541 / 2,840
双子の漂流記 Ⅳ
しおりを挟む
麻薬カルテルの屋敷から、幾つかのものを持ち出していた。
地図。
水筒。
お金(いっぱいあった)。
高そうな腕時計と宝飾品。
干し肉。
着替え。
それらをヴィトンの手提げのスーツケースに入れた。
街を見つけた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
なんだかんだで、亜紀ちゃんとの散歩は楽しかった。
公園でまったりした。
季節がいいせいか、気持ち良かった。
駅前でソフトクリームを食べた。
「根性入れろ」と言うと、店員が笑って大盛にしてくれた。
「猫三昧」にも寄った。
ネコまみれになりながら、店長とタマにロボが元気だと伝えた。
二人とも涙を流して喜んでくれた。
家に着いて、亜紀ちゃんがハンディクリーナーでネコの毛を取ってくれる。
しかし家に入るとロボに怒られた。
俺の足を前足でペチペチと叩き、俺を風呂場へ押す。
亜紀ちゃんと昼間から一緒に風呂に入った。
「浮気がバレましたね」
風呂から上がって、ロボが匂いを確認しに来る。
俺が冗談でハンディクリーナーを撫でると、ロボが悲しく鳴いた。
俺がクリーナーを遠くへ蹴とばすと、ロボが膝に乗って来た。
俺の胸に頭をこすりつけ、俺の顔をペロペロと舐めた。
亜紀ちゃんが笑って見ている。
昼食に二人で海鮮丼を作った。
亜紀ちゃんは三杯食べた。
「あ、あれ観ましょうよ!」
亜紀ちゃんが『デッドボール』を観たがった。
二人でべったりくっついて鑑賞し、大笑いした。
その後で、俺のベッドで一緒に昼寝をした。
「夕飯はどうしましょうか?」
「そうだなぁ。たまには贅沢をするか」
いつもしている気もするが。
「いいですね! 何を作ります?」
「いや、インペリアルに行こう。フレンチの大食いをしようじゃないか」
「ほんとですかぁ!」
亜紀ちゃんが大喜びだ。
俺は電話で予約した。
コース料理を5人前頼む。
「信じられないかもしれないが、二人で食べますから」
念を押しといた。
いい服を着て、アヴェンタドールで出掛けた。
俺はブリオーニの薄い青の混シルクのスーツ。
ベルトはラルフローレンの幅広のクロコダイル。
シャツはブリオーニのギザのものだ。
一枚16万円する。
ブラックダイヤのカフスをした。
靴はベルルッティのスペシャルモデル。
金箔が見事な模様を描いている。
時計はブレゲのトゥールビヨン。
ブシュロンのファイアオパールのリングをピンキーに嵌めた。
亜紀ちゃんはプラダの黒のスーツにエルメスのスカーフを羽織った。
ショパールの大きなダイヤのリングを中指に嵌めている。
駐車場を見回しても、俺以上の車は無い。
いい気分でレストランへ上がる。
「石神様、お待ち申し上げておりました」
案内されたのは、大きな丸テーブルだった。
8人掛けだ。
二人で並んで座った。
不審な顔もせずに、ちゃんと5人前が並ぶ。
亜紀ちゃんが次々に食べていく。
終始ニコニコしていて、俺も嬉しかった。
シャリアピン・ステーキを追加した。
家に帰り、皇紀に電話した。
順調に進んでいるようだ。
「ミユキさんにも会いました。明るい方でした」
皇紀が電話の向こうで泣いていた。
「タカさん! ありがとうございます!」
皇紀はシロツメクサの種を持って行った。
ミユキに喜ばれたそうだ。
双子に電話した。
つながらない。
「おかしいな」
「あそこって圏外なんじゃないですか?」
「そうだったか?」
丹沢の土地で電話をしたことがないので分からない。
「大丈夫ですよ、あの二人ですから」
「ああ、砂漠でサソリ喰って帰って来るんだよな」
「そうそう!」
「「アハハハハ!」」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
靴屋を見つけた。
堅牢なブーツを買った。
メーカーは知らないものだった。
「次は?」
「レストラン!」
「やっぱね!」
高そうな店に入る。
メニューを見ても分からない。
一番上から下まで頼んだ。
分からないことは関係なかった。
店員が何か喋っている。
ちょっと怒ってる感じがした。
ルーがヴィトンのスーツケースを開いてお金を見せた。
途端にニコニコ顔になって、厨房へ注文を入れに戻った。
どんどん料理が運ばれてくる。
物凄いスピードで二人の腹に入っていく。
店員が驚き、周囲のテーブルにも注目された。
満足して支払う時、ルーは「1000」と書かれていた紙幣を数枚渡した。
店員が手を振った。
足りないらしい。
鷲掴みにして渡すと、ニコニコ顔で出口へ案内された。
「これからどうする?」
「国境を超えよう!」
「え?」
「アメリカに行って、響子ちゃんの家に行くの」
「なるほど!」
「帰りは自家用ジェットだよ!」
「スゴイね!」
「豪華な食事もね!」
「やったね!」
双子はまた走った。
途中で五回、レストランで食事をした。
国境に着いた。
二人で山を越えた。
なんのこともなく、カリフォルニア州サンディエゴに着いた。
「響子ちゃんの家って、ニューヨークだよね?」
「うん、走ろっか!」
「待って! 流石に疲れたよー」
「えぇー!」
「タクシーで行こう」
「でも遠いよ?」
「まず電話をしようか」
「え、タカさんに?」
「もう隠しようがないよ」
「そっかー」
「じゃあさ、その前に最後の晩餐だぁ!」
「よーし!」
両替の必要は分かっていた。
銀行に入った。
逮捕された。
「「アレ?」」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
アビゲイルの秘匿回線から連絡があった。
「何かあったのか?」
「いや、イシガミ、落ち着いて聞いてくれ」
「なんだよ」
「君の双子の子たちな、今カリフォルニアで保護している」
「はい?」
「警察が保護しているんだが、アルとシズエがエージェントを飛行機で向かわせているんだ」
「おい、ヘンなジョークはやめろよ」
「銀行に、大量のメキシコ紙幣の両替に現われたそうだ。不法入国らしいぞ?」
「本当か!」
「大丈夫だ。すべてステーツの我々で処理する。ただ、今の段階ではどうしてあの子たちがそこにいるのかが分からない」
「キャンプに行ったはずなんだ」
「そうなのか?」
「……いや、あいつらなら」
俺はため息を漏らした。
また連絡を頼むということと、迷惑をかけて済まないと言った。
亜紀ちゃんが心配そうに見ている。
「あいつら、本当に……」
俺はアビゲイルの連絡を徹夜で待った。
テレビをなんとなく見ていると、メキシコで巨大な麻薬カルテルが壊滅したらしい。
重武装の集団で、軍ですら手出しできなかったとのことだった。
大統領が誇らしげに演説していた。
「どうでもいいよ」
俺は双子のために、すばらしいDVDを探した。
地図。
水筒。
お金(いっぱいあった)。
高そうな腕時計と宝飾品。
干し肉。
着替え。
それらをヴィトンの手提げのスーツケースに入れた。
街を見つけた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
なんだかんだで、亜紀ちゃんとの散歩は楽しかった。
公園でまったりした。
季節がいいせいか、気持ち良かった。
駅前でソフトクリームを食べた。
「根性入れろ」と言うと、店員が笑って大盛にしてくれた。
「猫三昧」にも寄った。
ネコまみれになりながら、店長とタマにロボが元気だと伝えた。
二人とも涙を流して喜んでくれた。
家に着いて、亜紀ちゃんがハンディクリーナーでネコの毛を取ってくれる。
しかし家に入るとロボに怒られた。
俺の足を前足でペチペチと叩き、俺を風呂場へ押す。
亜紀ちゃんと昼間から一緒に風呂に入った。
「浮気がバレましたね」
風呂から上がって、ロボが匂いを確認しに来る。
俺が冗談でハンディクリーナーを撫でると、ロボが悲しく鳴いた。
俺がクリーナーを遠くへ蹴とばすと、ロボが膝に乗って来た。
俺の胸に頭をこすりつけ、俺の顔をペロペロと舐めた。
亜紀ちゃんが笑って見ている。
昼食に二人で海鮮丼を作った。
亜紀ちゃんは三杯食べた。
「あ、あれ観ましょうよ!」
亜紀ちゃんが『デッドボール』を観たがった。
二人でべったりくっついて鑑賞し、大笑いした。
その後で、俺のベッドで一緒に昼寝をした。
「夕飯はどうしましょうか?」
「そうだなぁ。たまには贅沢をするか」
いつもしている気もするが。
「いいですね! 何を作ります?」
「いや、インペリアルに行こう。フレンチの大食いをしようじゃないか」
「ほんとですかぁ!」
亜紀ちゃんが大喜びだ。
俺は電話で予約した。
コース料理を5人前頼む。
「信じられないかもしれないが、二人で食べますから」
念を押しといた。
いい服を着て、アヴェンタドールで出掛けた。
俺はブリオーニの薄い青の混シルクのスーツ。
ベルトはラルフローレンの幅広のクロコダイル。
シャツはブリオーニのギザのものだ。
一枚16万円する。
ブラックダイヤのカフスをした。
靴はベルルッティのスペシャルモデル。
金箔が見事な模様を描いている。
時計はブレゲのトゥールビヨン。
ブシュロンのファイアオパールのリングをピンキーに嵌めた。
亜紀ちゃんはプラダの黒のスーツにエルメスのスカーフを羽織った。
ショパールの大きなダイヤのリングを中指に嵌めている。
駐車場を見回しても、俺以上の車は無い。
いい気分でレストランへ上がる。
「石神様、お待ち申し上げておりました」
案内されたのは、大きな丸テーブルだった。
8人掛けだ。
二人で並んで座った。
不審な顔もせずに、ちゃんと5人前が並ぶ。
亜紀ちゃんが次々に食べていく。
終始ニコニコしていて、俺も嬉しかった。
シャリアピン・ステーキを追加した。
家に帰り、皇紀に電話した。
順調に進んでいるようだ。
「ミユキさんにも会いました。明るい方でした」
皇紀が電話の向こうで泣いていた。
「タカさん! ありがとうございます!」
皇紀はシロツメクサの種を持って行った。
ミユキに喜ばれたそうだ。
双子に電話した。
つながらない。
「おかしいな」
「あそこって圏外なんじゃないですか?」
「そうだったか?」
丹沢の土地で電話をしたことがないので分からない。
「大丈夫ですよ、あの二人ですから」
「ああ、砂漠でサソリ喰って帰って来るんだよな」
「そうそう!」
「「アハハハハ!」」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
靴屋を見つけた。
堅牢なブーツを買った。
メーカーは知らないものだった。
「次は?」
「レストラン!」
「やっぱね!」
高そうな店に入る。
メニューを見ても分からない。
一番上から下まで頼んだ。
分からないことは関係なかった。
店員が何か喋っている。
ちょっと怒ってる感じがした。
ルーがヴィトンのスーツケースを開いてお金を見せた。
途端にニコニコ顔になって、厨房へ注文を入れに戻った。
どんどん料理が運ばれてくる。
物凄いスピードで二人の腹に入っていく。
店員が驚き、周囲のテーブルにも注目された。
満足して支払う時、ルーは「1000」と書かれていた紙幣を数枚渡した。
店員が手を振った。
足りないらしい。
鷲掴みにして渡すと、ニコニコ顔で出口へ案内された。
「これからどうする?」
「国境を超えよう!」
「え?」
「アメリカに行って、響子ちゃんの家に行くの」
「なるほど!」
「帰りは自家用ジェットだよ!」
「スゴイね!」
「豪華な食事もね!」
「やったね!」
双子はまた走った。
途中で五回、レストランで食事をした。
国境に着いた。
二人で山を越えた。
なんのこともなく、カリフォルニア州サンディエゴに着いた。
「響子ちゃんの家って、ニューヨークだよね?」
「うん、走ろっか!」
「待って! 流石に疲れたよー」
「えぇー!」
「タクシーで行こう」
「でも遠いよ?」
「まず電話をしようか」
「え、タカさんに?」
「もう隠しようがないよ」
「そっかー」
「じゃあさ、その前に最後の晩餐だぁ!」
「よーし!」
両替の必要は分かっていた。
銀行に入った。
逮捕された。
「「アレ?」」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
アビゲイルの秘匿回線から連絡があった。
「何かあったのか?」
「いや、イシガミ、落ち着いて聞いてくれ」
「なんだよ」
「君の双子の子たちな、今カリフォルニアで保護している」
「はい?」
「警察が保護しているんだが、アルとシズエがエージェントを飛行機で向かわせているんだ」
「おい、ヘンなジョークはやめろよ」
「銀行に、大量のメキシコ紙幣の両替に現われたそうだ。不法入国らしいぞ?」
「本当か!」
「大丈夫だ。すべてステーツの我々で処理する。ただ、今の段階ではどうしてあの子たちがそこにいるのかが分からない」
「キャンプに行ったはずなんだ」
「そうなのか?」
「……いや、あいつらなら」
俺はため息を漏らした。
また連絡を頼むということと、迷惑をかけて済まないと言った。
亜紀ちゃんが心配そうに見ている。
「あいつら、本当に……」
俺はアビゲイルの連絡を徹夜で待った。
テレビをなんとなく見ていると、メキシコで巨大な麻薬カルテルが壊滅したらしい。
重武装の集団で、軍ですら手出しできなかったとのことだった。
大統領が誇らしげに演説していた。
「どうでもいいよ」
俺は双子のために、すばらしいDVDを探した。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる