355 / 2,859
ずっと君のオッパイを。
しおりを挟む
木曜日。
6時間のオペをこなした。
いつもながら、鷹に助けられ、スムーズに術式は終わる。
午前10時から始め、今は夕方の4時だ。
まだ空は明るい。
俺たちは十人のスタッフと共に、大分遅めの昼食を摂った。
病院内の食堂では、事前に頼んでいた太刀魚のかば焼き丼が用意された。
「美味しいですね、これ!」
「太刀魚のかば焼きなんて、初めて食べましたよ!」
みんなが喜んでくれる。
「いいだろう? ウナギと違ってしつこくなくて、別の旨味があるんだ」
「これは石神先生が用意して下さったんですか?」
「ああ、材料と一部の調理法はな。でも実際にワガママを聞いて作ってくれたのは、岩波さんたちだ」
全員が厨房の岩波さんたちに一斉にお礼を言う。
「石神先生は、よくこうやってオペを手伝った人間に食事を振る舞われますよね」
鷹が言った。
「ああ。やっぱり世話になったら礼をしたいよな」
「そんな先生、他にいませんよ」
「俺はしたいんだよ」
石神先生、サイコー! と誰かが言った。
俺は笑って手を振った。
俺は先に喰い終わり、食器を下げながら岩波さんたちに礼を言った。
「おい! まだご飯はたくさんあるし、かば焼きも残ってるからな! 腹いっぱい食べてくれ!」
『ごちそうさまです!』
俺はコーヒーを飲みに外へ出た。
食堂のものではなく、本格的なコーヒーが飲みたかった。
近所に美味い店がある。
外壁に蔦のからまった、喫茶店に入る。
俺がマスターと世間話をしていると、鷹が入ってきた。
「やっぱりここだったんですね」
「なんだ、お前も来たのか」
鷹はブレンドを頼み、俺と同じテーブルについた。
「今週もうちにいらっしゃいますか?」
毎週のように、鷹のマンションに泊まっていた。
「いや、随分とお邪魔しちゃったからな。今週からはいつも通り家にいるよ」
「そうですか。私は来て欲しいので、残念です」
「また行くよ。毎週じゃないけど、絶対にな。当たり前だろう」
鷹が嬉しそうに笑った。
「あーあ、また独りで食べるのかー」
「なんだよ、いつも通りのことじゃないか」
「でも先生、自分のために食事を作るのって虚しくありませんか?」
「辰巳芳子さんが言ってたよ。それが料理の真理だってな」
「どういうことですか?」
「命を養うことが食事の根本だってさ。家族を喪い一人残った時に、それを悟られたそうだ。やはり偉大な方だよなぁ」
「辰巳先生って、実家にも来ていただくんですけど、みんな怖がってますよ」
「ああ、あの方の指導は厳しいからな。前に一度厨房の器具なんかを見せていただいたけど、素晴らしい管理よな。あれは道具屋もできるよ」
「石神先生だって、飼育員としてやってけるんですよね」
鷹は前に話したことを言った。
「そして私はエサ係。そうなったら幸せですよねー」
二人で笑った。
挽き立てのコーヒーの良い香りがした。
「折角石神先生の胃袋を掴もうと思ってたのに」
「フリッツ・フォン・エリックかよ」
「? でも先生はご自分でも美味しいものを作れるし、私なんかよりも美味しいものを一杯知ってますよね」
「そうでもないけどな。俺は鷹の料理は大好きだよ」
「ウフフフ」
「ああ、じゃあうちへ泊りに来いよ。今度は俺がご馳走しよう。洋食というか、肉だけどな」
「いいんですか!」
「もちろんだ。散々世話になったんだからなぁ」
マスターがコーヒーを持って来た。
「お砂糖はいりませんかね?」
三人で笑った。
亜紀ちゃんに、土曜日に鷹が来ることを伝えた。
「分かりました。でも、今週は栞さんも来るんじゃないですかねー」
「あ、うん。別にいいじゃないか?」
「でも、あの二人って結構競り合うというか」
「ああ。大丈夫だよ。栞だって、こないだの一件でいい加減嫉妬は抑えるだろうよ」
亜紀ちゃんは不安そうだったが、何も言わなかった。
「じゃあ、金曜日の夜は「映画鑑賞会」再開ですかね!」
「そうだな!」
「何か、楽しいことづくめですね!」
「そうだな!」
「じゃあ、今日は一緒にお風呂に入りましょうね!」
「ダメだな!」
「えぇー!」
亜紀ちゃんは文句を言う。
「ノリで一緒に入るか!」
「いいじゃないですか! オッパイ触っていいですよ!」
「それがダメなんだぁ!」
「こないだは、私が嫌がるほど触ったのに」
「おい、それを他の人の前で言うなよ?」
「どーでしょーねー」
「栞には絶対にな!」
「ああ」
「もう、こないだみたいなことは絶対に御免だ」
「まあ」
「またアヴェンタドールと別れたら、俺は立ち直れん」
「どーしよーかなー」
「頼む、何でもするから」
「それじゃぁ!」
結局一緒に入った。
まあ、間違いは起こらないが。
亜紀ちゃんは俺の背中と髪を洗った。
俺も亜紀ちゃんの髪を洗ってやる。
うちは美容室に卸している「ミルボン」のシャンプーとトリートメントを使っている。
前に株主優待で送ってもらったものを気に入ったのだ。
特別なルートで仕入れていた。
「タカさんに髪を洗ってもらうの、好きです」
「そうかよ」
亜紀ちゃんは身体を隠さない。
まあ、欲情するわけでもないからいいのだが。
洗い終わり、二人で湯船に浸かった。
「タカさんって、オッパイお好きですよね」
「男はみんなそういうもんだろう」
「女だから分かりません」
「そりゃそうか」
「また温泉に行きましょうよ!」
「そうだなぁ」
「こないだのホテルは素敵でしたねぇ」
「ああ」
「あれ、なんか乗って来ないですね?」
「やっぱり娘と裸で一緒に入るのはなぁ」
「タカさんって、常識破りが売りじゃないですか」
「お前! バカなことを言うな」
「何人もの女性と付き合って」
「おい!」
「普通は修羅場になるのに全然平気で」
「……」
「えーと、私でしょ? それに栞さん、六花さん、響子ちゃん、鷹さん、緑子さん、ああ柳さんもこれから」
「あのなぁ」
「お休み、ないですね」
「いつの間に!」
「それでどのオッパイが好きですか?」
「断然、亜紀ちゃんだな!」
「エヘヘヘ」
「ほら、いいですよ!」
俺は笑って相手にしない。
どぶろっくの『僕なりのプロポーズ』を歌った。
♪僕は君のオッパイを 一生君のオッパイを ずっとずっと揉み続けていたいんだー♪
亜紀ちゃんは大笑いした。
奈津江も笑って見ているような気がした。
6時間のオペをこなした。
いつもながら、鷹に助けられ、スムーズに術式は終わる。
午前10時から始め、今は夕方の4時だ。
まだ空は明るい。
俺たちは十人のスタッフと共に、大分遅めの昼食を摂った。
病院内の食堂では、事前に頼んでいた太刀魚のかば焼き丼が用意された。
「美味しいですね、これ!」
「太刀魚のかば焼きなんて、初めて食べましたよ!」
みんなが喜んでくれる。
「いいだろう? ウナギと違ってしつこくなくて、別の旨味があるんだ」
「これは石神先生が用意して下さったんですか?」
「ああ、材料と一部の調理法はな。でも実際にワガママを聞いて作ってくれたのは、岩波さんたちだ」
全員が厨房の岩波さんたちに一斉にお礼を言う。
「石神先生は、よくこうやってオペを手伝った人間に食事を振る舞われますよね」
鷹が言った。
「ああ。やっぱり世話になったら礼をしたいよな」
「そんな先生、他にいませんよ」
「俺はしたいんだよ」
石神先生、サイコー! と誰かが言った。
俺は笑って手を振った。
俺は先に喰い終わり、食器を下げながら岩波さんたちに礼を言った。
「おい! まだご飯はたくさんあるし、かば焼きも残ってるからな! 腹いっぱい食べてくれ!」
『ごちそうさまです!』
俺はコーヒーを飲みに外へ出た。
食堂のものではなく、本格的なコーヒーが飲みたかった。
近所に美味い店がある。
外壁に蔦のからまった、喫茶店に入る。
俺がマスターと世間話をしていると、鷹が入ってきた。
「やっぱりここだったんですね」
「なんだ、お前も来たのか」
鷹はブレンドを頼み、俺と同じテーブルについた。
「今週もうちにいらっしゃいますか?」
毎週のように、鷹のマンションに泊まっていた。
「いや、随分とお邪魔しちゃったからな。今週からはいつも通り家にいるよ」
「そうですか。私は来て欲しいので、残念です」
「また行くよ。毎週じゃないけど、絶対にな。当たり前だろう」
鷹が嬉しそうに笑った。
「あーあ、また独りで食べるのかー」
「なんだよ、いつも通りのことじゃないか」
「でも先生、自分のために食事を作るのって虚しくありませんか?」
「辰巳芳子さんが言ってたよ。それが料理の真理だってな」
「どういうことですか?」
「命を養うことが食事の根本だってさ。家族を喪い一人残った時に、それを悟られたそうだ。やはり偉大な方だよなぁ」
「辰巳先生って、実家にも来ていただくんですけど、みんな怖がってますよ」
「ああ、あの方の指導は厳しいからな。前に一度厨房の器具なんかを見せていただいたけど、素晴らしい管理よな。あれは道具屋もできるよ」
「石神先生だって、飼育員としてやってけるんですよね」
鷹は前に話したことを言った。
「そして私はエサ係。そうなったら幸せですよねー」
二人で笑った。
挽き立てのコーヒーの良い香りがした。
「折角石神先生の胃袋を掴もうと思ってたのに」
「フリッツ・フォン・エリックかよ」
「? でも先生はご自分でも美味しいものを作れるし、私なんかよりも美味しいものを一杯知ってますよね」
「そうでもないけどな。俺は鷹の料理は大好きだよ」
「ウフフフ」
「ああ、じゃあうちへ泊りに来いよ。今度は俺がご馳走しよう。洋食というか、肉だけどな」
「いいんですか!」
「もちろんだ。散々世話になったんだからなぁ」
マスターがコーヒーを持って来た。
「お砂糖はいりませんかね?」
三人で笑った。
亜紀ちゃんに、土曜日に鷹が来ることを伝えた。
「分かりました。でも、今週は栞さんも来るんじゃないですかねー」
「あ、うん。別にいいじゃないか?」
「でも、あの二人って結構競り合うというか」
「ああ。大丈夫だよ。栞だって、こないだの一件でいい加減嫉妬は抑えるだろうよ」
亜紀ちゃんは不安そうだったが、何も言わなかった。
「じゃあ、金曜日の夜は「映画鑑賞会」再開ですかね!」
「そうだな!」
「何か、楽しいことづくめですね!」
「そうだな!」
「じゃあ、今日は一緒にお風呂に入りましょうね!」
「ダメだな!」
「えぇー!」
亜紀ちゃんは文句を言う。
「ノリで一緒に入るか!」
「いいじゃないですか! オッパイ触っていいですよ!」
「それがダメなんだぁ!」
「こないだは、私が嫌がるほど触ったのに」
「おい、それを他の人の前で言うなよ?」
「どーでしょーねー」
「栞には絶対にな!」
「ああ」
「もう、こないだみたいなことは絶対に御免だ」
「まあ」
「またアヴェンタドールと別れたら、俺は立ち直れん」
「どーしよーかなー」
「頼む、何でもするから」
「それじゃぁ!」
結局一緒に入った。
まあ、間違いは起こらないが。
亜紀ちゃんは俺の背中と髪を洗った。
俺も亜紀ちゃんの髪を洗ってやる。
うちは美容室に卸している「ミルボン」のシャンプーとトリートメントを使っている。
前に株主優待で送ってもらったものを気に入ったのだ。
特別なルートで仕入れていた。
「タカさんに髪を洗ってもらうの、好きです」
「そうかよ」
亜紀ちゃんは身体を隠さない。
まあ、欲情するわけでもないからいいのだが。
洗い終わり、二人で湯船に浸かった。
「タカさんって、オッパイお好きですよね」
「男はみんなそういうもんだろう」
「女だから分かりません」
「そりゃそうか」
「また温泉に行きましょうよ!」
「そうだなぁ」
「こないだのホテルは素敵でしたねぇ」
「ああ」
「あれ、なんか乗って来ないですね?」
「やっぱり娘と裸で一緒に入るのはなぁ」
「タカさんって、常識破りが売りじゃないですか」
「お前! バカなことを言うな」
「何人もの女性と付き合って」
「おい!」
「普通は修羅場になるのに全然平気で」
「……」
「えーと、私でしょ? それに栞さん、六花さん、響子ちゃん、鷹さん、緑子さん、ああ柳さんもこれから」
「あのなぁ」
「お休み、ないですね」
「いつの間に!」
「それでどのオッパイが好きですか?」
「断然、亜紀ちゃんだな!」
「エヘヘヘ」
「ほら、いいですよ!」
俺は笑って相手にしない。
どぶろっくの『僕なりのプロポーズ』を歌った。
♪僕は君のオッパイを 一生君のオッパイを ずっとずっと揉み続けていたいんだー♪
亜紀ちゃんは大笑いした。
奈津江も笑って見ているような気がした。
0
お気に入りに追加
229
あなたにおすすめの小説
こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
毒小町、宮中にめぐり逢ふ
鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。
生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。
しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる