上 下
144 / 2,840

響子、三浦半島へ行く。

しおりを挟む
 響子とドライブ。


 俺は幾つかの案を考えたが、これは、というものが思いつかなかった。

 運送ということで、俺は入間翁に相談した。

 「ああ、ちょっと待って。おい!」
 
 入間翁は、車両係の武井さんという方を紹介してくれた。
 俺は武井さんに、闘病中の病人が乗れる、振動のない車はないかと聞いた。

 「あ、丁度いいものがありますよ。以前に脊髄を壊した方を乗せる車をお借りしたことがあるんです」

 そういう、特殊車両を扱う会社があるのだという。
 早速資料を送ってもらうことにした。



 数日後、届いた資料を見て、俺は納得した。
 素晴らしい技術だ。

 運転席は普通だが、助手席はリクライニングのベッドのようになっている。
 エアサスペンションは特注で、路面の凹凸を感じさせない。
 さらに助手席は最新のクッション設計になり、前後左右のGをすべて吸収してくれる。
 しかも、サイズが変えられ、子供用もあるようだ。

 俺は武井さんに礼を言い、一度試乗できるか確認した。
 すぐに電話で日時をセッティングしてくれた。


 実際に乗り心地を確認した俺は、響子とのドライブの日程を決めた。





 その日、響子は朝から嬉しそうだった。
 事前に希望を聞くと、海が見たいと言う。
 俺は、三浦海岸へ行くことに決めた。


 六花が同行を申し出るが、響子に却下された。

 「じゃまです」

 六花は泣きそうな顔をする。
 生憎、車は二人乗りだしな。


 響子は麻のベージュのワンピースを着て来た。
 俺も麻のスーツを着ていた。ヒッキー・フリーマンだ。
 それにカザールのサングラスを嵌めている。


 俺たちは、品川、横浜を抜け、なるべく海沿いのコースで進んだ。

 「どうだ、響子。辛くはないか?」
 「うん、平気」

 響子は海が見えるたびに、声を上げて喜んだ。

 その合間、こないだ六花と行った栃木の話をしてやる。
 六花がレディースの総長をしていたという話に、響子は喜んだ。
 レディースだの、総長だのという説明が必要だったが。



 「六花って、ときどきヘンなアクセントで話すよね」
 「ああ、レディースが気合を入れる話し方だな」
 「そうだったんだぁ」

 「おーんーなぁーはぁー! おーとーこぉーにぃー、こびーねぇーえぇー!」

 響子は六花の真似をした。
 俺は大笑いした。

 「お前も少し大きくなったら、チームを組むか?」
 「うん、タカトラと六花と三人で走ろう!」
 「おう、面白そうだな」

 でかいバイクで三人で疾走したら、どんなにか楽しいだろう。
 だが、そんな日は永遠に来ない。




 俺はバイクの話をしてやった。
 俺が乗っていたヤマハRZ250。

 「今はもう、2ストロークのエンジンなんかねぇけどな。あれはカッチョ良かったんだよ」
 「へぇー」

 「カーン、って音で走るんだよな。もう、エモーションあげあげよ」
 「アハハハ」

 「もう誰も追いつけねぇ。まあ、追い抜こうとする奴は全部蹴りを入れたからな」
 響子は楽しそうだ。



 「あるとき、先輩が最新の「カタナ」ってバイクを買ったんだ」
 「カタナって、日本刀?」
 「そうだ。これがまたカッチョよくてなぁ。逆輸入で無理矢理買ったんだけど、俺が是非乗らせてくれって頼んだんだよ」
 「ふーん」
 「それが、派手に転んでなぁ」
 「ええ!」

 「バイクはボロボロ、俺はかすり傷」
 「あははは」

 「先輩に言い訳できねぇ。相当無理して手に入れたもんだからな」
 「タカトラはどうしたの?」

 「敵チームにやられたって言った」
 「えぇー、ウソじゃん」
 「しょうがねぇだろう。とてもじゃねぇが弁償できねぇ」
 「ずるーい」
 「それで抗争よ」
 「ひどすぎるー!」
 「俺が頑張ってヘッドと幹部を土下座させて、500万くらい収めさせたかな」



 「ちょっとタカトラがワル過ぎて、私ひいてます」
 「お前なぁ、六花だって似たようなことやってるぞ?」
 「六花は優しいから、そんなことしません」
 「じゃあ、電話してみろよ」

 響子は俺のスマホで、六花に電話する。
 敵チームと抗争で、金を巻き上げたか聞け、と言った。

 「六花は、そんなひどいことしてないって!」

 「……」

 響子はしばらく六花と楽しくおしゃべりしていた。



 昼時なので、カフェに入る。
 ガラス張りのお洒落な店だった。

 響子はあまり食べられないので、普通のレストランではなく、軽食が豊富な店を選んだのだ。

 響子はパフェとバナナクレープを。
 俺はカレーを頼む。

 「どうだ、疲れただろう」
 「ううん、全然平気」
 「そうか? 今日はずい分遠くまで来たぞ?」
 「大丈夫だって」

 自分で言うとおり、響子はパフェを半分ほど食べ、クレープは全部食べた。
 
 「はい、あーん」

 響子はいつものように、残したものを俺に食べさせる。

 その時、女性たちが4名ほど近づいて来た。

 「あの、写真を撮ってもいいですか?」

 「Of couse! No problem」

 俺の意見は!

 スマホでパチパチ響子を撮る。
 そして、あーんも撮られた。

 カワイー、素敵ぃー、と騒いでいる。

 「あの、お子さんですか?」
 「いや、彼女です」

 「「「「えぇー!」」」」
 
 「Yes sure!」




 俺は、ハッと以前の失敗を思い出した。

 「いや、冗談だから。前にさ、息子と夜にベンチで話してたら、ネットで拡散しちゃって困ったんだ。今日の写真は個人的に収めてね」
 「あ! フェラーリ・ダンディ!」

 一人の女の子が叫ぶ。
 どうも、あの夜の写真の他、俺がフェラーリを運転している画像も出回っていたらしい。
 一体どこから……。

 「ちょっと待て、今日はフェラーリじゃねぇから」
 「あ、じゃあやっぱり、フェラーリ・ダンディさんなんですね!」

 しまったぁ!

 「すごい指輪!」
 俺のデビアスの原石の指輪を見られた。
 「やっぱり、フェラーリ・ダンディ!」

 
 俺はサングラスを嵌め、早々に店を出た。
 何度もネットに流さないように念を押した。





 「なんで俺の顔が出回ってるんだろうな?」
 響子が俺をじっと見ていた。









 「あのね、私がアップしたの」
 「……」
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...