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おパンツ。

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 金曜日の夜。
 映画鑑賞会でサム・ペキンパーの『戦争のはらわた』を見せた。
 ドイツ軍視点での、戦争映画の名作の一つだ。
 勇敢に戦った者に与えられる鉄十字勲章。
 既にそれを得ているシュタイナー曹長と、是非手に入れたいシュトランスキー大尉。
 不当な手段で勲章を手に入れようとするシュトランスキーは、シュタイナーを罠にはめて、彼の部下を皆殺しにする。
 ソ連軍の侵攻の中、二人は明るく笑いながら戦いに赴く。
 汚いことも勇敢なことも、一緒くたになるラストは荘厳だ。

 「戦争がどうして無くならないか。皇紀!」
 「はい! 人間の本能が闘争をやめられないからではないでしょうか」
 「まあ、10点だな。それは多分に、闘争が悪いものだという前提に立っている」
 皇紀はしょげる。

 「ハー! お前は一度殺されたから分かるんじゃないか?」
 「死んでないもん!」
 「アハハハ。それでどうだよ」
 「戦うのは楽しいです!」

 「流石亡霊。言うことが100点だな!」
 「エヘヘヘ」
 ハーは喜んだ。

 「そうなんだよ。それがこの映画に描かれているんだ。愛する部下を殺した上官。でもそれを殺さないんだよな。憎しみも恨みも、戦争の楽しさの中で消え失せる。それくらい、戦いというのは楽しいんだよ」
 「鉄十字勲章にはまったく意味がないんですね?」
 亜紀ちゃんが言う。

 「まあ、戦いの楽しさの前では、そうだな。でももちろん、出世や名声を求めたっていいんだ。欲しいなら勇敢に戦え、というだけだよな。だからシュタイナー曹長は大尉の欲望を止めなかったんだ」
 子どもたちは納得した。

 「お前たちは、現代社会の中ではネジが何本もぶっ飛んだヘンタイだ。それは自覚しておけ。社会で生きて行かなきゃいけなんだからなぁ。でも、戦いは厭うな。命を捨てる覚悟があれば、戦い程面白いものはない。知ってるな!」
 「「「「はい!」」」」
 無茶苦茶な親だとの自覚はある。
 しかし、俺たちは既に決まってしまったのだ。
 歩み始めれば、どこまでも行くしかない。




 亜紀ちゃんと「七面鳥会」を開く。
 俺たちがワイルドターキーを飲んでいると、双子が乱入してきた。
 俺たちのつまみをばくばく喰う。

 「こら!」
 亜紀ちゃんが頭をひっぱたく。

 「なんだよ、お前ら」
 「ちょっとご相談があって」
 「だったら普通に聞きなさい!」
 亜紀ちゃんがまたひっぱたく。
 俺は笑って座れと言った。
 亜紀ちゃんにミルクを出してもらう。
 亜紀ちゃんは不満そうにミルクを出し、ついでにつまみの追加を作った。
 双子のタコ焼きだ。

 「あー!」
 ルーが叫ぶ。
 亜紀ちゃんは無視して袋を三つ開けて温める。

 「それで相談ってなんだよ?」
 「あのね、タカさんに言われて、蓮花さんにゴキブリの飼育法を教えたでしょ?」
 「ああ」

 皇紀と双子の生み出した「α」やできれば「Ω」たちを、また作り出そうと考えていた。
 今後、対「花岡」のために、もっと量が必要になるだろうし、過程で何かが見つかる可能性もある。
 しかし、どうも上手く行っていないらしい。

 「蓮花さんには、飼育記録も全部渡してるし、もちろん花壇の土も送ったでしょ?」
 「そうだよな」

 「だけど、大きなゴキブリはできても、銀色のものはまだ出来ないの」
 
 双子たちの飼育記録は俺も見た。
 しかし追試が上手く行かない。
 蓮花も悩んでいた。
 何が足りないのか分からないのだ。

 「まあ、じっくりやろう。「Ω」は再生もするしな」
 俺が飲んだ「Ω」は、その後削った羽が再生していた。
 やはり、生命としてはけた違いだ。


 「じゃあ、二人とももう寝て! 私とタカさんはまだ飲むんだから」
 「「はーい」」
 二人はたこ焼きを口に入れながら返事した。

 「もう!」
 亜紀ちゃんが怒り、俺は笑った。

 「タカさんの明日のご予定は?」
 「ああ、栞が遊びに来るからな。のんびりするよ。来週は御堂だしな!」
 「アハハ、最近はそれが語尾につきますね」
 「おう!」

 俺たちは、今日の映画のドイツ軍について話をした。

 「ドイツ軍ってカッコイイですよね!」
 「そうだよな! まあ、日本と似たところがある国だ」
 「どういうところですか?」
 「組織的と言うかな。国民が歯車になって、物凄いことをやるんだよ」
 「へー」

 「第二次世界大戦でのドイツ軍の強さって、半端じゃなかったんだ。あっという間にヨーロッパ全土を掌握したんだからなぁ」
 「そうですよね」
 「主にスツーカ爆撃機の攻撃と機甲師団の蹂躙よな。「電撃戦(Blitzkrieg)」というものだ。ポーランドはこれでたったの二週間で陥落した。そして軍事大国のフランスも実質的に約一か月。物凄い侵攻だったんだよな」
 「へぇー」

 「日本もそうだ。南洋の資源を求めて、破竹の勢いで侵攻した。まあ、陸軍が化け物みたいに強かったんだよな」
 「だけど、両方とも負けちゃいましたね」
 「そうだ。ある時点までは最強なんだけど、歯車が狂うともうダメになる。ドイツはソ連戦で無理をしたためだし、日本は海軍がヘッポコで失敗し、長大な補給線を維持できなかった。やり過ぎたんだよ」

 「ドイツは昔、プロイセン帝国ですよね」
 「ああ。その頃から俺は大好きよな」
 「どうしてですか?」
 「プロイセンと言えば、フリードリヒ大王よ!」
 「はぁ」
 「また亜紀ちゃんは知らねぇのかよ!」
 「すいません!」

 
 《 犬どもよ、永遠の生が欲しいのか!( Hunde, wollt ihr ewig leben !)》


 「カッコイイ!」
 「そうだろ? 七年戦争で潰走する自軍に向かって叫んだんだ。戦争の本質を知っていた、ということだな」
 「闘争は楽しいってことですね?」
 「そうだ。死ぬかもしれないからこそ、楽しいんだからな。それを維持している軍が最強なんだ」
 「ハーも死にましたしね!」
 「死んでないもん!」

 まだ双子はキッチンで何か喰っていた。
 俺たちは笑って解散した。




 翌朝。
 土曜日だ。
 俺は蓮花に電話をした。

 「ルーとハーから聞いたけど、ゴキブリの飼育はそんなに焦ることはないぞ」
 「はい、御心配をおかけして申し訳ありません」
 「大体子どもが遊び半分で作ったものだ。よく分らん要素があって不思議ではない」
 「はい。でも皇紀様方からは十分過ぎる資料を頂いております。私が負甲斐ないばかりに」
 「だから、そういうことを考えるな、と言っているんだ。まあ、俺もいろいろ考えてみるし、あいつらともまた話していく。そのうちに何か分かるだろうよ。出来なくたっていいんだしな」
 「はい」
 蓮花はそうは言ったが、まだ忸怩としたものがあるようだ。

 「フェロモンではないかと考えています」
 「なに?」
 「特殊な成長を促すフェロモンです。ゴキブリがゴキブリでなくなるような、何か特殊な」
 「そうか」
 「フェロモンは極少量で劇的な変化を促します。幼虫から蛹へ。蛹から今度は蝶へ。全く異なる身体になります」
 「そうだな」
 「もうしばらく、お待ちくださいませ」
 「いつまでも待つ。だから根を詰めるなよ」
 「はい、ありがとうございます」
 電話を切った。
 俺は双子に蓮花がフェロモンではないかと言っていたことを話す。

 「うーん、分んない」
 「そういうものが、どうやって紛れ込んだかなぁ」
 俺も飼育記録を読んだ限りでは、思い当たらなかった。
 偶発的なものだろうか。



 栞が遊びに来た。
 今日はビロードのスカートだ。
 そういうものが大好きなロボが飛びかかった。
 栞は抱きしめて、ソファで一緒に遊ぶ。
 ロボは大興奮で栞に飛びかかり続ける。
 俺がコーヒーを持って行くと、栞のスカートがまくれた。

 「やだー!」
 笑って栞がスカートを直し、ロボをけん制する。



 「「あ!」」



 双子が後ろで叫んだ。
 俺が振り返ると、ニヤリと笑っていた。

 「なんだよ?」
 「「なんでもないー」」

 昼食をみんなで食べ、俺と栞の食後のコーヒーを双子が持って来る。

 「今日はみんなで買い物に行ってくるね!」
 「ああ、そうなのか?」
 亜紀ちゃんが聞いてないとか文句を言う。
 皇紀は諦めている。
 ルーが亜紀ちゃんの耳元で何かを囁いた。
 しょうがないと小声で亜紀ちゃんが言った。

 「じゃ、そういうことで!」
 「お、おう?」

 子どもたちが出掛け、俺と栞は寝室へ行った。
 まあ、気を利かせたということか。

 行為を終え、しばらく二人で寝転んでいた。
 ロボが入って来た。
 俺は笑ってベッドへ呼んだ。
 その時、疾風のように双子が入って来て、脱いだ栞のパンティを掻っ攫って行った。

 「おい!」

 ハーが持ち去り、ルーがドアの前で仁王立ちになっている。

 「タカさん! 分かった!」
 「何がだ!」
 「私のパンツ、返してぇ!」

 「栞ちゃんのパンツだよ!」
 「何を言ってる!」
 「返してぇ!」

 「あの時、タカさんの部屋で拾ったの! それで面白半分に飼育バケツに入れたの!」
 「なに?」
 「ねぇ!」

 「だから記録に残ってないの! 悪戯だったから!」
 「そうなのか!」
 「石神くん!」

 「あれを送ったら分かるって!」
 「よし、すぐに送れ! ああ、冷凍便でな!」
 「分かりました!」
 「分かんないよー!」

 ルーが駆け出した。
 俺は栞に新しいパンツをタンスから出して渡した。

 「はい」
 「なんなのよー!」






 数か月後。
 新たな「Ω」が生まれた。 
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