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奈津江 Ⅲ

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 俺は奈津江との出会いを話した。

 「弓道部で一緒になったんだ。最初は、綺麗な人だなって程度だったよな」
 「どんな方だったんですか?」
 「そうだな。目がクリっとしてて、笑うと本当にカワイイ。背は160センチちょっとかな。ストレートの黒い髪が、肩の上くらいで。ああ、胸は全然なかったな」

 「そこはどうでもいいです!」
 俺たちは少し笑った。

 「そのうち花岡さんを紹介された」
 「花岡さんよりも綺麗な人だったんですか?」
 「どうかな。花岡さんの方が美人なんじゃないかな」
 亜紀ちゃんが俺の肩を叩いた。

 「奈津江さんの攻撃です」
 俺が笑った。

 「それで、どうして奈津江さんと付き合ったんですか?」
 「そうだな。どうしてだったかな。確か部活で一か月経って、新入部員として本格的に認められた。その新歓コンパだったな」


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 先輩たちは、新入部員に大いに酒を飲ませた。
 女子はそれほどでもなかったが、それでも次々に注がれていった。
 奈津江は酒が弱かった。
 気分が悪くなっていたが、生憎先輩たちも飲むのに夢中で介抱する人間がいなかった。
 俺は肩を貸して、座敷の外に出た。
 外の空気を吸わせようと、連れ出した。

 近くの公園のベンチに奈津江を座らせ、自販機で買ったジュースを飲ませる。

 「大丈夫か?」
 「うん、ありがとう」
 奈津江は美味しそうにオレンジジュースを一口飲んだ。

 「辛かったら、送っていくぞ」
 「うん、でもうち遠いから」
 
 埼玉の蕨市なのだと言う。
 お兄さんと二人で暮らしていると言った。

 「まあ、とにかく少し休もう。気分が悪くなったら言ってくれ。救急車を呼ぶから」
 「そんな大げさにしなくても大丈夫。ありがとうね」
 俺も隣に座った。


 「石神くんって、大きいよね」
 「あ、ああ。そうだな」
 「筋肉もスゴイよね。巻き藁でも、重たい弓を平気で使ってる」
 「まあ、力はあるかな」
 「今ここで襲われても、抵抗できないよね」
 「そーだなー!」

 俺は奈津江の方を向いて、覆いかぶさるフリをする。
 奈津江はおかしそうに笑っていた。

 「私なんか襲っても旨味はないよ」
 「いや、すごい、綺麗じゃない」
 「え?」
 「綺麗だよ。最初は驚いた」

 「そんな」
 奈津江が恥ずかしがった。

 「まさか、くどいてる?」
 「いや、ぜんぜん」
 腕を殴られた。

 「石神くんって、女の子に人気だよね」
 「そうか?」
 「うん。先輩も何人も狙ってる」
 「興味ねーなー」

 奈津江は笑った。
 胸が痛むほどに可愛らしかった。

 「なんで笑ってるの?」
 「可愛いから」

 腕を殴られた。

 「やっぱりくどいてるじゃない!」
 「そうなのか?」





 奈津江が俺の手を握った。

 「すごい、ゴツゴツしてる」
 「うん」
 「こんな手じゃ、襲われたらダメよね」
 「襲うわけないだろう」

 「ダメ! 襲うの!」
 「はい?」

 「襲われたら大変だから。じゃあ正式に付き合ってあげる」
 「えと、ありがとう?」
 「なんで疑問形なのよ!」
 腕を殴られた。

 「怖いから付き合ってあげるよ」
 「よろしくお願いします」

 俺たちは手を握り、黙って座っていた。





 「ねえ」
 「なんだよ」
 「これからどうすんの?」
 「どうすんのって、お前の気分が良くなるまで」

 腕を殴られた。

 「そういうことじゃないの! 付き合うんだから、どうするのかってこと!」
 「あ、ああ。じゃあ、キスをするとか?」
 「だから! 襲っちゃダメなの!」

 難しい。
 俺とこれまでの女との付き合いは一本道だけだった。

 「俺がオチンチンを出すとか?」

 腕を殴られた。
 強かった。

 「もーう!」
 俺たちは笑った。






 「そういうのは、いつかね! でも付き合い始めはダメ。ちゃんと付き合ってください」
 「じゃあ、どこかへ出掛けようか」
 「うんうん」

 「どこがいい?」
 「石神くんが連れてってくれるなら、どこでも」
 「うーん、俺ってデートの経験が無いんだよなぁ」
 「そうなの?」

 「付き合った経験がねぇ。どーすんだ、こういうのって」

 俺が正直に言うと、奈津江は嬉しそうだった。

 「そこは男の子が考えて」
 「じゃあ、キスを」
 腕を殴られた。

 「うーん、御堂に相談してみるかぁ」
 「御堂くんって?」

 俺は入学早々に友達になったと説明した。
 御堂の魅力を存分に語る。

 「じゃあ、私も栞を紹介するね。そうだ! 最初は四人で遊びに行こうよ」
 「あ、いいな。俺も御堂に話すよ」

 俺たちは連絡先を教え合い、しばらくお互いのことを話した。



 そろそろ戻ろうかということになった。

 「ねぇ、本当に私と付き合っていいの?」
 「ああ。俺の魂が決定付けたからな」

 奈津江がおかしそうに笑った。

 「石神くんって、変わってるよね!」
 「そうかな」





 「ありがとう」
 奈津江が小さな声で呟いた。
 俺はもう、奈津江に夢中だった。

 こんな出会いがあるなんて、今まで知らなかった。
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