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四度目の別荘 XⅣ
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響子は六花と映画を観ていた。
恐らく、若干今朝の体温が高かったので、外で遊ばなかったのだろう。
環境が変わってのことだろうから、心配はしていない。
何を観ているのかと近づいた。
『ヴァーサス』だった。
北村龍平の傑作だが、子どもが観るようなものではない。
しかし、響子は楽しんでいるようだ。
放っておいた。
俺は水筒のアイスコーヒーをグラスに注ぎ、響子の隣に座った。
「タカトラ、おかえりなさい」
「ただいま。響子、この映画楽しいか?」
「うん!」
喧嘩好きな主人公が、ゾンビと謎の格闘家集団と戦っていく。
ど派手なアクションとぶっ飛んだ筋、それにギャグがあり、最高のエンターテインメントだ。
血しぶきが舞い、手足が吹っ飛んでいくシーンで響子は「ワオ!」と叫ぶ。
俺の腕にしがみつく。
そしてギャグシーンでは大笑いした。
ラストシーンでは、呆然としていた。
「お前、響子に何見せてんだよ」
「面白そうだったので」
「それで、面白かったかよ?」
「はい! 最高でした」
「ならいいや」
二人が楽しんだのならば、それでいい。
六花の眩しい笑顔を見て、そう思った。
昼食にソバを茹でる。
また大量の「薬味」のウインナーやベーコン、ハムがある。
「……」
昼食を終え、俺は亜紀ちゃんを連れて柳の迎えと買い物に出た。
「柳さん、楽しみですね!」
「おう!」
「忘れてたくせに」
「黙ってろよなー! ほんとになー!」
亜紀ちゃんが笑っていた。
少し早く着いたので、駅前の喫茶店に入った。
地方は大型車でも駐車できるスペースがあってありがたい。
二人でアイスミルクティーを頼む。
「柳にさ、オロチを連れて来いって言ったんだ」
「アハハハ」
「来たらお前らの肉はねぇな」
「大変ですね」
双子が黙っちゃいないとか、そうなったら「花岡」が出るとか話した。
「残念ながらな、オロチに「花岡」は通じねぇ」
「どうしてですか?」
俺は御堂に頼んで「α」の粉末を喰わせてることを話した。
「蓮華の襲撃で、実は御堂の家もやられたんだ」
「大丈夫だったんですか!」
立ち上がって叫ぶ亜紀ちゃんを座らせた。
「それがな、オロチがなんか吐いたらしい」
「吐いた?」
「俺も分からん。御堂も庭が一瞬光ったことしか見てない。でも翌日に武装した軽トラが高熱で溶けてたってさ」
「なんですか、それ」
「だから分からないんだよ。でも、熱線が通った後を辿ると、あの軒下なんだ」
「エエェッー!」
「御堂に言って、熱線の痕は始末してもらってる」
「凄すぎて、なにがなにやら」
「俺が御堂家を守ってくれって言ったからな。あんなことになるとは思わなかったが」
「義理堅いですね」
「そんな範疇じゃねぇけどな」
俺たちは笑った。
柳を迎えに行った。
予定通りの時刻に改札に出てくる。
俺と亜紀ちゃんを見つけ、手を振った。
二泊なのに、大きな荷物を持っていた。
キャリーケースの他に、段ボールを重ねたカートを引いている。
亜紀ちゃんがキャリーケースを軽々と後ろに積んだ。
「あんなに重いのに」
「亜紀ちゃんは5トンくらいは平気だよな?」
「はい!」
「……」
カートは恐らく卵が入っているだろうから、俺が後部座席に丁寧に積んだ。
出発する。
「柳、悪いんだけど買い出しに付き合ってくれ」
「分かりました」
「それじゃ、早速歌を頼む」
「えぇー!」
「なんだよ、ノリが悪いな。じゃあ亜紀ちゃん」
♪亜紀ちゃんはー ちょっと大食いだけど~♪
「これだよ、お前に足りないのは!」
「そんなぁ!」
俺と亜紀ちゃんが笑った。
「みなさん、元気か?」
「普通最初にこっちじゃないですか?」
「うるせぇ! どうなんだ」
「元気です!」
「おろちゃんはどうなんだよ」
「おろ? ああオロチですね。元気だと思いますけど。毎朝卵を二個食べてます」
「そうかぁ。宜しく伝えてくれ」
「どうやってやるんですか!」
スーパーに着いた。
ハマーを見つけて、すぐに店長が来た。
「石神様、お待ちしてました!」
明るく笑っていた。
「今日もまたお綺麗なお嬢様ですね」
「ああ、親友の娘なんです。今日から一緒に別荘へ泊るんで、よろしくお願いします」
「かしこまりました」
柳は状況も分からないまま、自己紹介した。
やはり育ちがいい。
中に入ると、突然ワーグナーの『ワルキューレの騎行』が流れた。
俺と亜紀ちゃんは大笑いした。
「店長!」
「はい、先日のお話が聞こえましたので。是非にと用意させていただきました」
「ありがとう!」
注文していた肉を確認し、また追加でゆっくり買い物をすると言うと、店長は後で声を掛けて欲しいと言った。
「フードコートでは、石神様のお名前をおっしゃって下さい。すべて無料で提供いたしますので」
俺は笑って礼を言った。
「柳、今日はバーベキューだ。喰いたいものがあったら何でもカートに入れろよな」
「分かりました」
柳がホタテを一枚入れた。
「ああ、ダメだ。うちのピラニアは知ってるだろ? 買う時は10枚単位な。じゃねぇと自分が喰えないぞ?」
「は、はい!」
「お前、うちの子らと戦って勝てないだろう」
「分かりました」
亜紀ちゃんはニコニコしながら、次々と魚介類をカートに入れていく。
あれでちゃんと計算が出来ているのだから、立派だ。
最後にもう一度肉売り場をチェックし、亜紀ちゃんが幾つか買い足した。
4台のカートを引いていると店長が来て、すべて預かってくれた。
俺たちはフードコートへ行く。
「なんでもいいぞ! タダだしな」
「石神さんって、いつもとんでもないですよね」
結局三人でクリームソーダを飲んだ。
「おい、柳。ところでオロチはどこだ?」
「連れて来てません!」
「根性ねぇなぁ」
「根性の問題じゃないですよー!」
「柳、アイスを交換しよう」
「え、なんでですか」
「ちょっと間接キッスじゃないか」
「え」
柳はスプーンでアイスを掬った。
「お前、バカだろう?」
「なんなんですかぁー!」
柳が怒った。
「タカさん、やりすぎですよ」
亜紀ちゃんが言う。
「悪かったよ、柳。お前がつい可愛くてなぁ」
俺は柳の後ろに回り、頭を抱き寄せた。
「もーう!」
頬にキスをしてやる。
「柳、よく来たな」
「もう、はい」
「メールを読んだよ。随分楽しみにしてたな」
「はい」
「俺もお前が来てくれて嬉しいぞ。一杯楽しもうな」
「はい」
俺は柳の胸を揉んだ。
「なにするんですかー」
「お前のオッパイをいっぱい触らせてくれって言っただろう?」
「そんなの……いいですけど、こんな場所じゃ」
俺は笑って頭を撫でた。
「じゃあ、また後でじっくりな」
「は、はい」
「よく来た、柳」
俺は柳と握手した。
亜紀ちゃんも笑っていた。
恐らく、若干今朝の体温が高かったので、外で遊ばなかったのだろう。
環境が変わってのことだろうから、心配はしていない。
何を観ているのかと近づいた。
『ヴァーサス』だった。
北村龍平の傑作だが、子どもが観るようなものではない。
しかし、響子は楽しんでいるようだ。
放っておいた。
俺は水筒のアイスコーヒーをグラスに注ぎ、響子の隣に座った。
「タカトラ、おかえりなさい」
「ただいま。響子、この映画楽しいか?」
「うん!」
喧嘩好きな主人公が、ゾンビと謎の格闘家集団と戦っていく。
ど派手なアクションとぶっ飛んだ筋、それにギャグがあり、最高のエンターテインメントだ。
血しぶきが舞い、手足が吹っ飛んでいくシーンで響子は「ワオ!」と叫ぶ。
俺の腕にしがみつく。
そしてギャグシーンでは大笑いした。
ラストシーンでは、呆然としていた。
「お前、響子に何見せてんだよ」
「面白そうだったので」
「それで、面白かったかよ?」
「はい! 最高でした」
「ならいいや」
二人が楽しんだのならば、それでいい。
六花の眩しい笑顔を見て、そう思った。
昼食にソバを茹でる。
また大量の「薬味」のウインナーやベーコン、ハムがある。
「……」
昼食を終え、俺は亜紀ちゃんを連れて柳の迎えと買い物に出た。
「柳さん、楽しみですね!」
「おう!」
「忘れてたくせに」
「黙ってろよなー! ほんとになー!」
亜紀ちゃんが笑っていた。
少し早く着いたので、駅前の喫茶店に入った。
地方は大型車でも駐車できるスペースがあってありがたい。
二人でアイスミルクティーを頼む。
「柳にさ、オロチを連れて来いって言ったんだ」
「アハハハ」
「来たらお前らの肉はねぇな」
「大変ですね」
双子が黙っちゃいないとか、そうなったら「花岡」が出るとか話した。
「残念ながらな、オロチに「花岡」は通じねぇ」
「どうしてですか?」
俺は御堂に頼んで「α」の粉末を喰わせてることを話した。
「蓮華の襲撃で、実は御堂の家もやられたんだ」
「大丈夫だったんですか!」
立ち上がって叫ぶ亜紀ちゃんを座らせた。
「それがな、オロチがなんか吐いたらしい」
「吐いた?」
「俺も分からん。御堂も庭が一瞬光ったことしか見てない。でも翌日に武装した軽トラが高熱で溶けてたってさ」
「なんですか、それ」
「だから分からないんだよ。でも、熱線が通った後を辿ると、あの軒下なんだ」
「エエェッー!」
「御堂に言って、熱線の痕は始末してもらってる」
「凄すぎて、なにがなにやら」
「俺が御堂家を守ってくれって言ったからな。あんなことになるとは思わなかったが」
「義理堅いですね」
「そんな範疇じゃねぇけどな」
俺たちは笑った。
柳を迎えに行った。
予定通りの時刻に改札に出てくる。
俺と亜紀ちゃんを見つけ、手を振った。
二泊なのに、大きな荷物を持っていた。
キャリーケースの他に、段ボールを重ねたカートを引いている。
亜紀ちゃんがキャリーケースを軽々と後ろに積んだ。
「あんなに重いのに」
「亜紀ちゃんは5トンくらいは平気だよな?」
「はい!」
「……」
カートは恐らく卵が入っているだろうから、俺が後部座席に丁寧に積んだ。
出発する。
「柳、悪いんだけど買い出しに付き合ってくれ」
「分かりました」
「それじゃ、早速歌を頼む」
「えぇー!」
「なんだよ、ノリが悪いな。じゃあ亜紀ちゃん」
♪亜紀ちゃんはー ちょっと大食いだけど~♪
「これだよ、お前に足りないのは!」
「そんなぁ!」
俺と亜紀ちゃんが笑った。
「みなさん、元気か?」
「普通最初にこっちじゃないですか?」
「うるせぇ! どうなんだ」
「元気です!」
「おろちゃんはどうなんだよ」
「おろ? ああオロチですね。元気だと思いますけど。毎朝卵を二個食べてます」
「そうかぁ。宜しく伝えてくれ」
「どうやってやるんですか!」
スーパーに着いた。
ハマーを見つけて、すぐに店長が来た。
「石神様、お待ちしてました!」
明るく笑っていた。
「今日もまたお綺麗なお嬢様ですね」
「ああ、親友の娘なんです。今日から一緒に別荘へ泊るんで、よろしくお願いします」
「かしこまりました」
柳は状況も分からないまま、自己紹介した。
やはり育ちがいい。
中に入ると、突然ワーグナーの『ワルキューレの騎行』が流れた。
俺と亜紀ちゃんは大笑いした。
「店長!」
「はい、先日のお話が聞こえましたので。是非にと用意させていただきました」
「ありがとう!」
注文していた肉を確認し、また追加でゆっくり買い物をすると言うと、店長は後で声を掛けて欲しいと言った。
「フードコートでは、石神様のお名前をおっしゃって下さい。すべて無料で提供いたしますので」
俺は笑って礼を言った。
「柳、今日はバーベキューだ。喰いたいものがあったら何でもカートに入れろよな」
「分かりました」
柳がホタテを一枚入れた。
「ああ、ダメだ。うちのピラニアは知ってるだろ? 買う時は10枚単位な。じゃねぇと自分が喰えないぞ?」
「は、はい!」
「お前、うちの子らと戦って勝てないだろう」
「分かりました」
亜紀ちゃんはニコニコしながら、次々と魚介類をカートに入れていく。
あれでちゃんと計算が出来ているのだから、立派だ。
最後にもう一度肉売り場をチェックし、亜紀ちゃんが幾つか買い足した。
4台のカートを引いていると店長が来て、すべて預かってくれた。
俺たちはフードコートへ行く。
「なんでもいいぞ! タダだしな」
「石神さんって、いつもとんでもないですよね」
結局三人でクリームソーダを飲んだ。
「おい、柳。ところでオロチはどこだ?」
「連れて来てません!」
「根性ねぇなぁ」
「根性の問題じゃないですよー!」
「柳、アイスを交換しよう」
「え、なんでですか」
「ちょっと間接キッスじゃないか」
「え」
柳はスプーンでアイスを掬った。
「お前、バカだろう?」
「なんなんですかぁー!」
柳が怒った。
「タカさん、やりすぎですよ」
亜紀ちゃんが言う。
「悪かったよ、柳。お前がつい可愛くてなぁ」
俺は柳の後ろに回り、頭を抱き寄せた。
「もーう!」
頬にキスをしてやる。
「柳、よく来たな」
「もう、はい」
「メールを読んだよ。随分楽しみにしてたな」
「はい」
「俺もお前が来てくれて嬉しいぞ。一杯楽しもうな」
「はい」
俺は柳の胸を揉んだ。
「なにするんですかー」
「お前のオッパイをいっぱい触らせてくれって言っただろう?」
「そんなの……いいですけど、こんな場所じゃ」
俺は笑って頭を撫でた。
「じゃあ、また後でじっくりな」
「は、はい」
「よく来た、柳」
俺は柳と握手した。
亜紀ちゃんも笑っていた。
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