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それは彼だったから、それは僕だったから
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「ねえ、御堂くんて、どうしてこんな奴と親しくしてるの?」
居酒屋で奈津江が御堂に言った。
「お前、そりゃねぇだろう」
「だって、全然タイプが違うじゃない。御堂くんは優しい紳士で、顔まで美青年って感じでしょ?」
「まあ、そうだな」
「石神くんは喧嘩バカで、品がなくて、ただのバカじゃない」
「そうなのか?」
御堂は笑っている。いつものことだ。
栞は「またか」という顔をしている。
奈津江は御堂のこの上ない優しさをいつも褒めていた。
信頼していた、と言ってもいいだろう。
御堂と一緒にいるときは、常に御堂を褒め、俺をけなす。
もちろん、俺に惚れているのが分かっているので、怒ることもない。
栞は奈津江が言い過ぎると止める、という役目になっていた。
「奈津江、いい加減にしないと、御堂くんも困ってるじゃない」
「いや、こいつ笑ってるけど」
「もう!」
「あ、そういえばまたK大の人と喧嘩したでしょう!」
「うん」
なんで知ってんだ?
「あのね、いつも栞が教えてくれるの!」
「そういえば花岡さん、毎回見に来るよね?」
「うん、私ああいうの結構好きなんだ」
「栞って時々ヘンなんだよねぇ」
「石神くんって、すごいのよ! もう本当に秒殺。いつも五秒以内よね?」
「どうだったかな」
「それで、いつも動きが綺麗なの。暴力をあんなに綺麗に見せる人っていないのよ?」
「あー、あたしには全然分かんない」
「御堂くんは見たことある?」
「うん、何度もね。石神は自分からは絡まないけど、よくいろんな人間に絡まれるなぁ」
「そうなんだよ。俺は別に暴力人間じゃないんだ」
「ふーん、まあ御堂くんが言うなら、1%は信じてあげる」
「すくなっ!」
「ねぇ、それで御堂くんは、どうしてこんなのと付き合ってるの?」
また最初に戻る。
《それは彼であったから――それは私であったから》
モンテーニュが親友ボエシについて語った言葉が、そのまま俺たちの関係だった。
それ以前でも以降でも、話していて楽しい奴、信用できる奴、尊敬する方。いろんな人間と出会ったが、御堂ほど自分が「共に在る」と感じられる人間はいなかった。
楽しく遊ぶ必要も、楽しく語り合う必要もなかった。
相手がこの地上にいるだけで、俺たちは無二の親友だった。
この先、死ぬまで会わなかったとしても、一言の会話すらなかったとしても、俺たちは親友だ。
大学三年の夏休み。
御堂の実家にお邪魔したとき。
御堂は広い庭にテーブルと椅子を出した。
御堂の実家は山の麓にあり、夕方になると涼しくなる。
御堂はそこに冷えたビールと簡単なつまみを用意してくれた。
そして縁側に出したミニステレオで、『ベルガマスク組曲』を流した。
暮れ行く景色の中で、俺たちは少しだけ話をし、音楽に浸った。
「Duendeが来たな」
御堂が言った。
その通りだと思った。
あの時間は、俺の中で最も美しい場所になっている。
「ねえ、お願いだから教えて。御堂くんはなんで高虎がいいの?」
「困ったな」
真面目な御堂は考え込んだ。
「やっぱり、それは説明できないかな。僕の中で、そうなっちゃったから、としか言いようがないよ」
奈津江は嬉しそうに笑って言った。
「うん、私もそうかな」
居酒屋で奈津江が御堂に言った。
「お前、そりゃねぇだろう」
「だって、全然タイプが違うじゃない。御堂くんは優しい紳士で、顔まで美青年って感じでしょ?」
「まあ、そうだな」
「石神くんは喧嘩バカで、品がなくて、ただのバカじゃない」
「そうなのか?」
御堂は笑っている。いつものことだ。
栞は「またか」という顔をしている。
奈津江は御堂のこの上ない優しさをいつも褒めていた。
信頼していた、と言ってもいいだろう。
御堂と一緒にいるときは、常に御堂を褒め、俺をけなす。
もちろん、俺に惚れているのが分かっているので、怒ることもない。
栞は奈津江が言い過ぎると止める、という役目になっていた。
「奈津江、いい加減にしないと、御堂くんも困ってるじゃない」
「いや、こいつ笑ってるけど」
「もう!」
「あ、そういえばまたK大の人と喧嘩したでしょう!」
「うん」
なんで知ってんだ?
「あのね、いつも栞が教えてくれるの!」
「そういえば花岡さん、毎回見に来るよね?」
「うん、私ああいうの結構好きなんだ」
「栞って時々ヘンなんだよねぇ」
「石神くんって、すごいのよ! もう本当に秒殺。いつも五秒以内よね?」
「どうだったかな」
「それで、いつも動きが綺麗なの。暴力をあんなに綺麗に見せる人っていないのよ?」
「あー、あたしには全然分かんない」
「御堂くんは見たことある?」
「うん、何度もね。石神は自分からは絡まないけど、よくいろんな人間に絡まれるなぁ」
「そうなんだよ。俺は別に暴力人間じゃないんだ」
「ふーん、まあ御堂くんが言うなら、1%は信じてあげる」
「すくなっ!」
「ねぇ、それで御堂くんは、どうしてこんなのと付き合ってるの?」
また最初に戻る。
《それは彼であったから――それは私であったから》
モンテーニュが親友ボエシについて語った言葉が、そのまま俺たちの関係だった。
それ以前でも以降でも、話していて楽しい奴、信用できる奴、尊敬する方。いろんな人間と出会ったが、御堂ほど自分が「共に在る」と感じられる人間はいなかった。
楽しく遊ぶ必要も、楽しく語り合う必要もなかった。
相手がこの地上にいるだけで、俺たちは無二の親友だった。
この先、死ぬまで会わなかったとしても、一言の会話すらなかったとしても、俺たちは親友だ。
大学三年の夏休み。
御堂の実家にお邪魔したとき。
御堂は広い庭にテーブルと椅子を出した。
御堂の実家は山の麓にあり、夕方になると涼しくなる。
御堂はそこに冷えたビールと簡単なつまみを用意してくれた。
そして縁側に出したミニステレオで、『ベルガマスク組曲』を流した。
暮れ行く景色の中で、俺たちは少しだけ話をし、音楽に浸った。
「Duendeが来たな」
御堂が言った。
その通りだと思った。
あの時間は、俺の中で最も美しい場所になっている。
「ねえ、お願いだから教えて。御堂くんはなんで高虎がいいの?」
「困ったな」
真面目な御堂は考え込んだ。
「やっぱり、それは説明できないかな。僕の中で、そうなっちゃったから、としか言いようがないよ」
奈津江は嬉しそうに笑って言った。
「うん、私もそうかな」
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