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四度目の別荘 XI:小アベル
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子どもたちも風呂に入り、俺は冷やしたコーンポタージュを持って屋上に上がった。
テーブルでスープカップに注いでいく。
響子のものだけは、少し温めている。
「前にアベルさんの話はしたな」
「「「「はい!」」」」
俺は響子と六花のために、アベルさんの話を掻い摘んで話した。
「「アベル」というのは、『聖書』の「創世記」に出てくるアダムとイブの次男だ。アベルの捧げ物が神に受け入れられ、長男のカインはそれを嫉妬してアベルを殺害してしまう。人類最初の殺人と言われている」
「アベルさんは、そんな不幸なアベルの名を取った。それまで暴力沙汰でみんなを泣かしてきた自分への戒めだったんだろう。もう暴力で誰かを泣かさずに、自分はそれを受ける人間になろうとした。立派な人だよなぁ」
「こないだ話したのは、アベルさんが死んで、アベルさんを慕っていたトランスジェンダーの「小アベル」が俺の所へ来た、ということまでだったな。今日はその後の話をする」
先ほどまで温かかったスープが、今は冷たく、その違った味わいを子どもたちは楽しんでいた。
コーンは、響子の消化のことを考え、すべて潰している。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
アベルさんが死んで半年後。
病院宛で小アベルから手紙が来た。
あれからの自分のことが詳細に書かれていて、葛藤はあったものの、アベルさんの望んだとおり、生きてみようと思うと書かれていた。
そして、自分が勤める店の連絡先が記してあり、俺に一度来て欲しいと書いてあった。
新宿のゲイバーだった。
小アベルは19歳だった。
俺は小アベルの出勤を確かめ、金曜の晩に店に行った。
地下にある店だった。
30坪ほど。
大きなカウンターと、ボックス席が6つ。
ゲイバーとしては、広いのかもしれない。
ママは俺と同じくらいの大女だった。
着物を着て、カウンターの脇に立っていた。
他にカウンターにバーテンの男。
ホステスは8人ほどいた。
スーツを着た客が三つのテーブルに合計8人。
それぞれ一名のホステスが一緒に座っている。
女性客が二人、カウンターに座っていた。
それと、明らかに筋者と思えるスーツ姿の男がカウンターの隅に座っていた。
俺が店に入ると、一斉に挨拶された。
即座に三人のホステスが駆け寄り、腕を組んで俺をボックス席に案内した。
小アベルが俺に気づき、ママに耳打ちし、俺の席に来た。
「ご無沙汰しています、石神さん」
店での源氏名「ユキ」と名乗った。
「ああ、元気そうだな、ユキ」
ユキが対面に座り、俺の隣にホステスが一人残った。
ママが挨拶に来た。
「まあ、ようこそいらっしゃいました。ユキの知り合いだとかで、みんなして待ってましたのよ」
ママは名刺を渡してきた。
《薔薇姫瑠璃子》とあった。
「どうぞ、ローズとお呼び下さいませ」
俺は笑顔で名乗り、ママの美しさを褒めた。
何を飲むのか聞かれたので、ワイルドターキーはあるかと聞いた。
「ございますわ」
「じゃあ、ボトルで。ロックで下さい」
ママは俺の隣のホステスに指示し、用意させた。
つまみは適当に、と頼んだ。
ユキに酒を作らせ、ママが俺に話してきた。
「石神さんはお医者様ですのよね」
「ええ」
「こういうお店はよくいらっしゃるの?」
「いや、初めてで。接客される店にはまったく行きません」
「それにしては、随分と落ち着いた感じだわー。あたしたちにも抵抗ないようだし」
「アハハハ」
実際に綺麗なのはユキと、あと二人くらいで、残りは男性にしか見えなかった。
「ユキちゃんはね、真面目でいい子よ」
「そうですか。良かったな、ユキ」
「はい」
「じゃあ、あとでまた来ますから。ゆっくりしてって下さいね」
俺のロックを作り、ママは席を離れた。
「石神さん、本当に来てくれてありがとうございます」
「いいんだよ。お前のことも気になっていたからな」
ユキは水割りを作り、飲んだ。
店では年齢を偽っているらしい。
「どうだよ、もう死にたい気持ちはなくなったか?」
「はい……いいえ。正直に言うと、まだ迷ってる自分がいます」
「それでいいんだよ。当たり前だ。お前はアベルさんが好きだったんだろう?」
「はい、それは」
「だったら後を追いたいに決まってる。だけどお前はその気持ちを殺して、アベルさんの言う通りに生きようとしている。それでいいじゃないか」
「石神さん……」
俺はアベルさんとのことを、ユキに話してやった。
ユキは身体を震わせ、声を堪えて泣いた。
「本当にいい方だったよなぁ」
「……は、い……」
「あらあら、うちの子を泣かしちゃって! 石神せんせーはひどい方ですね」
ママが鴨肉のローストを持って席にきた。
「許せないから、うちで三番目に高い料理を食べて下さいね」
俺は笑って、美味しそうだと言った。
ママは、俺の容姿を褒め、服装を褒めてくれた。
「スーツはブリオーニなの!」
「ああ、スミズーラのなぁ!」
「靴は?」
「ベルルッティのスカーだぁ!」
「時計は?」
「今日はユキの店に来るからな。ブレゲのトゥールビヨンを嵌めて来た」
「みんな、手の空いてる子はいらっしゃい! 石神先生がご馳走してくれるってぇ!」
「「「「「ハーイ、ママ!」」」」
五人のホステスが俺の席に来た。
空いていたテーブルとソファを運んでくる。
流石に力がある。
全員がストレートでなみなみとグラスに注ぐ。
ママが追加でワイルドターキーを入れた。
つまみもどんどん来た。
一切、俺に断りはしなかった。
カモだと思ったのだろう。
みんなで楽しく語り、カウンターの女性客も呼ばれて一緒に飲んだ。
「あたし、白鹿アケミ。先生に一目ぼれよ」
隣にでかい奴が来る。
「そうか、嬉しいよ白鯨ちゃん」
「白鹿よー!」
みんなで笑った。
俺は『白鯨』のラストシーン、グレゴリー・ペックの真似をした。
白鯨に負け、銛に貫かれて腕を揺らす場面だ。
大ウケした。
「ねぇ、カラオケやりましょーよ!」
ホステスの一人が言った。
俺はB'zの『バッドコミュニケーション』を英語で歌った。
拍手が沸く。
何人かが歌い、盛り上がる。
他の席の客は帰っていった。
店の全員が俺のテーブルに来る。
俺はユキと一緒に『男と女のラブゲーム』を歌う。
大拍手が沸いた。
しばらくみんなでカラオケを楽しんでいると、俺はギターを見つけた。
「おい、ママ! これ借りてもいいか?」
「えー、どうぞ!」
俺は調弦し、PACO DE LUCIAの曲を何曲か弾いた。
『Entre Dos Aguas』
『La Barrosa』
『Rumba』
大喝采された。
「ウッメェー!」
「おい、女らしい口を利け! 夢が壊れるだろう!」
みんなで大笑いした。
「あたし、石神さんに抱かれたいわ!」
「俺の鬼棒がお前に入るのか!」
俺は下を脱ぎ、モロ出しにした。
みんなが驚く。
「ダァーッハッハッハ!」
調子に乗っていた。
全員が寄って来て、それぞれ触って行く。
口に入れる奴までいた。
段々と戦闘態勢になっていく。
「すいません、パンツ履かせてください」
みんなが大わらいした。
ワイルドターキーが無くなり、ヘネシーを頼んだ。
「ユキ、良かったな。みんな優しいお姉さんたちじゃねぇか」
「はい!」
ユキが嬉しそうに笑った。
そろそろ帰ると言うと、最後にフルーツの盛り合わせが来た。
「もうお店も終わるから、最後までいてね」
ママが言った。
会計は70万だった。
ユキがしきりに謝った。
俺は笑って現金で支払った。
そのくらいは常に持ち歩いている。
みんなにキスされ、ユキと店を出た。
「石神さん、本当にすみません。あとでお返ししますから」
「ああ? 全然いいよ。楽しかったな、おい!」
俺はユキの肩を抱き寄せて行った。
「酔いは大丈夫ですか?」
「ああ、流石にちょっと飲み過ぎたな」
ユキが俺の腕を肩に回した。
「ちょっと休んでいかれますか?」
「いや、いいよ。タクシーで帰るから」
「そうですか」
ユキは俯いた。
「俺の鬼棒はすごかったろう!」
「は、はい」
後ろから呼び止められた。
店のカウンターにいた筋者だった。
4人ほど連れている。
「あんだよ」
「お前、面かせ」
俺は右に来た奴の背中に回り、股間を蹴り上げた。
向かってくる奴の鼻を掌底で潰し、屈んだ胸に膝を入れ、肋骨を折った。
後の二人も同様に利き腕の骨を折り、肋骨をへし折る。
店にいた男がドスを抜いた。
脇に腕を挟み、へし折る。
膝をついたところを後ろへ倒し、馬乗りになって右目をくり抜く。
「あの店にちょっかい出したら、お前を殺す」
「は、はい!」
股間を握りつぶし、悶絶させた。
ユキが真っ青な顔で立っている。
「おい、帰ろうぜ!」
また肩を組んで歩いた。
「あの人、私や店の子にしつこくて」
「あ? そうなの」
「私も何度も誘われて、ママさんに助けてもらってたんです」
「ああ、優しいママさんだよなぁ」
「石神さん、あんなことして大丈夫なんですか?」
「おう! アベルパンチとアベルキックが久しぶりに唸ったよなぁ!」
ユキがようやく笑った。
「すごい威力ですもんね」
「まあな! でも俺の鬼棒の方がすげぇだろ?」
ユキが声を出して笑った。
俺たちは靖国通りでタクシーを拾った。
ユキを先に乗せる。
「何か困ったことがあったら、いつでも連絡しろよ!」
「はい。今日はありがとうございました」
「ほんとに連絡しろよな! お前はアベルさんの心残りなんだからな!」
ユキは頷いて涙を零した。
振り返ってずっと俺を見て走り去った。
俺は酔いが回って、街路樹の根元に吐いた。
アベルさんに、みっともなくてすまないと謝った。
テーブルでスープカップに注いでいく。
響子のものだけは、少し温めている。
「前にアベルさんの話はしたな」
「「「「はい!」」」」
俺は響子と六花のために、アベルさんの話を掻い摘んで話した。
「「アベル」というのは、『聖書』の「創世記」に出てくるアダムとイブの次男だ。アベルの捧げ物が神に受け入れられ、長男のカインはそれを嫉妬してアベルを殺害してしまう。人類最初の殺人と言われている」
「アベルさんは、そんな不幸なアベルの名を取った。それまで暴力沙汰でみんなを泣かしてきた自分への戒めだったんだろう。もう暴力で誰かを泣かさずに、自分はそれを受ける人間になろうとした。立派な人だよなぁ」
「こないだ話したのは、アベルさんが死んで、アベルさんを慕っていたトランスジェンダーの「小アベル」が俺の所へ来た、ということまでだったな。今日はその後の話をする」
先ほどまで温かかったスープが、今は冷たく、その違った味わいを子どもたちは楽しんでいた。
コーンは、響子の消化のことを考え、すべて潰している。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
アベルさんが死んで半年後。
病院宛で小アベルから手紙が来た。
あれからの自分のことが詳細に書かれていて、葛藤はあったものの、アベルさんの望んだとおり、生きてみようと思うと書かれていた。
そして、自分が勤める店の連絡先が記してあり、俺に一度来て欲しいと書いてあった。
新宿のゲイバーだった。
小アベルは19歳だった。
俺は小アベルの出勤を確かめ、金曜の晩に店に行った。
地下にある店だった。
30坪ほど。
大きなカウンターと、ボックス席が6つ。
ゲイバーとしては、広いのかもしれない。
ママは俺と同じくらいの大女だった。
着物を着て、カウンターの脇に立っていた。
他にカウンターにバーテンの男。
ホステスは8人ほどいた。
スーツを着た客が三つのテーブルに合計8人。
それぞれ一名のホステスが一緒に座っている。
女性客が二人、カウンターに座っていた。
それと、明らかに筋者と思えるスーツ姿の男がカウンターの隅に座っていた。
俺が店に入ると、一斉に挨拶された。
即座に三人のホステスが駆け寄り、腕を組んで俺をボックス席に案内した。
小アベルが俺に気づき、ママに耳打ちし、俺の席に来た。
「ご無沙汰しています、石神さん」
店での源氏名「ユキ」と名乗った。
「ああ、元気そうだな、ユキ」
ユキが対面に座り、俺の隣にホステスが一人残った。
ママが挨拶に来た。
「まあ、ようこそいらっしゃいました。ユキの知り合いだとかで、みんなして待ってましたのよ」
ママは名刺を渡してきた。
《薔薇姫瑠璃子》とあった。
「どうぞ、ローズとお呼び下さいませ」
俺は笑顔で名乗り、ママの美しさを褒めた。
何を飲むのか聞かれたので、ワイルドターキーはあるかと聞いた。
「ございますわ」
「じゃあ、ボトルで。ロックで下さい」
ママは俺の隣のホステスに指示し、用意させた。
つまみは適当に、と頼んだ。
ユキに酒を作らせ、ママが俺に話してきた。
「石神さんはお医者様ですのよね」
「ええ」
「こういうお店はよくいらっしゃるの?」
「いや、初めてで。接客される店にはまったく行きません」
「それにしては、随分と落ち着いた感じだわー。あたしたちにも抵抗ないようだし」
「アハハハ」
実際に綺麗なのはユキと、あと二人くらいで、残りは男性にしか見えなかった。
「ユキちゃんはね、真面目でいい子よ」
「そうですか。良かったな、ユキ」
「はい」
「じゃあ、あとでまた来ますから。ゆっくりしてって下さいね」
俺のロックを作り、ママは席を離れた。
「石神さん、本当に来てくれてありがとうございます」
「いいんだよ。お前のことも気になっていたからな」
ユキは水割りを作り、飲んだ。
店では年齢を偽っているらしい。
「どうだよ、もう死にたい気持ちはなくなったか?」
「はい……いいえ。正直に言うと、まだ迷ってる自分がいます」
「それでいいんだよ。当たり前だ。お前はアベルさんが好きだったんだろう?」
「はい、それは」
「だったら後を追いたいに決まってる。だけどお前はその気持ちを殺して、アベルさんの言う通りに生きようとしている。それでいいじゃないか」
「石神さん……」
俺はアベルさんとのことを、ユキに話してやった。
ユキは身体を震わせ、声を堪えて泣いた。
「本当にいい方だったよなぁ」
「……は、い……」
「あらあら、うちの子を泣かしちゃって! 石神せんせーはひどい方ですね」
ママが鴨肉のローストを持って席にきた。
「許せないから、うちで三番目に高い料理を食べて下さいね」
俺は笑って、美味しそうだと言った。
ママは、俺の容姿を褒め、服装を褒めてくれた。
「スーツはブリオーニなの!」
「ああ、スミズーラのなぁ!」
「靴は?」
「ベルルッティのスカーだぁ!」
「時計は?」
「今日はユキの店に来るからな。ブレゲのトゥールビヨンを嵌めて来た」
「みんな、手の空いてる子はいらっしゃい! 石神先生がご馳走してくれるってぇ!」
「「「「「ハーイ、ママ!」」」」
五人のホステスが俺の席に来た。
空いていたテーブルとソファを運んでくる。
流石に力がある。
全員がストレートでなみなみとグラスに注ぐ。
ママが追加でワイルドターキーを入れた。
つまみもどんどん来た。
一切、俺に断りはしなかった。
カモだと思ったのだろう。
みんなで楽しく語り、カウンターの女性客も呼ばれて一緒に飲んだ。
「あたし、白鹿アケミ。先生に一目ぼれよ」
隣にでかい奴が来る。
「そうか、嬉しいよ白鯨ちゃん」
「白鹿よー!」
みんなで笑った。
俺は『白鯨』のラストシーン、グレゴリー・ペックの真似をした。
白鯨に負け、銛に貫かれて腕を揺らす場面だ。
大ウケした。
「ねぇ、カラオケやりましょーよ!」
ホステスの一人が言った。
俺はB'zの『バッドコミュニケーション』を英語で歌った。
拍手が沸く。
何人かが歌い、盛り上がる。
他の席の客は帰っていった。
店の全員が俺のテーブルに来る。
俺はユキと一緒に『男と女のラブゲーム』を歌う。
大拍手が沸いた。
しばらくみんなでカラオケを楽しんでいると、俺はギターを見つけた。
「おい、ママ! これ借りてもいいか?」
「えー、どうぞ!」
俺は調弦し、PACO DE LUCIAの曲を何曲か弾いた。
『Entre Dos Aguas』
『La Barrosa』
『Rumba』
大喝采された。
「ウッメェー!」
「おい、女らしい口を利け! 夢が壊れるだろう!」
みんなで大笑いした。
「あたし、石神さんに抱かれたいわ!」
「俺の鬼棒がお前に入るのか!」
俺は下を脱ぎ、モロ出しにした。
みんなが驚く。
「ダァーッハッハッハ!」
調子に乗っていた。
全員が寄って来て、それぞれ触って行く。
口に入れる奴までいた。
段々と戦闘態勢になっていく。
「すいません、パンツ履かせてください」
みんなが大わらいした。
ワイルドターキーが無くなり、ヘネシーを頼んだ。
「ユキ、良かったな。みんな優しいお姉さんたちじゃねぇか」
「はい!」
ユキが嬉しそうに笑った。
そろそろ帰ると言うと、最後にフルーツの盛り合わせが来た。
「もうお店も終わるから、最後までいてね」
ママが言った。
会計は70万だった。
ユキがしきりに謝った。
俺は笑って現金で支払った。
そのくらいは常に持ち歩いている。
みんなにキスされ、ユキと店を出た。
「石神さん、本当にすみません。あとでお返ししますから」
「ああ? 全然いいよ。楽しかったな、おい!」
俺はユキの肩を抱き寄せて行った。
「酔いは大丈夫ですか?」
「ああ、流石にちょっと飲み過ぎたな」
ユキが俺の腕を肩に回した。
「ちょっと休んでいかれますか?」
「いや、いいよ。タクシーで帰るから」
「そうですか」
ユキは俯いた。
「俺の鬼棒はすごかったろう!」
「は、はい」
後ろから呼び止められた。
店のカウンターにいた筋者だった。
4人ほど連れている。
「あんだよ」
「お前、面かせ」
俺は右に来た奴の背中に回り、股間を蹴り上げた。
向かってくる奴の鼻を掌底で潰し、屈んだ胸に膝を入れ、肋骨を折った。
後の二人も同様に利き腕の骨を折り、肋骨をへし折る。
店にいた男がドスを抜いた。
脇に腕を挟み、へし折る。
膝をついたところを後ろへ倒し、馬乗りになって右目をくり抜く。
「あの店にちょっかい出したら、お前を殺す」
「は、はい!」
股間を握りつぶし、悶絶させた。
ユキが真っ青な顔で立っている。
「おい、帰ろうぜ!」
また肩を組んで歩いた。
「あの人、私や店の子にしつこくて」
「あ? そうなの」
「私も何度も誘われて、ママさんに助けてもらってたんです」
「ああ、優しいママさんだよなぁ」
「石神さん、あんなことして大丈夫なんですか?」
「おう! アベルパンチとアベルキックが久しぶりに唸ったよなぁ!」
ユキがようやく笑った。
「すごい威力ですもんね」
「まあな! でも俺の鬼棒の方がすげぇだろ?」
ユキが声を出して笑った。
俺たちは靖国通りでタクシーを拾った。
ユキを先に乗せる。
「何か困ったことがあったら、いつでも連絡しろよ!」
「はい。今日はありがとうございました」
「ほんとに連絡しろよな! お前はアベルさんの心残りなんだからな!」
ユキは頷いて涙を零した。
振り返ってずっと俺を見て走り去った。
俺は酔いが回って、街路樹の根元に吐いた。
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