上 下
102 / 2,840

岡庭クンは、イジラレたい

しおりを挟む
 皇紀が真面目な顔で、俺に言った。


 「タカさんは別ですけど、僕はどうもみんなにイジラレるタイプなんですよね」

 「そうだな。でもどうして俺はいいんだよ」

 「タカさんには、イジってもらうと嬉しいですから」

 「そうかよ。まあ、お前の場合、安心感があるんだよな」
 「安心感ですか」

 「ああ。お前は怒らない。何か言っても酷いことを返さない。だからだろうよ」
 「そうなんですかねぇ」

 「自分のことって、よく分からないんだよな。要はお前は「いい奴」なんだよ。だから冗談も安心して言えるんだよな」



 俺は、大学時代の同級生の話をしてやった。








 「パパ! 学生時代の同期で、グアムに行くことになったよ!」
 岡庭健は、新聞を読んでいた父親に嬉しそうに言った。

 「そうか、いつからだ?」
 「三週間後の8月20日からだよ」

 岡庭は山形で大病院を営む父親の下で働いている。
 卒業と同時に入り、まだ修行中の身だ。

 岡庭健。身長151センチ。超細身。眉が非常に濃く、体毛も太い。
 岡庭父。身長147センチ。細身だが腹が出て来た。眉と体毛が濃い。

 完璧な遺伝である。


 「それでね、パパ。旅行には石神クンも来るんだよ」
 「ああ、健の大好きなあの人だな」
 「うん、そうだよ」

 岡庭父は、愛する息子に言った。

 「それは良かったね。でも健、スカートは履いていくなよな」
 「やだなぁ、パパ。そんなことするわけないじゃないか!」
 「そうか、それならいいけどな」

 岡庭は階段を機嫌よく昇っていく。
 周囲を気にせず一段とばしに昇ったので、、スカートの裾からパンツが見えていた。





 (飛行機の中では、絶対に石神クンの隣に座ろうと思ったのに)
 (ちゃっかり花岡さんが座っちゃってぇ。なんだか楽しそうに石神クンとずっとお話ししてた!)

 医学部の仲の良い同期。
 それぞれ病院での研修期間も終わり一段落している。
 それで、誰の発案だったのか、久しぶりに旅行でも行こう、ということになった。

 場所はグアムに決まり、幹事になった数人でホテルや飛行機を予約してくれた。

 
 8月のグアムは非常に暑い。
 みんな薄着で半袖だったが、石神だけは白の麻のスーツを着ていた。

 (カッコイイ! さっき聞いたらダンヒルのフルオーダーだって!! 石神クーン!!!)


 「さて、じゃあまずはホテルに行って荷物を置こう。最初に部屋割りも決めちゃうからな!」
 幹事の川原がみんなを誘導する。

 (い、石神クンと同じ部屋になりますように!)



 

 (なんで石神クンは御堂くんと一緒になっちゃうんだよ。クジ引きじゃないのかよ)
  
 部屋割りは希望者が一緒になった。
 当たり前だ。


 岡庭は誰も誘ってくれず、幹事の川原と一緒になった。

 「じゃあ、荷物を置いたら三十分後にロビーに集合してください。今日はみんなで市内観光をして、その後は自由行動とします。ホテルには7時までに戻ってください。夕食になります」



 岡庭は石神と自由行動を、と思ったが、石神は御堂と花岡と一緒に予約していたガン・シューティングに行ってしまった。



 ホテルでの夕食も、三人が一緒のテーブルにいる。
 岡庭は勇気を出して、そのテーブルに座った。

 「よう、岡庭。相変わらずちっちゃいな!」

 (い、石神クンがボクに声をかけてくれたぁ!)

 「石神くん、岡庭くんに失礼よ」
 「いや、岡庭が変わってなくてよかったなって話だよ。俺はちっちゃい岡庭が大好きだからなぁ」

 「ブフォッ!」

 岡庭は飲みかけのビールを噴出し、激しく咳き込んだ。

 「大丈夫、岡庭くん?」

 花岡が心配して、ハンカチを差し出してくる。

 (ダイスキダカラ、ダイスキダカラ、ダイスキダカラ、ダキタイカラナ!)

 「ぼ、ぼくも石神クンがダイスキだよ」

 岡庭は勇気を振り絞って言う。

 「な、俺たちは仲良しなんだよ」
 「もう」

 花岡は呆れて言った。
 御堂は声を出して笑っている。

 

 「ねえ、石神くんって、なんであんなに銃が上手いの?」
 「え、そうだったか?」

 「だって、マグナムでしょ? 店の人だって手がこーんなに上がっちゃってたじゃない」
 「ああ、あれは酷いよなぁ」

 「そんなことないよ! 石神くんは全然ぶれないで、全部的の中心に当ててたよね?」
 「よく覚えてないや」
 「それも、片手でバンバンすごいスピードだったよ」

 「ああ、あの後、店の人がなんかくれてたよね」
 御堂は自分と花岡の紙とはちがうものを石神が受け取っていたのを見ていた。

 「僕と花岡さんは普通の成績表だったけど、石神はそれと別にもらったじゃないか」
 「ああ、あれか。「マスタークラス」って書いてたな」

 「「なに、それ!」」

 「知らねぇ。明日も行くから聞いてみろよ」
 「え、明日はみんなでビーチに行くんじゃない」
 「ええ、俺は嫌だなぁ」

 「じゃあ、岡庭、一緒に行こうぜ」

 「え、いく」
 「ダメよ、みんなで来てるんだから!」

 (ハナオカ、シネ!)

 「しょうがねぇなぁ」






 岡庭は全然会話に入れなかった。


 
 夕食後、仲の良い者同士で、それぞれ部屋に集まったり、外へ飲みに行く者たちもいた。
 石神はまた御堂と花岡とで、町に繰り出していった。


 岡庭は夜の浜辺を歩いた。







 (石神クン、あしたは、きっと!)

 岡庭は打ち上げられたナマコを踏んで、激しく転んだ。

 
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

こずえと梢

気奇一星
キャラ文芸
時は1900年代後期。まだ、全国をレディースたちが駆けていた頃。 いつもと同じ時間に起き、同じ時間に学校に行き、同じ時間に帰宅して、同じ時間に寝る。そんな日々を退屈に感じていた、高校生のこずえ。 『大阪 龍斬院』に所属して、喧嘩に明け暮れている、レディースで17歳の梢。 ある日、オートバイに乗っていた梢がこずえに衝突して、事故を起こしてしまう。 幸いにも軽傷で済んだ二人は、病院で目を覚ます。だが、妙なことに、お互いの中身が入れ替わっていた。 ※レディース・・・女性の暴走族 ※この物語はフィクションです。

~後宮のやり直し巫女~私が本当の巫女ですが、無実の罪で処刑されたので後宮で人生をやり直すことにしました

深水えいな
キャラ文芸
無実の罪で巫女の座を奪われ処刑された明琳。死の淵で、このままだと国が乱れると謎の美青年・天翼に言われ人生をやり直すことに。しかし巫女としてのやり直しはまたしてもうまくいかず、次の人生では女官として後宮入りすることに。そこで待っていたのは怪事件の数々で――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

処理中です...