
俺は御堂の背中を見送ってから家に帰った。
家に帰ると、亜紀ちゃんとロボが出迎えた。
「お帰りなさい―!」
「にゃー!」
「ああ、御堂を送って来たよ」
亜紀ちゃんが俺を見ている。
「なんだよ?」
「いえ、また泣いてるんじゃなかって」
「またって言うな!」
亜紀ちゃんが笑っている。
「タカさん、今日はこれからどうします?」
「あ? 別に。寝ようかな」
「あー、ふて寝だぁ」
「おい!」
「ねぇ、遊びに行きましょうよ!」
「やだよ、疲れた」
「じゃあ、ギターを聴かせてください」
「ぎたー」
「もう!」
俺はリヴィングの子どもたちに手を振った。
「今日はもう寝るからな」
「「「はーい!」」」
亜紀ちゃんは俺の部屋までついてくる。
俺は構わず寝間着に着替えた。
ロボとベッドに横になる。
亜紀ちゃんが布団に入って来た。
「じゃあ寝ますか!」
「おい」
「いいじゃないですか、親子なんですから」
「女子高生は親父を嫌うのが正しい親子だ」
「私が嫌ってもいいんですか?」
「やだ」
亜紀ちゃんが笑った。
「亜紀ちゃんのせいでよ」
「なんですか?」
「俺はあの世で山中に怒られるんだ」
「え?」
「御堂がなだめてくれるってさ」
「なんですか?」
「そういうことだ!」
「分かりません!」
亜紀ちゃんが俺の頭を抱いた。
「タカさん、私がいますって」
「……」
「みんないなくなっちゃったとしたって。私はずっと傍にいます」
「へぇ」
御堂がいなくなって、俺が寂しくて不貞腐れているのは分かっている。
まるで子どものようだ。
「はい、巨乳ですよー」
亜紀ちゃんが自分の胸を俺の顔に押し付ける。
「ウッ、顔が埋まって喋れねぇ!」
「喋ってるじゃないですか!」
俺たちは笑った。
「あ、やっと笑った!」
「うるせぇ」
「タカさん、お昼はどうします?」
「当然起こせ」
「はーい!」
亜紀ちゃんは部屋を出て行った。
俺を心配してやがったのか。
まったく生意気な娘だ。
俺はドアに向かって頭を下げた。
朝食を食べ、御堂は俺の部屋に来た。
ロボがベッドで気持ちよさそうに寝ている。
「石神、世話になった。とても楽しかったよ」
「そりゃ良かった。もう終わりか。残念だな」
「僕もだ」
「また来てくれな」
「ああ、もちろんだ。お前も僕の家に来てくれ」
「もちろんだ」
「ああ、家まで送ろう! アヴェンタドールをみなさんに見せたいしな!」
「いいよ、電車で帰る」
御堂は笑ってそう言った。
「頼みがあるんだ」
「なんだ! 何でも言ってくれ」
「山中の墓参りがしたい」
「!」
「分かった。駅に送りがてら行こう」
御堂は荷物をまとめ、子どもたちに挨拶をした。
「みんな、本当にありがとう。楽しかったよ」
子どもたちは口々にまた来てくださいと言った。
俺はベンツを出した。
「これで石神の車はコンプリートだね」
「アハハ、そうだな」
俺は足立区の墓地に向かった。
俺が用意した山中夫妻の墓がある。
二人で掃除し、買って来た花を供えて線香に火をつけた。
二人で般若心経を読経した。
「山中、僕が見て来た。お前の子どもたちは幸せそうだったよ」
御堂が話しかけた。
「急なことで、お前もさぞ心配だっただろう。でも大丈夫だよ。石神がしっかり育てているから」
「御堂……」
「奥さんも安心して下さい。石神はいい奴ですからね」
俺たちは駐車場に向かった。
「あの墓は石神が建ててくれたんだろう?」
「ああ。山中の家には子どもたちの養育費以外は無かったしな。俺は使う宛の無い金があったし」
「ありがとう」
「お前が礼を言うことじゃないだろう」
「いや、言わせて欲しいよ」
「そうか」
俺たちは再びベンツに乗り込んだ。
「最初はな。あの墓に子どもたちを連れて行くのを迷ったんだ」
「そうか」
「親を喪ったって一番感じてしまう場所だからな」
「うん」
「でも、一周忌に連れて行った時は、大丈夫だった。あいつらは両親を大事に思ってはいても、もう引きずってはいないと感じた」
「そうか」
「だけどな。こないだ双子と散歩した時にな。小さな子どもが両親に手を繋がれて歩いていたんだ」
「うん」
「双子がそれをじっと見ていた。あれは辛かったな」
「そうか」
「それで俺が二人を放り投げて元気をだせってなぁ」
「そうだったか」
「そうしたらハーが着地に失敗して地面に突き刺さった」
「アハハハハ!」
「救急車を呼ばれそうになって、慌てて逃げたけどなぁ」
「アハハハハ!」
「あいつらは普段は元気いっぱいだけどな。でもやっぱり親を求めている」
「お前がいるじゃないか」
「まあな」
「亜紀ちゃんとお酒も飲んでる」
「あの世で山中にまた怒られそうだな」
「アハハハハ!」
東京駅が近くなった。
「僕が一緒に行ってなだめてやるよ」
「頼む!」
「だからお前は僕の後から来いよな」
「それは分からんだろう」
「ダメだ。柳を幸せにしてゆっくり来い」
「分かった」
駅の駐車場に入れようとしたが、御堂が断った。
「ここでいい。また来るからな」
「ああ、待ってるよ」
「僕もね」
「それじゃあ」
「それじゃあ」
俺たちは別れた。
俺は御堂の背中を見送ってから家に帰った。
家に帰ると、亜紀ちゃんとロボが出迎えた。
「お帰りなさい―!」
「にゃー!」
「ああ、御堂を送って来たよ」
亜紀ちゃんが俺を見ている。
「なんだよ?」
「いえ、また泣いてるんじゃなかって」
「またって言うな!」
亜紀ちゃんが笑っている。
「タカさん、今日はこれからどうします?」
「あ? 別に。寝ようかな」
「あー、ふて寝だぁ」
「おい!」
「ねぇ、遊びに行きましょうよ!」
「やだよ、疲れた」
「じゃあ、ギターを聴かせてください」
「ぎたー」
「もう!」
俺はリヴィングの子どもたちに手を振った。
「今日はもう寝るからな」
「「「はーい!」」」
亜紀ちゃんは俺の部屋までついてくる。
俺は構わず寝間着に着替えた。
ロボとベッドに横になる。
亜紀ちゃんが布団に入って来た。
「じゃあ寝ますか!」
「おい」
「いいじゃないですか、親子なんですから」
「女子高生は親父を嫌うのが正しい親子だ」
「私が嫌ってもいいんですか?」
「やだ」
亜紀ちゃんが笑った。
「亜紀ちゃんのせいでよ」
「なんですか?」
「俺はあの世で山中に怒られるんだ」
「え?」
「御堂がなだめてくれるってさ」
「なんですか?」
「そういうことだ!」
「分かりません!」
亜紀ちゃんが俺の頭を抱いた。
「タカさん、私がいますって」
「……」
「みんないなくなっちゃったとしたって。私はずっと傍にいます」
「へぇ」
御堂がいなくなって、俺が寂しくて不貞腐れているのは分かっている。
まるで子どものようだ。
「はい、巨乳ですよー」
亜紀ちゃんが自分の胸を俺の顔に押し付ける。
「ウッ、顔が埋まって喋れねぇ!」
「喋ってるじゃないですか!」
俺たちは笑った。
「あ、やっと笑った!」
「うるせぇ」
「タカさん、お昼はどうします?」
「当然起こせ」
「はーい!」
亜紀ちゃんは部屋を出て行った。
俺を心配してやがったのか。
まったく生意気な娘だ。
俺はドアに向かって頭を下げた。
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