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花岡流暗殺拳 Ⅳ

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 俺たちは着替えて、最初の和室に通された。


 「タカさん、あのおじいちゃんって、なんだったんでしょうか」

 「俺にも分からないよ。て言うか理解したくもねぇよなぁ」

 亜紀ちゃんは、少し笑顔になった。
 双子も多少は落ち着いたようで、出されたジュースが美味しくないとか文句を言っている。

 皇紀はずっと俺を見ている。
 目がキラキラしていた。




 栞が部屋に入ってきた。

 「あの、石神くん、これでいいかな?」

 手に、布に包まれた細長いものを持っている。

 テーブルに広げ、俺に見せた。

 黒の漆が塗られ、螺鈿の細工がほどこされた、見事な小刀。
 俺が鞘を抜くと、美しい波紋があった。
 業物だ。


 立って軽く振ってみると、バランスも素晴らしい。

 「タカさん、カッコイイ!」
 皇紀が呟く。

 俺は皇紀を見て、にこっと笑ってやる。




 「じゃあ、これを預かります」

 「本当にごめんなさい。みんなも、ごめんね」


 その時、戸が開かれ、栞の両親とじじぃが入ってきた。
 じじぃは手錠をされている。

 もう一度、全員から謝られ、俺も謝罪を受け入れた。



 「手錠が似合うな、じじぃ!」

 「ふん、これはワシが自分で嵌めたんじゃ! お前を見てると身体が疼くからな!」
 「てめぇ、全然反省してねぇじゃねぇか!」

 栞を見ると、両親と共に困った顔をしている。
 止められねぇってか。




 「心配するな。もう何もせん。これはけじめじゃ」

 「ちょっと背骨とか折っといた方がいいんじゃねぇか?」
 俺は栞を向いて言った。


 亜紀ちゃんが笑い、つられて子どもたちも笑った。


 「ああ、ほんとにこれで、ちょっと刺しといていいか? 首とか?」
 俺は鞘を抜いて聞く。

 「石神くん、ほんとにこれで勘弁して下さい」




 俺は鞘に収め、座った。






 じじぃが反省の欠片もなく、一人で喋っている。

 「お前、すごいな! うちの流派の技を幾つか出したが、全部防がれたわい」

 「まあ、まだまだお前が目をひん剥くようなものもあるけどなぁ」

 「お前、「絶花」を使えるな?」
 「なんだよ、その「絶花」って」

 「まあ、後でゆっくりと話そう」



 その後も、花岡家の歴史や先祖の活躍などを聞かされた。
 
 俺は子どもたちが飽きてきたのを見て、栞に家の案内を頼んだ。
 俺も興味深い。





 
 子どもたちには分からないだろうが、柱を見ても、欄間の透かし彫をみても、尋常ではない価値のものだ。
 窓が一部サッシになっていたり、トイレもシャワートイレだったり、多少の近代化はあるが、日本家屋の豪奢な作りだった。

 「石神くんは美術とか好きだよね?」
 そう言って、栞は部屋を案内する中で、美術品の紹介もしてくれる。

 「あの襖は長谷川等伯なの」
 「!」

 「亜紀ちゃん、双子をあの3メートル以内に近づけるな」
 「分かりました」

 「億じゃきかねぇからな!」
 「は、はい!」

 亜紀ちゃんは双子の手を握り締めた。



 幾つか、仕掛けも見せてくれた。
 壁を押すと、奥に隠し通路があったり、柱を回すと天井から階段が降りてきたり。

 子どもたちは興奮して見ている。
 特に皇紀は興味津々で、自分でも動かしたがった。


 多分、見せてはくれなかったが、物騒な仕掛けもあるんだろう。

 「ここがおじいちゃんの部屋」
 12畳の和室だ。

 じじぃはいない。 
 俺は真ん中にあったちゃぶ台を蹴ってひっくり返した。

 「……」




 広い屋敷を二時間ほども案内され、俺たちは一旦部屋へ戻った。
 俺は一緒に離れに行く。

 
 「あのね、さっきね、おじいちゃんが真っ赤だったの!」
 ルーが言った。

 「でもね、タカさんもすごかったの!」
 「うん、大きな柱みたいだった!」
 「ものすごくまぶしかった!」

 「へぇー、そうだったのかぁ」

 俺は軽く受け流した。



 「おい、二人とも。ここの障子は好きに破ってもいいぞ!」

 「「ほんとに!」」

 「だ、ダメですよ! 絶対!」
 亜紀ちゃんが慌てて止める。











 あのじじぃ、とんでもねぇもんを双子に見せやがって。
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