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再び、六花と風花 Ⅱ

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 金曜日。
 俺は顕さんを連れて、オークラの「オーキッド」へ食事に出た。

 「どうですか、久しぶりのシャバは?」
 顕さんが笑った。

 「いい気分だな。二度と戻りたくない」
 「そうは行きませんけどね」
 二人でフレンチのコースを食べる。

 「響子の食事は、よくここを使うんですよ」
 「そうだってな。贅沢なことなんだろうけど、俺自身が入院してよく分かるよ」
 「食事って大事ですよね」
 「ああ。入院生活の大きな楽しみだ。俺なんかは良くしてもらってるけど、石神くんのお陰なんだろ?」
 「まあ、献立は口を入れてますけどね」
 響子ほどではないが、顕さんの食事は特別メニューだ。
 時折、吉兆などの料亭の弁当を入れるし、オークラからの届けもある。
 昨日六花と食べた、「平五郎」の食事もある。
 顕さんも、「平五郎」のカレーを美味いと言ってくれた。

 「あとは会話だよな。石神くんがよく来てくれるし、響子ちゃんと話すのも楽しい」
 「会社の方はあまり見えないですね」
 「しょうがないよ。短い期間ならともかく、こんなに長期入院してるんだしな。でも、石神くんが仕事の環境を整えてくれたから、その打ち合わせがてらに、よく来てもらってるよ」
 
 「奈津江も来てると思いますよ?」
 「嬉しいこと言ってくれるじゃないか!」
 「まあ、俺の所の方が多いでしょうけど」
 「こいつ!」
 二人で笑った。

 「でも、俺たちが帰ってから響子の部屋に行ってくれるじゃないですか。ありがとうございます」
 「いや、あれはだから自分のためもあるんだ。響子ちゃんはカワイイよなぁ」
 「ほんとに」

 俺は「ケポリン」の話を顕さんにした。
 大笑いされた。

 「仲良しなんで、抜かないでくださいね」
 「大丈夫だよ」
 その二週間後に抜けることは、まだ俺たちは知らない。
 食事を終え、歩いて帰った。

 「御馳走になっちゃっていいのかな?」
 「もちろんです。うちの子どもたちの食費に比べたら、安いものです」
 「いや、俺が今度は出すから、また誘って欲しいな」
 「もちろんです!」
 今度は「平五郎」でご馳走になろうと思った。





 風花は8時頃の新幹線で東京駅に着く。
 塩野社長のご厚意で、風花はこの日、早めに上がらせてもらっている。
 俺たちはその時間まで、響子の部屋で遊んでいた。

 「明日は風花も連れてきますね」
 「うん! 楽しみ」
 響子がニコニコしている。
 いつもより遅くまで俺たちがいるからだ。
 それに風花にも会いたいらしい。
 顕さんと同じで、響子も見舞客は少ない。

 灯を消し、ライトで影絵遊びをする。
 俺が六花に言って勉強させたのだ。
 響子が、夜に一人で遊べるように。
 7時半になり、俺たちは出て行った。

 「じゃあ、また明日」
 「うん、待ってるね!」




 ハマーに乗り、東京駅に向かう。

 「風花は食事は済ませて来るんだよな?」
 「はい。新幹線でお弁当を食べると言っていました」
 「明日は美味いものを用意するからな」
 「お世話になります」
 「じゃあ、喫茶店にでも寄るか」
 「はい」

 「ところで、お前は夕飯をどうすんだよ?」
 言った途端に、グゥーと六花の腹が鳴った。

 「なんだよ、腹減ってたのか」
 「すいません」
 俺は家で食べるつもりだったが、六花に何か喰わせなければならん。

 「じゃあ、風花には悪いけど、俺たちだけで食べるか」
 「はい」




 時間通りに風花が着いた。
 改札口で、六花が手を振る。
 大きな荷物を持っていた。
 二つのスーツケースのうち、一つを俺が持ってやる。

 「すいません」
 「いいよ。久しぶりだな。元気そうじゃないか」
 「はい! 石神さんとお姉ちゃんによくしてもらってますから」
 「あれ? 背が伸びたか?」
 「はい。5センチも伸びました」
 六花と同じくらいの身長になっていた。
 大体175センチくらいだ。
 やはり、ロシア人の血が入っている。

 「じゃあ、服がもう入らないんじゃないか?」
 「いいえ。全部直してもらってます。大事にしなきゃいけないものですから」
 風花が笑って言った。

 「おい、お前もなんか言え!」
 「風花、お元気ですか」
 俺は六花の頭にチョップを入れた。
 風花が笑っている。

 「悪いけどな、俺たちまだ食事をしてないんだ。お茶でも飲んでて一緒にいてくれよ」
 風花の腹が、グゥーと鳴った。

 「すみません。お弁当を買い忘れてしまいまして」
 俺は笑って、じゃあ、三人で喰おうと言った。
 近くの焼き肉屋に入った。
 ジャンジャン肉を頼む。

 「ああ、改めてな。梅田精肉店にはお世話になってるよ。本当に助かってる」
 「お噂は聞いています。東京支店では有名ですよね、石神さん」
 「アハハハハ!」

 三人で肉を焼いていく。
 風花は初めてのようで、六花が甲斐甲斐しく世話をしている。
 まあ、そんなに難しいこともないのだが。

 「美味しい」
 風花が笑顔になる。
 六花も満面の笑みだ。
 風花が大人びて、六花とそっくりになった。
 二人の笑顔が眩しい。

 「風花、どんどん食べろよ」
 「はい!」
 風花のことを聞いていく。
 今も肉の加工部門にいるそうだが、体力的にも慣れて来て、仕事も楽しいと言っていた。
 家の方も問題無いようだ。

 「休みの日は何してるんだ?」
 「はい。本を読んだり映画を観たり。でもやっぱり疲れてて、家の中にこもってます」
 「別にそれでいいんだよ。遊びに行きたいなんて奴らは、仕事を真剣にしてねぇのな」
 「石神先生は、よく出かけられますよね」
 俺は六花の頭にチョップを入れた。
 風花が笑う。

 「しょうがねぇだろう! 子どもたちやお前らの面倒をみてるんだぁ!」
 「週のお休みがなくなりましたもんね」
 「お、お前!」
 「何のお話ですか?」
 「な、なんでもねぇ」
 六花が笑っている。
 まあ、いいか。



 「あ、ああ! うちに家族が増えたんだよ」
 「え! おめでとうございます」
 「ああ、いや。ネコなんだけどな」
 「ネコ!」
 俺はロボの話をした。

 「死に掛けてたんだけどな。うちでいいものを喰わせてたら元気になったんだ」
 「そうなんですか! 流石お医者様は違いますね」
 「そういうものでもないんだけどなぁ」
 「石神先生は最高のお医者様です」
 「おい、六花。もっと肉を喰えよ」
 「はい!」
 風花が笑った。

 「明日紹介するよ、カワイイ奴なんだ」
 「はい、楽しみです」




 食事を終え、俺たちは六花のマンションへ向かった。
 地下の駐車場にハマーを入れる。
 結構駐車スペースから飛び出しているが、すぐに帰るからいいだろう。
 ゲスト用のスペースは一番奥なので、邪魔にもならない。
 駐車場で、六花のニンジャを見せた。
 風花が驚いている。
 
 「明日、一緒に出掛けましょう」
 「はい!」
 部屋に上がった。

 「おい、二人で風呂にでも入って来いよ」
 コーヒーを用意している六花に声を掛けた。
 リヴィングはちゃんと片付いている。
 六花も、少しは常識が分かって来た。
 六花は、風呂の用意に行く。

 「おい、風花。ちょっと手伝ってくれ」
 「はい?」

 俺は風花を六花の寝室へ導いた。
 ドアを開ける。

 
 「……」
 「……」


 二人で硬直した。


 増えたどこじゃねぇ。
 俺の真っ裸のポスターが、ズラリと並んでいた。
 オチンチンのアップもある。

 「ここは地獄か……」
 「……」
 ダッシュで六花が駈け込んで来た。
 壁の前で両手を拡げ、守ろうとする。

 「どけ。「轟閃花」を使う」
 「ダメです!」
 
 「天国ですね」
 風花が言った。

 「「はい?」」

 「石神さんに囲まれて、お姉ちゃんの幸せが伝わってきます」
 「風花、お前大丈夫か?」
 「はい?」
 六花の妹ということか。

 「では石神先生。いよいよしまいど、あ、まてぇ!」
 「風花! 六花を押さえとけ!」
 俺はダッシュで逃げた。






 後ろで、風花の大きな笑い声が聞こえた。 
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