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寂しい夜。

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 ガレージからルーと仲良く手を繋ぎ、時々振り回しながら家に入った。
 ハーと亜紀ちゃんが出迎えてくれる。

 「おーす! 元気でしたかぁー!」
 「おーす!」
 俺たちはハイテンションで家に入る。
 亜紀ちゃんたちがクスクス笑いながら、一緒に階段を上った。

 「ルー、ハー、一緒にお風呂に入ろうか!」
 「「うん!」」
 「あ、私も」

 「毛が生えてる子はダメです」
 「「ダメです!」」

 「えぇー」
 亜紀ちゃんは残念がったが、笑って引き下がった。

 俺はルーとハーの頭を洗ってやり、俺の背中と頭を洗わせる。
 後は双子同士で互いに背中を流す。
 三人で一緒に湯船に浸かった。

 「カァー! いい気分だぁ!」
 俺が言うと、双子も気持ちよさそうに身体を伸ばした。

 「「カァー!」」
 やはり双子と一緒にいると気持ちがいい。

 「お前らって、なんだ? きもちいー光線とか出してんのか?」
 二人が笑った。

 「お前らといると、ほんとに寛ぐって言うか、気持ちいいよなぁ」
 二人が喜ぶ。

 「タカさん、肩揉みましょーか?」
 「おう! 頼むわ」
 「タカさん、足裏マッサージしましょーか?」
 「よろしく!」
 足裏は痛いのでやめてもらった。



 三人で肩を組んで湯を味わう。

 「どうだったよ、ドライブは?」
 楽しかったからまた連れてってくれと口々に言われた。

 「そうか。でもやっぱり三人で出かけたいな。俺は今日そう思った」
 「「うん!」」」
 「お前らはやっぱり一緒がいいな。なんていうか、可愛さが二乗するよな」
 「アハハハ」
 しばらくまったりと過ごし、一緒に上がり、俺は二人の髪を乾かしてやった。
 俺のオチンチンを乾かせと言うと、「ふざけんな」と言われた。




 月曜日。
 一江から報告と今週の予定を聞く。

 「最近、山岸はちょっとは血に慣れたか?」
 「そうですね。普通のオペなら大丈夫になってきましたよ」
 山岸を呼んだ。

 「お前、今週は俺のオペに付き合え」
 「は、はい!」
 俺は来週いっぱいまた休む予定なので、オペが結構続いている。
 長時間のものは恐らくはそれほどないが、体力的には慣れないと厳しい。
 山岸の限界を知ろうと思った。

 簡単に打ち合わせる。
 あとは一江が用意したカルテとオペの手順書などの資料を読ませた。




 午後からのオペの前に、響子の様子を見に行く。
 響子はセグウェイの巡回を終え、ベッドにいた。

 「よう!」
 「タカトラー!」
 「何してたんだ?」
 「宇宙の動画を見てたの」
 俺が先日太陽の動画を見せ、興味を持ったらしい。

 「明後日には六花が帰って来るな」
 「うん!」
 響子が笑う。

 「元気な顔を見せてやろうな」
 響子が笑う。
 二人で、どういう元気を見せようかと話し合う。

 「うーん、ごはんをいっぱい食べる?」
 「それもいいけど、インパクトも欲しいな」
 「なんかスゴイもの食べるとか?」
 「お、いいな! ああ、ワニとか食べるか!」
 「そんなのあるの!」
 「よし、用意しよう」
 大体のことが決まった。





 最初のオペは肝臓ガンの摘出だった。
 五十代の男性。
 5年前に胃ガンの手術を受け、肝臓で再発。
 俺は全員に患者の病歴や現在の状況を説明する。

 手術室は鷹が作ってくれたので、何の心配もない。
 山岸は俺の脇で俺の指示通りに動く。
 俺と看護師たちから怒鳴られ叱責され、注意される。

 「肝臓には太い動脈がある。どうやってそれを避ける?」
 「はい! 慎重に切り分けながら」
 俺に尻を蹴られる。
 見てろ、と俺が手本を見せた。

 「指で押しながら血管を見分けろ。肝臓の組織とは違うから分かるはずだ」
 「はい!」
 「MRI画像は頭に入ってるか」
 「すいません!」
 「事前に全部叩き込め!」

 最初のオペで、既に山岸はヘトヘトになっている。

 「30分後に次のオペだからな」
 「はい!」

 その日は4つのオペが入っていた。
 夜の九時ごろにすべて終了する。
 なんとか山岸はついてきたが、げっそりとしていた。
 食堂のテーブルを借り、みんなで鰻を食べた。
 俺のおごりだ。

 「喰え、山岸!」
 「すいません、胃が受け付けません」
 「喰ってから吐けばいいだろう」
 みんなが笑っている。

 「お前、俺が折角とったウナギが喰えねぇってか?」
 「すいません! いただきます!」
 山岸は口に入れると、その美味さに驚く。
 食道から胃に入り、食事を欲していたことに気づく。
 次々と掻き込む。

 「なんだよ、受け付けてるじゃねぇか」
 「は、はい!」
 「俺がいつも「やれ」と言ってる意味が分かったか?」
 「はい!」
 「お前、いつかはなれるって思ってるだろう」
 「はい」

 「だからいつまでも半人前なんだ。やれ! やってからゲッソリして、またやればいいんだよ」
 「はい!」

 「しかしなぁ。お前が今日は一番なんにもやってねぇのに、なんでそんなにゲッソリしてんだよ」
 みんなが笑う。

 「すいません!」
 「俺たちは仮にも命を預かってんだ。ゲッソリしてる暇はねぇぞ?」
 「はい!」
 「まあ、それを喰ったらさっさと帰って寝ろ。オナニーはするなよ!」
 「へ?」
 「すんのかぁ!」
 「いいえ! 今日はしません!」
 「俺はするけどな!」
 「は?」

 「最近テンガって手に入ってさ。これがまたスゴイんだよ」
 みんなが爆笑した。

 「最後までついてきたら、お前に譲ってやるからな」
 「はい! ありがとうございます!」
 「お前、マジかよ?」
 みんなで笑い、いい雰囲気で終わった。




 俺は帰る前に、響子の病室へ寄った。
 響子は六花がくれたトラのぬいぐるみを抱いて寝ていた。
 今はいない大事な人。
 でも、また会える人。
 それだけで、今の寂しさを乗り越えることができる。
 寂しさが喜びを生むのだ。
 悲しくも辛くもない人生に、一体何の意味があると言うのか。




 響子、寂しい夜を行け。
 そうすれば、きっと笑うことが出来る。
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