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紅の友 Ⅷ

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 「さっき、二人に聞いたんだけどな。お前の看護師になった理由だ」
 「総長! 勝手にすみません」
 タケとよしこが謝った。

 「いいんだよ、石神先生になら、何だって話してくれ」

 今日の六花はちょっとおかしい。
 肩に預けた頭をゆっくりと揺らしてくる。
 普段はこんなに人前で甘えてくることはない。
 気心の知れた親友たちの前だからか。

 「こいつらには散々世話になったんですよ」
 「そんな、総長」
 「そうですって。私らが総長からいただいたものに比べたら」
 「私が勝手に『紅六花』を辞めたのに、看護師の勉強を始めたら大変だろうって。毎日のように食事を作りに来てくれて、学校の送迎まで。本当にありがたかったし、何よりも嬉しかった」

 「「そんな」」

 「それなのに、いざ自分が看護師になったら、忙しいのを言い訳に、お前らに何一つしてやらなかった。許してくれ」
 「そんなのいいんですよ!」
 「そうですって。私らはずっと死ぬまで『紅六花』なんですから。会えなくたっていいんです。大丈夫ですよ!」

 「ありがとうな」


 

 「いい話を聞かせてもらった礼だ。一つ、聞いた中で俺が分かったことがある」
 「なんでしょうか?」
 よしこが聞いてきた。

 「六花はよく実家に帰っていたと言っていたよな」
 「「はい」」
 「それはな。母親のことじゃないんだよ。親父さんを心配してのことだ」
 「「え?」」
 「親父さんは寂しかった。誰も見向きもしない荒れた生活だった。そうだろう」
 「ええ、多分」
 「だからだってよ。六花は困った人間を放っておかないバカだ。まして自分の親ならな」

 「「!」」

 「殴られれば、少しは親父さんの気も晴れる。多分だけど、少しの金も置いてきてたんじゃねぇのか?」

 六花は泣いている。
 何も言わずに泣いていた。

 「「総長……」」
 「まいったな、石神先生にはな」
 「お前、自分がバカだって自覚ねぇだろう」
 六花が俺の胸を軽く突く。

 タケとよしこが少し微笑む。



 

 「ああ、そうだ! お前らに言っておかなきゃならないことがあったぞ!」
 「なんですか?」
 「ほら、よしこのラブホに泊めてもらっただろう!」
 「ああ、はい」

 よしこがモゾモゾする。
 だからだよ!

 「最初は六花の親父さんの墓参りに行って、すぐに帰る予定だったんだよ」
 「はい」
 「それがあんな大宴会になって。一泊するしかねぇ」
 「はい」
 「墓参りなんだから、不埒なことはできねぇだろう?」
 「はぁ、そりゃそうですかね」
 「だから六花を縛って、俺に何もしねぇようにしたんだよ」
 「はい?」

 「だから! 何もしてねぇんだ! よしこが内線で朝食を「後で」持ってくると言うから。六花のロープをほどいてたら、お前が速攻で来やがったから、あんな誤解になったんだ!」
 「はぁ、でもお二人は裸でしたよ?」
 「総長を縛って寝るって時点で人間としてどうかと」
 「お前ら! だから誤解なんだって! 俺はSMとかご主人様とかなぁ!」

 六花が笑っている。
 俺の肩に頬を寄せて、クスクスと笑っていた。

 「でもね、石神さん。私ら総長から夕べにね」
 「あぁー! そうだったぁー!」

 俺は観念した。
 六花にヘッドロックをかける。

 「イタイ、イタイ」
 「あ、やっぱり!」
 「お前ら、もう帰れ」
 「「そんなぁー!」」

 「まあ、こいつとは異常に身体の相性がいいんだよ。だから俺も溺れないように気を付けているのな」
 「溺れて下さい」
 六花が熱くそう言う。
 それだけで理性が吹っ飛びそうだ。

 「いや、今晩は私ら耳を塞いでますからね」
 「子どもたちがいるんだぁー!」

 三人が笑った。




 俺は話題を変えるために、風花の話をする。

 「え、そうだったんですか!」
 「そ、総長! おめでとうございます!」

 六花は少し照れている。

 「全部、なにもかも、石神先生のお陰です」
 「そんなことは一つもねぇよ。お前の人生がそうだった、というだけだ」

 六花は俺の頬に自分の頬をすりつけてくる。

 「あの、私らそろそろ寝ますね」
 「いや、ちょっと待て! もうちょっと飲めよ。折角のブランデーなんだから」
 「ええ、もう酒どころじゃないような」
 「そんなこと言わないで! タケ、そうだ今からチャーハンの作り方を教えてやるよ!」
 「いえ、明日にまたお願いします」

 二人は笑いながら、客用の寝室へ入った。
 六花は俺をじっと見つめている。
 勘弁してくれ。
 お前、そんな目で俺を見るな。






 「今日は本当にありがとうございました。やっぱり石神先生にタケとよしこを合わせて良かった」
 「そうかよ」
 「はい」

 「お前さ」
 「なんでしょうか」
 「もっとあいつらに連絡してやれよ」
 「そうでしたね」
 「そうだよ」
 「はい、分かりました」

 「それとな」
 「はい」

 「そんなに俺を見つめるな」

 「はい」
 「だから!」

 「石神先生しか見たくありません」
 「響子がいるだろう」
 「響子はまた明日にでも見ます」
 「ほら、六花ちゃん、この肉巻きは美味しいぞ」

 「石神先生のお肉がいいです」
 「……」

 俺は降参した。
 こんなに美しい女を。









 どう抗えると言うんだ。
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