187 / 2,840
皇紀、ドライブ。 横浜篇
しおりを挟む
土曜日の夜。
俺は皇紀を誘ってドライブに出た。
皇紀は大人しい優しい性格のため、普段はあまり話をしない。
たまには男同士で外に出て、いろいろ話をしたかった。
フェラーリで横浜の金沢の海に行く。
「お前、柳が好きになったか?」
俺は行きの車の中で、皇紀に聞く。
「え、そんな……」
皇紀は突然の質問に戸惑うが、否定はしねぇ。
「別に誰を好きになったっていいんだぞ」
「いえ、でも」
「カァー! お前は煮え切らねぇ奴だなぁ! 柳は美人だしスタイルもいいし、楽しい奴だしな。いいじゃないか、あの女は」
「そ、そうですね」
「お前がドイツ語を勉強してるって言ったら驚いてたぞ」
「そうなんですか?」
皇紀の顔が少し明るくなる。
「あいつは勉強は真面目で出きる奴だけどな。それ以外のことはあんまりなんだよ。今回はそういうことに気付いたようだな。お前たちのお蔭だ」
「そうなら嬉しいです」
「それで柳のどこがいいんだよぅ?」
皇紀は抵抗したが、俺は無理矢理に聞く。
「そうですね。顔がキレイなのと、あとは僕なんかにも優しいことですかね」
年上お姉さんに憧れるガキそのものじゃねぇか。
「オッパイはどうだよ?」
「僕はそういうのは、あんまり」
「花岡さんって大きいですよね」
「ナニ!」
「タカさんは大きいのがいいんですか?」
「お前、ちゃんと反撃できる人間になってきたな!」
俺たちは笑った。
「別にどっちでもいいんだけどなぁ。緑子なんかは小さいじゃない」
「そういえば」
「でもあいつのことも大好きだしな」
「そうですか」
「響子なんか何にもねぇ!」
「アハハハ!」
車は横浜を抜ける。
「でもなぁ、花岡さんのは「魔乳」と言ってなぁ」
「なんですか、マニュウって?」
「どんなチッパイ好きな奴でも、ロリコンでも、あの乳を見たら魅了されるというものなんだよ」
「へぇー!」
「お前も見れば分かる」
「タカさんは見たんですね!」
「攻撃するな!」
男同士のくだらない会話はいい。
まあ、俺は女相手でもエロ話をするが。
「ちょっと海辺で軽く食べるか」
「いいですね!」
俺は横浜市内のスーパーを見つけ、車を停めて買い物をした。
残ったら亜紀ちゃんたちにも食べさせようと、大量の焼き鳥やその他の惣菜を買い込む。
出てくると、入り口脇に、花火の露天が出ていた。
面白そうなので、それも大量に、というかほとんど買い占めた。
「そんなに買って大丈夫なんですか?」
「花火っていうのは嫌になるほどやるもんなんだよ」
「そうなんですか」
まあ、残るだろうけど、家でもできるしな。
これも焼き鳥と一緒に土産だ。
金沢文庫の海岸に着いた。
皇紀に途中の寺の人形供養を見せて怖がらせようとしたが、門が閉まっていた。
残念。
夕涼みだろうか。
結構子どもを連れた人たちがいて、花火なんかもやっている。
カップルも多い。
俺たちはレジャーシートを敷いて、しばらく夜の海を眺めた。
「こういうのもいいですね」
皇紀がしんみりと言う。
こいつは大人しいが、感性は鋭い。
「俺は昼の海は好きじゃないんだが、夜の海は好きなんだよな」
「いいですよね」
《昼の光に、夜の闇の深さが分かるものか》(dass ich von Licht umgürtet bin. Ach, dass ich dunkel wäre und nächtig! )
「ニーチェの言葉だよなぁ。いいだろう!」
「はい!」
「ニーチェが言う昼の光というのは、神が人間のために用意したものだ。しかしニーチェは神が死んだことで、それ以外のものを求める必要があった。それが「夜」というものだ」
俺たちはまた、ニーチェの話で盛り上がる。
いつの間にか、多くの人が俺たちを囲んでいた。
何人かがスマホで写真を撮ったり、動画で撮影してるらしい奴もいる。
俺は一通り話して、周囲の人々に頭を下げた。
「こんな場所ですいません。息子と話が夢中になってしまいまして」
「いいえ! すばらしいお話でした!」
みんなが良かったと言ってくれた。
皇紀も子どもなのにすごかったとも褒めてもらう。
俺は嬉しくなり、大量の花火をみなさんに配って一緒にやりましょうと誘った。
焼き鳥などもみんなに配って、どんどん食べてくださいと言う。
二十人近い、大人も子どもも、熟年夫婦も若いカップルも、高校生らしき男女もいた。
みんなで花火大会をやった。
俺は噴射式の花火を両手と口にくわえ、くるくると回った。
みんなが拍手をしてくれる。
皇紀が同じことをしたがるので、拳骨を喰らわした。
みんなが笑う。
一時間も、それぞれに楽しんでもらった。
俺は高校生のカップルと仲良くなった。
女の子の方が、看護師になりたいのだと聞いたからだ。
「じゃあ、なったらうちの病院へ来いよ!」
「ほんとですか!」
俺は名刺を渡した。
「試験とかあるけどな!」
「えぇ、コネじゃ入れないんですか!」
「あたりまえだ!」
二人は笑って、女の子は絶対に面接に行くと言った。
花火が全部終わり、集まった人たちが後片付けはやると言ってくれた。
みんなが駐車場まで見送りに来てくれる。
俺と皇紀がフェラーリに乗り込むと、みんな驚いていた。
エンジンを暖気し、手を振って別れた。
翌週の月曜日。
一江から先週の報告と今週の予定を聞いた。
「おう! 問題ないな」
「はい、ところで」
一江がスマホで俺に動画を見せる。
スマホの小さな画面の中で、男が花火をくわえて楽しそうに舞っている。
「……」
「これって部長ですよね?」
「お前、なんでそれを!」
「大手投稿サイトで、「海辺でニーチェを語るフェラーリの男」という投稿を見つけました」
「だから、なんでそんなものを」
「部長、あれからずっと毎日ニーチェとかフェラーリとか検索してるんですよ! アレ、大変だったじゃないですか!」
「そうか、すまん」
「そうしたら昨日、投稿を見つけて。動画のURLも貼ってあったんです」
「もしかして?」
「そうですよ! 「フェラーリ・ダンディ」ともう繋がってますって!」
「……」
その夜。
俺はうろうろしている皇紀の尻を蹴り、亜紀ちゃんに叱られた。
俺は皇紀を誘ってドライブに出た。
皇紀は大人しい優しい性格のため、普段はあまり話をしない。
たまには男同士で外に出て、いろいろ話をしたかった。
フェラーリで横浜の金沢の海に行く。
「お前、柳が好きになったか?」
俺は行きの車の中で、皇紀に聞く。
「え、そんな……」
皇紀は突然の質問に戸惑うが、否定はしねぇ。
「別に誰を好きになったっていいんだぞ」
「いえ、でも」
「カァー! お前は煮え切らねぇ奴だなぁ! 柳は美人だしスタイルもいいし、楽しい奴だしな。いいじゃないか、あの女は」
「そ、そうですね」
「お前がドイツ語を勉強してるって言ったら驚いてたぞ」
「そうなんですか?」
皇紀の顔が少し明るくなる。
「あいつは勉強は真面目で出きる奴だけどな。それ以外のことはあんまりなんだよ。今回はそういうことに気付いたようだな。お前たちのお蔭だ」
「そうなら嬉しいです」
「それで柳のどこがいいんだよぅ?」
皇紀は抵抗したが、俺は無理矢理に聞く。
「そうですね。顔がキレイなのと、あとは僕なんかにも優しいことですかね」
年上お姉さんに憧れるガキそのものじゃねぇか。
「オッパイはどうだよ?」
「僕はそういうのは、あんまり」
「花岡さんって大きいですよね」
「ナニ!」
「タカさんは大きいのがいいんですか?」
「お前、ちゃんと反撃できる人間になってきたな!」
俺たちは笑った。
「別にどっちでもいいんだけどなぁ。緑子なんかは小さいじゃない」
「そういえば」
「でもあいつのことも大好きだしな」
「そうですか」
「響子なんか何にもねぇ!」
「アハハハ!」
車は横浜を抜ける。
「でもなぁ、花岡さんのは「魔乳」と言ってなぁ」
「なんですか、マニュウって?」
「どんなチッパイ好きな奴でも、ロリコンでも、あの乳を見たら魅了されるというものなんだよ」
「へぇー!」
「お前も見れば分かる」
「タカさんは見たんですね!」
「攻撃するな!」
男同士のくだらない会話はいい。
まあ、俺は女相手でもエロ話をするが。
「ちょっと海辺で軽く食べるか」
「いいですね!」
俺は横浜市内のスーパーを見つけ、車を停めて買い物をした。
残ったら亜紀ちゃんたちにも食べさせようと、大量の焼き鳥やその他の惣菜を買い込む。
出てくると、入り口脇に、花火の露天が出ていた。
面白そうなので、それも大量に、というかほとんど買い占めた。
「そんなに買って大丈夫なんですか?」
「花火っていうのは嫌になるほどやるもんなんだよ」
「そうなんですか」
まあ、残るだろうけど、家でもできるしな。
これも焼き鳥と一緒に土産だ。
金沢文庫の海岸に着いた。
皇紀に途中の寺の人形供養を見せて怖がらせようとしたが、門が閉まっていた。
残念。
夕涼みだろうか。
結構子どもを連れた人たちがいて、花火なんかもやっている。
カップルも多い。
俺たちはレジャーシートを敷いて、しばらく夜の海を眺めた。
「こういうのもいいですね」
皇紀がしんみりと言う。
こいつは大人しいが、感性は鋭い。
「俺は昼の海は好きじゃないんだが、夜の海は好きなんだよな」
「いいですよね」
《昼の光に、夜の闇の深さが分かるものか》(dass ich von Licht umgürtet bin. Ach, dass ich dunkel wäre und nächtig! )
「ニーチェの言葉だよなぁ。いいだろう!」
「はい!」
「ニーチェが言う昼の光というのは、神が人間のために用意したものだ。しかしニーチェは神が死んだことで、それ以外のものを求める必要があった。それが「夜」というものだ」
俺たちはまた、ニーチェの話で盛り上がる。
いつの間にか、多くの人が俺たちを囲んでいた。
何人かがスマホで写真を撮ったり、動画で撮影してるらしい奴もいる。
俺は一通り話して、周囲の人々に頭を下げた。
「こんな場所ですいません。息子と話が夢中になってしまいまして」
「いいえ! すばらしいお話でした!」
みんなが良かったと言ってくれた。
皇紀も子どもなのにすごかったとも褒めてもらう。
俺は嬉しくなり、大量の花火をみなさんに配って一緒にやりましょうと誘った。
焼き鳥などもみんなに配って、どんどん食べてくださいと言う。
二十人近い、大人も子どもも、熟年夫婦も若いカップルも、高校生らしき男女もいた。
みんなで花火大会をやった。
俺は噴射式の花火を両手と口にくわえ、くるくると回った。
みんなが拍手をしてくれる。
皇紀が同じことをしたがるので、拳骨を喰らわした。
みんなが笑う。
一時間も、それぞれに楽しんでもらった。
俺は高校生のカップルと仲良くなった。
女の子の方が、看護師になりたいのだと聞いたからだ。
「じゃあ、なったらうちの病院へ来いよ!」
「ほんとですか!」
俺は名刺を渡した。
「試験とかあるけどな!」
「えぇ、コネじゃ入れないんですか!」
「あたりまえだ!」
二人は笑って、女の子は絶対に面接に行くと言った。
花火が全部終わり、集まった人たちが後片付けはやると言ってくれた。
みんなが駐車場まで見送りに来てくれる。
俺と皇紀がフェラーリに乗り込むと、みんな驚いていた。
エンジンを暖気し、手を振って別れた。
翌週の月曜日。
一江から先週の報告と今週の予定を聞いた。
「おう! 問題ないな」
「はい、ところで」
一江がスマホで俺に動画を見せる。
スマホの小さな画面の中で、男が花火をくわえて楽しそうに舞っている。
「……」
「これって部長ですよね?」
「お前、なんでそれを!」
「大手投稿サイトで、「海辺でニーチェを語るフェラーリの男」という投稿を見つけました」
「だから、なんでそんなものを」
「部長、あれからずっと毎日ニーチェとかフェラーリとか検索してるんですよ! アレ、大変だったじゃないですか!」
「そうか、すまん」
「そうしたら昨日、投稿を見つけて。動画のURLも貼ってあったんです」
「もしかして?」
「そうですよ! 「フェラーリ・ダンディ」ともう繋がってますって!」
「……」
その夜。
俺はうろうろしている皇紀の尻を蹴り、亜紀ちゃんに叱られた。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
こずえと梢
気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。
いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。
『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。
ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。
幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。
※レディース・・・女性の暴走族
※この物語はフィクションです。
~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました
深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる