435 / 2,859
四度目の別荘 Ⅸ
しおりを挟む
みんな、泣いていた。
「あれは、俺が銀座のエルメスに連れてった時かな。院長がカバンを買って、それが気に入ってくれたようでな。「ざくろ」でご馳走になったんだ」
「好きなだけ喰えってなぁ。珍しいことで、俺も遠慮なく飲み食いした」
「「石神、お前は酒が飲めて羨ましいよ」って院長が言ったんだ」
「院長先生はお酒を召し上がらないですもんね」
亜紀ちゃんが言った。
「そうだな。だから俺が「全然飲めないんですか」って聞いたら、この話をしてくれた」
「……」
「じゃあ、あんまし食べれなかったね」
ルーが言った。
「いや、全然喰ったよ。バクバクな!」
「タカさん、ウソですね」
亜紀ちゃんが言った。
「ばかやろう! 俺は血も涙もねぇ男だぁ! お前ら、俺に何百回殴られたか忘れたかぁ?」
みんなが小さく笑った。
「まあ、デザートは喰ったかな」
もう、誰も笑わなかった。
「亜紀ちゃん、みんな傷だらけなんだよ」
「そうですね」
「院長みたいに真面目な人は、特にな。それは悲しいことだよな」
「はい」
響子が隣で俺の腕を掴んで見ていた。
六花は、その響子の膝に顔を埋めて泣いていた。
「ルー、ハー。院長は好きか?」
「「うん!」」
「そうだよな。俺も大好きだよ。お前らも仲良くしてやってくれな」
「「はい!」」
響子を連れて部屋に入ると、当然のように六花がついてきた。
「お前は自分の部屋で寝ろよ」
六花が涙目で俺を見ていた。
「分かったよ。だからそんな顔をするな」
響子を挟んで横になった。
ベッドで響子が俺に言った。
「タカトラ、明日もプリンを作って」
「ああ、いいよ」
「聡くんの分も作って」
「分かった」
「石神先生」
「なんだ」
「私にプリンの作り方を教えて下さい」
六花が言った。
「お前、何度も見てるだろう」
「いえ、石神先生ばかり見てましたので」
「ばかやろう」
響子が少し笑った。
「響子がプリンが好きだからって、何度も俺に作り方を教わったんだよ」
「そーなの?」
「でも、一度も作ってくれてないだろ?」
「そーね」
「六花はオチンチン当番ばっかり考えてるからなぁ」
響子が笑った。
「六花は一生懸命ね」
「はい、明日もまたオチンチン当番です」
俺は六花の頭を小突いた。
翌朝、朝食の後で、みんなにプリンの作り方を教えた。
実際の作業を六花にやらせた。
「「プリン」というのは、日本だけの呼び方なんだ。響子、英語ではなんて言う?」
「a Pudding」
「海外ではいろんなバリエーションがある。覚えると面白いぞ」
「「「「「はい!」」」」」
「でも、やっぱり普通のプリンがいいな」
ルーが言った。
「なんでだよ」
「だって、聡くんはこういうのを食べてたんでしょ?」
「ああ、そうだな」
六花は、8個のプリンを冷蔵庫に仕舞った。
俺は双子を誘って散歩に出た。
響子はまだ眠いようで、六花が付き添って寝た。
俺たちは手を繋いで歩いた。
「院長はな、毎年聡くんの命日にプリンを食べるんだ」
「「へぇー」」
「しかも、コンビニで買って来たものをな」
「じゃあ、聡くんもきっと一緒に食べてるね」
ハーが言った。
「そうか。お前らが言うと、そんな気もするぞ」
「「エヘヘヘ」」
俺は同時に双子を宙に放り投げた。
二人は手を握り合い、伸身で回転しながら着地した。
「お前ら、すごいな!」
「「うん!」」
歩きながら二人を放り投げ、また難易度の採点を俺がした。
倒木の広場で、三人で座った。
水筒から、双子の希望で入れて来たメロンソーダを注ぐ。
人工的な緑色に、不思議な感じがした。
双子に舌を出させると、鮮やかな緑色になっていた。
俺も舌を出すと、二人が笑った。
「今日の夕飯はなんだっけ」
「ハンバーグと唐揚げ大会だよ!」
「なんで大会になってんだよ」
三人で笑った。
「もしもお前らが死んじゃったら、俺は命日にたらふく肉を喰わなきゃならねぇなぁ」
「「アハハハハ!」」
「タカさんの命日は何を食べればいいの?」
ルーが言った。
「メザシだな」
「えー! 全然食べてないじゃん」
「ばかやろう! 石神高虎は質素な食事で偉大なことをやったって広めろ!」
「「アハハハハハ!」」
俺は有名な事業家の話をしてやった。
「じゃあ、ワイルドターキーにしてくれ。俺の好きな酒だからな。お前らが大人になってからだな」
「「うん」」
「つまみは、そうだなぁ。ハモンセラーのがいいな」
「「はい」」
「ああ、それと身欠きにしんもな! 大好きなんだ」
「「はい」」
「それからなぁ。チョリソーと、ああカプレーゼもな。ちょっとさっぱりしたもんも欲しいからな」
「「はい」」
「あとはなぁ」
「「タカさん! 多いよ!」」
俺たちは笑った。
双子が抱き着いてきた。
「タカさん、死なないでね」
「ばか、冗談だろう」
「私たちが絶対に守るからね!」
「絶対だよ!」
「分かったよ」
俺は苦笑した。
帰り道、ヘビが空から降って来た。
その瞬間、カラスが一羽飛んできて、そのヘビを咥えて飛び去った。
「おい、ハー! どこ行くんだぁー!」
俺が叫ぶと二人が笑った。
「ハーの命日はヘビかぁ。ちょっと辛いな」
ハーが俺の尻を蹴った。
「あれは、俺が銀座のエルメスに連れてった時かな。院長がカバンを買って、それが気に入ってくれたようでな。「ざくろ」でご馳走になったんだ」
「好きなだけ喰えってなぁ。珍しいことで、俺も遠慮なく飲み食いした」
「「石神、お前は酒が飲めて羨ましいよ」って院長が言ったんだ」
「院長先生はお酒を召し上がらないですもんね」
亜紀ちゃんが言った。
「そうだな。だから俺が「全然飲めないんですか」って聞いたら、この話をしてくれた」
「……」
「じゃあ、あんまし食べれなかったね」
ルーが言った。
「いや、全然喰ったよ。バクバクな!」
「タカさん、ウソですね」
亜紀ちゃんが言った。
「ばかやろう! 俺は血も涙もねぇ男だぁ! お前ら、俺に何百回殴られたか忘れたかぁ?」
みんなが小さく笑った。
「まあ、デザートは喰ったかな」
もう、誰も笑わなかった。
「亜紀ちゃん、みんな傷だらけなんだよ」
「そうですね」
「院長みたいに真面目な人は、特にな。それは悲しいことだよな」
「はい」
響子が隣で俺の腕を掴んで見ていた。
六花は、その響子の膝に顔を埋めて泣いていた。
「ルー、ハー。院長は好きか?」
「「うん!」」
「そうだよな。俺も大好きだよ。お前らも仲良くしてやってくれな」
「「はい!」」
響子を連れて部屋に入ると、当然のように六花がついてきた。
「お前は自分の部屋で寝ろよ」
六花が涙目で俺を見ていた。
「分かったよ。だからそんな顔をするな」
響子を挟んで横になった。
ベッドで響子が俺に言った。
「タカトラ、明日もプリンを作って」
「ああ、いいよ」
「聡くんの分も作って」
「分かった」
「石神先生」
「なんだ」
「私にプリンの作り方を教えて下さい」
六花が言った。
「お前、何度も見てるだろう」
「いえ、石神先生ばかり見てましたので」
「ばかやろう」
響子が少し笑った。
「響子がプリンが好きだからって、何度も俺に作り方を教わったんだよ」
「そーなの?」
「でも、一度も作ってくれてないだろ?」
「そーね」
「六花はオチンチン当番ばっかり考えてるからなぁ」
響子が笑った。
「六花は一生懸命ね」
「はい、明日もまたオチンチン当番です」
俺は六花の頭を小突いた。
翌朝、朝食の後で、みんなにプリンの作り方を教えた。
実際の作業を六花にやらせた。
「「プリン」というのは、日本だけの呼び方なんだ。響子、英語ではなんて言う?」
「a Pudding」
「海外ではいろんなバリエーションがある。覚えると面白いぞ」
「「「「「はい!」」」」」
「でも、やっぱり普通のプリンがいいな」
ルーが言った。
「なんでだよ」
「だって、聡くんはこういうのを食べてたんでしょ?」
「ああ、そうだな」
六花は、8個のプリンを冷蔵庫に仕舞った。
俺は双子を誘って散歩に出た。
響子はまだ眠いようで、六花が付き添って寝た。
俺たちは手を繋いで歩いた。
「院長はな、毎年聡くんの命日にプリンを食べるんだ」
「「へぇー」」
「しかも、コンビニで買って来たものをな」
「じゃあ、聡くんもきっと一緒に食べてるね」
ハーが言った。
「そうか。お前らが言うと、そんな気もするぞ」
「「エヘヘヘ」」
俺は同時に双子を宙に放り投げた。
二人は手を握り合い、伸身で回転しながら着地した。
「お前ら、すごいな!」
「「うん!」」
歩きながら二人を放り投げ、また難易度の採点を俺がした。
倒木の広場で、三人で座った。
水筒から、双子の希望で入れて来たメロンソーダを注ぐ。
人工的な緑色に、不思議な感じがした。
双子に舌を出させると、鮮やかな緑色になっていた。
俺も舌を出すと、二人が笑った。
「今日の夕飯はなんだっけ」
「ハンバーグと唐揚げ大会だよ!」
「なんで大会になってんだよ」
三人で笑った。
「もしもお前らが死んじゃったら、俺は命日にたらふく肉を喰わなきゃならねぇなぁ」
「「アハハハハ!」」
「タカさんの命日は何を食べればいいの?」
ルーが言った。
「メザシだな」
「えー! 全然食べてないじゃん」
「ばかやろう! 石神高虎は質素な食事で偉大なことをやったって広めろ!」
「「アハハハハハ!」」
俺は有名な事業家の話をしてやった。
「じゃあ、ワイルドターキーにしてくれ。俺の好きな酒だからな。お前らが大人になってからだな」
「「うん」」
「つまみは、そうだなぁ。ハモンセラーのがいいな」
「「はい」」
「ああ、それと身欠きにしんもな! 大好きなんだ」
「「はい」」
「それからなぁ。チョリソーと、ああカプレーゼもな。ちょっとさっぱりしたもんも欲しいからな」
「「はい」」
「あとはなぁ」
「「タカさん! 多いよ!」」
俺たちは笑った。
双子が抱き着いてきた。
「タカさん、死なないでね」
「ばか、冗談だろう」
「私たちが絶対に守るからね!」
「絶対だよ!」
「分かったよ」
俺は苦笑した。
帰り道、ヘビが空から降って来た。
その瞬間、カラスが一羽飛んできて、そのヘビを咥えて飛び去った。
「おい、ハー! どこ行くんだぁー!」
俺が叫ぶと二人が笑った。
「ハーの命日はヘビかぁ。ちょっと辛いな」
ハーが俺の尻を蹴った。
0
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる