上 下
414 / 2,859

挿話:聖、その幸せ。

しおりを挟む
 石神に呼ばれ、久しぶりの日本で死闘を終えた聖。
 しかし本人の中では、ただただ石神と共にいられた嬉しさしかなかった。
 ホノルルの空港を出てからずっと笑顔でいる。

 「やっぱトラはいい奴だなぁ! テンガってなんだよ、おい! 最高のプレゼントだぜぇ。なんで俺にこんなにしてくれんだろ?」
 バカだった。
 借りているコテージに戻る前に、町でハンバーガーを山ほど買った。
 待ちきれずに歩きながら一つを頬張った。

 「うーん、やっぱアメリカのバーガーはパンチがあるよなぁ。日本のも良かったけど、俺はやっぱこっちだぁ!」
 幸せな男だった。





 コテージに帰り、雇ったメイドに荷物を解かせる。
 二十代後半の、金髪の女性だった。
 いつでも命じられるよう、コテージに部屋を持たせた。
 そのことで、当初メイドは夜のサービスを要求されると思っていた。
 否はない。
 その分の金をもらうだけだ。
 しかし、一度も誘われたことが無かった。

 「これらはどこに仕舞いますか?」
 無表情でメイドが聖に聞いた。
 メイドが聞いてきたのは、聖の旅行カバンの中に残ったテンガとエロDVDだった。

 「あ、ベッドのヘッドに置いておけ」
 はい、と返事をしメイドは出て行った。
 ドアを閉めて、中指を立てたことを聖は知らない。

 すぐにでもテンガを使いたかったが、今日だけは我慢する。
 ゴンズに頼んで店の60歳以上の女を集めてもらっている。
 しかも、物凄く安い。
 何故だろうか、と聖は訝しんだ。
 極上の女がなぜ安い。

 売れないからだ、という思考は出来ない男だった。


 聖はメイドに生卵を10個持って来させる。
 自分のものに自信はあったが、折角の機会に精力をつけておきたい。

 「ロッキーは毎日飲んでたもんな!」
 ボウルにいれたそれを飲み込んでいく。
 10分後にボウルに吐いた。

 「あー、バーガーを喰いきる前で良かったぁ」
 ボウルに戻したものを、メイドに適当に焼けと言った。
 メイドが気持ち悪いと断る。
 胸倉を掴み、聖が聞いた。
 
 「お前、ほんとにできねぇってか?」
 メイドが涙目になって焼いてきた。
 ケチャップをかけて聖は貪り食った。
 メイドが捕まえたゴキブリを混ぜたことには気づいていない。
 三分の一は味に飽きた聖が残した。
 明らかな「足」が飛び出していた。
 聖は気づいていない。



 腹がくちて、少し眠くなった。
 まだゴンズの店の約束の時間まで数時間ある。

 「おい、4時に起こせ。てめぇ、1分でも遅れたらゴキブリ食わすぞ!」
 「はい」
 ソリャオメェだ、というメイドの呟きは、聖には聞こえなかった。

 3時58分。
 メイドが聖の部屋に行って声をかけ揺り起こした。
 
 起きない。

 顔を殴る。

 起きない。

 聖に渡されたM29(44口径マグナム拳銃)のハンマーを起こした。

 聖が飛び起き、一瞬で部屋の端に移動していた。
 手にはいつの間にかナイフを握っている。
 素っ裸だった。
 丁度4時だった。
 2分前に来て良かったと、メイドは思った。

 聖は裸のまま移動し、シャワーを浴びる。
 濡れた裸のままキッチンに来て、メイドにコーヒーを淹れろと言った。
 メイドは股間のミサイルを一瞬見たが、無表情で指示に従った。

 聖は人間としては最低の部類だ。
 しかし、金払いは非常に良い。
 二週間のメイドの金額は、二万ドルという破格だった。

 それ以上をもらおうと、何度かハニートラップを仕掛けた。
 わざと下着で聖の前に現われ、間違ったふりをして聖のいるシャワー室に裸で入った。
 聖は見向きもせず、平然と「シャワーは俺の後にしろ」と言った。

 性欲の無い男では決してない。
 メイドの前でも、オナニーを辞めようとはしなかった。
 メイドは自分の容姿やスタイルに自信があった。
 キーラ・ナイトレイに似ているとよく言われる。
 しかし、聖は一向に手を出さないばかりか、まったく興味を示さなかった。


 
 「アァッー!」
 聖が大きな声を上げた。
 
 「どうかしましたか?」
 「トラに折角DVDを一杯もらったけど、ここってデッキがねぇじゃん!」

 「?」

 「おい、俺が出掛けたらすぐにDVDデッキを買って来い!」
 聖はそう言って、1000ドル札をメイドに渡した。

 「足りるか?」
 「はい、十分かと」
 半分でもいいものが買える。

 「足りなかったから買えませんでした、じゃ許さねぇぞ! トラが俺のために厳選してくれたんだからな!」
 「トラ」が誰なのか、メイドは分からない。
 しかし、地球上に数人もしくは一人しかいない、聖の大事な人間だとは分かった。

 「はい。この金額で必ず買ってきます」
 「おう!」

 おつりはもらっておこう。
 渡された金の釣りを要求されたことはなかった。
 覚えていないのだということに、すぐに気づいた。

 「じゃあ、出掛けるからな! DVDは忘れんなよ!」
 「はい、行ってらっしゃいませ」





 「よう、ゴンズ!」
 「ヒジリー! 待ってたよー!」
 二人は抱き合い、笑い合った。

 「今日はちゃんと揃えてあるよ!」
 「ウォーーーーー! お前の店は最高だぁー!」
 ゴンズはニコニコとしながら、普段誰も買わない連中に高い金を払う聖を歓迎した。

 「みんな、どの穴も使えるからな! 6人かける3だね!」
 「ん? 何言ってんのかわかんない」
 「あ、どうもね! どうでもいいことね! ヒジリー、楽しんでね!」
 小学生の算数もできねぇのか、とゴンズは呆れた。

 「おう!」
 下は60歳から上は83歳の女たち。
 聖は大興奮で彼女らを舐めまわすように見る。
 次の瞬間、どうやられたか分からないまま、6人もの女たちは同時にベッドに全員後ろ向きにさせられた。
 驚いている間に、すべての服を丁寧に脱がされていった。
 

 3時間後、聖は大満足でゴンズに料金を支払い、ついでに高額のチップまで女たちに配っていた。

 「またね、ヒジリー! いつでも集めるからねー!」
 「うん!」
 子どものような無邪気な笑顔で聖は笑い、店を出た。
 ゴンズが部屋の様子を見に行くと、女たちは全員、満足そうな顔をして気を喪っていた。
 大量の男女の体液の匂いが充満している。
 
 「バケモノかよ……」





 コテージではメイドがまだ起きていて、聖を迎えた。
  
 「おかえりなさいませ」
 「うん、遅くなったね」
 「エッ?」
 そんな言葉をかけられたことはない。
 見たことが無い上機嫌だ。

 「あの、ご主人様。楽しそうですね?」
 「ああ、ハッスルしたからなぁ」
 さわやかな笑顔だった。

 「さようでございますか」
 「最近はトラに呼んでもらえるし、ゴンズはいい奴だし。俺は幸せ者だぁ。これまで真面目に生きてきて良かったよ」

 「はぁ」
 すぐ死ねよ、とメイドは思った。

 「おい、お前俺に興味ありそうだったな」
 「はい?」
 「今日は気分がいい。テンガ代わりに使ってやってもいいぞ」
 「はい?」

 メイドはその晩一万ドルを聖にもらった。
 バカンスが終わるまでは生きてていいぞ、と思った。 
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……思わぬ方向へ進んでしまうこととなってしまったようです。

四季
恋愛
継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

処理中です...