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坪内緑子 Ⅲ
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緑子は、女優然とした装いで家に来た。
白のサテンのスカートに、エルメスであろうシルクのシャツ。
肩に薄手の淡い空色のショートコート。
俺と同じ年齢だから、既に40代に入ったが、三十代そこそこに見える。
手足が長く、顔も小さく、整った顔は若干冷たいが、笑うと本当に慈母のように見える。
流石に一流女優だ。
非常に親しい女優さんが来る、と子どもたちには話していた。
俺が若い頃からちょっと憧れているんだ、という話も付け加えた。
これで、いいんだろうか。
亜紀ちゃんはいつもより緊張して
「私、女優さんなんて話したこともないですぅ!」
と心配していた。
俺が気さくな奴だから大丈夫だ、と何度言い聞かせてもダメだった。
皇紀も双子も、そこは大丈夫そうだった。
実感として分かってないのだろう。
緑子をリヴィングに案内して、みんなに挨拶させる。
「ええー! 天使よ天使!」
緑子が双子に抱きついて叫んだ。
そのまま頬ずりをして、チュッチュとほっぺたにキスをする。
次に皇紀の美少年振りを褒め称え、亜紀ちゃんの前に行く。
「話には聞いてたけどさぁ。本当に美人なのねぇ。悔しくなっちゃうわ」
ねえ、幾つ、とか身長や体重を聞き、スリーサイズまで問う。
身長と体重は押され気味に応えていた亜紀ちゃんも、スリーサイズで正気にもどる。
「本当にカワイイわねぇ、みんな」
亜紀ちゃんが紅茶を用意し、俺は隠すことなく緑子が来た目的を話す。
「俺は全然女の子のことは分からない。これまで、亜紀ちゃんも瑠璃も玻璃も申し訳ない、ごめん。今日は大女優様に来ていただき、精一杯女の子のことを実演してもらおうと思いました!」
亜紀ちゃんがオロオロして言う。
「そんな、タカさん。私こそ妹たちのことを気にしなきゃいけなかったのに。本当にごめんなさい!」
「はいはい、そこまで。高虎のバカは昔からだからしょーがないの! この私が来たんだから、もう安心しなさいね!」
見事な姉御肌だ。
本当に助かる。
緑子は、持ってきたトランクを開き、次々にテーブルに並べていく。
トランクは、以前に俺が勝ったグローブトロッターだ。
化粧道具は劇団員のプロ仕様の本格的なものだった。
きっとインパクトも考えて持ってきてくれたのだろう。
ホットカーラー、様々なブラシ、色とりどりのリボン、アクセサリー各種。
その他俺にもよく分からない道具など。
緑子の女の子講座は非常に本格的なものだった。
俺は亜紀ちゃんと共に必死で緑子の説明と実演を覚えていく。
双子はみるみる変わる自分に大興奮だ。
緑子主導で双子の変身が完成し、俺の衣裳部屋のでかい鏡に連れて行く。
「あいかわらず、頭にくる部屋よねぇ」
緑子は部屋のあちこちを見回して、時々蹴りを入れていく。
大きなガラスケースに並べられた、時計やアクセサリーを見てため息をつく。
時計は50本ほど。
ブレゲやパテックフィリップ、フランクミュラーにランゲ&ゾーネ、オーデマ・ピゲ、その他ある。
アクセサリーもリングを中心にネックレスやブレスレットなども。
ブシュロンやカルティエ、ティファニー、ショーメ等々。
カフスも宝飾ブランドのものの他、タテオシアンのアニマルヘッドは全部揃い、チヅルなどの珍しいものも多い。
300くらいはあるか。
「あんた、死になさいよ」
「なんでだよ!」
「そういえばさっき、ちょっとガレージ見たけど、また車増えてなかった?」
ハマーH2のことだ。
「子どもたちと移動するのにな。乗ってみるか?」
「いいわよ!」
「なんなんだよ!」
双子は俺たちの遣り取りを気にすることなく、生まれ変わったような自分たちの姿に見とれていた。
「どうかな、瑠璃ちゃんと玻璃ちゃん。気に入ってくれた?」
「おねえちゃん、ありがと!」「とってもうれしいです!」
二人とも緑子に抱きついた。
「あらあら、こまったわねぇ」
緑子は二人の頭を抱きしめて撫でている。
双子が落ち着いてから
「じゃあ、次は超絶美人さんの番ね」
亜紀ちゃんが緊張して椅子に座る。
「高虎、あんたここまでのことで何か気付かないの?」
「うん?」
緑子が俺を睨む。
「ああ、すまない。よく分からない」
「化粧台が無いのよ! すぐに用意しなさい!!」
「はい、分かりました!」
俺は敬礼する。
そうか、そうだったのか。
本当に俺はダメだ。
「でも、私たちまだお化粧はしませんから」
「違うのよ」
緑子が亜紀ちゃんにブラッシングをしながら、優しく頭を撫でて言う。
「女の子は、いつも鏡を見なきゃいけないの。鏡を見る回数で、美しさが変わるのよ」
「おお、なんかシェークスピアの台詞みたいだな!」
緑子に蹴られる。
「高虎、まさかあんた、女子の部屋に鏡がないなんてことないわよねぇ?」
「……」
「大丈夫です、ちゃんといただいてます」
ナイス、亜紀ちゃんだった。
「ほんとにぃー?」
ちょっと抜け出して確認しておこう。
亜紀ちゃんは双子よりも念入りに化粧された。
普通の女性のメイク以上だ。
あれ、舞台メイクじゃねぇのか?
「ウイッグはさすがに必要ないわね。本当に綺麗な黒髪でうらやましいわ」
ストレートの亜紀ちゃんの髪は、軽くウェーブが施された。
「はぁー、ほんとうに亜紀ちゃんきれい」
「ほんとにねぇ」
瑠璃と玻璃が亜紀ちゃんに見とれる。
「お前たちもカワイイぞ」
「安っぽい台詞言うんじゃないわよ!」
緑子に怒られる。
亜紀ちゃんが笑う。
「ほら、できた!」
俺たちは再び衣装部屋に行く。
また緑子があちこちを蹴る。
亜紀ちゃんは信じられない、という顔で鏡を見ていた。
実際別人だった。
清楚な美人の亜紀ちゃんが、様々な色恋を経た大人の女性になっていた。
「どう? これが本当のあなたよ」
後ろで緑子が自信満々にそう言った。
「いえ、でも……」
亜紀ちゃんはそれ以上言葉が紡げなかった。
目の前に現実にいる自分が、緑子の言わんとするものだったためだ。
「うそうそ。ちょっと特別なお化粧をしただけよ」
笑って緑子がそう言う。
「私はね、一応舞台女優の端くれだから。自分じゃない人間になれるの。その方法を知ってるのよ。それを亜紀ちゃんにやっただけ」
亜紀ちゃんは尚も鏡を見ている。
「でもね、女の子はいろんな顔を持ってなきゃいけないのよ。今日はその一つを見せただけ」
こいつを呼んで本当に良かった。
そう思った。
その後も緑子が持ってきた様々なもので、亜紀ちゃんや双子が遊んだ。
「さて、じゃあ今度は皇紀クンね!」
「え」
「え」
俺と皇紀は顔を見合わせる。
皇紀は緑子の手により、見事な女の子に変身した………
白のサテンのスカートに、エルメスであろうシルクのシャツ。
肩に薄手の淡い空色のショートコート。
俺と同じ年齢だから、既に40代に入ったが、三十代そこそこに見える。
手足が長く、顔も小さく、整った顔は若干冷たいが、笑うと本当に慈母のように見える。
流石に一流女優だ。
非常に親しい女優さんが来る、と子どもたちには話していた。
俺が若い頃からちょっと憧れているんだ、という話も付け加えた。
これで、いいんだろうか。
亜紀ちゃんはいつもより緊張して
「私、女優さんなんて話したこともないですぅ!」
と心配していた。
俺が気さくな奴だから大丈夫だ、と何度言い聞かせてもダメだった。
皇紀も双子も、そこは大丈夫そうだった。
実感として分かってないのだろう。
緑子をリヴィングに案内して、みんなに挨拶させる。
「ええー! 天使よ天使!」
緑子が双子に抱きついて叫んだ。
そのまま頬ずりをして、チュッチュとほっぺたにキスをする。
次に皇紀の美少年振りを褒め称え、亜紀ちゃんの前に行く。
「話には聞いてたけどさぁ。本当に美人なのねぇ。悔しくなっちゃうわ」
ねえ、幾つ、とか身長や体重を聞き、スリーサイズまで問う。
身長と体重は押され気味に応えていた亜紀ちゃんも、スリーサイズで正気にもどる。
「本当にカワイイわねぇ、みんな」
亜紀ちゃんが紅茶を用意し、俺は隠すことなく緑子が来た目的を話す。
「俺は全然女の子のことは分からない。これまで、亜紀ちゃんも瑠璃も玻璃も申し訳ない、ごめん。今日は大女優様に来ていただき、精一杯女の子のことを実演してもらおうと思いました!」
亜紀ちゃんがオロオロして言う。
「そんな、タカさん。私こそ妹たちのことを気にしなきゃいけなかったのに。本当にごめんなさい!」
「はいはい、そこまで。高虎のバカは昔からだからしょーがないの! この私が来たんだから、もう安心しなさいね!」
見事な姉御肌だ。
本当に助かる。
緑子は、持ってきたトランクを開き、次々にテーブルに並べていく。
トランクは、以前に俺が勝ったグローブトロッターだ。
化粧道具は劇団員のプロ仕様の本格的なものだった。
きっとインパクトも考えて持ってきてくれたのだろう。
ホットカーラー、様々なブラシ、色とりどりのリボン、アクセサリー各種。
その他俺にもよく分からない道具など。
緑子の女の子講座は非常に本格的なものだった。
俺は亜紀ちゃんと共に必死で緑子の説明と実演を覚えていく。
双子はみるみる変わる自分に大興奮だ。
緑子主導で双子の変身が完成し、俺の衣裳部屋のでかい鏡に連れて行く。
「あいかわらず、頭にくる部屋よねぇ」
緑子は部屋のあちこちを見回して、時々蹴りを入れていく。
大きなガラスケースに並べられた、時計やアクセサリーを見てため息をつく。
時計は50本ほど。
ブレゲやパテックフィリップ、フランクミュラーにランゲ&ゾーネ、オーデマ・ピゲ、その他ある。
アクセサリーもリングを中心にネックレスやブレスレットなども。
ブシュロンやカルティエ、ティファニー、ショーメ等々。
カフスも宝飾ブランドのものの他、タテオシアンのアニマルヘッドは全部揃い、チヅルなどの珍しいものも多い。
300くらいはあるか。
「あんた、死になさいよ」
「なんでだよ!」
「そういえばさっき、ちょっとガレージ見たけど、また車増えてなかった?」
ハマーH2のことだ。
「子どもたちと移動するのにな。乗ってみるか?」
「いいわよ!」
「なんなんだよ!」
双子は俺たちの遣り取りを気にすることなく、生まれ変わったような自分たちの姿に見とれていた。
「どうかな、瑠璃ちゃんと玻璃ちゃん。気に入ってくれた?」
「おねえちゃん、ありがと!」「とってもうれしいです!」
二人とも緑子に抱きついた。
「あらあら、こまったわねぇ」
緑子は二人の頭を抱きしめて撫でている。
双子が落ち着いてから
「じゃあ、次は超絶美人さんの番ね」
亜紀ちゃんが緊張して椅子に座る。
「高虎、あんたここまでのことで何か気付かないの?」
「うん?」
緑子が俺を睨む。
「ああ、すまない。よく分からない」
「化粧台が無いのよ! すぐに用意しなさい!!」
「はい、分かりました!」
俺は敬礼する。
そうか、そうだったのか。
本当に俺はダメだ。
「でも、私たちまだお化粧はしませんから」
「違うのよ」
緑子が亜紀ちゃんにブラッシングをしながら、優しく頭を撫でて言う。
「女の子は、いつも鏡を見なきゃいけないの。鏡を見る回数で、美しさが変わるのよ」
「おお、なんかシェークスピアの台詞みたいだな!」
緑子に蹴られる。
「高虎、まさかあんた、女子の部屋に鏡がないなんてことないわよねぇ?」
「……」
「大丈夫です、ちゃんといただいてます」
ナイス、亜紀ちゃんだった。
「ほんとにぃー?」
ちょっと抜け出して確認しておこう。
亜紀ちゃんは双子よりも念入りに化粧された。
普通の女性のメイク以上だ。
あれ、舞台メイクじゃねぇのか?
「ウイッグはさすがに必要ないわね。本当に綺麗な黒髪でうらやましいわ」
ストレートの亜紀ちゃんの髪は、軽くウェーブが施された。
「はぁー、ほんとうに亜紀ちゃんきれい」
「ほんとにねぇ」
瑠璃と玻璃が亜紀ちゃんに見とれる。
「お前たちもカワイイぞ」
「安っぽい台詞言うんじゃないわよ!」
緑子に怒られる。
亜紀ちゃんが笑う。
「ほら、できた!」
俺たちは再び衣装部屋に行く。
また緑子があちこちを蹴る。
亜紀ちゃんは信じられない、という顔で鏡を見ていた。
実際別人だった。
清楚な美人の亜紀ちゃんが、様々な色恋を経た大人の女性になっていた。
「どう? これが本当のあなたよ」
後ろで緑子が自信満々にそう言った。
「いえ、でも……」
亜紀ちゃんはそれ以上言葉が紡げなかった。
目の前に現実にいる自分が、緑子の言わんとするものだったためだ。
「うそうそ。ちょっと特別なお化粧をしただけよ」
笑って緑子がそう言う。
「私はね、一応舞台女優の端くれだから。自分じゃない人間になれるの。その方法を知ってるのよ。それを亜紀ちゃんにやっただけ」
亜紀ちゃんは尚も鏡を見ている。
「でもね、女の子はいろんな顔を持ってなきゃいけないのよ。今日はその一つを見せただけ」
こいつを呼んで本当に良かった。
そう思った。
その後も緑子が持ってきた様々なもので、亜紀ちゃんや双子が遊んだ。
「さて、じゃあ今度は皇紀クンね!」
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