富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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プリンとMRI

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 プリンが食べたくなった。

 「タカトラー、プリンが食べたいよー」

 俺の最愛の女がそう言ったのがきっかけだ。
 こいつがゾウが食べたいと言ったら、マグナムライフル片手に狩に行く。
 ツチノコのかば焼きが喰いたいと言ったら、俺は日本中の山を歩き回るだろう。
 プリンごときで戸惑う理由はない。
 まあ、俺が喰いたくなった。

 「じゃあ、夕飯のデザートに出してやろう」
 「やったー!」
 「やったー!」
 オッパイの大きな俺の女も片手を上げた。
 まあ、いいだろう。

 「やったー!」
 廊下で俺を待っていた一江が片手を上げた。
 俺は中指を立てた拳で額を殴った。

 「イタイイタイイタイ!」

 「お前、誰の許可を得て俺の幸せな空間を汚してやがる!」
 「だってぇ! 私だってたまにはいいじゃないですか!」
 「お前と一緒に響子が俺のプリンを喰ってだなぁ」
 「食べたらなんなんです?」
 「お前のブサイクが響子に移ったらどうすんだぁ!」
 「ひっどいですよ!」
 
 俺は響子に手を振って部屋へ戻った。





 「おい、午後は〇〇医大の連中が来るんだよな?」
 「はい。MRIに万年筆が引っ付いたってことで」
 「どうせアホが咄嗟にクエンチ(停止ボタンを押す)させたんだろ?」
 「それがですねぇ、その前にバールで外そうとしたらしいですよ」
 「ドアホか!」
 「持って来たバールがガントリーの磁器コイルを滅茶滅茶にしたんですって」
 歩きながら一江と話していた。

 「業者が捕まらなくて、一週間以上かかるそうです」
 「大体ゲートはどうなってんだよ?」
 「ゲートの脇を抜けたみたいで」
 「あ? ドアについてねぇのか!」
 「はい。このゲートをくぐるようにって、室内に設置しているそうで」
 「もう、病院の看板降ろせよ」
 「まったくですねぇ」
 うちの病院はMRI室のドアに金属探知機のゲートを設置している。
 だから入る際に必ず安全確認をするようになっているのだ。

 MRIは当然高価な機械だ。
 ヘリウムを使っているため、一旦電源を落とすとヘリウムの補給で軽く数百万円が飛ぶ。
 まして修理となれば数千万円以上はかかる。
 しかも、どんなに急いでも数日は使えない。
 修理によってはもっと費用と時間がかかる。
 一度の検査で数万円が入るが、事故が起きればとんでもない。



 俺は院長に言われて、〇〇医大の検査技師たちを迎えるように言われていた。
 向こうも大きな病院なので、MRI検査をする必要がある患者も多い。
 近隣の病院であることと、そのために様々な交流も多い。
 まあ、相手は医大といえどもうちよりも下の立場になるが。
 うちは東大病院と肩を並べる挌だからだ。
 交流は主に俺が始めた部分が大きい。
 要は、医大で手が出ないような患者をうちで受け入れるためだ。
 その見返りとして、データ提供などを受けている。
 患者のデータは多いほど良い。
 
 応接室で医師数人と検査技師たちと会った。

 「このたびは大変ご迷惑をお掛けします」
 高塚という医師が挨拶した。

 「こういう時はお互い様ですよ。患者さんのために、うちも協力しますから」
 俺はうちの検査技師を紹介し、みんなでMRI室へ向かった。

 「使い方はお判りでしょうが、一応中で説明します」
 俺はゲートの電源が入っているのを確認し、中へ入った。
 一江とうちの検査技師が続き、〇〇医大の検査技師が入る。
 高塚ともう一人が入った途端、ゲートが真っ赤になり、警報音が鳴った。
 俺は二人を蹴り出す。

 「服を全部脱げ! ドアホ!」
 俺の剣幕に二人の医師が驚いていた。
 俺は白衣を脱がし、廊下に出た一江に放る。
 
 「部長! クリップです!」
 一江が白衣のポケットから小さな黒いハサミクリップを見つけた。
 俺は空いている部屋へ二人を連れて行き、本当に全裸にした。

 「石神先生! これはちょっと!」
 俺は黙って一江と二人で男たちの服を調べた。
 ゼニクリップが一つと、一人の男の靴底に鋼鉄の鋲を見つけた。

 一江と二人で呆れた。

 「お前ら、とっとと帰れ。二度とうちに来るなよな」
 「石神先生!」
 「今回のことは、うちの病院への破壊工作と見做す。賠償費用はあとで話し合おうや」
 「すいませんでした、どうか!」
 「とっとと帰れ!」

 医師たちは服を着て慌てて帰って行った。




 俺たちは院長室へ報告に行った。
 院長にクリップなどを見せると、やはり呆れ返っていた。

 「あの病院とは縁を切ろう」
 「まあ、アホが多すぎますよね」
 「信じられんレベルだな」
 「はい」
 うんざりした顔の院長を残し、部屋を出た。




 「さて、時間も空いたし響子のプリンでも作るか!」
 「部長、お疲れ様でした」
 俺が食堂の厨房長の岩波さんに場所を借りてプリンを作っていると、一江が呼びに来た。

 「〇〇医大の学長が来ましたよ」
 「あ?」
 「部長も同席するようにと院長が呼んでいます」
 「手が離せねぇんだが」
 「私がやりますよ!」
 「ブサイクがうつったらどうすんだ!」
 「石神先生、後は私がやっておきますから」
 岩波さんが言ってくれた。
 しょうがねぇ。
 何故か一江が俺を睨んでいる。

 「あんだよ!」
 「あんでもないです!」

 

 院長室には、〇〇医大の学長と経理主任という人間が来ていた。

 「石神先生、この度は本当に申し訳なく!」
 学長が頭を下げる。
 院長に促され、院長の隣のソファに座った。

 「謝られてもしょうがないですよ。うちのMRIまでぶち壊されるところでした」
 「本当に申し訳ない!」
 「自分のとこのMRIぶっ壊した直後に、なんですかこれは?」
 「申し開きもない」
 平謝りの二人に、院長が困った顔をする。
 
 「まあ、お伝えしましたがMRIをお貸しする話は終わりです。それと、院長とも話しましたがこれまでのような交流も」
 「おい、石神!」
 学長と経理主任はそれだけはと懇願する。
 もちろん直接のダメージもあるが、不始末でうちの病院に切られたという評判が致命的だ。

 俺はごねた挙句に、傘下の病院の一割をうちの直属にすることと、看護師50名の出向という約束を取り付けた。
 看護師はどこも不足している。
 うちは良い方だが、それでも大いに越したことはない。
 げっそりとした顔で学長と経理主任は帰って行った。

 「お前、ヤクザのようだな」
 「まあ、似たようなものです」
 最近、北関東最大の組織が俺の下についた。

 



 岩波さんは、俺の作り方を知っている。
 美味しいプリンが出来た。
 夕食の後で、響子と六花の三人で食べた。

 「タカトラ、美味しいよー」
 「そうか、よかったよ」
 「石神先生、美味しいですぅー」
 「お前が笑うと幸せな気分になるぞ」

 俺は部下たちの分も用意していた。
 自分のデスクで喰っているはずだ。



 「おい、一江。何やってんだ?」
 「大森! あたしは部長にブサイクをうつしてやるんだ」
 一江は呪文を唱えながらプリンに手をかざしていた。
 大森が一江のプリンを取り上げた。

 「あたしが全部受け止めてやるよ」
 一口で大きな口に吸い込んだ。

 「あ、あたしのプリンー!」
 「部長の作るものは何でも最高だな!」
 「てめぇ!」
 やせ細った一江が「花岡」まで習得しつつある大森に敵うわけはなかった。

 一江は山岸の喰いかけのプリンを奪い取った。
 一番下の山岸は、怒りの向ける場も無かった。
 一江を睨んでいると、大森に引っぱたかれた。



 俺が戻ると、全員が俺に礼を言って来た。
 山岸が黙っているので、また大森に叩かれた。

 
 みんなが笑った。
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