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第一回 石神くんスキスキ乙女会議
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「それでは、第一回「石神くんスキスキ乙女会議」を開催します!」
「ええと、一江さん、それなに?」
サンシャインビルの最上階のバーラウンジで、一江陽子と花岡栞がカクテルグラスを傾けていた。
「今日は石神先生について、深刻な相談があると一江さんが言うんで来たんだけど?」
栞は抗議するように一江に言う。
「はい、まったくもって、その言に偽りはございません」
一江は悪びれずに肯定した。
「あれですよね、花岡さん、ああ今日はもう乙女会議ですから、栞さんと呼びますね」
「別にいいですけど」
「じゃあ、私のことはヨーコでお願いします」
栞は自分が一江に誘導されていることに気付かない。
一江は石神が認める、精神操作の達人にして情報収集・解析の天才なのだった。
「今日の乙女会議の議題は、「石神高虎はいかにして恋人を得るか」です。どうですか、非常に興味深い議題でしょ?」
「私、帰っていいかな」
そう言いながら、栞はグラスのカクテルに口を付ける。
ソルティドッグであり、女性があまり選ぶものでもない。
「まあまあ、ここから栞も引き込まれますって」
「……」
栞はじとっとした目で一江を睨んでいる。
「早速ですが、私の得た情報を開示しますね。なんと石神部長は、ロックハート響子ちゃん……あ、栞の目が真剣になりましたぁ!」
「ちょっと、やめてよ」
響子の名前に反応したのは確かだ。
しかし相手は8歳の小学生。
我ながら恥ずかしさしかない。
「話を続けますが、部長の家に響子ちゃんが泊まったのはご存知ですよね?」
「ええ、知ってますけど」
「そこでですねぇ。私がある筋から仕入れた情報では、部長と響子ちゃんは一緒にお風呂に入り、そのまま同衾しています」
石神から聞いただけだ。
石神は一江に何でも話している。
「なんですってぇ!」
立ち上がって叫ぶ栞を、一江は慌てて座らせる。
「ちょっと、落ち着いて、栞! まだ話は序盤なんですから。でもー、栞はなんでそんなに興奮してるんでしょうかね」
「え、いまのなし」
「そんなわけ、いくか!」
完全に一江のペースである。
「栞は部長と同じ東大医学部ですよね?」
「そうだけど」
「ちなみに、私は後輩です。でも栞は部長との付き合いは私よりもずっと長いということで。そこでお聞きしたいんですが、学生時代の部長って、どんなでした?」
「どんなって、そうねぇ。今と同じかな?」
「それって、暴力的で悪巧みが得意で、人たらしで女たらしで、そのくせなかなか手を出さない、と?」
「なんか一杯すぎて迷うけど………概ねそうかしらね」
栞は言葉を濁しながら、肯定。
「私が極秘に仕入れた情報によると」
「またそれなの!」
一江は話を中断し、少なくなったカクテルを追加注文する。
「あ、すみません! 私は同じもので、彼女にはワイルドターキーをロックで、ああダブルでお願いします」
「ちょっと、勝手に頼まないでよ!」
「栞は部長が好きなターキーをいつも飲んでいると聞いてますが」
「え、そうだけど、なんで知ってるの?」
すぐに厚いガラスの大振りのグラスが置かれる。
「さあ、飲みながら話しましょう」
促されるまま、栞はグラスに口をつけた。
「部長って今もそうですけど、学生時代もモテたんでしょうねぇ」
「そうね、確かにね。弓道部だったけど、そこでも後輩たちにしょっちゅう囲まれてたし、キャンパスを歩いててもいつも声をかけられたし、学食なんか大変だったわ」
「そこ、もうちょっと詳しく、あ、ターキーお代わり頼みますね」
「え、ありがとう」
栞はローストビーフをフォークに刺して、お代わりを待つ間に口にする。
喉から胃が熱くなる感覚は好きだが、さすがにちょっと食べておいた方がいいだろう。
でも、一江の分も残しておかなければ……
それにしても、お腹が空いた。
「学食ではね、石神くんが座ると女の子が群がってくるのよ。でも当の石神くんは平然。なんか、慣れてる感じ? よく御堂くんって大親友と、時々山中先生とで食べてたんだけど、よく女の子たちに押されちゃって」
「ふんふん」
「そうなった時は、石神くんが怒るのよ。周りで見てるだけはいいんだけどね」
「栞もよく一緒だったんでしょ?」
一江の口調がくだけてくる。
「うーん。でも学食はあまり一緒じゃなかったかな」
「どーしてですか?」
「押されるどこじゃなかったから。その時は石神くんが怒ってくれるからいいんだけど、後からファンクラブみたいな女子たちに囲まれたりするから」
一江は、面倒だからボトル持ってきて、と店員に言っていた。
「あ、すみません。なるほどねぇ、さすが部長だぁ」
「すごかったのよ」
ボトルが届き、一江は栞のグラスに氷を入れ、並々とバーボンを注ぐ。
差し出されたグラスは、まずは一杯、と言う一江の言うがまま、栞の白い喉に傾けられた。
「ああ、もう! じゃあ直球で聞いちゃいますけど、いいですか、一人足りませんよね、今のオ・ハ・ナ・シ!」
「それは」
「部長のそばにいつも、いたんでしょ? あの人が!!」
「奈津江のこと?」
栞は辛そうな表情を一瞬見せた。
打ち消すように、グラスのバーボンを一気に呷る。
一江はテーブルの下で拳を握ってガッツポーズをする。
「そう、そのナツエさんですよ、どういう字ですか」
「奈良の奈に津市の津。それに江戸の江」
問われるままに、栞は一江に教える。
「漢字は知らなかったの?」
「ええ、実はそーなんですよ、私ってば、うっかりチャンですね、エヘッ!」
「石神クンと奈津江が付き合いだしてから、あまり女性に囲まれなくなったかな。それでも結構なことも多かったような気もするけど」
栞は赤い顔をしている。
そこそこは飲めるが、今日はペースが速い。
まだ夕方の5時だったので、夕食を摂らずに来たこともある。
一江と一緒にご飯をするのだと考えていたからだ。
「ええと、何かおつまみを頼も……」
「まだ会議中だから、食事はダメですよ」
「ああ、そうか。会議中だもんねー」
「それにしても、部長も奈津江さんと結婚してればねぇ」
「仕方ないじゃない。奈津江は事故で死んじゃったんだから」
「!」
「石神クンもよく持ち直したと思うよ。何しろ東大病院で匙を投げられたんだもんね。知ってるでしょ? 一ヶ月で30キロ台。奈津江が手を握ってくれなければ、あのままきっと………」
栞はハンカチを出して目に当てた。
(まずい、調子に乗って知っちゃいけないことを聞いちゃった。どうしよう。でも花岡さんも止まらなくなっちゃったし。あたし、これ以上聞きたくないよー)
「ところで栞さ、栞も部長のことが好きだったんでしょ?」
「そりゃそうよ。あの石神クンだもん。そばにいたら、もうどうしようもないでしょ?」
(あちゃー、完全に酔ってるよぅ! 咄嗟に話題を強制転換したけど、良かったのかなぁ。でもあたしも大分部長のそばにいるんですけど)
「それでぇ、しおリンは部長に告白なんかしちゃわないの?」
「そんなの、できるわけないじゃない!!!!」
栞は大声で絶叫する。周囲の客が注目する。店員が近づこうとするのを、一江は手で制した。
「ちょっと、落ち着いてよ栞! みんなに見られてるじゃない」
朦朧としてきた顔で、栞は周囲を見回し、多少の落ち着きを見せた。
「ごめんなさーい。でも陽子が悪いんだからね。あんなこと言われたら私だってぇ……」
栞はボロボロと泣き出した。声は抑えているので、周囲から再注目されることはなかった。
「栞の気持ちは私も気付いていたよ。応援したいと思ったの。だから今日栞を誘って本心を聞きたかったのよぅ」
必死でなだめながら、一江は再び地雷を踏んだことに焦っていた。
今日は栞に部長にアタックさせるつもりでいたのだ。
だから学生時代の純真な頃を思い出してもらい、長年の思いを打ち明けさせよう、と。
昔の交際相手を聞きだして、新情報! と思ったのも束の間、一江は石神たちが秘めている大事な思い出だったことに後悔している。
決して自分などが知っていいことではない。
一江は以前に石神から言われた言葉を思い出していた。
《一江、お前は情報収集と解析の天才だ。でも作戦立案能力はまだ全然だな》
その通りだと思った。
一江が迷っていたのは短い間だった。
「さー、もう今日は飲んじゃおう! 飲んで騒いで忘れようよ、ね!」
グラスを奪い、続けて三杯、栞に飲ませた。
最悪の行動をしたことに、まだ気付いていなかった。
「うん、陽子、ありがとうね。本当に嬉しい。私もね……石神くんが……ね……ほんとに好きだから」
「うんうん、分ってるよ」
肯定されて、栞はハッとした顔で言う。
「いいえ、分かってないわ。これは「好き」なんかじゃない。愛してるの。もうベタ惚れなんだもんねー、えへへ、言っちゃったぁー」
(まずい、まずい、まずい、まずい……このまま花岡さんの正気を残したら大変なことになる)
「ほらぁ、ヨーコも飲んでよぅ。一緒に大好きな石神くんのお話をしましょーよぅ」
座席は二人がけの並んだシートだ。栞は一江によりかかり、頬にキスをされた。
「もーう、いしがみくーん、しゅきしゅきぃ!!!」
(ああ、こうなったら、あたしも決めた! 今日はトコトン飲んであたしも記憶を消すしかない!)
「うん、分かった! 女の友情だもんね!」
「そうよ、そうよ。でも石神くんに手を出さないでね。しおり、泣いちゃう」
「絶対、神明に誓って!」
心底恐ろしいものを見たかのように、一江は敬礼して答える。
「やーっぱりぃ、ヨーコはしんゆう!」
テーブルをひっくり返し、店の内装を破壊し、床に大量の吐しゃ物の帯を引き、上半身はビリビリに破けて下着だけになった二人は、警察を呼ばれ池袋署の拘置所に収監された。
分厚いテーブルの板が真っ二つにへし折れていた。
一江は栞が手刀を振ったのを見ていたが、その記憶は泥酔で消し飛んでいた。
身分証が探され、ガラ請けは、二人がずっと叫ぶ「いしがみ」という同僚と思しき男性に連絡された。
合掌。
「ええと、一江さん、それなに?」
サンシャインビルの最上階のバーラウンジで、一江陽子と花岡栞がカクテルグラスを傾けていた。
「今日は石神先生について、深刻な相談があると一江さんが言うんで来たんだけど?」
栞は抗議するように一江に言う。
「はい、まったくもって、その言に偽りはございません」
一江は悪びれずに肯定した。
「あれですよね、花岡さん、ああ今日はもう乙女会議ですから、栞さんと呼びますね」
「別にいいですけど」
「じゃあ、私のことはヨーコでお願いします」
栞は自分が一江に誘導されていることに気付かない。
一江は石神が認める、精神操作の達人にして情報収集・解析の天才なのだった。
「今日の乙女会議の議題は、「石神高虎はいかにして恋人を得るか」です。どうですか、非常に興味深い議題でしょ?」
「私、帰っていいかな」
そう言いながら、栞はグラスのカクテルに口を付ける。
ソルティドッグであり、女性があまり選ぶものでもない。
「まあまあ、ここから栞も引き込まれますって」
「……」
栞はじとっとした目で一江を睨んでいる。
「早速ですが、私の得た情報を開示しますね。なんと石神部長は、ロックハート響子ちゃん……あ、栞の目が真剣になりましたぁ!」
「ちょっと、やめてよ」
響子の名前に反応したのは確かだ。
しかし相手は8歳の小学生。
我ながら恥ずかしさしかない。
「話を続けますが、部長の家に響子ちゃんが泊まったのはご存知ですよね?」
「ええ、知ってますけど」
「そこでですねぇ。私がある筋から仕入れた情報では、部長と響子ちゃんは一緒にお風呂に入り、そのまま同衾しています」
石神から聞いただけだ。
石神は一江に何でも話している。
「なんですってぇ!」
立ち上がって叫ぶ栞を、一江は慌てて座らせる。
「ちょっと、落ち着いて、栞! まだ話は序盤なんですから。でもー、栞はなんでそんなに興奮してるんでしょうかね」
「え、いまのなし」
「そんなわけ、いくか!」
完全に一江のペースである。
「栞は部長と同じ東大医学部ですよね?」
「そうだけど」
「ちなみに、私は後輩です。でも栞は部長との付き合いは私よりもずっと長いということで。そこでお聞きしたいんですが、学生時代の部長って、どんなでした?」
「どんなって、そうねぇ。今と同じかな?」
「それって、暴力的で悪巧みが得意で、人たらしで女たらしで、そのくせなかなか手を出さない、と?」
「なんか一杯すぎて迷うけど………概ねそうかしらね」
栞は言葉を濁しながら、肯定。
「私が極秘に仕入れた情報によると」
「またそれなの!」
一江は話を中断し、少なくなったカクテルを追加注文する。
「あ、すみません! 私は同じもので、彼女にはワイルドターキーをロックで、ああダブルでお願いします」
「ちょっと、勝手に頼まないでよ!」
「栞は部長が好きなターキーをいつも飲んでいると聞いてますが」
「え、そうだけど、なんで知ってるの?」
すぐに厚いガラスの大振りのグラスが置かれる。
「さあ、飲みながら話しましょう」
促されるまま、栞はグラスに口をつけた。
「部長って今もそうですけど、学生時代もモテたんでしょうねぇ」
「そうね、確かにね。弓道部だったけど、そこでも後輩たちにしょっちゅう囲まれてたし、キャンパスを歩いててもいつも声をかけられたし、学食なんか大変だったわ」
「そこ、もうちょっと詳しく、あ、ターキーお代わり頼みますね」
「え、ありがとう」
栞はローストビーフをフォークに刺して、お代わりを待つ間に口にする。
喉から胃が熱くなる感覚は好きだが、さすがにちょっと食べておいた方がいいだろう。
でも、一江の分も残しておかなければ……
それにしても、お腹が空いた。
「学食ではね、石神くんが座ると女の子が群がってくるのよ。でも当の石神くんは平然。なんか、慣れてる感じ? よく御堂くんって大親友と、時々山中先生とで食べてたんだけど、よく女の子たちに押されちゃって」
「ふんふん」
「そうなった時は、石神くんが怒るのよ。周りで見てるだけはいいんだけどね」
「栞もよく一緒だったんでしょ?」
一江の口調がくだけてくる。
「うーん。でも学食はあまり一緒じゃなかったかな」
「どーしてですか?」
「押されるどこじゃなかったから。その時は石神くんが怒ってくれるからいいんだけど、後からファンクラブみたいな女子たちに囲まれたりするから」
一江は、面倒だからボトル持ってきて、と店員に言っていた。
「あ、すみません。なるほどねぇ、さすが部長だぁ」
「すごかったのよ」
ボトルが届き、一江は栞のグラスに氷を入れ、並々とバーボンを注ぐ。
差し出されたグラスは、まずは一杯、と言う一江の言うがまま、栞の白い喉に傾けられた。
「ああ、もう! じゃあ直球で聞いちゃいますけど、いいですか、一人足りませんよね、今のオ・ハ・ナ・シ!」
「それは」
「部長のそばにいつも、いたんでしょ? あの人が!!」
「奈津江のこと?」
栞は辛そうな表情を一瞬見せた。
打ち消すように、グラスのバーボンを一気に呷る。
一江はテーブルの下で拳を握ってガッツポーズをする。
「そう、そのナツエさんですよ、どういう字ですか」
「奈良の奈に津市の津。それに江戸の江」
問われるままに、栞は一江に教える。
「漢字は知らなかったの?」
「ええ、実はそーなんですよ、私ってば、うっかりチャンですね、エヘッ!」
「石神クンと奈津江が付き合いだしてから、あまり女性に囲まれなくなったかな。それでも結構なことも多かったような気もするけど」
栞は赤い顔をしている。
そこそこは飲めるが、今日はペースが速い。
まだ夕方の5時だったので、夕食を摂らずに来たこともある。
一江と一緒にご飯をするのだと考えていたからだ。
「ええと、何かおつまみを頼も……」
「まだ会議中だから、食事はダメですよ」
「ああ、そうか。会議中だもんねー」
「それにしても、部長も奈津江さんと結婚してればねぇ」
「仕方ないじゃない。奈津江は事故で死んじゃったんだから」
「!」
「石神クンもよく持ち直したと思うよ。何しろ東大病院で匙を投げられたんだもんね。知ってるでしょ? 一ヶ月で30キロ台。奈津江が手を握ってくれなければ、あのままきっと………」
栞はハンカチを出して目に当てた。
(まずい、調子に乗って知っちゃいけないことを聞いちゃった。どうしよう。でも花岡さんも止まらなくなっちゃったし。あたし、これ以上聞きたくないよー)
「ところで栞さ、栞も部長のことが好きだったんでしょ?」
「そりゃそうよ。あの石神クンだもん。そばにいたら、もうどうしようもないでしょ?」
(あちゃー、完全に酔ってるよぅ! 咄嗟に話題を強制転換したけど、良かったのかなぁ。でもあたしも大分部長のそばにいるんですけど)
「それでぇ、しおリンは部長に告白なんかしちゃわないの?」
「そんなの、できるわけないじゃない!!!!」
栞は大声で絶叫する。周囲の客が注目する。店員が近づこうとするのを、一江は手で制した。
「ちょっと、落ち着いてよ栞! みんなに見られてるじゃない」
朦朧としてきた顔で、栞は周囲を見回し、多少の落ち着きを見せた。
「ごめんなさーい。でも陽子が悪いんだからね。あんなこと言われたら私だってぇ……」
栞はボロボロと泣き出した。声は抑えているので、周囲から再注目されることはなかった。
「栞の気持ちは私も気付いていたよ。応援したいと思ったの。だから今日栞を誘って本心を聞きたかったのよぅ」
必死でなだめながら、一江は再び地雷を踏んだことに焦っていた。
今日は栞に部長にアタックさせるつもりでいたのだ。
だから学生時代の純真な頃を思い出してもらい、長年の思いを打ち明けさせよう、と。
昔の交際相手を聞きだして、新情報! と思ったのも束の間、一江は石神たちが秘めている大事な思い出だったことに後悔している。
決して自分などが知っていいことではない。
一江は以前に石神から言われた言葉を思い出していた。
《一江、お前は情報収集と解析の天才だ。でも作戦立案能力はまだ全然だな》
その通りだと思った。
一江が迷っていたのは短い間だった。
「さー、もう今日は飲んじゃおう! 飲んで騒いで忘れようよ、ね!」
グラスを奪い、続けて三杯、栞に飲ませた。
最悪の行動をしたことに、まだ気付いていなかった。
「うん、陽子、ありがとうね。本当に嬉しい。私もね……石神くんが……ね……ほんとに好きだから」
「うんうん、分ってるよ」
肯定されて、栞はハッとした顔で言う。
「いいえ、分かってないわ。これは「好き」なんかじゃない。愛してるの。もうベタ惚れなんだもんねー、えへへ、言っちゃったぁー」
(まずい、まずい、まずい、まずい……このまま花岡さんの正気を残したら大変なことになる)
「ほらぁ、ヨーコも飲んでよぅ。一緒に大好きな石神くんのお話をしましょーよぅ」
座席は二人がけの並んだシートだ。栞は一江によりかかり、頬にキスをされた。
「もーう、いしがみくーん、しゅきしゅきぃ!!!」
(ああ、こうなったら、あたしも決めた! 今日はトコトン飲んであたしも記憶を消すしかない!)
「うん、分かった! 女の友情だもんね!」
「そうよ、そうよ。でも石神くんに手を出さないでね。しおり、泣いちゃう」
「絶対、神明に誓って!」
心底恐ろしいものを見たかのように、一江は敬礼して答える。
「やーっぱりぃ、ヨーコはしんゆう!」
テーブルをひっくり返し、店の内装を破壊し、床に大量の吐しゃ物の帯を引き、上半身はビリビリに破けて下着だけになった二人は、警察を呼ばれ池袋署の拘置所に収監された。
分厚いテーブルの板が真っ二つにへし折れていた。
一江は栞が手刀を振ったのを見ていたが、その記憶は泥酔で消し飛んでいた。
身分証が探され、ガラ請けは、二人がずっと叫ぶ「いしがみ」という同僚と思しき男性に連絡された。
合掌。
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