上 下
553 / 2,859

皇紀とミユキ Ⅴ

しおりを挟む
 帰り道で、蓮花さんがまた僕をからかった。

 「ミユキのことばかり御褒めでございましたが、わたくしは魅力はありませんのね」
 「そんなことないですよ!」
 「折角皇紀様のために、普段着慣れないオシャレをして参りましたのに」
 「蓮花さんはものすごくお綺麗です!」
 「そんな取って付けたようなことを仰られても」
 「本当ですって! もう勘弁して下さい」
 二人が声を出して笑った。

 ピクニックから戻り、僕は蓮花さんに休んで下さいと言われた。
 眠くはなかったので、施設をゆっくり見回った。
 「IVA」の建設現場を見て、荷電粒子砲やレールガンの施設を見た。

 外を歩きながら考えていた。

 ミユキさんが記憶を取り戻したのは、蓮花さんの力だけではない。
 最も大きい要素は、もちろん「クロピョン」だ。
 でも、アレは本来は人間に制御できるものではない。
 タカさんだから従えることが出来たが、本当はあれくらいの力が僕たちには必要なのだ。
 僕は、そのことを考えた。

 超自然と言うのは容易い。
 しかしそれは思考放棄だ。
 実際にタカさんは「クロピョン」を従えているのだ。
 タカさんには及ばないのは分かっているが、僕はあれだけの力を体現したい。
 「花岡」も制御できた。
 諦めることは捨てることだ。
 帰ったら、ルーとハーにも相談してみよう。




 無意識に、あの人間ではなくされてしまった方たちの建物に来ていた。
 気は進まなかったが、僕は見たくないものを見なければならない。
 そう思った。

 僕はカードで入り口を開いた。

 何枚ものゲートを潜って、地下深くに降りた。
 周囲の壁をクッションで囲まれた部屋。
 厚い強化ガラスから中が見える。
 みんな、清潔な白い服を着ている。
 僕が見えるはずだが、何の反応も無い。
 魂が離れている。
 
 「きっとあなたがたを人間に戻します。もう少し待っていて下さい」



 
 「お前も面白いな」
 突然声がしたので、驚いて振り向いた。
 足元に細い何かがいた。
 イタチに似ているが、やけに細長い。
 顔に一つ目。
 厳重なこの施設に生き物が紛れ込むことはあり得ない。




 「クロピョン」と同じものだ。



 「お前は!」
 怖かった。
 だが、タカさんから不思議な相手には絶対にビビるなと言われている。

 「お前、力が欲しいのか」
 「い、いらない!」
 「俺がやるよ」
 「だから、いらない!」
 「こいつらを何とかしたいんだろう?」
 「お前の手は借りない!」

 「ふん、俺たちとの関り方を知っているようだな。やっぱり面白い」
 「出て行け!」
 「待てよ。試練は終わった。お前が俺を欲しがったら終わりだったけどな」
 そいつは甲高い声で笑った。

 「ああ、合格だ。俺はお前に従う」
 「やめろ、お前はいらない!」
 「怖がることはない。俺を必要な時に呼べ。それと、お前の面白い機械な、手伝ってやる」
 「……」

 「今はまだ早い。その時までお前は俺のことを忘れる」
 「なんだって?」
 「クロピョンが道を作ったお陰でお前に会えた。嬉しいぞ」
 「待て、お前は!」

 「クロピョンは久しぶりに楽しそうだ。人間に仕えるっていうのにな。俺には理解できなかったが、お前を見て分かった。確かに面白そうだ」
 「なんなんだ、お前は?」

 「しばし忘れろ。その時が来れば分かる」

 それは消えた。







 何が消えた?

 僕はブランの施設を出た。

 そろそろ夕食だろう。
 手伝いに行かなきゃ。





 僕が行くと、もう蓮花さんが全部やっていた。

 「今度はわたくしの勝ちでございます」
 蓮花さんが笑ってそう言い、僕も笑って運ぶのを手伝った。

 「ゆっくりできましたでしょうか?」
 「はい。蓮花さんの言う通り、ゆっくりすることも大切ですね」
 「皇紀様の最大の美点はその素直さです」
 「アハハハ」
 僕たちは楽しく話しながら夕食を食べた。

 「明日はお帰りですね」
 「はい。本当にお世話になりました」
 「いいえ、こちらこそでございます。皇紀様のお陰で研究が進みましたこと以上に、ミユキが楽しそうなことが何よりも」
 「そんな」
 「今日はわたくしも本当に楽しゅうございました」
 「僕も蓮花さんとこんなに仲良くなれて嬉しいです」
 「ありがとうございます」

 蓮花さんが明るく楽しい方だと知れた。
 何よりも嬉しかった。

 その夜は、蓮花さんに風呂で背中を流してもらった。
 やはり恥ずかしかった。
 蓮花さんの裸は見られなかった。
 僕が恥ずかしがっている様子を、蓮花さんがからかった。

 「石神様に怒られてしまうので、このことはどうか内密に」
 「そんなこと!」
 湯船の中で、蓮花さんに抱き締められた。

 「愛しい方の大切なお方。あなたを必ずお守りいたします」
 「僕も蓮花さんたちを必ず守ります。どんなことをしてでも」
 「やはり石神様のお子様。決意も同じでございますね」
 「はい!」

 風呂を上がり、またワイルドターキーを頂いた。
 楽しく話し、またぐっすりと眠った。



 翌朝、ミユキさんとまた組み手をした。
 二人とも楽しくて笑いが込み上げた。
 ミユキさんとも一緒にシャワーを浴びた。
 僕の身体を洗ってくれ、思わず反応したのを笑ってくれた。
 真っ赤になった。



 タクシーを呼んでもらい、僕は帰った。
 帰り際に、蓮花さんとミユキさんが僕の頬にキスをしてくれた。






 門で二人がいつまでも見送ってくれた。
 僕は誓いを新たにした。
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

甘灯の思いつき短編集

甘灯
キャラ文芸
 作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)                              ※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……思わぬ方向へ進んでしまうこととなってしまったようです。

四季
恋愛
継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...