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双子の家出。 そんなに悪いことしてないもん。 Ⅱ
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「あの、タカさん、帰って来ませんね」
亜紀ちゃんが、恐る恐る言う。
「あ? 誰が帰るんだよ」
「いえ、ルーとハーが」
「そんな奴いたっけか?」
「……」
俺から離れて、二人でコソコソ話していやがる。
気に入らねぇ。
「皇紀、私がちょっと探しに行くから、タカさんのことを頼むね」
「やめてよー! それは辛すぎるよ!」
「でも、ルーとハーを連れ戻さないと、大変なことになっちゃうじゃない」
「それはそうだけど、あのモードのタカさんは、僕には無理だよ」
「なんとかして! じゃあ、探しに行くから」
「僕も家出したいよー!」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「それは不味いことになったわねー」
亜紀ちゃんから話を聞いた栞が、腕を組んで真剣に考え込んでいた。
「あのね、亜紀ちゃん。石神くんって、普段は大らかなのよ。あんまり拘ることはないの。いつも威張ってる感じじゃない。あれって、実は大抵のことを気にしてないからなのよ」
「なるほど」
長年の付き合いの栞だからこそ、石神の性格をよく分かっている。
「他人の評価だの感情だのに興味がないからなのね。でもね、大事な人のことは、そりゃー神経質なくらいに考えてる人なのよ。いつも、その人のために何が出来るかってね。むしろ、それだけの人なの」
「はい、よく分かります」
「だから、石神くんの大切な人を傷つけるのは絶対にダメ。同じく、石神くんの「大事なもの」もそうなのね。あのリャドの絵は知ってるけど、相当大事にしてたものなのよ」
「やっぱりそうなんですか!」
「うん。値段ももの凄かったはずだけど、そりゃーもう買ったときは喜んでたわ。見るたびに「お袋の優しさを思い出す」って言ってたのよ」
「それは、ちょっと怖すぎますね」
「あれを壊しちゃったんでしょ?」
「ええ。ルーとハーは「ちょっと壊した」って言ってたんですけど、見たらもうメチャメチャでした」
「そう、それは不味いよねぇ」
「はい、今の栞さんのお話で、ゾッとしました」
本当に不味いことになった。
「うちには来てないけど、来たらすぐに知らせるね。一緒に行ってあげるからね。私も何とかするから」
「ありがとうございます。もしもの時にはお願いします」
「はぁー。本当にどうしよう」
亜紀ちゃんは深いため息をもらした。
「次は六花さんかなぁ。先に響子ちゃんのところへ行ってみるか」
「あれ? アキ! どうしたの?」
「響子ちゃん、こんにちは。実はね……」
亜紀ちゃんはまた今日の出来事を話した。
「あの双子がねぇ。タカトラの枕元の絵でしょ? リャドの『カンピン夫人』だって聞いたよ。とっても大事な絵なんだって」
「うん、それを栞さんからも聞いて。本当にどうしていいかと思ってるの」
亜紀ちゃんはずっと年下の響子にまで悩みを打ち明けた。
「あ、もうちょっとで六花も来るから、相談してみれば?」
「そうなの、はい。じゃあちょっと待たせてもらうね」
響子は亜紀ちゃんの英語の特訓だと言って、英語での会話を始めた。
最初は戸惑っていたが、そのうちにスムーズに会話できるようになり、響子が喜んだ。
響子なりの思いやりなのだと、亜紀ちゃんは感謝した。
「響子! 英語で話すな!」
「あ、六花!」
「あれ、亜紀ちゃん?」
亜紀ちゃんは再び六花に事情を説明した。
「ああ、あの絵ですか。とっても大事な絵だから、ヘンな体液を絶対に付けるなと言われてます」
「?」
「自分の所にも来てませんが、連絡があったらまず亜紀ちゃんへお知らせしますね」
「そうして下さい。タカさんは本当に怒ってますから。あんなに怒ったタカさんは初めて見ました」
「そう。でも、石神先生の大事な人を傷つけたわけではありませんから。きっと大丈夫ですよ」
「そんなことになったら、きっと大変でしょうね」
亜紀ちゃんは笑いながらそう返した。
「本当に大変でしたよ。石神先生は響子と私を護ってくれましたが、きっとあいつは死んでいます」
「え?」
亜紀ちゃんは宇留間の件の真実を知らなかった。
六花から詳しい話を聞き、涙が止まらなくなった。
「私が話して良いことか分かりませんが、亜紀ちゃんは知っておくべきだと思いました」
「はい、話して下さり、ありがとうございました」
皇紀からメールが入った。
《限界です!》
一度家に戻ろう。
暗澹とした気持ちは、少し晴れやかになっていた。
「しつこいな、このやろう!」
タカさんが怒鳴っている。
玄関にまで大きな声が響いてくる。
「なんなんだ、あいつらは! 一言も謝りもしねぇで逃げやがって! もう絶対に家には入れないからな!」
「でも、まだ小3です。なんとか許してあげて下さい」
「だーめーだー! 別にいいじゃねぇか。あいつらもう株で一生やってけるだろうよ。小学校だって出る必要は全然ねぇ」
「でも」
「うるせぇ! 今日という今日は勘弁ならねぇ! お前らだって、俺が気に食わないならいつでも出て行け! 俺は元々独りが好きなんだぁ!」
「あ、お姉ちゃん!」
「ただいま戻りました」
「おう! どこ行ってたんだ! クソ生意気な双子の姉!」
「すいません。ちょっと探したんですが、見つからなくて」
「ふざけんな! 絶対にあいつらは家には入れねぇんだから、もう探すな!」
「「……」」
「俺はもう寝る! 双子が戻っても絶対に入れるなよ!」
「分かりました」
一時間後。
栞さんが来てくれた。
「心配になって来ちゃった。どう?」
「先ほど、寝るとおっしゃって、部屋に引きこもってます」
「あちゃー。いよいよ不味いね」
「どうしたらいいでしょう」
「取り敢えずはそっとしておきましょう。そうだ! 二人とも何も食べてないでしょ? すぐに何か作ってあげる」
「いえ、私がやりますから」
「いいのいいの。二人とも座ってて。皇紀くんも大変だったよね」
「すみません、花岡さん」
その頃、双子は蓼科家でグラニー・スミスのアップルパイを食べていた。
亜紀ちゃんが、恐る恐る言う。
「あ? 誰が帰るんだよ」
「いえ、ルーとハーが」
「そんな奴いたっけか?」
「……」
俺から離れて、二人でコソコソ話していやがる。
気に入らねぇ。
「皇紀、私がちょっと探しに行くから、タカさんのことを頼むね」
「やめてよー! それは辛すぎるよ!」
「でも、ルーとハーを連れ戻さないと、大変なことになっちゃうじゃない」
「それはそうだけど、あのモードのタカさんは、僕には無理だよ」
「なんとかして! じゃあ、探しに行くから」
「僕も家出したいよー!」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「それは不味いことになったわねー」
亜紀ちゃんから話を聞いた栞が、腕を組んで真剣に考え込んでいた。
「あのね、亜紀ちゃん。石神くんって、普段は大らかなのよ。あんまり拘ることはないの。いつも威張ってる感じじゃない。あれって、実は大抵のことを気にしてないからなのよ」
「なるほど」
長年の付き合いの栞だからこそ、石神の性格をよく分かっている。
「他人の評価だの感情だのに興味がないからなのね。でもね、大事な人のことは、そりゃー神経質なくらいに考えてる人なのよ。いつも、その人のために何が出来るかってね。むしろ、それだけの人なの」
「はい、よく分かります」
「だから、石神くんの大切な人を傷つけるのは絶対にダメ。同じく、石神くんの「大事なもの」もそうなのね。あのリャドの絵は知ってるけど、相当大事にしてたものなのよ」
「やっぱりそうなんですか!」
「うん。値段ももの凄かったはずだけど、そりゃーもう買ったときは喜んでたわ。見るたびに「お袋の優しさを思い出す」って言ってたのよ」
「それは、ちょっと怖すぎますね」
「あれを壊しちゃったんでしょ?」
「ええ。ルーとハーは「ちょっと壊した」って言ってたんですけど、見たらもうメチャメチャでした」
「そう、それは不味いよねぇ」
「はい、今の栞さんのお話で、ゾッとしました」
本当に不味いことになった。
「うちには来てないけど、来たらすぐに知らせるね。一緒に行ってあげるからね。私も何とかするから」
「ありがとうございます。もしもの時にはお願いします」
「はぁー。本当にどうしよう」
亜紀ちゃんは深いため息をもらした。
「次は六花さんかなぁ。先に響子ちゃんのところへ行ってみるか」
「あれ? アキ! どうしたの?」
「響子ちゃん、こんにちは。実はね……」
亜紀ちゃんはまた今日の出来事を話した。
「あの双子がねぇ。タカトラの枕元の絵でしょ? リャドの『カンピン夫人』だって聞いたよ。とっても大事な絵なんだって」
「うん、それを栞さんからも聞いて。本当にどうしていいかと思ってるの」
亜紀ちゃんはずっと年下の響子にまで悩みを打ち明けた。
「あ、もうちょっとで六花も来るから、相談してみれば?」
「そうなの、はい。じゃあちょっと待たせてもらうね」
響子は亜紀ちゃんの英語の特訓だと言って、英語での会話を始めた。
最初は戸惑っていたが、そのうちにスムーズに会話できるようになり、響子が喜んだ。
響子なりの思いやりなのだと、亜紀ちゃんは感謝した。
「響子! 英語で話すな!」
「あ、六花!」
「あれ、亜紀ちゃん?」
亜紀ちゃんは再び六花に事情を説明した。
「ああ、あの絵ですか。とっても大事な絵だから、ヘンな体液を絶対に付けるなと言われてます」
「?」
「自分の所にも来てませんが、連絡があったらまず亜紀ちゃんへお知らせしますね」
「そうして下さい。タカさんは本当に怒ってますから。あんなに怒ったタカさんは初めて見ました」
「そう。でも、石神先生の大事な人を傷つけたわけではありませんから。きっと大丈夫ですよ」
「そんなことになったら、きっと大変でしょうね」
亜紀ちゃんは笑いながらそう返した。
「本当に大変でしたよ。石神先生は響子と私を護ってくれましたが、きっとあいつは死んでいます」
「え?」
亜紀ちゃんは宇留間の件の真実を知らなかった。
六花から詳しい話を聞き、涙が止まらなくなった。
「私が話して良いことか分かりませんが、亜紀ちゃんは知っておくべきだと思いました」
「はい、話して下さり、ありがとうございました」
皇紀からメールが入った。
《限界です!》
一度家に戻ろう。
暗澹とした気持ちは、少し晴れやかになっていた。
「しつこいな、このやろう!」
タカさんが怒鳴っている。
玄関にまで大きな声が響いてくる。
「なんなんだ、あいつらは! 一言も謝りもしねぇで逃げやがって! もう絶対に家には入れないからな!」
「でも、まだ小3です。なんとか許してあげて下さい」
「だーめーだー! 別にいいじゃねぇか。あいつらもう株で一生やってけるだろうよ。小学校だって出る必要は全然ねぇ」
「でも」
「うるせぇ! 今日という今日は勘弁ならねぇ! お前らだって、俺が気に食わないならいつでも出て行け! 俺は元々独りが好きなんだぁ!」
「あ、お姉ちゃん!」
「ただいま戻りました」
「おう! どこ行ってたんだ! クソ生意気な双子の姉!」
「すいません。ちょっと探したんですが、見つからなくて」
「ふざけんな! 絶対にあいつらは家には入れねぇんだから、もう探すな!」
「「……」」
「俺はもう寝る! 双子が戻っても絶対に入れるなよ!」
「分かりました」
一時間後。
栞さんが来てくれた。
「心配になって来ちゃった。どう?」
「先ほど、寝るとおっしゃって、部屋に引きこもってます」
「あちゃー。いよいよ不味いね」
「どうしたらいいでしょう」
「取り敢えずはそっとしておきましょう。そうだ! 二人とも何も食べてないでしょ? すぐに何か作ってあげる」
「いえ、私がやりますから」
「いいのいいの。二人とも座ってて。皇紀くんも大変だったよね」
「すみません、花岡さん」
その頃、双子は蓼科家でグラニー・スミスのアップルパイを食べていた。
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