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栞、来襲。

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 俺たちは一階の応接室に移動した。
 ロボと遊ぶ。
 たわしオモチャがロボのお気に入りだ。

 玄関が開き、双子が帰って来た。
 ロボが飛び出す。
 双子を熱烈に迎えている。

 「にゃー」
 俺がドアから顔を出して鳴いた。

 「「タカさーん!」」
 双子が駆けよって来る。

 「もう大丈夫なの?」
 「寝てなくていいの?」
 「おう! もう本当に大丈夫だぞ。熱だってもう無いよな?」
 温度計を構えている亜紀ちゃんに言った。
  
 「あ、37度」
 「「「えぇー!」」」
 「ちょっと休むわ」
 「「うん!」」

 折角子どもたちを喜ばそうと待ってたのに。




 「本当に、もう大丈夫だ。身体の痛みも消えたし、重だるさもねぇ」
 「「よかったぁー!!」」

 皇紀も帰って来た。
 元気になったと伝えると、涙を流した。
 俺は皇紀を肩車してやる。

 「な、もう大丈夫だぞ」
 「タカさん!」
 「それでな」
 「はい!」
 「自分で降りてくれ」
 「は?」
 「俺、もう限界」
 慌てて亜紀ちゃんが降ろした。

 「バカなんですか!」
 「すいません」




 俺たちはお茶を飲みながら、亜紀ちゃんが作った寒天ゼリーとコンポートを食べた。
 みんな美味しいと言い、また作ってと頼まれていた。

 「夕飯の後はなぁー、鷹が作ったプリンが喰えるぞー!」
 「「「「わーい!」」」」
 「石神先生」
 鷹が俺に聞いた。

 「おう!」
 「お夕飯は何か召し上がりたいものはありますか?」
 「ああ、そうだな。食欲も戻って来たし、栗ご飯が食べたいかな」
 「ウフフ、分かりました」
 ゼリーなどを食べて分かったが、糖分を結構欲している。
 




 電話が掛かって来た。
 一江だった。

 「ぶちょー、逃げて! 栞が行くぅ!」
 唐突に電話が切れた。

 「タカさん?」
 亜紀ちゃんが俺を見ている。
 
 「タカさん! また顔が青いですよ!」
 「違う! 栞が来るんだぁ!」

 「「「「「ゲェッーーー!!!!!」」」」」

 「亜紀ちゃん!」
 「は、はい!」
 「俺の身体にバスタオルを巻け!」
 「はい、分かりました!」
 「鷹は隠れろ! 俺の寝室だ!」
 「はい!」

 「皇紀!」
 「はい!」
 「お前は門で待ってろ!」
 「僕ですかぁ!」
 「お前が一番打たれ強い!」
 「えぇー!」

 「ルー、ハー!」
 「「はい!」」
 「いざとなったら、栞の心をへし折れ!」
 「「分かりました!」」

 俺は裸になり、亜紀ちゃんにバスタオルを巻かれた。
 肉を増やすためだ。
 全員が「α」のペンダントを身に着けた。
 亜紀ちゃんと双子に、ありったけの電子機器にも置かせる。


 

 15分後に栞が来た。
 タクシーだ。
 まだ冷静さはある。
 走って来なかった。
 しかし、門の前でタクシーがエンストした。

 「皇紀! 「闇月花」だぁ!」
 インカムで叫んだ。
 栞は「轟雷」が漏れている。
 怒っている。

 「花岡さん! 落ち着いてください!」
 「石神くんは中にいるの?」
 「はい! もう元気になってますからぁー」
 
 皇紀が胸倉を掴まれたままで玄関に引きずられる。
 俺は全て、皇紀が設置した監視カメラで見ている。

 「亜紀ちゃん、行け!」
 「はい!」
 亜紀ちゃんが玄関に向かう。
 ドアが開いた。
 皇紀が投げ出される。

 「栞さん!」
 「亜紀ちゃん、あなたまで私を騙していたのね」
 「そうじゃないんです!」
 「どきなさい」
 「落ち着いて! タカさんはまだ万全じゃないんです! 今の栞さんだと」
 「どけぇー!」
 
 栞は飛び上がって亜紀ちゃんに蹴りを放つ。
 亜紀ちゃんは両手で防ぐが、物凄い衝撃波がリヴィングまで伝わって来る。
 栞は着地と同時に亜紀ちゃんを前蹴りで階段上方へ吹っ飛ばした。
 亜紀ちゃんが二階に飛んでくる。
 本気の栞はやはり強い。

 激突すれば被害が出るので、亜紀ちゃんをリヴィングに戻した。

 双子が俺の両脇を守り、亜紀ちゃんは少し離れた位置に立った。
 栞が上がって来る。
 後ろを皇紀が追いかけて来た。
 リヴィングに全員が入る。

 「やあ!」
 俺はニコニコして手を上げた。

 「石神くん、そんなに痩せ衰えて……」
 栞の目から涙が零れた。

 「なんで……なんで……なんで、そんなに……」
 「落ち着けって! もう峠は越した。院長のお陰でな」
 「ダメェ! 許せない、許せない、許せないぃーーー!!!」
 栞の美しい髪が逆立った。

 「やめろ! お前がそんなになるから話せなかったんだろうが!」
 「私は自分が許せない! 石神くんが死にそうになって苦しんでるのに、何も知らずに呑気に!」
 「そうじゃない! 俺がお前のために黙っていたんだ! お前には呑気にしてて欲しかったんだ!」


 「「栞!」」
 双子が叫んだ。

 「あたしたちの約束を忘れたか!」
 栞がルーを睨む。

 「栞ちゃん! 私たちは栞ちゃんに優しい人でいて欲しいの!」
 「うるさい! 私は石神くんの人形にバイブをつけて毎晩楽しんでます!」

 「はい?」
 俺は驚いた。
 亜紀ちゃんも皇紀も目を丸くしている。

 「はい、これでお前らとの約束はない!」
 「「栞ちゃん!」」
 「石神くん! 私は自分が許せない! だからもう!」
 


 俺は栞に向かった。
 まだ足が遅い。
 ゆっくりとだ。

 「石神くん! 何よその足は!」
 「情けねぇけど、これでも結構戻ったんだぜ」
 「石神くん!」
 「お前をもう一度抱き締めるために頑張ったんだ」
 「石神くん!」

 「見てろ、もうすぐお前を抱き締めるぞ、ちょっとだけ待て」
 「やめて! 無理しないで!」
 「昨日なんか血まで吐いちゃってさー。でも栞を抱き締めるために頑張ってここまで戻したんだぁ!」
 「やめて、おねがいだからぁー」

 俺は倒れた。

 「悪い、もうちょっと待っててくれ! すぐに立つからな!」
 栞が駆け寄って来た。

 「もうやめてよー!」

 栞が俺を抱き締めて泣いた。

 「お願い、おねがいだからぁー」
 「栞、愛しているぞ」
 「私もだってぇー!!」

 一件落着かー。




 「栞、俺を風呂に入れてくれ」
 「分かったー!」

 俺は栞の背中で指を一本立てた。
 オペレーション1。
 最も被害の少ない形での終息だ。
 皇紀と双子が被害を調査する。
 亜紀ちゃんは鷹に、終息したので栞が帰るまで隠れているように伝える。
 念のため、亜紀ちゃんの部屋へ移動する。

 俺は風呂場で栞に身体を洗わせ、一緒に湯船に入りながら栞を優しく愛撫する。
 本番はしない。
 流石に俺の体力がもたない。
 これでも、ある意味では必死だ。
 満足した栞と一緒にリヴィングへ戻った。

 「みんなゴメン!」
 栞は俺を抱き締めながら、隣に座っている。
 子どもたちは笑って栞に「いいんですよ」、と言った。

 「そうだ! みんな看病で疲れてるでしょ? 今日は私が夕飯を作ってあげるよ!」
 「いや、いいんだよ。俺の食事は院長とかから亜紀ちゃんが全部聞いてるから」
 「ダメだよ! 亜紀ちゃんだって疲れてるだろうし」
 「栞、お前仕事を放り出して来ただろう!」
 「あ!」

 「すぐに戻れよ。お前にはいつも通りにしていてもらうために黙ってたんだからな」
 「石神くん!」
 「俺の愛を受け取ってくれよ」
 「うん、分かった」
 「でも、土曜日には来てくれないかな。俺も栞に会いたくて我慢してたんだ」
 「うん、分かった!」

 「夜は早く寝てしまうんだ。お前のために早く戻りたいからな!」
 「エヘヘヘ」
 「でも土曜日は本当に来てくれな!」
 「うん!!」

 「それまでは、俺も身体を戻すことに全力を注ぐ。お前が夜に来ちゃうとどうしても会いたくなっちゃうからな」
 「分かったよ! 土曜日まで私も我慢する!」
 「悪かったな、結果的にお前を騙してしまって」
 「全然気にしないで! 私もヘンなことで感情的になってゴメンね!」

 子どもたちが栞を玄関まで送った。

 「みんなゴメンね! 皇紀ちゃん大丈夫?」
 「はい!」
 「亜紀ちゃんもゴメンね」
 「全然。土曜日待ってます!」
 「うん!」

 「ルーちゃん、ハーちゃん。約束破ってゴメンね」
 「「いいよー」」
 「あ、恥ずかしいこと言っちゃった!」

 「みんな気にしてないよ! 栞ちゃんはタカさんの大事な人だからね!」
 「えー、そうかなー。エヘヘヘ」

 「「「「アハハハハ!」」」」

 なるべく、平和に終わった。
 誰も怪我してねぇし、家の被害もほとんどない。





 一江は両頬を倍に膨らませ、左手の小指をへし折られていた。
 大森はオペ中で、一江を守れなかった。 
 右耳の火傷は、俺に電話中のスマホを「小雷」で焼かれたせいだ。

 あと、タクシーがレッカー車で引かれて行った。
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