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顕さんの別荘

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 ゴールデンウィーク。
 俺には真っ先に果たしたい約束があった。
 顕さんを別荘にお招きする。
 それだった。

 「本当に行っていいのか!」
 俺が電話すると、顕さんは喜んでそう言って下さった。

 「もちろんです。今年のゴールデンウィークは、まず顕さんと別荘に行きたくて」
 「そうかぁ。それは本当にうれしいよ。是非行かせてくれよ」
 俺たちは日程を合わせた。

 「他に予定はないんですか?」
 「全然ないよ。本でも読みながら酒を飲んでるしかない」
 「あっちでまた飲みましょう」
 「ああ、楽しみだ。土産に酒でも持っていくかなぁ」
  「いりませんよ! ああ、じゃあそのかわりに、俺のお願いを一つだけ聞いて下さい」
 「もちろん石神くんのお願いなら、何でも言ってくれ」

 「じゃあ、向こうで言いますから」
 「え、そうなのか? なんか怖いな」
 俺たちは笑いながら電話を切った。





 当日。
 俺たちは顕さんの家に寄った。
 途中で電話をしたので、顕さんは玄関で待っていてくれた。

 「石神くん、今日は本当にお世話になります」
 「いえいえ、俺の方こそ顕さんに来ていただいて嬉しいです」
 「「「「こんにちは!」」」」
 「はい、こんにちは。今日はお邪魔しますね」
 亜紀ちゃんが助手席のドアを開け、顕さんが乗り込む。


 双子が飛び出して、顕さんの家の玄関に行く。

 「おい、何やってんだ!」
 亜紀ちゃんが走って、双子を連れ戻す。

 「どうしたんだよ、お前ら」
 「「ごめんなさい」」 
 ヘンなことがあったが、すぐにいつもの双子に戻った。

 

 「皇紀! 顕さん歓迎の歌を歌え!」
 「はい!」
 皇紀は、モーツァルト『冬の旅』を歌う。
 いつもながらに見事だ。

 「皇紀くん、スゴイね」
 顕さんも驚いていた。

 続いて亜紀ちゃんが、俺のモノマネをした。

 「ニーチェかぁー」
 「おまえらー! よくきけぇー!」
 「かんべんしろー!」
 「俺の顔に泥をぬるなー!」
 「亜紀ちゃん、だいすきだー!」
 大爆笑だった。
 顕さんも大笑いしていた。

 「おい、最後のは言ってねぇだろう!」
 「いいえ、ちゃんと聞きましたー」
 みんなまた笑った。
 俺も笑った。

 双子が筋肉少女帯の『日本印度化計画』を歌う。

 ♪俺にカレーをくわせろ! 俺はいつでも、辛さにこだわーるぜ~!♪

 みんな大爆笑だった。
 亜紀ちゃんも皇紀も知らない。
 俺が双子との散歩で、仕込んだ。
 ネットで、PVも見せた。

 「じゃあ、俺も歌おうかな!」
 「え、顕さんもですか?」
 顕さんは、村下孝蔵の『ゆうこ』を歌った。
 お好きな曲らしい。
 みんな、拍手をした。
 素晴らしく上手かった。

 「すごいですね。俺も大好きなんですよ」
 俺は病院で「ゆうこ」という女の子のために、ライブをやったことを話した。
 子どもたちも知らないことなので、喜んだ。

 「じゃあ、最後は石神くんだな」
 「え、俺もやるんですか!」
 「だってみんなやったじゃないか」
 「顕さんに言われるとなぁ」
 俺は即興で、『亜紀ちゃん大好きソング』を歌った。

 ♪亜紀ちゃんは~ ちょっと大食いだけど、愛してるぜ~♪

 大爆笑だった。

 ♪亜紀ちゃん、君のためにー、バナナを買ったよ~ 大好きな、亜紀ちゃんー♪

 みんな大笑いだった。

 「もう、「亜紀ちゃん大好き」は俺の口癖だからなぁ」
 「やめてくださいー!」
 またみんなで笑った。




 途中のサービスエリアで食事をとる。

 「おい! 一人二つまでだからな! ホットドッグも「一つ」とみなすからな!」

 「「「「はい!」」」」
 子どもたちは、それぞれの店に散った。
 顕さんが笑っている。

 「顕さん、何を召し上がりますか?」
 「そうだな。ソバでも食べようかな」
 俺たちはそばの店に行った。
 食券を買う。
 顕さんがみんなの分も出すとおっしゃったが、俺が出させてもらった。

 「今日は徹底的にお客さんでいてください」
 顕さんは恐縮されていた。

 また物凄い量が集まった。
 ピザが二枚。
 寿司桶二つ。
 大盛りのソバやウドンが四つ。
 亜紀ちゃんの采配だ。

 「「「「いただきまーす!」」」」
 顕さんが驚いている。

 ♪ちょっと大食いの亜紀ちゃんが~♪

 俺が歌うと亜紀ちゃんが真っ赤になって抗議した。

 「ほんとに、もうやめてくださいー!」
 みんなで笑った。




 別荘に着いた。
 中山夫妻から鍵を預かり、お土産を渡す。
 顕さんは外から別荘を真剣に見ていた。

 「やっぱりいいなぁ。あのちょっと見える」
 「まあ、夜にしましょう。もったいないですよ!」
 「そうか。そうだな!」
 二階の応接室の窓がいいと、顕さんは言ってくれた。
 今回は二泊の予定だ。
 しかし、顕さんは明日に帰ると言っている。
 俺は是非一緒に帰りましょうと言ったが、頑なに固辞された。

 「君たちで楽しんでくれよ。俺はどうしてもアレが見たくて押しかけちゃったけどな」
 そう言われた。

 顕さんは少し疲れている様子だった。
 俺は部屋へ案内し、夕飯まで寝ててくださいと言った。
 顕さんは「そうさせてもらおう」と言い、部屋へ向かわれた。



 俺は、顕さんの背中を見詰めていた。
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