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アルジャーノンと静江。 Ⅱ

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 アルジャーノンと静江が上がってきた。
 楽しそうに話しながら。
 俺はテーブルに座らせた。

 「響子は先に休ませます」
 三人はおやすみと言い合い、六花が響子を俺のベッドに運んだ。
 六花の部屋は用意しているが、まあ、一緒に俺のベッドで寝るのだろう。
 俺は二人に何を飲みたいか聞いた。
 任せると言うので、「山田錦」を冷酒で出した。

 用意していたハモンセラーノ、ハム、チーズなどの皿を出した。
 静江さんのために、漬物や豆腐も皿に乗せて出す。
 醤油とわさびも用意した。
 静江さんは喜んでくれた。

 「美味いな、この酒は!」
 アルジャーノンが言う。
 静江さんが微笑んでいた。

 「今日は本当にありがとう」
 「いいえ」
 「響子が幸せそうで、安心しました」
 「響子はカワイイですからねぇ」
 二人が笑った。

 二人が響子の経過を聞くので、俺は話した。

 「順調と言っていいのですが、やはり後遺症は免れません。ベッドが主な生活になることは覚悟してください」
 「分かっている。命を繋いだだけでも奇跡だ。そのことでタカトラにどれほど感謝しているか」
 「覚悟なさっているのは、石神先生の方ではありませんか?」
 静江さんが言った。

 「そうですね。俺は響子と一生一緒にいるつもりですから」
 二人は宜しく頼むと言った。

 俺は響子がセグウェイに乗るきっかけの話をした。

 「響子が夢の中で、俺と六花と三人でバイクで走っていたそうです。当初は永遠にできないことだと考えていました。しかし、それは諦める夢ではなかった。俺たちは、一歩ずつ進んでいます」
 「そうか」
 二人は嬉しそうに笑っていた。
 俺は響子が隠れて菓子を買いまくり、デブになった話をした。
 大笑いしてくれた。

 「あいつはなかなか頭がいい。俺たちに隠れて成し遂げるなんて、大したもんですよ」
 「でも石神先生が止めて下さったんでしょう?」
 「もちろん。愛してますからね!」
 二人は笑った。

 「ところでタカトラ。先ほど君の娘たちが見せたのはなんなんだ?」
 アルジャーノンが聞いて来る。
 
 「余興のつもりはありませんでした。あなた方に見せたかった」
 俺は掻い摘んで、「花岡」の家の技を話す。

 「人類が核を手に入れたように、新たな強大な力の存在を知ってしまった」
 「それほどのものなのか?」
 「今はまだ可能性です。しかし、これは絶対に制御しなければならない」
 「どうして我々にそんな話を?」
 「俺はこれが響子に関わっているのではないかと考えています」
 アルジャーノンは黙っている。

 「響子は特別な運命を持っている。響子を中心に、大きな変革が起きる。あの子はロックハート家だけでの存在ではない」
 「石神さん。あなたにお話ししたいことがあります」
 静江さんが言った。

 俺たちは遅くまで話し込んだ。







 お二人を部屋まで送り、俺は自分の寝室に入った。
 響子と六花がスヤスヤと寝ていた。
 六花は堂々と真ん中に寝ている。
 当然裸だ。
 枕元にメモがあった。

 「どうぞ、お好きになさってください」

 俺は六花を足で脇に寄せ、響子の隣に寝た。
 六花は起きない。
 響子が目覚める。

 「起こしちゃったか?」
 「うん、起きたかったの」
 「そうか」
 「タカトラ、今日はありがとう」
 「俺の方こそ、お前が楽しそうで嬉しい」
 「タカトラ……」
 「お前が笑っていると、俺は本当に幸せだ」
 「うん」

 「アルも静江さんも、お前に会えて嬉しそうだったな」
 「うん。私も嬉しい」
 「二人は仲良しだな」
 「うん」

 「俺たちも仲良しだよな」
 「うん!」
 俺たちは笑った。
 俺は響子の胸をくすぐってやる。

 「エッチー!」
 「お前はいつもペッタンコだなぁ」
 「いつかおっきくなるもん!」
 「楽しみにしてるぞ」
 「エヘヘヘ」
 「デブでごまかすなよ」
 「うん」

 「さあ、もう寝ろ」
 「うん」

 「オシッコするなよな」
 「しないよー!」
 クスクスと二人で笑った。

 「ねぇ」
 「なんだ、もう寝ろよ」
 「ねぇ、どうして六花はいつも裸で寝るの?」
 「こいつはアマゾンの奥地で裸で生活してたからな」
 「ウソだー」
 「今度、「久しぶりにワニが食べたい?」って聞いてみろよ」

 響子がクスクス笑う。

 「今日はワニは無かったからなぁ」
 「今日は美味しかったね」
 「ああ、響子も一杯食べたな」
 「うん」
 「うちの子らはもっと喰ったけどな」
 「ウフフフ」

 「こないだ、ライオンから「食べすぎだ!」って言われたんだよ」
 「ほんとにぃ?」
 また二人で笑った。

 「ああ、六花は前にカメを食べたんだ」
 「ええ!」
 「ムシャムシャ食べてなぁ」
 「うん」
 「ウンコもらした!」
 「アハハハ!」

 「ほんとだって! 明日聞いてみろよ」
 「うん、聞く!」

 「おい、ほんとにもう寝よう」
 「うん」

 俺は響子の背中に手を回し、撫でてやる。
 響子は俺の胸に顔を埋めた。

 「タカトラ、いい匂い」
 「響子はちょっとだけクサイな」
 響子が俺の胸を叩く。

 「ウソだよ。響子もいい匂いだ」
 「六花は?」
 「ちょっとウンコ臭いな」
 また響子が笑う。

 「六花もいい匂いだよ」
 「そうか?」
 俺は六花に振り返り、匂いをかいだ。

 「ああ、今日はいい匂いだな」
 「そうでしょ?」

 いつの間にか、響子は眠った。
 楽しい夢を見て欲しい。

 いつもそう思う。






 

 この、小さな身体。
 大きな運命に翻弄される響子。

 俺が必ず守ってやる。
 任せろ、響子。
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