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狂犬・宇留間 決着

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 宇留間に撃たれて四日目。
 何とか自分の足でトイレまで歩けるようになった。
 点滴を引きずりながら、だが。


 昨日は六花がたびたび来て、俺に尿瓶を使わせた。
 他の看護師には手を出させない。
 希望者が多いようだが。
 そして、オムツをしょっちゅう開いては、丁寧に拭いたあとで交換する。
 別に俺が排泄していなくても、そうした。
 もちろん、どちらの場合もじっくりと俺のものを見て、刺激し、マッサージし、口に含んで行く。

 やっと解放された。
 
 治癒が異常なスピードで進んでいる。






 俺は斬のじじぃに電話した。

 「なんとかキンタマは無事だったようだな!」
 じじぃが笑った。

 「最初の挨拶がキンタマか!」
 「なんじゃ、あんなヘッポコに死にそうな目に遭わされたくせに」
 「……」
 俺は言い返せなかった。
 その通りだった。


 「おい、まさか泣いてるのか?」
 「ふざけろ! クソじじぃ!」

 俺たちは一頻り罵り合う。

 「おい、じじぃ。宇留間の居場所を教えろ」
 「知らんな」
 「自慢の花岡もヘッポコか」
 「なんじゃと!」

 話す気はないらしい。

 「交換条件だ」
 「はっ! 何をお前が出せる?」
 「人参だ」
 「なに?」

 「女王蜂と働き蜂だ」
 「お前、何を言ってる?」

 「働き蜂は、ある特殊な食事を食べる」
 「……」
 「その食事によって、女王蜂に尽くす働き蜂になる」

 斬のじじぃが黙っている。

 「おい、耳が遠くなったか?」
 「お前!」
 「この話を、お前の大事な網に撒くか?」
 大きな資金源とコネクションの材料が、人参の危険性によって喪われるだろう。

 「くそ! 分かった。教える」
 「どこだ?」
 「狸穴だ。お前には手も足も出ないだろう」

 なるほど。大使館に逃げ込めば、警察も追えない。



 「ありがとう、斬」
 「お前、ヘンなものでも喰ったか?」
 「お前がいなけりゃ、辿り着けなかった」
 「そりゃそうだろうな。でも、お前、どうしようもないじゃろう」
 
 「へっ! 任せろ!」







 舐めるなよ、じじぃ。
 俺は近くの大使館を片っ端から取り込んでいるんだぞ。
 何晩、ハラショーな変態SMパーティに付き合ったと思ってんだ。
 みんなでクソ塗れになって、兄弟と呼び合う程になった連中は多い。



 俺は特別に教わった秘匿番号に電話した。










 三田公園を待ち合わせ場所に指示された。
 念入りなボディチェックの後で、俺は迎えに来たアウルス・セナートのリムジンに乗り込んだ。
 当然、桁数の多い大使館ナンバーだ。


 しばらくゆっくりと周辺を回って、狸穴に向かう。

 運転手の他に、3人の屈強な男が座っている。
 無言で俺を見ていた。
 スーツの胸の膨らみは、ガンだろう。



 正門が開き、中へ入った。

 兄弟付き合いのピョートルが玄関で迎えに出ていた。


 「まったく、兄弟には無茶を言われる」
 挨拶が終わると、そう言われた。

 「ウルマには、いろいろと働いてもらったからね。でももうウルマの組織も終わりだ。我々も持て余していたのさ」
 「そうか、兄弟。いろいろ手間を取らせて申し訳ないな」
 「いいって。またヤロウぜ!」
 「ああ」
 これから行なわれることを前に、ピョートルは何の感慨もない。




 俺は敷地の中を歩かされ、奥まった開けた場所に立つ小さな建物に案内された。
 三人の男は車からずっと付いて来た。

 ピョートルが鍵を開け、ドアを開いた。

 宇留間が裸で椅子に縛られていた。




 「いいザマだな、宇留間!」
 「石神ぃ!」

 ピョートルが「これでいいか?」と俺にナイフを手渡す。
 俺は頷いて受け取る。

 「石神、お前どうして生きてる!」
 「中卒のお前が、東大卒の俺に敵うわけねぇだろう」
 
 「ふざけんな! あの弾を喰らって内臓はズタズタになったはずだ!」
 「だから学歴の差だって」
 俺は宇留間が悔しがると思って、そう言った。



 「なんなんだ、一体。昨日までは俺はじきにロシアに行く予定だったのに。今朝になったら」
 「お前、そういえば中学にもろくに行ってなかったよな。お前が卒業にぐずついてる間に、俺は毎年1億円以上稼ぐエリートになったんだぞ」
 「クソッ! クソッ!」

 「お前はずっと底辺の虫だったって話だよ!」
 「てめぇ!」

 「お前、あれだけの組を立ち上げて、年間幾ら稼いだのよ?」
 「……」

 「まあ、お前の安っぽい恰好を見れば分かるけどなぁ」
 「!」



 「終わりだ、宇留間。あの時と同じだ。お前は惨めに俺に潰されるんだ」
 「このやろう!」

 

 俺が宇留間に近づこうとした時、建物の壁の一部が崩壊した。
 三人の男が素早い動作で銃を向ける。

 黒いセーター、黒いズボンの男が土煙の中を飛び出して来た。
 ひょっとこの面を被っていた。

 男は宇留間に向かって小さく手を振った。




 宇留間が消し飛んだ。




 銃声がする。
 しかし、もう黒い男の姿はなかった。

 三人の男は電話を取り出して駆け出した。
 ピョートルと二人だけになり、俺は宇留間だった血溜りに近づいた。

 ナイフで床面に「バーカ」と彫り込んだ。







 死王め、帰ったんじゃねぇのか。
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