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四度目の別荘 Ⅳ アチャコはウケた。

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 翌朝、俺と栞は昼前まで寝ていた。
 皇紀と双子は好きなように朝食を食べ、ウインナーが4袋なくなっていた。
 亜紀ちゃんも9時ごろに起きて、たっぷりと朝食を食べた。
 若い。

 俺と栞は昼食の準備の最中にリヴィングへ降り、コーヒーを頼んだ。

 「もうすぐお昼ですよー」
 亜紀ちゃんがコーヒーを持って来て言った。

 「肉喰ってると元気が違うな!」
 「エヘヘヘ」
 昼食は肉うどんだった。

 「ちょっと栞と散歩してくる」
 「「「「はーい!」」」」
 子どもたちは勉強だ。

 「別荘っていいね」
 栞がニコニコして言う。

 「でも、結局あいつらに肉を喰わせてるだけのような」
 「アハハハ」
 日向は暑いが、木々が光線を遮ると、風の涼しさを感じる。
 この辺りは自動販売機が無いので、水筒を持って来ていた。
 栞は日傘を差している。
 白いワンピースだ。
 俺は白のジーンズに麻のシャツを着ていた。
 長袖だ。
 
 しばらく歩き、木陰の倒木にレジャーシートを敷き、腰かけた。
 水筒のアイスコーヒーを二人で飲む。

 「蓮花はどうしてる?」
 「家にこもって、何か研究しているみたい」
 化学系の実験設備のある屋敷に住んでいるらしい。

 「気になるの?」
 「ああ、何か引っかかるものがあるんだ」
 「蓮花が信用できないってこと?」
 「いや。うん、正直言って信用はできないと思っていながら、どこかで信用しているって感じかな」
 「うん。そうなるよね」
 リスが木を駆け上がった。
 栞はカワイイ、と言った。

 「あの目は本気のものだった。俺にすべてを捧げるというのは本当だと思う。だけどやっぱり蓮華と同じ顔であることがどうにもな」
 「石神くんらしくないね」
 俺は笑いながら、そうだな、と言った。

 「まあ、今度また会ってみるか。繋ぎを頼めるか?」
 「うん、喜んで」
 「何か、あいつが好きなものってあるかな?」
 「さあ。私も石神くんのちょっと前に知った人だし。でも、多分石神くんからもらったものなら喜ぶんじゃないかな」
 「そうかな」
 「うん。こないだの食事も喜んでたよ。石神くん自ら作ってくれるなんてって」
 「そうか」
 ゆっくりと歩いて帰る途中に、自生した百合を見つけた。

 「二人で花を活けてみるか」
 「あ、いいね!」
 栞と歩きながら花や草などを手折って行く。
 お互い、一抱えにもなって笑った。



 勉強している子どもたちの脇で、俺たちは別々に活けた。
 栞は白磁の花瓶に、山百合を中心に色とりどりの花を活けた。
 柔らかな女性らしさが出ている。
 俺は信楽の茶の斑紋のある花瓶に、青い竜胆一輪のみの花で、太い枯れ枝とススキを活けた。

 「やっぱり石神くんには敵わないな!」
 栞が笑って言った。
 子どもたちも、俺たちの生け花を興味深げに見ていた。

 「皇紀! 「もののあはれ」について説明しろ」
 「はい! えーと、詫び寂みたいな」
 「お前、今日は肉なしな」
 「えぇー!」
 みんなが笑う。

 「この生け花は、明日、明後日、いずれは萎れて枯れる。その運命を知って見るから、壮絶な美を感ずる。これは「もののあはれ」というものだな」
 「「「「はい!」」」」

 「命はいずれ腐って死ぬ。山や街もすべてはいつか崩壊してなくなる。この宇宙の宿命だ。エントロピーの法則、即ち熱力学第二法則だ。すべては崩壊に向かって行くしかない」
 「喪われる、死ぬ、だからこそ美しいんだ。日本人は、その美を「もののあはれ」と呼んで尊んだ」
 子どもたちは、熱心に生け花を見ていた。

 「俺はそういう人間だからな。別にリャドの絵をグシャグシャにされても、ジャコメッティちゃんがへし折られても、何とも思わん!」
 双子が大笑いする。
 笑いすぎだと言うと、堪えて真剣な顔をする。

 「さっきもその話、してたよね?」
 栞が言うと、全員がまた笑った。



 その後、俺は亜紀ちゃんと食材の打ち合わせをした。
 今日は俺がフレンチを作る予定だが、その食材の幾つかを買ってくる必要があることが分かった。

 「でも、家のものよりもキッチンが大分小さいんだよな」
 「それは何とかしましょうよ! タカさんのお料理を食べたいです」
 「うーん。ああ、昨日のバーベキューの台を使うか!」
 「あ! いいですね」
 微妙な火加減のものはコンロでやり、スープなどはバーベキュー台でできる。

 「私の「轟雷」も出しますし」
 「辺り一面真っ黒焦げだろう!」
 俺たちは笑い合い、一緒に買い物に行くことにする。
 子どもたちは勉強を続け、栞は少し寝ると言った。


 
 「ハマーでドライブもいいですね!」
 亜紀ちゃんが窓から顔を出して言った。

 「閉めろよ。暑いじゃないか」
 「え、だって昨日は「風を感じたい」とかって」
 「昨日味わったからいいよ」
 「えぇー!」
 俺は亜紀ちゃんに、ハマーで双子とドライブに行こうと思うと言った。

 「いいんじゃないですか! ルーとハーも楽しみでしょう」
 「そうだよな。でも、ドライブってやっぱりアヴェンタドールとかベンツがいいんだけどなぁ」
 「分かりますけど、ハマーもいいですよ。いろいろ積んでいけますし」
 「なるほど。そう言えば、キャンプもいいなって話してたんだ」
 「えー! それは私も行きたい!」
 亜紀ちゃんが俺の左腕を掴んで揺する。

 「危ねぇ! 運転中に怪力で掴むな!」
 「そんな力出してないですよー!」
 「亜紀ちゃん、人類最強の女なんだって自覚してくれよ」
 「そんなことないですよ」
 「だって、ゾウでお手玉できるじゃねぇか」
 「やったことありません」
 「今度やるか?」
 「面白そうですね」
 二人で笑った。
 本当にできるだろう。

 「白熊バレーとかな」
 「サイサッカーとか!」
 「ゴリラピンポン」
 「ワニすくい!」
 


 くだらないことを言う間に、スーパーに着いた。
 誰かが見ていたのか、俺たちが駐車場から入ると、店長がニコやかな顔で、カートを持って待っていた。
 俺は亜紀ちゃんと顔を見合わせて笑った。
 今日は娘とゆっくり選びたいと言うと、かしこまりましたと言い、店長が去った。

 「今度から俺たちが来たら、ワーグナーの『ワルキューレの騎行』を流して欲しいな」
 「ああ、『地獄の黙示録』ですね!」
 「あのシーンはカッコイイよなぁ」
 「ほんとに」

 俺たちはあちこちを回りながら、楽しく買い物をした。
 結局カートが四台になる。
 途中から店長が来て手伝ってくれた。

 「ああ、花火も買っておこうか」
 「そうですね。栞さんともやりたいですし」
 「それでしたら、先にこちらをレジに通しておきます」
 店長が申し出てくれる。
  俺たちは入り口のテントに向かった。

 「もうすっかりお馴染みさんになりましたね」
 「俺たちはスーパーの隅々まで知ってるもんな!」
 去年の教訓を得て、適度に大量買いした。
 また店長が届けてくれると言ってくれた。

 「フードコートのお代はこちらで出させてください」
 俺と亜紀ちゃんはニコニコしながら、フードコートでコーヒーフロートを飲んだ。
 店長が俺たちのテーブルに、たい焼きを10個ほど持って来た。

 「みなさんで召し上がってください」
 俺たちは笑いながら礼を言った。



 

 帰りの車の中で、モノマネ演芸会をした。
 俺が教え、亜紀ちゃんが、アグネス・チャンのモノマネを覚えた。
 俺の田中角栄のモノマネは通じなかった。
 花菱アチャコは、通じないがウケた。

 「アチャコでごじゃいましゅるー」
 「ギャハハハハハハ!」
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