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襲撃者の夜 Ⅳ

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 昔はたくさんいたホームレスも、条例のためにいまはほとんどいない。
 中央公園は静まり返っている。
 病院から追跡されているのは分かっている。
 俺は幾つかの監視カメラを「轟雷」で破壊しながら移動した。
 タクシーで来た聖には、既に装備を渡している。

 俺と六花は、今、木陰にいる。



 圧が高まった。
 60名。
 全員が武装している。
 10人は日本刀だ。

 じじぃ、勘定が合わねぇぞ。



 俺は走って来る集団に「虚震花」を放った。
 前方の数人が手を前に出す。
 何事も起こらない。

 「闇月花」だ。
 「花岡」はちゃんと返しの技を編み出していた。

 俺は放ちながら、左手でブリガディアを撃つ。
 数人の頭が吹っ飛んだ。
 乱戦になった。
 
 主に「螺旋花」を使っての攻防だ。
 それに銃と刃物が加わっている。

 一際大きな銃声がする。
 最も外縁にいた人間の胴体が千切れた。
 聖のバレットM82だ。
 
 数人が六花に向かう。
 六花は「金剛」と「仁王花」を使い、素早いスピードで動きながら撃破して行く。
 俺は一瞬視線を向け、任せて大丈夫だと判断した。
 俺の周囲では、次々に肉体がひしゃげ、手足や頭が粉砕されていく。

 徐々に、指示を出していた蓮華に近づいていく。

 おかっぱ頭に着物を着ている。
 薄気味の悪い目だ。
 ずっと俺を見ている。



 残りが10人ほどになった時、蓮華の両脇にいた三人の男が向かって来た。
 聖が左端の男を撃った。
 顔の前で銃弾を掴んだ。
 俺は一瞬驚く。
 対物ライフルの巨大な弾を止めたのだ。

 しかし、その銃弾が破裂した。
 男の顔に破片が突き刺さる。
 聖がさく裂弾を使ったのだ。
 相変わらず戦闘のセンスがいい。

 俺が「虚震花」を放ち、男は消失した。
 他の二人が同時に攻撃してくる。
 速い。
 
 電光が迸って、男の一人に当たって吹っ飛んだ。
 高速で近づいて来る。
 亜紀ちゃんだった。
 亜紀ちゃんはそのまま駆け抜け、吹っ飛ばした男に「螺旋花」を打ち込んだ。
 男の身体は霧散し、地面に大きな穴が空いた。

 その間、俺ももう一人の下半身を吹き飛ばし、残った上半身を蓮華に向かって蹴り飛ばした。
 六花が後ろの連中を撃破し、横に立った。

 「石神ぃ」

 恐ろしく低い声で蓮華が言った。

 「業様が仇を討ってくださる」
 
 亜紀ちゃんと六花が俺の前に立った。
 俺は二人を下がらせる。

 「それで、結局お前は何しに来たんだ」

 蓮華がニタリと笑った。

 「業様に、お前たちの力をお教えするためだ」
 「なんだと?」
 「戦闘状況、お前たちの準備や戦略、すべて業様に渡る」
 「電子機器は破壊したはずだけどな」

 「アハハハ!」

 蓮華は甲高く笑った。
 先ほどまでの男のような声とは違った。

 「蓮華、お前と業の関係はなんだ?」
 「私は業様の女。すべてを捧げる女」
 「残念だな! 業は栞に懸想してるぞ?」
 揺さ振りをかけた。

 「業様はすべてを手に入れる。それだけのことだ」
 蓮華が右手に何か握っているのが見えた。
 俺は亜紀ちゃんと六花を抱えて「飛んだ」。

 中央公園の北エリアが半壊した。
 蓮華のいた場所を中心に、地面が大きく抉れている。
 周辺に転がっていた遺体も、跡形もなく燃え尽き粉砕されていた。

 俺たちはナイアガラの滝にいたはずの聖を見に行った。
 聖は裏側で寝転がっていた。
 爆発の瞬間に飛び降りたのだろう。
 勘のいい奴だった。

 「トラぁー! これは何なんだよ」
 「だから最初に説明しただろう」
 「あ? 全然覚えてねぇ」
 「このバカ!」
 「お前の説明が悪い」

 「お前! チャップのブリーフィングだってまともに覚えてたことはねぇだろう!」
 「あの時は俺は英語がダメだったんだ!」
 「俺が毎回日本語で通訳してやったじゃねぇか!」
 「お前の説明が悪い!」

 「やんのかゴラァ!」
 「上等だ!」

 俺たちは殴り合った。
 亜紀ちゃんと六花が呆れた顔で見ていた。

 「元気ですね」
 「そうですね」




 俺たちはハマーに乗って、俺の家に向かった。
 途中の青梅街道沿いのマ〇クで、ハンバーガーを大量に買う。

 「おい、ネエチャンたちよ! 日本のバーガーは美味ぇんだぜ!」
 聖がニコニコして言う。

 「二人とももっといいもん食ってるよ!」
 「何言ってんだよ。ハンバーガーは最高だろ?」
 「「「……」」」

 「あぁ!」
 「どうした!」
 聖の声に、残党の攻撃を警戒する。
 俺は何も感じていなかった。

 「トラ! お前コーラ買ってねぇよ!」
 「あんだと?」
 「戻れ! さっきも何か足りねぇと思ったんだ」

 「バカ!」

 「おい、頼むよ! コーラがねぇとバーガーが泣くぜ」
 俺は自販機の前で止まり、亜紀ちゃんにコーラを買ってこさせる。

 「これでいいか?」
 「あーあ。俺はマ〇クのカップのコーラを飲みたかったんだけどな」
 「日本のマ〇クは、缶のコーラが合うんだよ」
 「ほんとか! トラ、お前やっぱ頭いいな!」
 亜紀ちゃんと六花が笑っていた。

 俺は聖のために、また途中の本屋に寄る。
 コミックと一緒に、エロ本、大人のおもちゃが置いてある。
 24時間営業の、偉い店だ。
 俺は六花に「テンガ」を買ってくるように言った。

 しばらくして、六花が戻って来る。
 なんか一杯買って来た。

 「おい、一個で良かったんだぞ?」
 「はい、ついでに石神先生のも」
 「……」

 人選を失敗した。
 しかし、亜紀ちゃんに行かせるわけにもいかなかった。




 家には栞が来ていた。
 だから亜紀ちゃんが来てくれたのだろう。
 皇紀と一緒に出迎えてくれる。

 「新宿は大騒ぎよ」
 栞が言った。

 「歌舞伎町で暴動とテロ騒ぎ。その後で中央公園での大爆発。中央公園では交番の警官が惨殺されてたって」
 歌舞伎町の方は分からない。
 蓮華の別動隊だろうが。

 「テロ騒ぎは、中央公園の爆発の後で片付いたわ」
 「どうなった?」
 「自決したようよ。誰かの名前を叫んでいたみたいだけど、まだ報道はないわ」
 皇紀が録画しているとのことで、俺は一旦保留にした。


 「栞、六花、一緒に風呂に入ろう」
 「「はい!」」
 「あたしもいいですか?」
 亜紀ちゃんが言うので、俺は笑って手を引いた。

 「おい、お前だけお楽しみか! いいなぁ!」
 俺はテンガを聖に渡した。
 客用の寝室に連れて行き、使い方を説明する。
 単純なものなので、聖でも流石に理解した。
 DVDも何枚か渡す。

 俺たちが風呂に入っていると、聖が風呂場の前に来て大声で叫んでいた。

 「おい、トラ! これスッゲェなー!」
 「分かったから行け!」




 俺たちは笑った。
 亜紀ちゃんだけは、よく分かっていなかった。
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