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挿話 たてしな・ぶんがくちゃん に
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蓼科文学は、いつも通りに愛車ダイムラー・ジャガーに乗って出勤していた。
以前は国産車に乗っていたのだが、石神が院長らしい車に乗らなければダメだと言ってきた。
ベンツやBMWなどを検討したが、石神がジャガーのカタログを持ってくる。
「これなんかどうですか。V8エンジンで、恐らくジャガーでも最後のV8になりますよ」
フロントがやけに長く、先端にジャガーが跳びかかっている。
カッコイイな。
文学は美しいグリーンのボディを選び、納車を待った。
納車の際には記念のプレートをもらった。
石神の言うとおり、ジャガー最後のV8を記念してのものだかららしい。
文学は非常に満足した。
運転手は最初に勝手が違うので戸惑っていたが、慣れてからは快適だ。
一つ困ったのは、塗装が異常にデリケートで、運転手は洗車の業者に細心の注意でやらせています、と言っていた。
鉛筆の芯ほどしか強度がないらしい。
まあ、ささいなことだ。
プロが洗車すれば、間違いもないだろう。
車はスペイン大使館の前に差し掛かった。
運転手は横断歩道を渡ろうとする通行人がいたので、一時停車する。
何か、雨音が聞こえた。
外は快晴だ。
「アアァー!」
突然運転手が叫ぶので、文学は身を乗り出す。
「どうしたんだ!」
「すいません、虫が降ってきたようでして」
文学がフロントガラスを見ると、確かに小さな虫がたくさんついているようだ。
しかし老眼のため、状況はよくわからない。
病院はすぐそこだ。
文学は出発するように言った。
駐車場で、文学は老眼鏡をかけ、車の状態を見る。
「なんなんだ、これはぁー!
車の前面ボディ、フロントウインドウ、それに屋根に大量の小さな毛虫がうごめいている。
「すぐに払い落とせ!」
「はい!」
運転手は後部のボンネットを開き、羽ばたきを取り出した。
文学は後を任せ。院長室へ向かう。
しばらくして、内線が鳴る。
取ると駐車場の運転手からだった。
「すみません。虫が塗装をかじってしまったようで、ディーラーに持ち込まなければならないようです」
文学は眉に皺を寄せた。
「分かった。宜しくたのむ」
「はい。石神先生が手配してくださって、本当に助かりました」
「おい、お前! 石神に知らせたのか?」
「はい、院長が何か問題が起きたときには石神先生を頼れとおっしゃっていましたので」
「バカモノー!」
「ああ、石神先生、院長から伝言があります」
院長の秘書室から内線が石神にあった。
「また院長室へ伺えばいいんですか?」
「いいえ、院長は今日は絶対に来るな、とおっしゃっています」
石神は悪魔のような笑みを浮かべた。
院長室で、石神は散々大笑いし、文学はからかわれた。
「ちゃんと、写真も撮りましたから!」
「いやぁ、ディーラーも「そんなの聞いたことないですよ」って言ってましたよ」
「さすが、院長は違う」
「あ、なんか炎的なものって見えました?」
「そうだ、吸気系にも結構入っちゃいましたから、修理は時間がかかりますって」
「どうせ全体の塗装ですから、虎縞にでもしますか? 虫除けに」
俺が無視をきめて黙っていると、散々言いたい放題言ってから、石神は出て行った。
院長車の災難は、なぜか病院全体に広まった。
文学は、出勤のコースを変えた。
以前は国産車に乗っていたのだが、石神が院長らしい車に乗らなければダメだと言ってきた。
ベンツやBMWなどを検討したが、石神がジャガーのカタログを持ってくる。
「これなんかどうですか。V8エンジンで、恐らくジャガーでも最後のV8になりますよ」
フロントがやけに長く、先端にジャガーが跳びかかっている。
カッコイイな。
文学は美しいグリーンのボディを選び、納車を待った。
納車の際には記念のプレートをもらった。
石神の言うとおり、ジャガー最後のV8を記念してのものだかららしい。
文学は非常に満足した。
運転手は最初に勝手が違うので戸惑っていたが、慣れてからは快適だ。
一つ困ったのは、塗装が異常にデリケートで、運転手は洗車の業者に細心の注意でやらせています、と言っていた。
鉛筆の芯ほどしか強度がないらしい。
まあ、ささいなことだ。
プロが洗車すれば、間違いもないだろう。
車はスペイン大使館の前に差し掛かった。
運転手は横断歩道を渡ろうとする通行人がいたので、一時停車する。
何か、雨音が聞こえた。
外は快晴だ。
「アアァー!」
突然運転手が叫ぶので、文学は身を乗り出す。
「どうしたんだ!」
「すいません、虫が降ってきたようでして」
文学がフロントガラスを見ると、確かに小さな虫がたくさんついているようだ。
しかし老眼のため、状況はよくわからない。
病院はすぐそこだ。
文学は出発するように言った。
駐車場で、文学は老眼鏡をかけ、車の状態を見る。
「なんなんだ、これはぁー!
車の前面ボディ、フロントウインドウ、それに屋根に大量の小さな毛虫がうごめいている。
「すぐに払い落とせ!」
「はい!」
運転手は後部のボンネットを開き、羽ばたきを取り出した。
文学は後を任せ。院長室へ向かう。
しばらくして、内線が鳴る。
取ると駐車場の運転手からだった。
「すみません。虫が塗装をかじってしまったようで、ディーラーに持ち込まなければならないようです」
文学は眉に皺を寄せた。
「分かった。宜しくたのむ」
「はい。石神先生が手配してくださって、本当に助かりました」
「おい、お前! 石神に知らせたのか?」
「はい、院長が何か問題が起きたときには石神先生を頼れとおっしゃっていましたので」
「バカモノー!」
「ああ、石神先生、院長から伝言があります」
院長の秘書室から内線が石神にあった。
「また院長室へ伺えばいいんですか?」
「いいえ、院長は今日は絶対に来るな、とおっしゃっています」
石神は悪魔のような笑みを浮かべた。
院長室で、石神は散々大笑いし、文学はからかわれた。
「ちゃんと、写真も撮りましたから!」
「いやぁ、ディーラーも「そんなの聞いたことないですよ」って言ってましたよ」
「さすが、院長は違う」
「あ、なんか炎的なものって見えました?」
「そうだ、吸気系にも結構入っちゃいましたから、修理は時間がかかりますって」
「どうせ全体の塗装ですから、虎縞にでもしますか? 虫除けに」
俺が無視をきめて黙っていると、散々言いたい放題言ってから、石神は出て行った。
院長車の災難は、なぜか病院全体に広まった。
文学は、出勤のコースを変えた。
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