上 下
300 / 2,859

コーヒーの味

しおりを挟む
 土曜日の昼。
 栞が遊びに来た。
 いつものことだ。
 子どもたちもいつものように、食後の勉強をしている。

 「石神くん」
 「はい?」
 「どうして峰岸さんがいるのかしら」

 自然に足が動いている。
 何かの物騒な準備をしているような気がする。

 「今朝誘って、一緒に昼食を食べたんですよ」
 「こんにちは、花岡先生」
 鷹は、何事もないように挨拶し、双子の頭を抱き寄せた。

 「きゃー」
 双子が笑っている。

 「ちょっと、石神くん。いいかしら」
 俺は栞に手を引かれて、一階の応接室へ行った。

 「あのね。私は石神くんのことを縛る気はないから。だから正直に話して下さい」
 まあ、いずれは話さなければならないことだ。
 俺は水曜日のオペの後、鷹に告白されたことを話した。

 「それで石神くんは受け入れた、ということね」
 「はい」
 栞は深いため息をついた。

 「分かった。話してくれてありがとう」
 「この先は分かりませんよ」
 「え?」
 「俺たちの関係がどうなるのか。山中なんか死んじゃいましたしね。俺も銃弾ぶち込まれたり」
 「やめてよ、そんな話」


 「今、大事な人間を大事にしたいだけです。花岡さんだって、俺の最も大事な人間なんだ」
 「うん」
 俺は栞を抱き寄せ、キスをした。
 栞が舌を絡めてくる。

 「ねぇ」
 「はい」
 「もう寝たの?」
 「いいえ」
 「私の方が」
 「なんですか」
 「大きいんだから」
 栞は俺の手を胸に導いた。
 柔らかい感触を楽しむ。
 鷹の胸は薄い。

 「うちに泊まりに来て」
 「はい」
 また、長いキスをした。





 子どもたちの勉強の間、俺たち三人は散歩に出た。

 「段々温かくなったよね」
 「そうですね」
 子どもたちとよく行く公園に入り、三人でベンチに腰掛ける。

 「ねえ、峰岸さん」
 「はい」
 「石神くんのどこが好き?」
 栞が突然聞いた。

 「そうですね。真面目で優しいところでしょうか」
 「そうなんだ」
 「花岡先生は?」
 「私のことは栞って呼んで。もう私たちは一緒なんだから」
 「はい」
 「私はね。やっぱり強くて優しいところかな」
 「そうですか」


 「鷹」
 「はい」
 「一緒に石神くんを守りましょうね」
 「はい!」
 いい女たちだった。






 栞は子どもたちの勉強が終わり、お茶を楽しんでから帰って行った。
 鷹は夕飯も一緒に食べる。
 今日はカレーにしたが、子どもたちの異常な喰いっぷりに驚く。
 大好物の唐揚げは大皿に盛ったので、地獄の饗宴も垣間見てもらった。
 一休みして、俺は鷹を送って行った。

 「ああ、あこがれのフェラーリに乗れた!」
 鷹は嬉しそうだった。

 「憧れだったのかよ」
 「はい! 「フェラーリ・ダンディ」の動画や画像は何百回も見ましたよ。もちろん全シリーズ!」
 「お前も知ってたのか!」
 「当然です」
 俺は一通りのネットの動画を鷹に聞いてみた。
 コンプリートだった。
 花火のダンスも、最近の羽田空港の一連のものまで、ちゃんと網羅していた。

 「ずっと、憧れだったんです」
 「そうか」






 鷹のマンションは、赤坂にあった。
 やはり病院に近い。
 高級マンションだった。
 オペ看は他の病院でも高給だが、恐らく実家からの援助もあるんだろう。
 分譲マンションのようだった。

 「駐車場があるんで、上がって行ってください」
 俺は言われるまま、地下の自走式の駐車場にフェラーリを停めた。

 8階の鷹の部屋はやはり広かった。
 5LDKだ。
 六花のマンションには見劣りするが、結構な部屋だった。
 コーヒーが出された。

 「石神先生がコーヒーがお好きだと聞いてますので」
 「ありがとう」
 鷹の淹れたコーヒーは、本当に美味しかった。

 「今、お風呂を沸かしますね」
 「ああ、じゃあ俺はもう帰るよ」
 鷹に手を掴まれた。

 「このまま何事もなく帰れるとでも?」
 「怖いことを言うなよ」
 「ダメです。帰ったらお風呂で手首を切ります」
 「おい」
 「壁に自分の血で石神先生の名前を書きます」

 「だったら一緒に入るしかねぇな」
 「え、いえ、別々に」
 「ここまで来て、何事もなく済ますつもりか?」
 「でも、私初めてで」
 俺たちは笑った。

 「「ここまで来て」」

 「そうですね。今更ですよね」
 鷹は赤くなってそう言い、俺は微笑んだ。

 「でも、私あんまり胸が」
 「見れば分かるよ」
 「いいんですか」
 「俺はお前の魂に惚れた」
 「じゃあ、ブスでもいいんですか」

 「お前は綺麗だよ」

 風呂を沸かしながら、俺たちは服を脱いだ。
 鷹はスゴイ下着を身に着けていた。

 「だって、お宅でそういうことになったら、と思って」
 俺は抱きしめてキスをした。

 「ファーストキスって、コーヒー味だったんですね」








 鷹は全てをさらした。 
しおりを挟む
感想 59

あなたにおすすめの小説

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

毒小町、宮中にめぐり逢ふ

鈴木しぐれ
キャラ文芸
🌸完結しました🌸生まれつき体に毒を持つ、藤原氏の娘、菫子(すみこ)。毒に詳しいという理由で、宮中に出仕することとなり、帝の命を狙う毒の特定と、その首謀者を突き止めよ、と命じられる。 生まれつき毒が効かない体質の橘(たちばなの)俊元(としもと)と共に解決に挑む。 しかし、その調査の最中にも毒を巡る事件が次々と起こる。それは菫子自身の秘密にも関係していて、ある真実を知ることに……。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……思わぬ方向へ進んでしまうこととなってしまったようです。

四季
恋愛
継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

処理中です...