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四度目の別荘 XIII

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 水曜日の朝。

 今日は柳が来る。
 目を覚まして思い出した。
 やばかった。

 スマホのメールをチェックした。
 みんな毎日やっているらしいが、俺はそうではない。
 親しい人間は俺のそういう所を知っているので、用事があれば電話をしてくる。
 だって、これって電話じゃん!
 柳のメールがあった。
 三日前から、どんなに楽しみかという内容があり、毎日送ってきている。
 夕べのものは、返信がないから不安だと書いてあった。
 リヴィングで柳に電話した。

 「おい、今日来るんだったよな?」
 「もう、石神さん! 忘れられてるんじゃないかって、ものずごく不安だったんですけど!」
 俺は笑って、そんなことはないと言った。

 「予定通り、二時過ぎに駅に着きます」
 「ああ、ちゃんと迎えに行くからな」
 「石神さんが来て下さるんですよね?」
 「大丈夫だよ。ああ、オロチも連れて来いよな!」
 「無理ですよ!」
 俺は笑って電話を切った。

 「タカさん、忘れてました?」
 亜紀ちゃんに言われた。

 「ああ、やばかったなぁ」
 「もう!」
 亜紀ちゃんは笑ってコーヒーを置いてくれる。
 響子と六花はまだ寝ている。
 コーヒーを飲み終え、俺は二人を起こしに行った。
 響子の隣に横になって、顔をペロペロする。
 響子はモゾモゾし出して、やがて目を覚ました。

 「おはよう、響子」
 「うん、おはよう」
 俺を見て、唇を突き出す。
 優しくキスをした。
 六花はまだ寝ている。
 寝顔が美しく、またカワイイ。
 響子と二人で、カワイイね、と言い眺めていた。
 安心しきっている、無邪気な寝顔だ。
 化粧をしていないが、美しさは変わらない。

 「あ、よだれ出たよ」
 「ああ、お腹が空いてるんだろう。響子、起こしてやれよ」
 「六花、おきて」
 響子が身体を揺すると、目を覚ました。

 「おはよう、六花」
 「響子、おはようございます」
 俺を見つけ、覆いかぶさって来る。
 野生の獣のようだ。

 「おい!」
 そのままキスをされた。
 舌が口に入り、脳が痺れる感覚がある。

 「新婚さんじゃねぇんだ! 離れろ」
 「おはようございます」
 六花は美しく笑い、そう言った。

 「ああ、おはよう」
 のしかかられたまま、俺も言った。

 「今日も絶好調ですね」
 六花が腰を押し付けて言った。
 硬くなっていた。
 こいつと毎日一緒にいたら、大変なことになる。
 俺は六花を横に倒し、響子と顔を洗って来いと言った。

 「今日も仲良しね」
 響子が笑顔で言う。
 「今日もオチンチン当番ですからね」
 やれやれだぜ。





 六花が響子を抱きかかえて降りて来て、朝食を食べ始める。
 俺はみんなに言った。

 「午後に柳が来る。宜しく頼むな!」
 「「「「「「はい」」」」」」
 「俺は別に忘れてなかったからな!」
 みんなが笑った。

 朝食後、俺は亜紀ちゃんと話し合った。
 今日の買い出しについてだ。
 亜紀ちゃんはノートPCで食材の管理表を俺に示し、必要なものをリストアップしていく。

 「まあ、いつも通り肉だよな」
 「はい。スーパーには予定通りだと連絡しておきますね」
 「そうしてくれ。まあ、お前らが健康で嬉しいよ」
 「ありがとうございます」
 「皮肉だぁ!」
 亜紀ちゃんが笑った。

 俺はそのまま、亜紀ちゃんを連れて散歩に出た。
 アイスコーヒーを入れた水筒を、亜紀ちゃんが持つ。

 「なかなか二人きりになれませんね!」
 そう言って亜紀ちゃんが腕を組んできた。

 「別に構わんが?」
 「もーう!」
 亜紀ちゃんが身体を寄せてくる。

 「昨日のお話のお店、行きましょうね」
 「ああ、行こうな」
 「来週とかどうですか?」
 「早いな!」
 俺は笑った。
 考えておくと言った。

 「柳さんみたいに忘れないでくださいね」
 「お前、柳には言うなよな」
 二人で笑った。

 今日の夕食は、またバーベキューにするつもりだ。
 前回と同じではつまらないので、亜紀ちゃんとまた相談した。

 「じゃあ、魚介類をまた増やしますか」
 「そうだなぁ」
 「でも、アレを出すんですよね」
 「ああ、そのために持って来たからな」
 「本当に食べられるんですか?」
 「大丈夫だよ。俺と六花でバクバク喰ったからな。大森と斎藤にも喰わせたし」
 アリゲーターだ。

 「大森さんたち、嫌がったんじゃないですか?」
 「別に。大森はちょっと目が潤んでたけどな。感動してたんじゃねぇか?」
 「ひどいことしますねー。斎藤さんは?」
 「あいつは本当に喜んで食べたよ。「自分を鍛えてくれるんですね!」とか言ってたな」
 「変わりましたねー」
 「まあ、まだまだだけどな。それに俺は鍛えるためじゃなくて、安全確認だからな」
 「本当にタカさんはひどいですよ」
 俺は大笑いした。

 「だってよ、大事なお前らで試すわけにはいかないだろうよ」
 「タカさんはひどい人だけど、いい人です」
 二人で笑った。

 「でも、大森さんは「花岡」の仲間じゃないですか」
 「だからだよ。大抵のものは体力的に大丈夫だろ?」
 「じゃあ斎藤さんは?」
 「あいつがダメになっても、誠二がいるからな。うちに入れれば斎藤よりはマシだろうよ。まあ、どっちもそんなに重要じゃねぇしな」
 「ひっどーい!」
 



 笑ってるうちに、あの倒木の広場に着いた。
 レジャーシートを敷いて二人で座る。
 亜紀ちゃんがアイスコーヒーを注いでくれた。

 「これもどうぞ」
 鳩サブレーを出してくれた。

 「亜紀ちゃんはやっぱり違うな。茶請けまで持って来るとはなぁ」
 「ルーとハーはどうだったんですか?」
 「あいつらに気遣いなんてあると思うか?」
 「そう言われると」
 「腹が減ったら、その辺の蝉とか喰うじゃない」
 「えぇー!」
 俺は蝉が美味いのだと話した。
 
 「そのまま焼いてバリバリ喰ってもいいんだけど、頭を取るとヒモみたいなのが出るんだよ」
 「へぇー」
 「それをライターでちょっと炙ってやると、本当に美味いの」
 「そうなんですか。タカさん、よく知ってますね」
 「ああ、いろいろ調べて、山中に喰わせた。ほら、前に話したじゃない。あいつが財布を落とした時だよ」
 「タカさん、本当にひどいです!」
 俺は笑って、山中も喜んでたと言った。
 木漏れ日が今日も美しかった。

 「ここ綺麗ですね」
 そう言った亜紀ちゃんの横顔は本当に美しかった。
 少女と大人の間を行き帰する、その危うさがまた魅力だった。
 抱きしめたい衝動を抑えた。

 「何見てるんですか?」
 「ああ、なんでもねぇ」
 上手く言葉を紡げなかった。
 亜紀ちゃんが察し、俺に顔を近づけてくる。
 優しいキスをした。

 「やさしいトラさん」
 亜紀ちゃんが呟いた。
 俺たちは、もう一度キスをした。






 「アチャコでございましゅるー」
 亜紀ちゃんが台無しだと言って怒った。
 
 その後で笑った。
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