34 / 36
一歩の勇気
34.コンテスト
しおりを挟む
美術部に入って、二ヶ月弱。その日、私は病院に来ていた。
まだ菅谷くんたちを描いた絵は完成していなかったが、もうすぐ出来上がりそうなその絵を今日はスマホの写真に収めてきていた。
「えー!とっても上手ね!びっくりしちゃった!」
看護師さんが私の絵の写真を嬉しそうに見てくれている。流石にキャンバスは持って来れないので、写真を撮ることにした。
「これはサッカーの試合よね?奈々花ちゃんの高校のサッカー部?」
「はい。友達がいて……」
初めて「友達」と言えた気がした。
「そうなの?どの子?」
私は絵の中の菅谷くんと草野くんを看護師さんに教えると、看護師さんは楽しそうに笑っている。
「いいわね。奈々花ちゃんにしか出来ない楽しみね」
「……?」
「だって、こんなに上手に絵を描ける人ってそんなに多くないわよ?私だって描けないもの。こういう楽しみがあることも素敵なことだわ」
看護師さんは私のスマホに映し出された絵を感心したように見ている。
「これはどんなコンテストに出すの?」
看護師さんの言葉に私は「えっと……」とすぐに言葉を返せない。なんとか「今のところ出す予定はなくて」と答えた。
「そうなの。こんなに上手なのに。私、この絵『大好き』よ」
自分の描いた絵を誰かに「大好き」と言ってもらえる人は一体どれだけいるのだろう。こんな人生の楽しみがある人はきっとそんなに多くない。
「……出してもいいと思いますか……?」
私の震えた声での質問に看護師さんは何かあると分かったようだった。そして、分かった上でニコッと笑った。
「あら、私は出すだけタダだと思うわよ?」
そうわざと軽く返してくれたのは、看護師さんの優しさだろう。私は病院からの帰り道、ずっとコンテストのことを考えていた。
ずっとコンテストが怖かった。中学の頃のようになってしまうのが怖かった。でも、気づかないうちに私はもう成長していて。そのことに気づけた今なら、もっと前に進める気がする。
家に帰った私は菅谷くんに「電話していい?」とメッセージを送ると、菅谷くんは「全然大丈夫」と返してくれた。
「菅谷くん、あの絵、コンテストに出そうと思う」
私は電話に出た菅谷くんにそう伝えた。菅谷くんは「ほんと!?」と嬉しそうに声を上げた。
「え、めっちゃいいと思う!草野も絶対喜ぶ!……あ、でも……」
「うん……?」
「コンテストに出す前に先に完成した絵を見に行ってもいい?」
「もちろんいいけど……」
「やった!早く見たかったから嬉しい」
菅谷くんが本当に私の絵を楽しみにしているのが伝わってきて、私は明日の部活のやる気が出た気がした。
「あとどれくらいで完成する?」
「本当にもう少しだと思う。あと数日」
「まじ!?めっちゃ楽しみ」
菅谷くんとの電話はいつも症状とかの話も多くて、こんな明るくて高校生らしい会話が出来ることがただただ嬉しかった。
菅谷くんとの電話を切った後に、私はベッドに座って、いつもの枕元に置かれているぬいぐるみを膝の上に乗せた。症状が出ていない時に触るぬいぐるみはいつもと違う感じがした。いつものように手を繋くと、勇気がもらえる気がする。
「うん、あともうちょっと頑張ろ」
絵の完成がもう間近に迫っていた。
まだ菅谷くんたちを描いた絵は完成していなかったが、もうすぐ出来上がりそうなその絵を今日はスマホの写真に収めてきていた。
「えー!とっても上手ね!びっくりしちゃった!」
看護師さんが私の絵の写真を嬉しそうに見てくれている。流石にキャンバスは持って来れないので、写真を撮ることにした。
「これはサッカーの試合よね?奈々花ちゃんの高校のサッカー部?」
「はい。友達がいて……」
初めて「友達」と言えた気がした。
「そうなの?どの子?」
私は絵の中の菅谷くんと草野くんを看護師さんに教えると、看護師さんは楽しそうに笑っている。
「いいわね。奈々花ちゃんにしか出来ない楽しみね」
「……?」
「だって、こんなに上手に絵を描ける人ってそんなに多くないわよ?私だって描けないもの。こういう楽しみがあることも素敵なことだわ」
看護師さんは私のスマホに映し出された絵を感心したように見ている。
「これはどんなコンテストに出すの?」
看護師さんの言葉に私は「えっと……」とすぐに言葉を返せない。なんとか「今のところ出す予定はなくて」と答えた。
「そうなの。こんなに上手なのに。私、この絵『大好き』よ」
自分の描いた絵を誰かに「大好き」と言ってもらえる人は一体どれだけいるのだろう。こんな人生の楽しみがある人はきっとそんなに多くない。
「……出してもいいと思いますか……?」
私の震えた声での質問に看護師さんは何かあると分かったようだった。そして、分かった上でニコッと笑った。
「あら、私は出すだけタダだと思うわよ?」
そうわざと軽く返してくれたのは、看護師さんの優しさだろう。私は病院からの帰り道、ずっとコンテストのことを考えていた。
ずっとコンテストが怖かった。中学の頃のようになってしまうのが怖かった。でも、気づかないうちに私はもう成長していて。そのことに気づけた今なら、もっと前に進める気がする。
家に帰った私は菅谷くんに「電話していい?」とメッセージを送ると、菅谷くんは「全然大丈夫」と返してくれた。
「菅谷くん、あの絵、コンテストに出そうと思う」
私は電話に出た菅谷くんにそう伝えた。菅谷くんは「ほんと!?」と嬉しそうに声を上げた。
「え、めっちゃいいと思う!草野も絶対喜ぶ!……あ、でも……」
「うん……?」
「コンテストに出す前に先に完成した絵を見に行ってもいい?」
「もちろんいいけど……」
「やった!早く見たかったから嬉しい」
菅谷くんが本当に私の絵を楽しみにしているのが伝わってきて、私は明日の部活のやる気が出た気がした。
「あとどれくらいで完成する?」
「本当にもう少しだと思う。あと数日」
「まじ!?めっちゃ楽しみ」
菅谷くんとの電話はいつも症状とかの話も多くて、こんな明るくて高校生らしい会話が出来ることがただただ嬉しかった。
菅谷くんとの電話を切った後に、私はベッドに座って、いつもの枕元に置かれているぬいぐるみを膝の上に乗せた。症状が出ていない時に触るぬいぐるみはいつもと違う感じがした。いつものように手を繋くと、勇気がもらえる気がする。
「うん、あともうちょっと頑張ろ」
絵の完成がもう間近に迫っていた。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
バレンタインにやらかしてしまった僕は今、目の前が真っ白です…。
続
青春
昔から女の子が苦手な〈僕〉は、あろうことかクラスで一番圧があって目立つ女子〈須藤さん〉がバレンタインのために手作りしたクッキーを粉々にしてしまった。
謝っても許してもらえない。そう思ったのだが、須藤さんは「それなら、あんたがチョコを作り直して」と言ってきて……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】キスの練習相手は幼馴染で好きな人【連載版】
猫都299
青春
沼田海里(17)は幼馴染でクラスメイトの一井柚佳に恋心を抱いていた。しかしある時、彼女は同じクラスの桜場篤の事が好きなのだと知る。桜場篤は学年一モテる文武両道で性格もいいイケメンだ。告白する予定だと言う柚佳に焦り、失言を重ねる海里。納得できないながらも彼女を応援しようと決めた。しかし自信のなさそうな柚佳に色々と間違ったアドバイスをしてしまう。己の経験のなさも棚に上げて。
「キス、練習すりゃいいだろ? 篤をイチコロにするやつ」
秘密や嘘で隠されたそれぞれの思惑。ずっと好きだった幼馴染に翻弄されながらも、その本心に近付いていく。
※現在完結しています。ほかの小説が落ち着いた時等に何か書き足す事もあるかもしれません。(2024.12.2追記)
※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。(2024.12.2追記)
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、ノベルアップ+、Nolaノベルに投稿しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
俺にはロシア人ハーフの許嫁がいるらしい。
夜兎ましろ
青春
高校入学から約半年が経ったある日。
俺たちのクラスに転入生がやってきたのだが、その転入生は俺――雪村翔(ゆきむら しょう)が幼い頃に結婚を誓い合ったロシア人ハーフの美少女だった……!?
光属性陽キャ美少女の朝日さんが何故か俺の部屋に入り浸るようになった件について
新人
青春
朝日 光(あさひ ひかる)は才色兼備で天真爛漫な学内一の人気を誇る光属性完璧美少女。
学外でもテニス界期待の若手選手でモデルとしても活躍中と、まさに天から二物も三物も与えられた存在。
一方、同じクラスの影山 黎也(かげやま れいや)は平凡な学業成績に、平凡未満の運動神経。
学校では居ても居なくても誰も気にしないゲーム好きの闇属性陰キャオタク。
陽と陰、あるいは光と闇。
二人は本来なら決して交わることのない対極の存在のはずだった。
しかし高校二年の春に、同じバスに偶然乗り合わせた黎也は光が同じゲーマーだと知る。
それをきっかけに、光は週末に黎也の部屋へと入り浸るようになった。
他の何も気にせずに、ただゲームに興じるだけの不健康で不健全な……でも最高に楽しい時間を過ごす内に、二人の心の距離は近づいていく。
『サボリたくなったら、またいつでもうちに来てくれていいから』
『じゃあ、今度はゲーミングクッションの座り心地を確かめに行こうかな』
これは誰にも言えない疵を抱えていた光属性の少女が、闇属性の少年の呪いによって立ち直り……虹色に輝く初恋をする物語。
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』でも公開しています。
https://kakuyomu.jp/works/16817330667865915671
https://ncode.syosetu.com/n1708ip/
アオハル・リープ
おもち
青春
ーーこれはやり直しの物語。
とある女子高生のミカは他人の心の後悔が“杭”として見えていた。
杭は大なり小なり、その人の後悔に応じてある。後悔が消えると同時に杭は跡形もなく失われる。
そんなミカはクラスメイトの心の中にとてつもない異様な形の杭を見てしまった。
気になっていると、その杭はどんどん大きくなり、やがてクラスメイトの心を蝕む。
それが耐えられなくて、見ていられなくて、ミカがクラスメイトの手を取ると、何故かその杭を初めて見た日に戻ってしまった。
タイムリープした意味はわからない。けれど、未来を知っているからこそ今度は救えるとミカは思った。
ミカは自分に与えられたその力で、友達の悔いを取り除き未来を明るくする。
この日々が、暗いものではなく。
尊く、輝かしいものになるように。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる