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双子の漂流記 Ⅳ

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 麻薬カルテルの屋敷から、幾つかのものを持ち出していた。
 
 地図。
 水筒。
 お金(いっぱいあった)。
 高そうな腕時計と宝飾品。
 干し肉。
 着替え。
 それらをヴィトンの手提げのスーツケースに入れた。



 街を見つけた。
 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 なんだかんだで、亜紀ちゃんとの散歩は楽しかった。
 公園でまったりした。
 季節がいいせいか、気持ち良かった。
 駅前でソフトクリームを食べた。

 「根性入れろ」と言うと、店員が笑って大盛にしてくれた。

 「猫三昧」にも寄った。
 ネコまみれになりながら、店長とタマにロボが元気だと伝えた。
 二人とも涙を流して喜んでくれた。

 家に着いて、亜紀ちゃんがハンディクリーナーでネコの毛を取ってくれる。
 しかし家に入るとロボに怒られた。
 俺の足を前足でペチペチと叩き、俺を風呂場へ押す。
 亜紀ちゃんと昼間から一緒に風呂に入った。

 「浮気がバレましたね」
 風呂から上がって、ロボが匂いを確認しに来る。
 俺が冗談でハンディクリーナーを撫でると、ロボが悲しく鳴いた。
 俺がクリーナーを遠くへ蹴とばすと、ロボが膝に乗って来た。
 俺の胸に頭をこすりつけ、俺の顔をペロペロと舐めた。
 亜紀ちゃんが笑って見ている。



 昼食に二人で海鮮丼を作った。
 亜紀ちゃんは三杯食べた。



 「あ、あれ観ましょうよ!」
 亜紀ちゃんが『デッドボール』を観たがった。
 二人でべったりくっついて鑑賞し、大笑いした。
 その後で、俺のベッドで一緒に昼寝をした。

 「夕飯はどうしましょうか?」
 「そうだなぁ。たまには贅沢をするか」
 いつもしている気もするが。

 「いいですね! 何を作ります?」
 「いや、インペリアルに行こう。フレンチの大食いをしようじゃないか」
 「ほんとですかぁ!」
 亜紀ちゃんが大喜びだ。
 俺は電話で予約した。
 コース料理を5人前頼む。

 「信じられないかもしれないが、二人で食べますから」
 念を押しといた。



 いい服を着て、アヴェンタドールで出掛けた。
 俺はブリオーニの薄い青の混シルクのスーツ。
 ベルトはラルフローレンの幅広のクロコダイル。
 シャツはブリオーニのギザのものだ。
 一枚16万円する。
 ブラックダイヤのカフスをした。
 靴はベルルッティのスペシャルモデル。
 金箔が見事な模様を描いている。
 時計はブレゲのトゥールビヨン。
 ブシュロンのファイアオパールのリングをピンキーに嵌めた。

 亜紀ちゃんはプラダの黒のスーツにエルメスのスカーフを羽織った。
 ショパールの大きなダイヤのリングを中指に嵌めている。

 駐車場を見回しても、俺以上の車は無い。
 いい気分でレストランへ上がる。

 「石神様、お待ち申し上げておりました」
 案内されたのは、大きな丸テーブルだった。
 8人掛けだ。
 二人で並んで座った。
 不審な顔もせずに、ちゃんと5人前が並ぶ。
 亜紀ちゃんが次々に食べていく。
 終始ニコニコしていて、俺も嬉しかった。
 シャリアピン・ステーキを追加した。




 家に帰り、皇紀に電話した。
 順調に進んでいるようだ。

 「ミユキさんにも会いました。明るい方でした」
 皇紀が電話の向こうで泣いていた。

 「タカさん! ありがとうございます!」
 皇紀はシロツメクサの種を持って行った。
 ミユキに喜ばれたそうだ。

 双子に電話した。
 つながらない。

 「おかしいな」
 「あそこって圏外なんじゃないですか?」
 「そうだったか?」
 丹沢の土地で電話をしたことがないので分からない。

 「大丈夫ですよ、あの二人ですから」
 「ああ、砂漠でサソリ喰って帰って来るんだよな」
 「そうそう!」
 「「アハハハハ!」」

 
  


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 靴屋を見つけた。
 堅牢なブーツを買った。
 メーカーは知らないものだった。

 「次は?」
 「レストラン!」
 「やっぱね!」
 高そうな店に入る。
 メニューを見ても分からない。
 一番上から下まで頼んだ。
 分からないことは関係なかった。
 店員が何か喋っている。
 ちょっと怒ってる感じがした。

 ルーがヴィトンのスーツケースを開いてお金を見せた。
 途端にニコニコ顔になって、厨房へ注文を入れに戻った。
 どんどん料理が運ばれてくる。
 物凄いスピードで二人の腹に入っていく。
 店員が驚き、周囲のテーブルにも注目された。
 満足して支払う時、ルーは「1000」と書かれていた紙幣を数枚渡した。
 店員が手を振った。
 足りないらしい。
 鷲掴みにして渡すと、ニコニコ顔で出口へ案内された。



 「これからどうする?」
 「国境を超えよう!」
 「え?」
 「アメリカに行って、響子ちゃんの家に行くの」
 「なるほど!」
 「帰りは自家用ジェットだよ!」
 「スゴイね!」
 「豪華な食事もね!」
 「やったね!」

 双子はまた走った。
 途中で五回、レストランで食事をした。

 

 国境に着いた。
 二人で山を越えた。
 なんのこともなく、カリフォルニア州サンディエゴに着いた。
 
 「響子ちゃんの家って、ニューヨークだよね?」
 「うん、走ろっか!」
 「待って! 流石に疲れたよー」
 「えぇー!」
 「タクシーで行こう」
 「でも遠いよ?」
 「まず電話をしようか」
 「え、タカさんに?」
 「もう隠しようがないよ」
 「そっかー」
 「じゃあさ、その前に最後の晩餐だぁ!」
 「よーし!」

 両替の必要は分かっていた。
 銀行に入った。




 逮捕された。





 「「アレ?」」
  


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■



 アビゲイルの秘匿回線から連絡があった。

 「何かあったのか?」
 「いや、イシガミ、落ち着いて聞いてくれ」
 「なんだよ」
 「君の双子の子たちな、今カリフォルニアで保護している」
 「はい?」

 「警察が保護しているんだが、アルとシズエがエージェントを飛行機で向かわせているんだ」
 「おい、ヘンなジョークはやめろよ」
 「銀行に、大量のメキシコ紙幣の両替に現われたそうだ。不法入国らしいぞ?」
 「本当か!」

 「大丈夫だ。すべてステーツの我々で処理する。ただ、今の段階ではどうしてあの子たちがそこにいるのかが分からない」
 「キャンプに行ったはずなんだ」
 「そうなのか?」
 
 「……いや、あいつらなら」

 俺はため息を漏らした。
 また連絡を頼むということと、迷惑をかけて済まないと言った。
 亜紀ちゃんが心配そうに見ている。


 「あいつら、本当に……」


 俺はアビゲイルの連絡を徹夜で待った。
 テレビをなんとなく見ていると、メキシコで巨大な麻薬カルテルが壊滅したらしい。
 重武装の集団で、軍ですら手出しできなかったとのことだった。
 大統領が誇らしげに演説していた。

 「どうでもいいよ」
 俺は双子のために、すばらしいDVDを探した。
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