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双子、大精霊界へ。 Ⅱ

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 「いいか、奥様のカレーは絶品だ! 頼むから味わって喰ってくれ!」

 俺は無駄とは知りながら、双子に言う。

 「「はーい!」」

 こいつら、いつも返事だけはいい。

 「遠慮なくめしあがれ」
 「「「いただきまーす」」」



 やはり美味い。
 自分で作るカレーはもちろん好きだが、静子さんのものは、まあ俺にとっては思い出の味だしなぁ。
 院長はそんなに好きではないだろうから、もう滅多に作らないのだろうが。

 それでも、院長も文句も言わずにもくもくと食べている。



 双子はもちろんそれどころではない。
 なんだろう。食べるペースはそんなに早くもないように見える。
 しかし、空になるのが早ぇ。

 18合のご飯がみるみる減っていく。
 寸胴のカレーもそれに伴って減っていく。

 合間においしい、おいしいと言ってはいるのだが、ホラー映画に甘いラブソングを流しているようだ。


 「相変わらずだなぁ」
 院長が言う。
 「何度見ても凄いですねぇ」
 静子さんは、自分の想像を絶していたことを考えているだろう。


 俺は猛獣使いにでもなった気分だ。
 もうこいつらの生態は把握している。



 計算通りにご飯もカレーも丁度尽き、双子は大満足で食事を終えた。

 「ピラニアの怨霊とか見えませんか?」
 「俺は霊能者じゃねぇ!」


 あまりに申し訳なく、俺は静子さんに休んでもらって、洗物をする。
 当然双子も手伝う。


 「そんな、ルーちゃんもハーちゃんも座ってて」
 「そうはいきません。いつもお世話になったら礼儀で返せと言ってますんで」
 ルーもハーも、「当然なのです」と言う。

 静子さんは笑って院長と二人で双子の片づけを見ていた。



 お風呂をいただき、双子は先に休ませてもらった。

 リヴィングで、静子さんが俺にビールを出してくれる。
 院長はお茶だ。
 静子さんも自分のお茶を煎れる。

 「あー、楽しかった!」
 静子さんが伸びをしながら言ってくれた。
 「本当に騒がしい連中ですいません」
 「いや、俺も楽しかった」
 院長は双子が寝たのを確かめて、大精霊の衣装を脱いでいた。

 「あれ、ヘンゲロムベンベがいねぇ」
 俺は頭をはたかれた。
 静子さんが笑う。


 俺は最近の双子のお気に入りを話した。

 「前に花岡さんの家に行って、合気道を見せてもらったんですよね」
 「ああ、ゴールデンウィークか」
 「はい。それで双子が夢中になっちゃって」
 「何をしてるの?」
 「毎朝俺を起こしに来るんですが、ベッドで関節技をかけようとするんですよ」
 「まあ、アハハハ!」
 静子さんがおかしそうに笑う。

 「冗談じゃないですよ、まったく。「花岡流!」とか言いながら蹴りやパンチも来ますからねぇ。まあ大体は甘えて抱きつきながら関節技なんですが」
 「結構大きくなったから、お前も大変だろう」
 「そうなんです。蹴りやパンチはさすがに止めさせましたけどね」

 「言うことを聞くの?」
 「まあ、両頬に思い切り言い聞かせましたから」
 「あら、かわいそうに」
 「ダメですよ、あれは猛獣ですから」
 お二人が笑った。



 また、双子が学校を支配しかけているという話もした。
 静子さんは呆れながら、無茶苦茶を教える俺を叱った。


 あまり笑いすぎると寝られないから、と静子さんは先に休まれた。
 後姿を目で追っていた院長は、俺を見る。




 「今日もありがとうな」
 「また、気持ち悪いですって」
 頭をはたかれる。



 「今日はずっと双子を観ていたけどな」
 院長が真剣な顔になる。
 「はい」

 「やっぱり異常だぞ、あの子たちは」
 「何があったんですか?」

 「庭を案内していた時に、どこの木が光ってるとか言うんだよ」
 「はあ」
 「全部俺が光を注いだものなんだよ」
 「え?」
 「お前の家でやったのに興味が出てな。自分の庭でもやってみたんだ」



 「家の中でもおかしかった。何か見えるみたいだぞ」
 「何が?」

 「俺にも分からん」
 役に立たねぇなぁ。

 「お前の家ではそんな素振りはないのか?」
 「あまり気付きませんねぇ。でも、双子が怖がるようなものがあったら嫌じゃないですか」
 「まあ、それはそうだな」

 俺はこないだ観た『パラノーマル・アクティビティ』を思い出した。 



 「俺も協力するから、お前もちゃんと育てるんだぞ」
 「ありがとうございます」
 やってるつもりだけどな。



 「ところでな」
 「はい」
 「お前、上司に茶を注ぐくらいしろ!」
 「俺もさっきから手酌ですが」
 「お前はいつも!」
 「声がでかいですって」
 「……」

 「まあいい。おい、明日は子どもたちが起きたらすぐに俺に知らせろよ」
 「何かあるんですか?」







 「またあれを着なきゃダメだろう!」 
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