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サメ、ウツボ怪人、現わる。
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月曜日。
今日から俺もオペを担当する。
一江からいつもの報告を聞いた。
「よし。ああ、お前に色々話したいことがあるから、今日は一緒に昼食に付き合ってくれ」
「分かりました」
「また「山里」でいいか?」
「はい! 大好きです、あそこ!」
「みなさーん! ネコは好きですかぁー!」
『はーい!』
俺の呼びかけに部下たちが答える。
みんなネコ好きで、世の中は平和だ。
俺のデスクには子どもたちの写真とロボのカワイイ写真がある。
顕さんの部屋へ行った。
大体響子もそっちへ行っていることが多い。
「やあ、石神くん」
顕さんは響子と一緒にタブレットを観ていた。
「こんにちわ。そろそろ退院ですね」
来週、顕さんは退院する。
長い入院になったが、俺が念を入れたせいだ。
「ああ、楽しみなんだか寂しいんだか分らないよ」
響子の頭を撫でる。
響子がニコニコしている。
寂しいくせに。
「また仕事を頑張って下さい」
「ああ、そのことなんだけどな。実は大きな仕事が任せてもらえそうなんだ」
「え、どういうものなんですか?」
「フィリピンの大きな商業施設の設計なんだ。早ければ年内に向こうに行くことになる」
「それはおめでとうございます!」
「なんだか仕事を随分休んじゃったのにな」
「顕さんは入院中もやってたじゃないですか」
「まあね。石神くんのお陰だけど、それがまた評価されたようなんだよ」
俺は退院祝いとおめでとう会をやりましょうと言った。
「響子も来てくれるよな!」
「うん!」
元気よく響子が答えた。
俺は響子を抱き上げて部屋を出た。
「お前、寂しいんだろ?」
「うん」
「よく我慢したな」
「だって。私にはそれしかできないもの」
「そうか」
響子は少しずつ成長している。
体重は少ないが、身長が伸びて153センチだ。
もうしばらくすれば、抱き上げて運べなくなるかもしれない。
六花が響子を受け取ってくれた。
「あれ、響子泣いてます?」
「泣いてないもん」
六花が俺を見ている。
俺は首を振って、今はそっとしておけと示した。
響子が寝始めた。
時折、昼食前に寝てしまうこともある。
その場合、六花が昼食前に起こす。
俺は六花を連れ出した。
倉庫に入り、二人で響子の隠し物がないかを探しながら話した。
「顕さんがもうすぐ退院する話をしてな」
「ああ、それで」
「それとな。顕さんが年内にフィリピンに行くことになってなぁ。しばらく帰れないんだ」
「なるほど」
お互いの尻がぶつかった。
「ああ、悪い」
「いいえ、もっとお願いします」
俺は無視した。
「どうしようもねぇ。響子も顕さんの前では我慢してたんだけどな」
「可哀そうですけどね」
「ああ」
夜に独りで過ごす響子にとって、話し相手になってくれた顕さんの存在は大きい。
また響子は独りでいるようになるのだ。
「顕さんがいらっしゃらなくなったら、私がもっと響子といるようにします」
「やめろ! それは甘やかしだ。響子のためにならん」
「はい」
六花がそう言うだろうことは分かっていた。
「響子が自分で乗り越えるしかねぇ。そういう運命の子だからな」
「はい」
少し、チョコバーと棒飴の喰い痕を見つけた。
この程度ならば、と二人で笑って捨てた。
一江と山里へ行った。
個室を予約している。
「部長! 来ましたよー!」
膳が運ばれて一江が喜ぶ。
「みっともねぇからやめろ」
店員がクスクスと笑っていた。
俺は双子の漂流の一連の話をした。
先週は忙しくて話しているヒマが無かった。
「げぇ、相変わらずの石神家ですね」
「そう言うなよ。俺だって驚いている毎日なんだ」
「そーですかー」
俺は醤油を手に取って豆腐にぶちまけてやった。
「なにすんですかー!」
「お前が生意気なんだぁ!」
一江は喰い終わった器に醤油を零していく。
「ところでお前に頼みがあるんだけどよ」
「あんた正気ですか!」
「あんたってなんだぁ、このブサイク!」
俺はまた醤油を注ぐ。
一江が本気で怒りそうだったので、俺の豆腐をやった。
「双子の冒険なんだけどな」
「お話を聞いた限りでは、最初の無人島って多分、クリッパートン島でしょうね」
「お前、すげぇな!」
「島の様子や、食べたっていうサメとか。あそこらへんはサメが多いんですよ」
「そうかよ!」
一江はテーブルの下からノートPCを取り出してクリッパートン島の画像を俺に見せた。
「そこから非人間的な方法で脱出して、無事にメキシコ・ビーチに辿り着いたと」
「そんなことまで分かんのかよ!」
一江はメキシコ軍が謎の生物と交戦したニュースを示した。
「サメとヘビの謎怪人ってなってます。これって多分双子ちゃんでしょう?」
「ああ、ヘビじゃなくてウツボな。自慢してたんだよ」
「あとは巨大麻薬カルテルの壊滅」
「あ、それ俺ニュースで見た!」
「これが山賊って言ってた場所でしょう。本来は表彰ものですけどね」
「大分金品をせしめたらしいからなぁ」
「逞しいですねぇ」
一江と二人で感心した。
「それでよ、双子の衣装が見たいんだよ」
「サメとウツボのですか?」
「ああ。爆笑物に間違いねぇ」
「そうですね!」
「よし、探せ」
「了解しましたぁ!」
病院に戻り、夕方に一江が双子のサメとウツボの服を見つけた。
「部長! メキシコ警察の人間が写真撮ってました!」
「よくやった!」
「警察のサーバーにハッキングしたら見つかったんですよ」
「お前はブサイクだけど天才だな!」
「もう、部長は冗談ばっか!」
「「アハハハハ!」」
俺は画像を俺のPCに送ってもらった。
鮮明ではないが、ちゃんと分かる。
一江と二人で大笑いした。
家に帰り、子どもたちを集めて画像を見せた。
双子が部屋に戻り、スケッチブックを持って来た。
「タカさんが見たかったって言ってたから」
だから描いたらしい。
一江が苦労して見つけた画像より、ずっと鮮明だった。
今日から俺もオペを担当する。
一江からいつもの報告を聞いた。
「よし。ああ、お前に色々話したいことがあるから、今日は一緒に昼食に付き合ってくれ」
「分かりました」
「また「山里」でいいか?」
「はい! 大好きです、あそこ!」
「みなさーん! ネコは好きですかぁー!」
『はーい!』
俺の呼びかけに部下たちが答える。
みんなネコ好きで、世の中は平和だ。
俺のデスクには子どもたちの写真とロボのカワイイ写真がある。
顕さんの部屋へ行った。
大体響子もそっちへ行っていることが多い。
「やあ、石神くん」
顕さんは響子と一緒にタブレットを観ていた。
「こんにちわ。そろそろ退院ですね」
来週、顕さんは退院する。
長い入院になったが、俺が念を入れたせいだ。
「ああ、楽しみなんだか寂しいんだか分らないよ」
響子の頭を撫でる。
響子がニコニコしている。
寂しいくせに。
「また仕事を頑張って下さい」
「ああ、そのことなんだけどな。実は大きな仕事が任せてもらえそうなんだ」
「え、どういうものなんですか?」
「フィリピンの大きな商業施設の設計なんだ。早ければ年内に向こうに行くことになる」
「それはおめでとうございます!」
「なんだか仕事を随分休んじゃったのにな」
「顕さんは入院中もやってたじゃないですか」
「まあね。石神くんのお陰だけど、それがまた評価されたようなんだよ」
俺は退院祝いとおめでとう会をやりましょうと言った。
「響子も来てくれるよな!」
「うん!」
元気よく響子が答えた。
俺は響子を抱き上げて部屋を出た。
「お前、寂しいんだろ?」
「うん」
「よく我慢したな」
「だって。私にはそれしかできないもの」
「そうか」
響子は少しずつ成長している。
体重は少ないが、身長が伸びて153センチだ。
もうしばらくすれば、抱き上げて運べなくなるかもしれない。
六花が響子を受け取ってくれた。
「あれ、響子泣いてます?」
「泣いてないもん」
六花が俺を見ている。
俺は首を振って、今はそっとしておけと示した。
響子が寝始めた。
時折、昼食前に寝てしまうこともある。
その場合、六花が昼食前に起こす。
俺は六花を連れ出した。
倉庫に入り、二人で響子の隠し物がないかを探しながら話した。
「顕さんがもうすぐ退院する話をしてな」
「ああ、それで」
「それとな。顕さんが年内にフィリピンに行くことになってなぁ。しばらく帰れないんだ」
「なるほど」
お互いの尻がぶつかった。
「ああ、悪い」
「いいえ、もっとお願いします」
俺は無視した。
「どうしようもねぇ。響子も顕さんの前では我慢してたんだけどな」
「可哀そうですけどね」
「ああ」
夜に独りで過ごす響子にとって、話し相手になってくれた顕さんの存在は大きい。
また響子は独りでいるようになるのだ。
「顕さんがいらっしゃらなくなったら、私がもっと響子といるようにします」
「やめろ! それは甘やかしだ。響子のためにならん」
「はい」
六花がそう言うだろうことは分かっていた。
「響子が自分で乗り越えるしかねぇ。そういう運命の子だからな」
「はい」
少し、チョコバーと棒飴の喰い痕を見つけた。
この程度ならば、と二人で笑って捨てた。
一江と山里へ行った。
個室を予約している。
「部長! 来ましたよー!」
膳が運ばれて一江が喜ぶ。
「みっともねぇからやめろ」
店員がクスクスと笑っていた。
俺は双子の漂流の一連の話をした。
先週は忙しくて話しているヒマが無かった。
「げぇ、相変わらずの石神家ですね」
「そう言うなよ。俺だって驚いている毎日なんだ」
「そーですかー」
俺は醤油を手に取って豆腐にぶちまけてやった。
「なにすんですかー!」
「お前が生意気なんだぁ!」
一江は喰い終わった器に醤油を零していく。
「ところでお前に頼みがあるんだけどよ」
「あんた正気ですか!」
「あんたってなんだぁ、このブサイク!」
俺はまた醤油を注ぐ。
一江が本気で怒りそうだったので、俺の豆腐をやった。
「双子の冒険なんだけどな」
「お話を聞いた限りでは、最初の無人島って多分、クリッパートン島でしょうね」
「お前、すげぇな!」
「島の様子や、食べたっていうサメとか。あそこらへんはサメが多いんですよ」
「そうかよ!」
一江はテーブルの下からノートPCを取り出してクリッパートン島の画像を俺に見せた。
「そこから非人間的な方法で脱出して、無事にメキシコ・ビーチに辿り着いたと」
「そんなことまで分かんのかよ!」
一江はメキシコ軍が謎の生物と交戦したニュースを示した。
「サメとヘビの謎怪人ってなってます。これって多分双子ちゃんでしょう?」
「ああ、ヘビじゃなくてウツボな。自慢してたんだよ」
「あとは巨大麻薬カルテルの壊滅」
「あ、それ俺ニュースで見た!」
「これが山賊って言ってた場所でしょう。本来は表彰ものですけどね」
「大分金品をせしめたらしいからなぁ」
「逞しいですねぇ」
一江と二人で感心した。
「それでよ、双子の衣装が見たいんだよ」
「サメとウツボのですか?」
「ああ。爆笑物に間違いねぇ」
「そうですね!」
「よし、探せ」
「了解しましたぁ!」
病院に戻り、夕方に一江が双子のサメとウツボの服を見つけた。
「部長! メキシコ警察の人間が写真撮ってました!」
「よくやった!」
「警察のサーバーにハッキングしたら見つかったんですよ」
「お前はブサイクだけど天才だな!」
「もう、部長は冗談ばっか!」
「「アハハハハ!」」
俺は画像を俺のPCに送ってもらった。
鮮明ではないが、ちゃんと分かる。
一江と二人で大笑いした。
家に帰り、子どもたちを集めて画像を見せた。
双子が部屋に戻り、スケッチブックを持って来た。
「タカさんが見たかったって言ってたから」
だから描いたらしい。
一江が苦労して見つけた画像より、ずっと鮮明だった。
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