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再び、御堂家 Ⅴ
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御堂家にいる間、子どもたちには勉強時間は自由にするように言ってある。
今日のようにどこかへ連れて行って下さることもあるだろうし、俺が用事を言いつけることもあるからだ。
特に掃除や食事の用意は率先してやるように、また自分たちで「仕事」を見つけるように厳命している。
掃除に関しては、俺や便利屋に叩き込まれ、また料理も俺から教わっている。
無いだろうが、皇紀の技術が必要になるかもしれない。
皇紀は塾から戻った正利に頼んで、家の案内をしてもらった。
各所の何かできることがないかの、確認のためだ。
亜紀ちゃんは柳と庭を回っている。
俺は双子を連れ、正巳さんの部屋に伺った。
「いらっしゃい。昼間は楽しかったね」
正巳さんが言って下さる。
菊子さんが双子のためにジュースと菓子を出してくれた。
双子が丁寧に礼を言う。
その辺は仕込んである。
「あー! タカさんの字だぁ!」
「ろっこんしょうじょう!」
二人が正巳さんの後ろの掛け軸を見つけた。
「よく知っているね」
正巳さんが微笑んだ。
「タカさんのバイクの服の背中に書いてあるんです」
ルーが説明する。
俺は苦笑して、十代の頃の暴走族の話をした。
その時に使っていた特攻服に使っていた背文字を、今のライダースーツにも刺繍したのだと説明する。
「俺は子どもの頃からバカで、お袋に苦労をかけてました。せめてちょっとはまともになるように、自分で戒めるために」
「でもタカさんは喧嘩ばっかりだよね!」
「黙れ、ハー!」
正巳さんが大笑いした。
菊子さんも笑っている。
「白隠ですか?」
堂々とした字。
「六」が最も大きく、「清浄」が寸詰まりのように小さくなっているのは、いかにも白隠らしい。
「そうだよ、石神さんも白隠は好きか」
「はい」
俺は双子に、臨済宗の江戸時代の中興の祖であることを説明する。
「白隠の書は結構数が残っている。でもみんな線香の煙で汚れているんだ」
「どーして?」
「仏壇が買えない人のために、どんどん書いて渡したからだ。「これに手を合わせて拝め」ってな。そういうものがほとんどだから、毎日線香が焚かれて、その煙で汚れてるんだよ」
「へぇー」
「石神さんは旧いものがお好きなんだよね。じゃあ、蔵でも見せようか」
「ほんとですか!」
「「ワーイ!」」
「おい、お前らはダメだ」
「「エェー!」」
「万一お前らが何か壊したって、弁償できねぇ」
「そんなことしないよー!」
「お前らぁ! 俺のリャドとジャコメッティとフェラーリを忘れたのかぁ!」
「「エヘヘ」」
俺は正巳さんたちにそれぞれの破壊の経緯を話した。
お二人とも、爆笑された。
「帰ったら門で土下座してまして。なんだと思ってガレージに案内されたら、ハンドルが見えないんですよ」
「アハハハ」
「それで近くに行ったら、前の内装が全部無い。エンジンが丸見えなんです」
「アハハハ」
「何でやったか、全部ぶっ壊して。俺は謝った上で買い取りですよ。まあ、安くはしてもらいましたがフェラーリですからねぇ。泣きました」
お二人が爆笑した。
双子も笑っている。
「お前らは笑うなー!」
大爆笑された。
「あ、そうだ。何かお困りのことはありませんかー?」
ルーが正巳さんに聞いた。
「いや、楽しすぎて困ってる」
みんなで笑った。
俺は何か子どもたちにできることがあれば、言って下さいと言い辞した。
正座で足が痺れた双子を、俺は両手にぶら下げた。
後ろでまた笑い声が聞こえた。
俺たちは広い庭で遊んだ。
周囲に人がいないことを確認して、双子に「高い高い」をしてやる。
着地のたびに、俺が点数をつけてやり楽しんだ。
「ルー! 8点!」
月面宙返りのような見事な着地を見せた。
ハーが燃えた。
俺は30メートルの高さへ投げ上げる。
「ヒィッ!」
家の廊下で、洗濯物を抱えた澪さんが見ていた。
硬直している。
ハーは「伸身ブレットシュナイダー」を決めて着地する。
「ねータカさん、今の得点は!」
「悪い、よく見てなかったわ」
「エェッー!」
ハーの頭を叩き、俺たちは三人で肩を組んで澪さんに笑った。
夕方になり、子どもたちに夕食の準備を手伝うように言った。
御堂にも断り、どんどんやらせてもらう。
俺は縁側で寛いでいたが、柳が来たので一緒に準備を見に行った。
亜紀ちゃんは澪さんや手伝いの料理の方々と一緒に、ひたすら食材を切っている。
うちの子らのために、尋常ではない量だ。
亜紀ちゃんは「大食い女王」、双子は「ピラニア姉妹」のエプロンだ。
串を打とうとされていたが、俺がうちの方式を告げ、そのまま焼くようにお願いした。
串は100本ほどあったが、恐らく足りない。
「それと、大変お恥ずかしいんですが」
「なんですか?」
「子どもたちが熱中すると、串を武器に使います」
「……」
澪さんが無言になった。
俺が合図し、子どもたちが笑った。
俺もニッコリする。
俺は食材を見渡してから澪さんに断り、ルーとハーにスープを作らせる。
亜紀ちゃんに味の監修を頼む。
「皇紀、お前は庭を掃除しろ!」
「はい!」
テキパキと動く子どもたちに、澪さんたちが感心する。
「石神さんのお子さんたちは、みんな礼儀正しいですよね」
「澪さん、夕べの大食いを見て、それ言いますか?」
澪さんが大笑いした。
俺は柳と一緒に、皇紀を見に行った。
小石を全部拾い、片隅に集めていた。
よくやったと褒める。
俺は掃除用具の中にレーキを見つけ、皇紀が掃除した地面に砂紋を作る。
まあ、どうせうちの子らが踏み潰すのだろうが。
波模様の中に、大きなハートを描く。
「うわー!」
柳が喜ぶ。
澪さんたちが、食材を運び始めた。
手伝いの人たちが台の設置を始めたので、皇紀が手伝う。
御堂家のみなさんが集まった。
庭の砂紋に喜んでくれた。
「悪い、勝手にヘンなもの描いた」
御堂に言うと、全然構わないと言われた。
「柳、あのハートはお前のために描いた」
「ほんとにぃ!」
「おい、お前ら! ハートを踏みつぶせ!」
「やめてぇー!」
みんなが笑った。
澪さんに頼んで、自由に焼けるようにトンや菜箸を用意してもらった。
俺は御堂家の方々の焼きに専念する。
澪さんが恐縮したが、子どもたちの制御のために、と許してもらった。
子どもたちは好きなものを好きなように焼けるので、喧嘩はそれほど無かった。
俺は焼き加減をいちいち指摘する。
もういいだの、まだだだのと言っている俺は、澪さんから「いいお父さんね」と言われ照れた。
「おい柳。何が喰いたい?」
「じゃあ、そっちのお肉とパプリカ!」
「なるほどな。自分で焼けよ」
「えぇー!」
御堂が笑った。
「聞いただけだろう!」
「焼いてよー!」
「石神、あんまり柳をいじめないでくれ」
「御堂が言うならしょがねぇ」
「もーう!」
俺が買ったホタテやホイル焼きにしたタラなどを正巳さんたちのテーブルに持っていく。
「石神さんが来ると、本当に楽しいなぁ」
「そうですよねぇ」
「いえ、こちらこそ。こんな凄いバーベキューまで用意して下さって」
正巳さんたちがうちの子どもらを見ている。
「お子さんたちがホイル焼きを始めたね」
「ああ、そうですね」
「石神さんの真似をしたがってるんだな」
「バカですからねぇ」
俺は正巳さんにビールを注いだ。
「正嗣もそうだが、柳も正利もカワイイが、どうも枠に嵌めすぎたかな」
「そんなことないですよ。俺は御堂のような人間になりたかったです」
「そう言ってくれるか」
「柳も正利も本当にいい。御堂家の良さがちゃんと入ってますよ」
「そうか」
子どもたちが喜んで喰いまくっている。
やっぱりあいつらは、あれがいいと思う。
「柳は大学に受かったら石神さんの家に住むんだと言ってました」
菊子さんが言う。
「ああ、柳に先日、御堂家のまともさを、子どもたちに教えて欲しいって頼みました」
菊子さんが笑った。
「もしそうなったら、柳は幸せでしょうねぇ」
「出来るだけのことはしますが、まあ逞しくはなるでしょうね」
お二人が笑った。
柳が自分で焼いているようだ。
亜紀ちゃんに、まだ生だと怒られている。
柳が皿を持ってやってきた。
「石神さん、折角のハートがもう滅茶滅茶です」
「そうだな。しょうがないだろう」
「また作ってくださいよ」
「やだよ、めんどくせぇ」
「えー」
「写真でも撮っときゃ良かったじゃねぇか」
「あー! そういうのは先に言って下さいよー!」
柳が怒った。
みんなで笑った。
今日のようにどこかへ連れて行って下さることもあるだろうし、俺が用事を言いつけることもあるからだ。
特に掃除や食事の用意は率先してやるように、また自分たちで「仕事」を見つけるように厳命している。
掃除に関しては、俺や便利屋に叩き込まれ、また料理も俺から教わっている。
無いだろうが、皇紀の技術が必要になるかもしれない。
皇紀は塾から戻った正利に頼んで、家の案内をしてもらった。
各所の何かできることがないかの、確認のためだ。
亜紀ちゃんは柳と庭を回っている。
俺は双子を連れ、正巳さんの部屋に伺った。
「いらっしゃい。昼間は楽しかったね」
正巳さんが言って下さる。
菊子さんが双子のためにジュースと菓子を出してくれた。
双子が丁寧に礼を言う。
その辺は仕込んである。
「あー! タカさんの字だぁ!」
「ろっこんしょうじょう!」
二人が正巳さんの後ろの掛け軸を見つけた。
「よく知っているね」
正巳さんが微笑んだ。
「タカさんのバイクの服の背中に書いてあるんです」
ルーが説明する。
俺は苦笑して、十代の頃の暴走族の話をした。
その時に使っていた特攻服に使っていた背文字を、今のライダースーツにも刺繍したのだと説明する。
「俺は子どもの頃からバカで、お袋に苦労をかけてました。せめてちょっとはまともになるように、自分で戒めるために」
「でもタカさんは喧嘩ばっかりだよね!」
「黙れ、ハー!」
正巳さんが大笑いした。
菊子さんも笑っている。
「白隠ですか?」
堂々とした字。
「六」が最も大きく、「清浄」が寸詰まりのように小さくなっているのは、いかにも白隠らしい。
「そうだよ、石神さんも白隠は好きか」
「はい」
俺は双子に、臨済宗の江戸時代の中興の祖であることを説明する。
「白隠の書は結構数が残っている。でもみんな線香の煙で汚れているんだ」
「どーして?」
「仏壇が買えない人のために、どんどん書いて渡したからだ。「これに手を合わせて拝め」ってな。そういうものがほとんどだから、毎日線香が焚かれて、その煙で汚れてるんだよ」
「へぇー」
「石神さんは旧いものがお好きなんだよね。じゃあ、蔵でも見せようか」
「ほんとですか!」
「「ワーイ!」」
「おい、お前らはダメだ」
「「エェー!」」
「万一お前らが何か壊したって、弁償できねぇ」
「そんなことしないよー!」
「お前らぁ! 俺のリャドとジャコメッティとフェラーリを忘れたのかぁ!」
「「エヘヘ」」
俺は正巳さんたちにそれぞれの破壊の経緯を話した。
お二人とも、爆笑された。
「帰ったら門で土下座してまして。なんだと思ってガレージに案内されたら、ハンドルが見えないんですよ」
「アハハハ」
「それで近くに行ったら、前の内装が全部無い。エンジンが丸見えなんです」
「アハハハ」
「何でやったか、全部ぶっ壊して。俺は謝った上で買い取りですよ。まあ、安くはしてもらいましたがフェラーリですからねぇ。泣きました」
お二人が爆笑した。
双子も笑っている。
「お前らは笑うなー!」
大爆笑された。
「あ、そうだ。何かお困りのことはありませんかー?」
ルーが正巳さんに聞いた。
「いや、楽しすぎて困ってる」
みんなで笑った。
俺は何か子どもたちにできることがあれば、言って下さいと言い辞した。
正座で足が痺れた双子を、俺は両手にぶら下げた。
後ろでまた笑い声が聞こえた。
俺たちは広い庭で遊んだ。
周囲に人がいないことを確認して、双子に「高い高い」をしてやる。
着地のたびに、俺が点数をつけてやり楽しんだ。
「ルー! 8点!」
月面宙返りのような見事な着地を見せた。
ハーが燃えた。
俺は30メートルの高さへ投げ上げる。
「ヒィッ!」
家の廊下で、洗濯物を抱えた澪さんが見ていた。
硬直している。
ハーは「伸身ブレットシュナイダー」を決めて着地する。
「ねータカさん、今の得点は!」
「悪い、よく見てなかったわ」
「エェッー!」
ハーの頭を叩き、俺たちは三人で肩を組んで澪さんに笑った。
夕方になり、子どもたちに夕食の準備を手伝うように言った。
御堂にも断り、どんどんやらせてもらう。
俺は縁側で寛いでいたが、柳が来たので一緒に準備を見に行った。
亜紀ちゃんは澪さんや手伝いの料理の方々と一緒に、ひたすら食材を切っている。
うちの子らのために、尋常ではない量だ。
亜紀ちゃんは「大食い女王」、双子は「ピラニア姉妹」のエプロンだ。
串を打とうとされていたが、俺がうちの方式を告げ、そのまま焼くようにお願いした。
串は100本ほどあったが、恐らく足りない。
「それと、大変お恥ずかしいんですが」
「なんですか?」
「子どもたちが熱中すると、串を武器に使います」
「……」
澪さんが無言になった。
俺が合図し、子どもたちが笑った。
俺もニッコリする。
俺は食材を見渡してから澪さんに断り、ルーとハーにスープを作らせる。
亜紀ちゃんに味の監修を頼む。
「皇紀、お前は庭を掃除しろ!」
「はい!」
テキパキと動く子どもたちに、澪さんたちが感心する。
「石神さんのお子さんたちは、みんな礼儀正しいですよね」
「澪さん、夕べの大食いを見て、それ言いますか?」
澪さんが大笑いした。
俺は柳と一緒に、皇紀を見に行った。
小石を全部拾い、片隅に集めていた。
よくやったと褒める。
俺は掃除用具の中にレーキを見つけ、皇紀が掃除した地面に砂紋を作る。
まあ、どうせうちの子らが踏み潰すのだろうが。
波模様の中に、大きなハートを描く。
「うわー!」
柳が喜ぶ。
澪さんたちが、食材を運び始めた。
手伝いの人たちが台の設置を始めたので、皇紀が手伝う。
御堂家のみなさんが集まった。
庭の砂紋に喜んでくれた。
「悪い、勝手にヘンなもの描いた」
御堂に言うと、全然構わないと言われた。
「柳、あのハートはお前のために描いた」
「ほんとにぃ!」
「おい、お前ら! ハートを踏みつぶせ!」
「やめてぇー!」
みんなが笑った。
澪さんに頼んで、自由に焼けるようにトンや菜箸を用意してもらった。
俺は御堂家の方々の焼きに専念する。
澪さんが恐縮したが、子どもたちの制御のために、と許してもらった。
子どもたちは好きなものを好きなように焼けるので、喧嘩はそれほど無かった。
俺は焼き加減をいちいち指摘する。
もういいだの、まだだだのと言っている俺は、澪さんから「いいお父さんね」と言われ照れた。
「おい柳。何が喰いたい?」
「じゃあ、そっちのお肉とパプリカ!」
「なるほどな。自分で焼けよ」
「えぇー!」
御堂が笑った。
「聞いただけだろう!」
「焼いてよー!」
「石神、あんまり柳をいじめないでくれ」
「御堂が言うならしょがねぇ」
「もーう!」
俺が買ったホタテやホイル焼きにしたタラなどを正巳さんたちのテーブルに持っていく。
「石神さんが来ると、本当に楽しいなぁ」
「そうですよねぇ」
「いえ、こちらこそ。こんな凄いバーベキューまで用意して下さって」
正巳さんたちがうちの子どもらを見ている。
「お子さんたちがホイル焼きを始めたね」
「ああ、そうですね」
「石神さんの真似をしたがってるんだな」
「バカですからねぇ」
俺は正巳さんにビールを注いだ。
「正嗣もそうだが、柳も正利もカワイイが、どうも枠に嵌めすぎたかな」
「そんなことないですよ。俺は御堂のような人間になりたかったです」
「そう言ってくれるか」
「柳も正利も本当にいい。御堂家の良さがちゃんと入ってますよ」
「そうか」
子どもたちが喜んで喰いまくっている。
やっぱりあいつらは、あれがいいと思う。
「柳は大学に受かったら石神さんの家に住むんだと言ってました」
菊子さんが言う。
「ああ、柳に先日、御堂家のまともさを、子どもたちに教えて欲しいって頼みました」
菊子さんが笑った。
「もしそうなったら、柳は幸せでしょうねぇ」
「出来るだけのことはしますが、まあ逞しくはなるでしょうね」
お二人が笑った。
柳が自分で焼いているようだ。
亜紀ちゃんに、まだ生だと怒られている。
柳が皿を持ってやってきた。
「石神さん、折角のハートがもう滅茶滅茶です」
「そうだな。しょうがないだろう」
「また作ってくださいよ」
「やだよ、めんどくせぇ」
「えー」
「写真でも撮っときゃ良かったじゃねぇか」
「あー! そういうのは先に言って下さいよー!」
柳が怒った。
みんなで笑った。
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