508 / 2,840
再び、六花と風花 Ⅶ: ふたつの灯、永久に消えず。
しおりを挟む
風花と家に戻って、風呂に入れようとした。
亜紀ちゃんと六花が待ち構えていた。
いつの間にタッグを組んだのか。
「四人で」
「ふざけんなぁ!」
「タカさん、いつも私と入ってるじゃないですか!」
「俺はいつも嫌々だぁ!」
「そ、そんなぁ!」
亜紀ちゃんが泣きまねをする。
「私もいつも一緒ですよね」
「響子と一緒の時だけだぁ!」
「そ、そんなぁ!」
六花が泣きまねをする。
「私は構いませんけど?」
「お前はもっと嫌がれぇ!」
二人に突っつかれて、風花が泣きまねをする。
「俺はロボと入る」
ロボが泣きまねを……しなかった。
まあな。
結局強引に四人で風呂に入った。
六花と亜紀ちゃんに全身を洗われた。
六花の洗い方を、亜紀ちゃんが真剣に見ていた。
覚えなくていいぞ。
四人で湯船に浸かる。
「あー、俺は毛だらけの女の子と入りたかったのに」
六花と亜紀ちゃんが毛を見せてくる。
「やめろー!」
風花が笑っていた。
こいつも、恥ずかしがらない。
「石神さんって、スゴイ身体ですね」
「あー、お前に見せたくなかったよ。ごめんな、気持ち悪いものを」
「いーえ!」
風花が断固否定した。
亜紀ちゃんと六花がニコニコしている。
「風花、これが本物の男の身体なんです」
「へぇー」
「やめろ!」
「このぶっといオチンチンが………ぶくぶく」
俺は六花を湯に沈めた。
風花が笑っている。
風呂から上がり、四人でリヴィングに集まった。
俺は蓮花にもらった浴衣だ。
最高に気に入っている。
「あ! なんですか、その浴衣は!」
六花が驚いている。
「蓮花にもらったんだ。いいだろう?」
「はい!」
六花はいつものスウェットだ。
色気のないものだが、こいつは何を着ても綺麗だ。
風花と亜紀ちゃんは普通のパジャマを着ている。
「風花、何が飲みたい?」
俺はソフトドリンクと作れるジュースを言っていった。
「じゃあ、コーラで」
俺は丸い氷をグラスに入れて、コーラを注いだ。
缶を風花の前に置く。
他の三人はワイルドターキーを注ぐ。
亜紀ちゃんは水割りだ。
「いいよな?」
六花に聞くと、頷いた。
つまみにトマトとみじん切りのタマネギにオリーブオイルをかけたサラダ。
アスパラベーコン。
焼いたししゃもに唐辛子マヨネーズ。
あとはチーズを切った。
ロボにささみを少し焼いて与えた。
すぐに食べ終え、俺の足元で寝そべった。
「六花、お前塩野社長の話を風花にしてなかっただろう!」
「あ、忘れてました」
俺は頭に拳骨を落とす。
風花が笑った。
「今日はな。二人にサーシャさんのことでまた分かったことがあるから話そうと思う」
「「え!」」
俺は宇留間の件で、ロシア大使館のピョートルに貸しが出来た。
支払った大金は帰って来ない。
その代わりに、サーシャさんの調査を頼んだ。
ピョートルは喜んで調べてくれた。
「知り合いのロシア人に頼んだんだ。ちょっとした貸しがあったからな。政府の高官で、そのロシア人のお陰で幾つか分かった」
六花と風花、そして亜紀ちゃんも真剣に聞く。
「サーシャさんがどうしてソ連を出なければならなかったか、だ」
サーシャさんは、バレエのダンサーとして、将来を有望視されていた。
有名なバレエ団に入団し、毎日を研鑽に明け暮れていた。
その容姿の美しさもあり、徐々に大きな役も与えられるようになった。
「いずれプリマとして活躍することは確実視されていたそうだ」
サーシャさんの父親は、政府の中央委員会に所属するエリートだった。
母親も元プリマであり、サーシャさんは順風満帆の人生を始めていた。
しかし、あのチェルノブイリ原発事故が起きる。
極秘裏に隠蔽されていた実態は、後に世界中が驚愕する事故として明るみに出る。
「まだこれは隠されていることなんだがな。原発事故の放射能の影響と思われる、特殊な感染症が発生したんだ」
チェルノブイリの近くの村で、その伝染病は発生した。
罹患すると理性を失い、凶暴性を発揮する。
最初はただの暴行事件と思われていたが、村全体に広まり、未知の病原菌の影響であることが分かっていった。
「村を軍隊が囲み、村ごと焼き払うことが決定された。その時に猛反対したのが、サーシャさんの父親だった」
名は教えてもらえなかった。
記録上ではそんな事件は無いこととされていた。
「サーシャさんの父親の村だったからだ」
「「「!」」」
「しかし、党の決定に反発することは許されない。世界世論の力を借りようとしたことが決定的だった。サーシャさんの父親と秘密を共有していたと見做された母親が処刑された。サーシャさんは何も知らないはずだったが、共産党の手が伸びた」
サーシャさんの父親の友人から、危険を知らされたサーシャさんは、密かに日本へ逃がされた。
「カニなどの密漁で、日本に伝手があったその友人に、サーシャさんは助けられた。しかし、その後の日本での苦労は前に話した通りだ」
二人は泣き、亜紀ちゃんも泣いていた。
ロボは六花の膝に乗り、顔を舐めた。
六花が風花を抱き寄せると、風花の顔も舐めた。
「悲しい話だが、聞いておいてもらいたかった」
「ありがとうございました」
六花が言った。
「俺のロシア人の友人から聞いたんだ。彼はサーシャさんに深紅の薔薇を捧げて欲しいと」
「どういうことですか?」
「ロシアでは、戦って非業の死を遂げた人間には、深紅の薔薇を捧げるそうだ。風花、俺たちの分も墓に供えてくれるか?」
「はい! 必ず」
俺は立ち上がり、ロシア民謡の『ともしび』( Огонёк、アガニョーク)を歌った。
三人は黙って聴いた。
♪ На позиции девушка Провожала бойца. ♪
「綺麗な歌ですね」
亜紀ちゃんが言った。
六花と風花は黙っている。
「戦場に行った若者たち。彼らは友を助け、勇ましく戦うが、故郷の灯をいつも思っていた。そういう歌だ。サーシャさんはずっと、故郷へ帰りたがっていたよな」
六花と風花が泣いた。
「まあ、お前らはいつでもここに来いよ。いつだって、腹いっぱいに喰わせてやるから。そんなことしか出来ないけどな」
六花はロボを抱き締めている。
涙で濡れるのを嫌がらず、ロボは六花に抱かれていた。
「石神先生、もう一度歌って下さい」
「ああ、何度でも歌ってやるぞ」
俺は日本語の歌詞で歌ってやった。
♪ 夜霧の彼方へ 別れを告げ 雄々しき丈夫 …… 二つの心に 赤くもゆる こがねのともしび 永久に消えず ♪
亜紀ちゃんと六花が待ち構えていた。
いつの間にタッグを組んだのか。
「四人で」
「ふざけんなぁ!」
「タカさん、いつも私と入ってるじゃないですか!」
「俺はいつも嫌々だぁ!」
「そ、そんなぁ!」
亜紀ちゃんが泣きまねをする。
「私もいつも一緒ですよね」
「響子と一緒の時だけだぁ!」
「そ、そんなぁ!」
六花が泣きまねをする。
「私は構いませんけど?」
「お前はもっと嫌がれぇ!」
二人に突っつかれて、風花が泣きまねをする。
「俺はロボと入る」
ロボが泣きまねを……しなかった。
まあな。
結局強引に四人で風呂に入った。
六花と亜紀ちゃんに全身を洗われた。
六花の洗い方を、亜紀ちゃんが真剣に見ていた。
覚えなくていいぞ。
四人で湯船に浸かる。
「あー、俺は毛だらけの女の子と入りたかったのに」
六花と亜紀ちゃんが毛を見せてくる。
「やめろー!」
風花が笑っていた。
こいつも、恥ずかしがらない。
「石神さんって、スゴイ身体ですね」
「あー、お前に見せたくなかったよ。ごめんな、気持ち悪いものを」
「いーえ!」
風花が断固否定した。
亜紀ちゃんと六花がニコニコしている。
「風花、これが本物の男の身体なんです」
「へぇー」
「やめろ!」
「このぶっといオチンチンが………ぶくぶく」
俺は六花を湯に沈めた。
風花が笑っている。
風呂から上がり、四人でリヴィングに集まった。
俺は蓮花にもらった浴衣だ。
最高に気に入っている。
「あ! なんですか、その浴衣は!」
六花が驚いている。
「蓮花にもらったんだ。いいだろう?」
「はい!」
六花はいつものスウェットだ。
色気のないものだが、こいつは何を着ても綺麗だ。
風花と亜紀ちゃんは普通のパジャマを着ている。
「風花、何が飲みたい?」
俺はソフトドリンクと作れるジュースを言っていった。
「じゃあ、コーラで」
俺は丸い氷をグラスに入れて、コーラを注いだ。
缶を風花の前に置く。
他の三人はワイルドターキーを注ぐ。
亜紀ちゃんは水割りだ。
「いいよな?」
六花に聞くと、頷いた。
つまみにトマトとみじん切りのタマネギにオリーブオイルをかけたサラダ。
アスパラベーコン。
焼いたししゃもに唐辛子マヨネーズ。
あとはチーズを切った。
ロボにささみを少し焼いて与えた。
すぐに食べ終え、俺の足元で寝そべった。
「六花、お前塩野社長の話を風花にしてなかっただろう!」
「あ、忘れてました」
俺は頭に拳骨を落とす。
風花が笑った。
「今日はな。二人にサーシャさんのことでまた分かったことがあるから話そうと思う」
「「え!」」
俺は宇留間の件で、ロシア大使館のピョートルに貸しが出来た。
支払った大金は帰って来ない。
その代わりに、サーシャさんの調査を頼んだ。
ピョートルは喜んで調べてくれた。
「知り合いのロシア人に頼んだんだ。ちょっとした貸しがあったからな。政府の高官で、そのロシア人のお陰で幾つか分かった」
六花と風花、そして亜紀ちゃんも真剣に聞く。
「サーシャさんがどうしてソ連を出なければならなかったか、だ」
サーシャさんは、バレエのダンサーとして、将来を有望視されていた。
有名なバレエ団に入団し、毎日を研鑽に明け暮れていた。
その容姿の美しさもあり、徐々に大きな役も与えられるようになった。
「いずれプリマとして活躍することは確実視されていたそうだ」
サーシャさんの父親は、政府の中央委員会に所属するエリートだった。
母親も元プリマであり、サーシャさんは順風満帆の人生を始めていた。
しかし、あのチェルノブイリ原発事故が起きる。
極秘裏に隠蔽されていた実態は、後に世界中が驚愕する事故として明るみに出る。
「まだこれは隠されていることなんだがな。原発事故の放射能の影響と思われる、特殊な感染症が発生したんだ」
チェルノブイリの近くの村で、その伝染病は発生した。
罹患すると理性を失い、凶暴性を発揮する。
最初はただの暴行事件と思われていたが、村全体に広まり、未知の病原菌の影響であることが分かっていった。
「村を軍隊が囲み、村ごと焼き払うことが決定された。その時に猛反対したのが、サーシャさんの父親だった」
名は教えてもらえなかった。
記録上ではそんな事件は無いこととされていた。
「サーシャさんの父親の村だったからだ」
「「「!」」」
「しかし、党の決定に反発することは許されない。世界世論の力を借りようとしたことが決定的だった。サーシャさんの父親と秘密を共有していたと見做された母親が処刑された。サーシャさんは何も知らないはずだったが、共産党の手が伸びた」
サーシャさんの父親の友人から、危険を知らされたサーシャさんは、密かに日本へ逃がされた。
「カニなどの密漁で、日本に伝手があったその友人に、サーシャさんは助けられた。しかし、その後の日本での苦労は前に話した通りだ」
二人は泣き、亜紀ちゃんも泣いていた。
ロボは六花の膝に乗り、顔を舐めた。
六花が風花を抱き寄せると、風花の顔も舐めた。
「悲しい話だが、聞いておいてもらいたかった」
「ありがとうございました」
六花が言った。
「俺のロシア人の友人から聞いたんだ。彼はサーシャさんに深紅の薔薇を捧げて欲しいと」
「どういうことですか?」
「ロシアでは、戦って非業の死を遂げた人間には、深紅の薔薇を捧げるそうだ。風花、俺たちの分も墓に供えてくれるか?」
「はい! 必ず」
俺は立ち上がり、ロシア民謡の『ともしび』( Огонёк、アガニョーク)を歌った。
三人は黙って聴いた。
♪ На позиции девушка Провожала бойца. ♪
「綺麗な歌ですね」
亜紀ちゃんが言った。
六花と風花は黙っている。
「戦場に行った若者たち。彼らは友を助け、勇ましく戦うが、故郷の灯をいつも思っていた。そういう歌だ。サーシャさんはずっと、故郷へ帰りたがっていたよな」
六花と風花が泣いた。
「まあ、お前らはいつでもここに来いよ。いつだって、腹いっぱいに喰わせてやるから。そんなことしか出来ないけどな」
六花はロボを抱き締めている。
涙で濡れるのを嫌がらず、ロボは六花に抱かれていた。
「石神先生、もう一度歌って下さい」
「ああ、何度でも歌ってやるぞ」
俺は日本語の歌詞で歌ってやった。
♪ 夜霧の彼方へ 別れを告げ 雄々しき丈夫 …… 二つの心に 赤くもゆる こがねのともしび 永久に消えず ♪
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる