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焼肉悪魔
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軽く旅行の準備をした。
子どもたちのための服を買い揃えに伊勢丹へ行った。
伊勢丹での買い物はそれなりに大変だった。
皇紀は比較して早めに自分の服を決め、俺が選んだものも別に不服なく受け入れた。
亜紀ちゃんはちょっと遠慮しがちで、逆にそういう部分で時間がかかった。
問題は双子で、予想以上に自己主張がはっきりしている。
ガーリーなタイプの服が好みのようだが、俺がもっと落ち着いたものや清楚なものも選ぼうとすると、真っ向から反発してくる。
亜紀ちゃんが困り果てて言うことを聞くように諭すのだが、俺がそれを止めて遠慮なく選べと言ったものだから、結構な時間を費やした。
最終的には家長権限ということで、俺の選んだものも数点ずつ入れて買い物を終えた。
折角なので、外で食事をすることにした。
よく行く、焼肉店を予約していた。
山中家では焼肉は家でのホットプレートでしかやったことがないらしい。
奥さんが焼いて、みんなに配って行く。
だから目の前のコンロで自分で肉を乗せて焼くというのは初体験だったようだ。
大ガード近くのその焼肉店は、俺が肉好きな友人とよく利用している店だ。
高級焼肉店で、よくあるチェーン店とは違う。
子どもが騒ぐとうるさいだろうと、個室を用意したが、大正解だった。
まあ、大皿に乗った肉が運ばれるたびに双子が大興奮で、自分で焼くのだと知るとテンションはマックスになる。
「いいか、自分でこのハサミで肉をのせる。いい具合になったら、また自分でとってタレを入れた取り皿に入れて食べる。分かったか?」
自分で、というのが焼肉の醍醐味なわけだが、そもそも自分で調理して食べるという経験がないから楽しくてしょうがないらしい。
焼きすぎただの、焦げただの、生だっただの、大騒ぎで夢中で食べる。
皇紀は妹たちのために面倒を見ていた。
亜紀ちゃんは自分の「焼き」に集中している。獲物を狙う肉食獣のようだ。
焼肉というのは、ツボにはまったらしい。
皇紀は失敗しないように妹たちにアドバイスをするのだが、「うるさい!」と怒られる。
「おい、少なくなってきたけど、食べたい肉はあるか?」
俺はこれまで頼んだ特上ロースだのカルビだのを説明しながら、メニューを広げて見せてやる。
みんな真剣な顔でメニューを見る。
「ハツってなに?」
玻璃が聞いた。
「心臓のことだな。こういうのは経験だ。気になったのなら食べてみろよ」
俺は基本的に内臓は好まない。だからロースやカルビが中心になる。
「あの、タカさん……」
亜紀ちゃんがおずおずと言う。
「なんだ?」
「メニューに「松坂牛」とあるのですが……」
「ああ、あるな」
「それはあの「松坂牛」のことでしょうか?」
「そう書いてあるだろう。注文するか?」
すると亜紀ちゃんは両手を振った。
「いいえ、聞いただけです。昔、一度だけ父が買ってきたことがありまして。当時は私が10歳で、皇紀も妹たちも幼くて食べませんでした」
「ほう」
「母がいかに高い肉なのか強調してました。実際食べたら本当に美味しくて」
「じゃあ、みんなで食べてみよう」
「いいえ、いいえ、ここにある値段を見たら、本当にとんでもなく高いものですから……」
ステーキ3万円、スライスは1万円だ。
確かに高い。
俺はステーキを3枚、切り身を3皿頼んだ。亜紀ちゃんは困った顔をしている。
「おい、瑠璃と玻璃。お姉ちゃんがみんなに食べてもらいたいって、これから松坂牛が来るからな」
「「へぇー」」
「まあ、好みだけど、美味しかったら幾らでも注文していいからな」
「「はーい!」
「ちょっと、あなたたち!」
松坂牛の味にみんな感動していた。
「美味かったか! じゃあ、好きなだけ喰え!」
俺はトイレに席を外した。
戻ると、松坂牛は全てなくなっていた。
流石にもう食べられないだろう。
俺は最後にテールスープを頼もうと思った。
丁度店員が部屋に入って来る。
何人も入って来る。
みんな、でかい皿を持っていた。
松坂牛だった。
「……」
俺はテールスープを注文しなかった。
遠慮なく注文されていた。
支払いは90万円だった。
端数は店の人が好意で切り捨ててくれた。
「前に力士の人たちがいらっしゃいましたが、ここまで召し上がりませんでしたねぇ」
「……」
帰りのハマーの中で、子どもたちは焼肉の美味さを語り合っていた。
「おい、肉バカ」
「「「「ギャハハハハハ!」」」」
悪魔たちが笑っていた。
翌日、荷物をハマーに積み込み、別荘へ向かった。
場所は長野の山間部だ。
子どもたちはワイワイと騒いでいる。
俺はそれを見て嬉しかった。
本当に嬉しかった。
子どもたちのための服を買い揃えに伊勢丹へ行った。
伊勢丹での買い物はそれなりに大変だった。
皇紀は比較して早めに自分の服を決め、俺が選んだものも別に不服なく受け入れた。
亜紀ちゃんはちょっと遠慮しがちで、逆にそういう部分で時間がかかった。
問題は双子で、予想以上に自己主張がはっきりしている。
ガーリーなタイプの服が好みのようだが、俺がもっと落ち着いたものや清楚なものも選ぼうとすると、真っ向から反発してくる。
亜紀ちゃんが困り果てて言うことを聞くように諭すのだが、俺がそれを止めて遠慮なく選べと言ったものだから、結構な時間を費やした。
最終的には家長権限ということで、俺の選んだものも数点ずつ入れて買い物を終えた。
折角なので、外で食事をすることにした。
よく行く、焼肉店を予約していた。
山中家では焼肉は家でのホットプレートでしかやったことがないらしい。
奥さんが焼いて、みんなに配って行く。
だから目の前のコンロで自分で肉を乗せて焼くというのは初体験だったようだ。
大ガード近くのその焼肉店は、俺が肉好きな友人とよく利用している店だ。
高級焼肉店で、よくあるチェーン店とは違う。
子どもが騒ぐとうるさいだろうと、個室を用意したが、大正解だった。
まあ、大皿に乗った肉が運ばれるたびに双子が大興奮で、自分で焼くのだと知るとテンションはマックスになる。
「いいか、自分でこのハサミで肉をのせる。いい具合になったら、また自分でとってタレを入れた取り皿に入れて食べる。分かったか?」
自分で、というのが焼肉の醍醐味なわけだが、そもそも自分で調理して食べるという経験がないから楽しくてしょうがないらしい。
焼きすぎただの、焦げただの、生だっただの、大騒ぎで夢中で食べる。
皇紀は妹たちのために面倒を見ていた。
亜紀ちゃんは自分の「焼き」に集中している。獲物を狙う肉食獣のようだ。
焼肉というのは、ツボにはまったらしい。
皇紀は失敗しないように妹たちにアドバイスをするのだが、「うるさい!」と怒られる。
「おい、少なくなってきたけど、食べたい肉はあるか?」
俺はこれまで頼んだ特上ロースだのカルビだのを説明しながら、メニューを広げて見せてやる。
みんな真剣な顔でメニューを見る。
「ハツってなに?」
玻璃が聞いた。
「心臓のことだな。こういうのは経験だ。気になったのなら食べてみろよ」
俺は基本的に内臓は好まない。だからロースやカルビが中心になる。
「あの、タカさん……」
亜紀ちゃんがおずおずと言う。
「なんだ?」
「メニューに「松坂牛」とあるのですが……」
「ああ、あるな」
「それはあの「松坂牛」のことでしょうか?」
「そう書いてあるだろう。注文するか?」
すると亜紀ちゃんは両手を振った。
「いいえ、聞いただけです。昔、一度だけ父が買ってきたことがありまして。当時は私が10歳で、皇紀も妹たちも幼くて食べませんでした」
「ほう」
「母がいかに高い肉なのか強調してました。実際食べたら本当に美味しくて」
「じゃあ、みんなで食べてみよう」
「いいえ、いいえ、ここにある値段を見たら、本当にとんでもなく高いものですから……」
ステーキ3万円、スライスは1万円だ。
確かに高い。
俺はステーキを3枚、切り身を3皿頼んだ。亜紀ちゃんは困った顔をしている。
「おい、瑠璃と玻璃。お姉ちゃんがみんなに食べてもらいたいって、これから松坂牛が来るからな」
「「へぇー」」
「まあ、好みだけど、美味しかったら幾らでも注文していいからな」
「「はーい!」
「ちょっと、あなたたち!」
松坂牛の味にみんな感動していた。
「美味かったか! じゃあ、好きなだけ喰え!」
俺はトイレに席を外した。
戻ると、松坂牛は全てなくなっていた。
流石にもう食べられないだろう。
俺は最後にテールスープを頼もうと思った。
丁度店員が部屋に入って来る。
何人も入って来る。
みんな、でかい皿を持っていた。
松坂牛だった。
「……」
俺はテールスープを注文しなかった。
遠慮なく注文されていた。
支払いは90万円だった。
端数は店の人が好意で切り捨ててくれた。
「前に力士の人たちがいらっしゃいましたが、ここまで召し上がりませんでしたねぇ」
「……」
帰りのハマーの中で、子どもたちは焼肉の美味さを語り合っていた。
「おい、肉バカ」
「「「「ギャハハハハハ!」」」」
悪魔たちが笑っていた。
翌日、荷物をハマーに積み込み、別荘へ向かった。
場所は長野の山間部だ。
子どもたちはワイワイと騒いでいる。
俺はそれを見て嬉しかった。
本当に嬉しかった。
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