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蓮花 Ⅲ
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俺たちは蓮花の家に向かった。
栞の実家とは近いが、20キロほど離れている。
まあ、「花岡」では、大した距離ではない。
栞に案内されて着いた蓮花の家は、想像していたものとは違った。
俺は勝手に日本家屋だと考えていた。
「おい、これは」
SRCの鉄筋の建物。
しかも途轍もなく大きい。
正面の巨大な建物の他に、幾つかの研究施設らしき建物。
30000坪はあろうかという敷地に、それらは建っていた。
「家じゃねぇじゃんか!」
栞が笑っていた。
広い門には、《花岡畜産研究所》と書かれていた。
高さ10メートルの塀で囲まれ、監視カメラが点在している。
敷地内も同様で、本館らしき建物の屋上には、レーダー探知機が
回っている。
「驚いたでしょ?」
「もちろんだぁー!」
「ちょっと秘密にしてたの、石神くんを驚かせたくてね」
「こんな資金が花岡家にあったのか」
「うん、まあ結構な割合で使ったかな。土地は元からうちのだったけど、施設なんかでね」
正門で蓮花が待っていた。
彼岸花の着物だ。
門は開いている。
アヴェンタドールを中に入れると、駐車スペースを指さした。
移動する後ろで、分厚い金属の門が閉じた。
車から降りると、蓮花が挨拶する。
「石神様、栞様、本日は遠いところを誠にありがとうございます」
「一日世話になる。後で斬のところへも顔を出すけどな」
「かしこまりました」
「蓮花、元気そうね」
「お陰様でございます。不自由なくやらせていただいております」
蓮花が俺たちの荷物を持ち、案内した。
「各施設は後程。まずはお食事を用意いたしました」
「分かった」
広い廊下を進み、エレベーターで最上階に移動した。
ドアを開け、中へ案内されると、和室だった。
窓はサッシの内側が障子になっている。
今は開け放たれ、嵌め殺しの大きなガラスの向こうに景色が広がっている。
「どうぞ」
俺たちは適当に座った。
蓮花が日本茶を煎れ、俺たちの前に置く。
「荷物はお部屋へ運んでおきます。お食事をお持ちしますので、少々お待ちください」
蓮花が出ていった。
「まいったな」
「ウフフ」
「ここには何人くらいいるんだ?」
「50人くらいかな。でも、誰にも会わないよ。石神くんは蓮花だけしか見ない」
「なるほど」
「一応、うちの人間たちだけどね。石神くんは根幹だから、なるべく秘密にしたいの」
俺は茶を飲んだ。
美味い。
日本茶は好きではないが、これほどのものであればしょっちゅう飲みたい。
「「花岡」は石神くんのものだよ。当主はおじいちゃんだけど、全面的に石神くんの下についたから」
「分かった」
蓮花が食事を持って来た。
ワゴンで運んでくる。
膳が俺と栞の前に置かれ、蓮花が飯と味噌汁をよそう。
ワカサギの焼き物。
茄子とジャガイモの炊き出し。
茶碗蒸し。
オクラの煮びたし。
それに俺の膳にはステーキがあった。
栞にはない。
味噌汁は何種類かのキノコだった。
「田舎料理で、石神様には申し訳ありません」
「いや、美味そうだ。いただきます」
実際、本当に美味かった。
食事が終わる頃、蓮花がコーヒーを持って来る。
俺の好みを知っているらしい。
「蓮花、美味しかった。ありがとう」
蓮花は頭を下げ、膳を片付けた。
蓮花が戻り、この施設の概要を話す。
「もうご想像なさっているとは思いますが、この施設は姉が中心に使っていました」
そうだろうとは思っていた。
短期間に建てられた施設ではない。
「主に医学的、生化学的な実験が行なえるようになっていますが、今は私がそれを引き継いでおります」
「分かった」
俺たちは案内された。
化学研究設備。
生化学研究設備。
医学研究設備。
地下には細菌の研究設備まである。
MRIやCTスキャンまであった。
大型のオートクレーブや遠心分離機。
スペクトル解析や様々な計測器。
「一応、BSL-4まで扱えます。もちろん、正規の規格とは違うかもしれませんが」
どうやって手に入れたのか、やばいものまであった。
要は、有効な治療法が確立されていないばかりか、致死率や感染力が強烈なものだ。
使い方によっては、バイオテロが起こせる。
地下の危険な施設は実際には入らずに、蓮花が持っているタブレットの映像で見せられた。
移動型の監視ロボットがあるらしい。
希望すれば入れるが、面倒な手続きが必要だ。
完全消毒に特殊な装備を身につけなければならない。
外の研究棟に案内される。
そこは爆発物の研究や倉庫的な建物、焼却施設などだった。
膨大な武器弾薬の倉庫もあった。
「こちらは、御目汚しになりますが」
蓮花が断って案内したのは、蓮華の研究遺産だった。
人体や他の動物の標本。
そして脳をいじくられた元人間たち。
栞が目をそむけた。
「以上でございます。何かお気になるものがございましたら、後程詳細にご案内いたしますので、御命じください」
「分かった。ご苦労」
俺たちは、アヴェンタドールに乗り、斬の家に向かった。
蓮花からキーを預かり、自由にこの施設に出入りできるようになった。
「蓮華から、この施設のすべての情報が業に渡っているな」
「そうね、そう考えるべきね」
「俺たちは、それを超えなければならない」
「うん」
俺たちは、斬の家に着いた。
栞の実家とは近いが、20キロほど離れている。
まあ、「花岡」では、大した距離ではない。
栞に案内されて着いた蓮花の家は、想像していたものとは違った。
俺は勝手に日本家屋だと考えていた。
「おい、これは」
SRCの鉄筋の建物。
しかも途轍もなく大きい。
正面の巨大な建物の他に、幾つかの研究施設らしき建物。
30000坪はあろうかという敷地に、それらは建っていた。
「家じゃねぇじゃんか!」
栞が笑っていた。
広い門には、《花岡畜産研究所》と書かれていた。
高さ10メートルの塀で囲まれ、監視カメラが点在している。
敷地内も同様で、本館らしき建物の屋上には、レーダー探知機が
回っている。
「驚いたでしょ?」
「もちろんだぁー!」
「ちょっと秘密にしてたの、石神くんを驚かせたくてね」
「こんな資金が花岡家にあったのか」
「うん、まあ結構な割合で使ったかな。土地は元からうちのだったけど、施設なんかでね」
正門で蓮花が待っていた。
彼岸花の着物だ。
門は開いている。
アヴェンタドールを中に入れると、駐車スペースを指さした。
移動する後ろで、分厚い金属の門が閉じた。
車から降りると、蓮花が挨拶する。
「石神様、栞様、本日は遠いところを誠にありがとうございます」
「一日世話になる。後で斬のところへも顔を出すけどな」
「かしこまりました」
「蓮花、元気そうね」
「お陰様でございます。不自由なくやらせていただいております」
蓮花が俺たちの荷物を持ち、案内した。
「各施設は後程。まずはお食事を用意いたしました」
「分かった」
広い廊下を進み、エレベーターで最上階に移動した。
ドアを開け、中へ案内されると、和室だった。
窓はサッシの内側が障子になっている。
今は開け放たれ、嵌め殺しの大きなガラスの向こうに景色が広がっている。
「どうぞ」
俺たちは適当に座った。
蓮花が日本茶を煎れ、俺たちの前に置く。
「荷物はお部屋へ運んでおきます。お食事をお持ちしますので、少々お待ちください」
蓮花が出ていった。
「まいったな」
「ウフフ」
「ここには何人くらいいるんだ?」
「50人くらいかな。でも、誰にも会わないよ。石神くんは蓮花だけしか見ない」
「なるほど」
「一応、うちの人間たちだけどね。石神くんは根幹だから、なるべく秘密にしたいの」
俺は茶を飲んだ。
美味い。
日本茶は好きではないが、これほどのものであればしょっちゅう飲みたい。
「「花岡」は石神くんのものだよ。当主はおじいちゃんだけど、全面的に石神くんの下についたから」
「分かった」
蓮花が食事を持って来た。
ワゴンで運んでくる。
膳が俺と栞の前に置かれ、蓮花が飯と味噌汁をよそう。
ワカサギの焼き物。
茄子とジャガイモの炊き出し。
茶碗蒸し。
オクラの煮びたし。
それに俺の膳にはステーキがあった。
栞にはない。
味噌汁は何種類かのキノコだった。
「田舎料理で、石神様には申し訳ありません」
「いや、美味そうだ。いただきます」
実際、本当に美味かった。
食事が終わる頃、蓮花がコーヒーを持って来る。
俺の好みを知っているらしい。
「蓮花、美味しかった。ありがとう」
蓮花は頭を下げ、膳を片付けた。
蓮花が戻り、この施設の概要を話す。
「もうご想像なさっているとは思いますが、この施設は姉が中心に使っていました」
そうだろうとは思っていた。
短期間に建てられた施設ではない。
「主に医学的、生化学的な実験が行なえるようになっていますが、今は私がそれを引き継いでおります」
「分かった」
俺たちは案内された。
化学研究設備。
生化学研究設備。
医学研究設備。
地下には細菌の研究設備まである。
MRIやCTスキャンまであった。
大型のオートクレーブや遠心分離機。
スペクトル解析や様々な計測器。
「一応、BSL-4まで扱えます。もちろん、正規の規格とは違うかもしれませんが」
どうやって手に入れたのか、やばいものまであった。
要は、有効な治療法が確立されていないばかりか、致死率や感染力が強烈なものだ。
使い方によっては、バイオテロが起こせる。
地下の危険な施設は実際には入らずに、蓮花が持っているタブレットの映像で見せられた。
移動型の監視ロボットがあるらしい。
希望すれば入れるが、面倒な手続きが必要だ。
完全消毒に特殊な装備を身につけなければならない。
外の研究棟に案内される。
そこは爆発物の研究や倉庫的な建物、焼却施設などだった。
膨大な武器弾薬の倉庫もあった。
「こちらは、御目汚しになりますが」
蓮花が断って案内したのは、蓮華の研究遺産だった。
人体や他の動物の標本。
そして脳をいじくられた元人間たち。
栞が目をそむけた。
「以上でございます。何かお気になるものがございましたら、後程詳細にご案内いたしますので、御命じください」
「分かった。ご苦労」
俺たちは、アヴェンタドールに乗り、斬の家に向かった。
蓮花からキーを預かり、自由にこの施設に出入りできるようになった。
「蓮華から、この施設のすべての情報が業に渡っているな」
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「俺たちは、それを超えなければならない」
「うん」
俺たちは、斬の家に着いた。
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