235 / 2,920
六花と風花 Ⅲ
しおりを挟む
ホテルでドアマンが迎え、店の場所を聞くとすぐに案内してくれた。
風花はとても緊張している。
個室の豪華な部屋に、また驚き、俺が勧めないと席にもつかなかった。
風花にジュースを頼み、俺たちもジンジャーエールを頼んだ。
コースを予約していたが、メニューをもらい、美味そうなものを全部頼む。
「あの、こんなお店、初めてで」
「ああ、自由に食べてくれな。ワリカンだけどな」
「え!」
「冗談だよ! ちゃんとご馳走するよ」
風花はちょっと笑ってくれた。
「本当に突然で申し訳ない。風花さんがどんなに驚いているかと思うと、申し訳ないばかりなんだけどな」
風花が俺を見ている。
「でも、この六花は、俺にとって大事な人間なんだ。だから妹がいると分かった時点で、どうしても会わせてやりたかった。本当にごめんね」
「いえ。私も驚いてはいますが、今まで自分は一人なんだと思ってましたから、お姉さんがいるなんて」
お姉さんがいて「嬉しい」とは言わなかった。
俺はもう一度、アレクサンドラ(サーシャ)・アシュケナージさんのことを話す。
六花の父親の暴力が原因で家を出なければならなかったこと。
その後、六花も苦労して看護師になったことを話した。
「その後、転々として大阪に来たらしい。そこである男性と親しくなって、君が生まれた」
「はい。でも、私が生まれてすぐに母は亡くなったそうですので、私にはまったく記憶はないんです」
「うん、それも分かっている。大変だったね」
「ええ、でも施設でちゃんと育ててもらいましたから」
六花は涙ぐんでいた。
「今のお店は、社長さんがいい人のようだけど」
「はい! 本当に優しい方で、私は親がいないので就職も難しかったんですが、それでも採用してくださったんです。寮も用意してくださって、よくしてもらってます」
「そうか。良かった」
六花もうんうんと頷いている。
その後もしばらく、塩野社長さんのことや仕事のことを聞いた。
今は肉の加工部門で働いているそうだ。
身体はきついこともあるが、自分を雇ってくれた社長さんのために、一生懸命に働きたいと言った。
料理が運ばれてきて、風花はこんな美味しいものは食べたことがないと言った。
俺と六花はどんどん食べろと勧める。
俺はうちの子どもたちのピラニアぶりを話し、風花は大笑いした。
風花がもう食べられませんと言う。
俺は少したったらまた喰えるからと、ちょっと休ませた。
「あの」
風花はトートバッグから、厚紙に挟んだ一枚の紙を取り出した。
「これは母の遺書なんです。あの、母は日本語が書けませんでしたから、カセットテープに録音していたそうです。後で警察の方が紙に書いてくれて」
六花が緊張した。
「母のものって、これだけなんです。私は顔も知らなくて。六花さんにお見せできるのは」
「ありがとう!」
六花は風花の手を握った。
大粒の涙が毀れてくる。
「おい、大事なものを濡らすな」
俺は六花の肩に手を置いて言った。
「すいません」
「見せてもらってもいいかな」
「はい、どうぞ」
そこには、孤独な女性の悲痛がありありと描かれていた。
捨ててしまった娘への謝罪。
そして生まれた娘への一層の謝罪。
弱い自分を許して欲しいという懇願。
最後に、故郷へ帰りたいと書かれていた。
俺が読み上げると、二人とも泣いた。
俺が調べたサーシャさんのことをすべて話す。
そして六花は、最後の母親の写真を風花に渡した。
「綺麗な人だったんですね」
風花は写真を抱きしめた。
六花が話す。
「風花、こんなことを言ってまた困らせてしまうかもしれないけど、良かったら東京で一緒に暮らさない?」
「え!」
風花は驚いて、少し考えていた。
「あの、申し訳ないんですが、私は今の社長にとても感謝しているんです。ですから、私はここで恩を返したいと思います。すいません」
「いいのよ。それでいい。でも私たちは姉妹なんだから、困ったことがあったら何でも言ってね」
「はい」
俺はサーシャさんの墓を建てたことを伝えた。
納骨も済ませてある。
俺たちは明日墓参りをするつもりだと言い、よかったら一緒に来ないかと誘った。
「是非お願いします」
また朝に店まで迎えに行くこととし、風花を寮まで送った。
俺と六花は、少し飲もうと言い、夜の梅田を歩いた。
「なあ、六花」
「はい」
「大阪っていうのは暖かくていい街だなぁ」
「そうですね」
東京とは違う、人の温もりが溢れているように感ずる。
派手な店構えやバカみたいなネオンがいい。
行き交う女性の派手な服がいい。
大声で怒鳴りあってる酔漢がいい。
「本当にいい所ですよね」
「ああ。風花も、ここがやっぱりいいんじゃねぇか?」
「そうですね」
六花は寂しそうに笑った。
俺たちはホテルに戻り、寝た。
その前に5回やった。
俺の大阪が泣いているぜ!
風花はとても緊張している。
個室の豪華な部屋に、また驚き、俺が勧めないと席にもつかなかった。
風花にジュースを頼み、俺たちもジンジャーエールを頼んだ。
コースを予約していたが、メニューをもらい、美味そうなものを全部頼む。
「あの、こんなお店、初めてで」
「ああ、自由に食べてくれな。ワリカンだけどな」
「え!」
「冗談だよ! ちゃんとご馳走するよ」
風花はちょっと笑ってくれた。
「本当に突然で申し訳ない。風花さんがどんなに驚いているかと思うと、申し訳ないばかりなんだけどな」
風花が俺を見ている。
「でも、この六花は、俺にとって大事な人間なんだ。だから妹がいると分かった時点で、どうしても会わせてやりたかった。本当にごめんね」
「いえ。私も驚いてはいますが、今まで自分は一人なんだと思ってましたから、お姉さんがいるなんて」
お姉さんがいて「嬉しい」とは言わなかった。
俺はもう一度、アレクサンドラ(サーシャ)・アシュケナージさんのことを話す。
六花の父親の暴力が原因で家を出なければならなかったこと。
その後、六花も苦労して看護師になったことを話した。
「その後、転々として大阪に来たらしい。そこである男性と親しくなって、君が生まれた」
「はい。でも、私が生まれてすぐに母は亡くなったそうですので、私にはまったく記憶はないんです」
「うん、それも分かっている。大変だったね」
「ええ、でも施設でちゃんと育ててもらいましたから」
六花は涙ぐんでいた。
「今のお店は、社長さんがいい人のようだけど」
「はい! 本当に優しい方で、私は親がいないので就職も難しかったんですが、それでも採用してくださったんです。寮も用意してくださって、よくしてもらってます」
「そうか。良かった」
六花もうんうんと頷いている。
その後もしばらく、塩野社長さんのことや仕事のことを聞いた。
今は肉の加工部門で働いているそうだ。
身体はきついこともあるが、自分を雇ってくれた社長さんのために、一生懸命に働きたいと言った。
料理が運ばれてきて、風花はこんな美味しいものは食べたことがないと言った。
俺と六花はどんどん食べろと勧める。
俺はうちの子どもたちのピラニアぶりを話し、風花は大笑いした。
風花がもう食べられませんと言う。
俺は少したったらまた喰えるからと、ちょっと休ませた。
「あの」
風花はトートバッグから、厚紙に挟んだ一枚の紙を取り出した。
「これは母の遺書なんです。あの、母は日本語が書けませんでしたから、カセットテープに録音していたそうです。後で警察の方が紙に書いてくれて」
六花が緊張した。
「母のものって、これだけなんです。私は顔も知らなくて。六花さんにお見せできるのは」
「ありがとう!」
六花は風花の手を握った。
大粒の涙が毀れてくる。
「おい、大事なものを濡らすな」
俺は六花の肩に手を置いて言った。
「すいません」
「見せてもらってもいいかな」
「はい、どうぞ」
そこには、孤独な女性の悲痛がありありと描かれていた。
捨ててしまった娘への謝罪。
そして生まれた娘への一層の謝罪。
弱い自分を許して欲しいという懇願。
最後に、故郷へ帰りたいと書かれていた。
俺が読み上げると、二人とも泣いた。
俺が調べたサーシャさんのことをすべて話す。
そして六花は、最後の母親の写真を風花に渡した。
「綺麗な人だったんですね」
風花は写真を抱きしめた。
六花が話す。
「風花、こんなことを言ってまた困らせてしまうかもしれないけど、良かったら東京で一緒に暮らさない?」
「え!」
風花は驚いて、少し考えていた。
「あの、申し訳ないんですが、私は今の社長にとても感謝しているんです。ですから、私はここで恩を返したいと思います。すいません」
「いいのよ。それでいい。でも私たちは姉妹なんだから、困ったことがあったら何でも言ってね」
「はい」
俺はサーシャさんの墓を建てたことを伝えた。
納骨も済ませてある。
俺たちは明日墓参りをするつもりだと言い、よかったら一緒に来ないかと誘った。
「是非お願いします」
また朝に店まで迎えに行くこととし、風花を寮まで送った。
俺と六花は、少し飲もうと言い、夜の梅田を歩いた。
「なあ、六花」
「はい」
「大阪っていうのは暖かくていい街だなぁ」
「そうですね」
東京とは違う、人の温もりが溢れているように感ずる。
派手な店構えやバカみたいなネオンがいい。
行き交う女性の派手な服がいい。
大声で怒鳴りあってる酔漢がいい。
「本当にいい所ですよね」
「ああ。風花も、ここがやっぱりいいんじゃねぇか?」
「そうですね」
六花は寂しそうに笑った。
俺たちはホテルに戻り、寝た。
その前に5回やった。
俺の大阪が泣いているぜ!
0
お気に入りに追加
230
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~
椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」
仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。
料亭『吉浪』に働いて六年。
挫折し、料理を作れなくなってしまった――
結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。
祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて――
初出:2024.5.10~
※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる