上 下
225 / 2,840

入院ってさ、本当に見舞い客を断り辛くて困るんだよなぁ。

しおりを挟む
 結局、俺はまた三日間寝込んだ。
 今回は意識はある。

 ただ、六花がまたしょっちゅう尿瓶とオシメを持ってくるのに閉口した。

 「お前、もうそれはいらないぞ」
 「いいえ、無理はなさらないでください」
 「……」

 使わないが、脱脂綿で拭う作業だけやっていく。
 段々、脱脂綿の面積が小さくなっていった。

 響子もよく来て、ときどき六花の「作業」を興味深げに見ている。
 自分もやりたいと言うが、六花に拒否された。

 「これは、私の「お仕事」です。慣れない者がやってはダメです」
 「六花は慣れてるのね!」
 「その通りです」
 ニコニコと笑って、六花はそう言った。

 

 栞もよく来た。
 花を替え、果物などを剝いてくれる。

 「本当に終わってよかった」
 俺からは詳しいことは言っていないが、恐らく斬のじじぃから聞いているのだろう。

 「じじぃにはお世話になりました」
 「いいのよ、おじいちゃんは石神くんが好きでやってるんだもの」
 背筋が寒くなる。

 「でも本当にじじぃのお蔭で何とかなりましたから。俺が感謝していると、言葉には出さずに、気持ちがちょっとだけ伝わるようにお伝えください」
 「どうやればいいのよ、それ!」

 
 「ねぇ、石神くん」
 「なんですか?」

 「私のこと、怖い? 気持ち悪い?」
 栞は俺を見ずにそう言った。
 栞の手を握る。

 「そんなこと、あるわけないじゃないですか」
 「でも、今回のことで、うちの花岡が……」

 「何を言ってるんですか。ずっと前に「暗殺拳」の家だって話してくれたじゃないですか」
 「そうだけど」

 「愛しています」
 「え、そんな、急に」
 「愛してる、栞」

 栞が俺の胸に飛び込んでくる。
 激痛で、息が止まった。
 しかし、カワイイけど、ちょっとチョロすぎないか?
 まあ、俺の本心だから何の問題もないが。


 「私も、ずっと、昔からずっと……」

 俺たちは唇を重ねた。

 「あの、花岡さん」
 「あ、喋り方が戻った!」
 「いえ、ちょっとだけ胸が痛いんですが」
 「あ、ごめん! すぐにどくね!」
 栞がベッドに手を付いて身体を動かそうとする。
 俺の固い物に触れた。

 「「……」」



 「あのさ」
 「なんですか」
 「ちょっとおとなしくさせようか」
 「いえ、大丈夫ですよ」
 「ちょっとだけだから」
 「いや、まずいですって」

 栞が布団をめくった。



 「あ、花岡さんも「お仕事」するの?」
 響子が入り口で叫んだ。
 六花もいる。

 「あ、違うのよ! ちょっと怪我の具合を見ようとしてて」
 「花岡さん」
 「はい!」
 「それは私の「お仕事」です」
 六花が、泣きそうな顔で言う。

 「石神くん! どういうことなの!」

 「いや、俺は何も!」



 騒がしくてしょうがねぇ。
 


 部下たちはもちろんしょちゅう寄って来る。
 まあ、仕事の指示などもあるから、いい。

 大勢のナースたちも、とっかえひっかえでしょっちゅう見舞いに来る。
 仕事中に立ち寄ってるのか、見舞いに来ているのか区別もつかない。
 追い出すにも俺を心配し、また迷惑をかけたことなので追い出しにくい。
 一応、みんなにも危険な目に遭わせているからなぁ。


 俺の部屋には花や果物や様々な見舞いの品が溢れた。
 一江に言って、時々片付けてもらう。



 熱はまだ高かったが、院長に挨拶に言った。
 今回の件で多大な迷惑をかけ、また院長に命を救われたことを感謝した。

 「俺は詳しいことは何も知らん。チンピラが病院に紛れ込んで、お前が身を盾にして患者とナースを守った。それだけだ」

 アビゲイルからも、同じようなことを言われた。
 とっくに大体の事情は把握しているのだろうが、俺には響子を守ってくれたという礼だけが述べられた。
 必要なら、今後俺に警備を付けようと言ってくれたが、断った。



 俺の子どもたちは、栞、そして一江、大森が中心になって面倒をみてくれた。
 まだ俺が撃たれてから一度も顔を合わせていない。
 事情は上手く一江が説明してくれている。

 暴漢が紛れ込んで、俺が銃で撃たれた、というストーリーだ。
 響子や六花を守ったということは伏せられている。
 今回のことで、余計なことを考えさせたくはない。

 今は念のために、警備員に守られていることになっている。
 子どもたちを近づけないためだ。
 熱が下がれば家に帰れる。
 その時には、犯人が捕まったとでも言おう。
 それで日常が戻る。



 響子と六花がまた来た。

 「ねぇ、タカトラ」
 「なんだ」
 俺はうんしょ、うんしょと言いながら、ベッドに潜り込んだ響子の身体をくすぐってやる。
 キャッキャと喜んでいる。

 「どうして私と一緒の部屋で寝ないの?」
 響子の部屋は豪華だ。
 様々な設備も整っている。

 「それはお前」
 「だって同じ病院にいるのに!」
 「愛し合ってる二人がいつもいちゃいちゃしてると、みんな仕事が手につかなくなるだろう」
 「エヘヘヘ」
 響子が嬉しそうに笑った。

 「響子はカワイイから、嫉妬する男が一杯いるしな」
 「えー、だって私はタカトラのヨメだよ!」
 「そうだよな」
 俺も嬉しくなって笑う。
 胸がちょっと引き攣る。

 「でも一緒にねたいなー」
 「俺もそうなんだけどな」
 「ザンネンねー」
 「ザンネンだよなー」
 
 「石神先生、そろそろ私の「お仕事」を」
 「お前は空気読め!」












 結局、響子はそのまま眠ってしまった。
 響子の体温が心地よい。
 俺もいつのまにか眠った。
 六花はそっと部屋を出て行った。
 多分、笑っているだろう。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...