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四度目の別荘 Ⅸ

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 みんな、泣いていた。

 「あれは、俺が銀座のエルメスに連れてった時かな。院長がカバンを買って、それが気に入ってくれたようでな。「ざくろ」でご馳走になったんだ」

 「好きなだけ喰えってなぁ。珍しいことで、俺も遠慮なく飲み食いした」

 「「石神、お前は酒が飲めて羨ましいよ」って院長が言ったんだ」
 「院長先生はお酒を召し上がらないですもんね」
 亜紀ちゃんが言った。

 「そうだな。だから俺が「全然飲めないんですか」って聞いたら、この話をしてくれた」
 「……」
 「じゃあ、あんまし食べれなかったね」
 ルーが言った。

 「いや、全然喰ったよ。バクバクな!」
 「タカさん、ウソですね」
 亜紀ちゃんが言った。

 「ばかやろう! 俺は血も涙もねぇ男だぁ! お前ら、俺に何百回殴られたか忘れたかぁ?」
 みんなが小さく笑った。

 「まあ、デザートは喰ったかな」
 もう、誰も笑わなかった。

 「亜紀ちゃん、みんな傷だらけなんだよ」
 「そうですね」
 「院長みたいに真面目な人は、特にな。それは悲しいことだよな」
 「はい」
 響子が隣で俺の腕を掴んで見ていた。
 六花は、その響子の膝に顔を埋めて泣いていた。

 「ルー、ハー。院長は好きか?」
 「「うん!」」
 「そうだよな。俺も大好きだよ。お前らも仲良くしてやってくれな」
 「「はい!」」

 


 響子を連れて部屋に入ると、当然のように六花がついてきた。

 「お前は自分の部屋で寝ろよ」
 六花が涙目で俺を見ていた。

 「分かったよ。だからそんな顔をするな」
 響子を挟んで横になった。
 ベッドで響子が俺に言った。

 「タカトラ、明日もプリンを作って」
 「ああ、いいよ」
 「聡くんの分も作って」
 「分かった」

 「石神先生」
 「なんだ」
 「私にプリンの作り方を教えて下さい」
 六花が言った。

 「お前、何度も見てるだろう」
 「いえ、石神先生ばかり見てましたので」
 「ばかやろう」
 響子が少し笑った。

 「響子がプリンが好きだからって、何度も俺に作り方を教わったんだよ」
 「そーなの?」
 「でも、一度も作ってくれてないだろ?」
 「そーね」
 「六花はオチンチン当番ばっかり考えてるからなぁ」
 響子が笑った。

 「六花は一生懸命ね」
 「はい、明日もまたオチンチン当番です」
 俺は六花の頭を小突いた。



 

 翌朝、朝食の後で、みんなにプリンの作り方を教えた。
 実際の作業を六花にやらせた。

 「「プリン」というのは、日本だけの呼び方なんだ。響子、英語ではなんて言う?」
 「a Pudding」
 「海外ではいろんなバリエーションがある。覚えると面白いぞ」
 「「「「「はい!」」」」」

 「でも、やっぱり普通のプリンがいいな」
 ルーが言った。

 「なんでだよ」
 「だって、聡くんはこういうのを食べてたんでしょ?」
 「ああ、そうだな」

 六花は、8個のプリンを冷蔵庫に仕舞った。



 俺は双子を誘って散歩に出た。
 響子はまだ眠いようで、六花が付き添って寝た。
 俺たちは手を繋いで歩いた。

 「院長はな、毎年聡くんの命日にプリンを食べるんだ」
 「「へぇー」」
 「しかも、コンビニで買って来たものをな」
 「じゃあ、聡くんもきっと一緒に食べてるね」
 ハーが言った。

 「そうか。お前らが言うと、そんな気もするぞ」
 「「エヘヘヘ」」
 俺は同時に双子を宙に放り投げた。
 二人は手を握り合い、伸身で回転しながら着地した。

 「お前ら、すごいな!」
 「「うん!」」
 歩きながら二人を放り投げ、また難易度の採点を俺がした。

 倒木の広場で、三人で座った。
 水筒から、双子の希望で入れて来たメロンソーダを注ぐ。
 人工的な緑色に、不思議な感じがした。
 双子に舌を出させると、鮮やかな緑色になっていた。
 俺も舌を出すと、二人が笑った。

 「今日の夕飯はなんだっけ」
 「ハンバーグと唐揚げ大会だよ!」
 「なんで大会になってんだよ」
 三人で笑った。

 「もしもお前らが死んじゃったら、俺は命日にたらふく肉を喰わなきゃならねぇなぁ」
 「「アハハハハ!」」
 「タカさんの命日は何を食べればいいの?」
 ルーが言った。

 「メザシだな」
 「えー! 全然食べてないじゃん」
 「ばかやろう! 石神高虎は質素な食事で偉大なことをやったって広めろ!」
 「「アハハハハハ!」」
 俺は有名な事業家の話をしてやった。

 「じゃあ、ワイルドターキーにしてくれ。俺の好きな酒だからな。お前らが大人になってからだな」
 「「うん」」
 「つまみは、そうだなぁ。ハモンセラーのがいいな」
 「「はい」」
 「ああ、それと身欠きにしんもな! 大好きなんだ」
 「「はい」」
 「それからなぁ。チョリソーと、ああカプレーゼもな。ちょっとさっぱりしたもんも欲しいからな」
 「「はい」」

 「あとはなぁ」
 「「タカさん! 多いよ!」」
 俺たちは笑った。



 双子が抱き着いてきた。

 「タカさん、死なないでね」
 「ばか、冗談だろう」
 「私たちが絶対に守るからね!」
 「絶対だよ!」
 「分かったよ」
 俺は苦笑した。



 帰り道、ヘビが空から降って来た。
 その瞬間、カラスが一羽飛んできて、そのヘビを咥えて飛び去った。

 「おい、ハー! どこ行くんだぁー!」
  俺が叫ぶと二人が笑った。

 「ハーの命日はヘビかぁ。ちょっと辛いな」
 ハーが俺の尻を蹴った。
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