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二人の聖女の選択
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「貴方、馬鹿なの?それとも、私にされたことを忘れたのですか?」
もう一度、シーラック伯爵家を一人で訪れた私をリエナ様は嘲笑《あざわら》った。
「それとも、私を殺しにでも来たの?」
私は何も答えない。
ただリエナ様の目の前で、目を瞑《つぶ》り、胸の前で両手を組む。
そして、あることを口にする。
『リエナ様を、殺して下さいませ』
「っ!あんた、何をっ!」
しかし、【何も起きない】
「リエナ様、私の聖女の力は【本当の願い】しか叶いませんわ。つまり、リエナ様を殺すことを【私は願っていない】」
「リエナ様、貴方の聖女の力を教えて下さい。私は貴方と向き合いたい」
リエナ様は、顔を歪《ゆが》める。
「いい子ぶってるつもりなの?余計、腹立つんだけど」
リエナ様がそう言い放つ。
私は、リエナ様に一歩だけ近づく。
「甘えないでくださいませ。腹が立たないはずなどありませんわ・・・・!」
「それでも、私はリエナ様のことをまだよく知らない。何故、リエナ様が私を殺したいほど憎んでいるのかも」
「どうか教えて下さいませ。貴方は何がそんなにも憎いのですか?」
「うるさい・・・・!うるさい・・・・!」
そう叫んだ後、リエナ様はその場に崩れ落ちる。
そして、女神に与えられた能力を震えた声で述べた。
その後、泣き叫ぶように続ける。
「苦しい・・・・!ただ、幸せになりたかっただけなのに、全然満たされない!全然足りない!」
「あんたと私の何が違うというの!?何故、あんただけ優遇されるの!?私はこんなにも苦しいのに!」
リエナ様は苦しそうに私を睨《にら》みつける。
「リエナ様、では貴方は私の聖女の力を持っていたとしたら、【何を願うというのですか?】貴方の今の願いを教えて下さいませ」
私はリエナ様と目を逸らさない。
「そんなの、もっと愛されたいに決まってるじゃない!それにもっと色んな願いを叶えるわ!私はもっと幸せなならなくちゃいけないの!」
私はリエナ様にゆっくりと近づいていく。
「では、自力で叶えて下さいませ」
「っ!」
「私は、リエナ様の前世を良く知りませんわ。それでも、貴方はほとんど何も願うことすら出来なかったほど、希望がなかったのでしょう」
「願いは希望ですわ。しかし、この世には叶えられないことも沢山ある。それでも、叶えられることも必ずあるのです」
「ねぇ、リエナ様。私だって、貴方が羨ましい。愛嬌があって、苦しみを知っていて、それを変えたいと思う勇気がある。それでも、「羨ましい」と「憎い」は違う」
「この世は平等ではありませんわ。自分に無いものを持っている人はいる。羨ましいと思わない方が無理ですわ。それでも、皆、自分なりの幸せを見つけることに必死なのです」
「リエナ様、貴方の願いが「幸せになりたい」ならば、貴方は自分で幸せを掴まなくてはいけない」
「だって、リエナ様が幸せか判断するのは、リエナ様自身ですもの。そして、リエナ様を幸せに出来るのも、リエナ様だけですわ」
リエナ様の目の前まで近づいた私は、深く一度だけ息を吐き、リエナ様に向き直る。
「リエナ様、歯を食いしばって下さいませ」
私はそう述べた3秒後、思いっきりリエナ様の頬を叩いた。
「これで許すなんて、甘いことは言いませんわ。これは私の気持ちの整理のための一発です」
リエナ様は、私に叩かれた頬に触れながら呆然《ぼうぜん》としていた。
「国王は、リエナ様の聖女の力を危険視して、リエナ様の幽閉を考え始めたそうです」
「だから、リエナ様に選んで頂きたいのです。幽閉されるか、【聖女の力を無くす】のか、どちらが良いかを」
リエナ様は何も言わなかった。
しかし、暫くして消え入りそうな声で呟いた。
「・・・・こんな力、要らない・・・・どうせ幸せになんてなれない・・・・」
私は、顔を上げ、天井を見上げる。
「女神よ、見ているのでしょう?」
女神のクスクスとした笑い声が、聞こえてくる。
「どうしたのかしら?私の愛しい聖女達」
「リエナ様の聖女の力をなくして下さいませ」
「そして、【私の聖女の力も】」
女神の楽しそうだった声色が、一気に冷たく変わる。
「それは、とても【つまらない】提案、ね?」
「リエナ様は、聖女の力を要らないと仰いましたわ。それに、私も要らない」
「何故?貴方の聖女の力があれば、もっと国をよく出来るわよ?」
「それは一時的にですわ。この国は私の聖女の力だけに頼っていては、いつか回っていかなくなる」
「そして、例え、私がこの聖女の力を上手く使えたとしても、【私はこの力を求めない】」
「・・・・それはどうして?」
「私がこの国のためにした選択が、本当に正解かなど分かりませんもの」
「私が国のために考えた願いが、間違っているかもしれない。私の願いが正しいかは誰にも分からない」
「願いに正解はありませんわ。だからこそ、叶えるのは自分の力でありたい」
女神はただ静かに私の話を聞いていた。
そして、最後に一言だけ聞いた。
「もう一度だけ、聞くわ。リエナ、エイリル・・・・貴方達はこの聖女の力をなくしたい?」
私は、頷く。
リエナ様も、小さく頷いた。
「分かったわ。消してあげる。これで、きっともう私が貴方達に会うことはないでしょうね」
「だから、最後に一つだけ」
「貴方達がこれからどんな人生を歩むのか、見守っているわ」
その瞬間、部屋が光に包まれる。
そして数秒後、光がおさまり、元の部屋に戻る。
女神の声はもう聞こえない。
聖女の力も消えた。
私は、部屋を出る前にリエナ様の方を振り返る。
「私は、自分を殺そうとした者の幸せなど願いませんわ。だから、どうか・・・・」
何故か、泣きそうになり声が震える。
「どうか、勝手に幸せを掴み取って下さいませ」
それが、私がリエナ様に向けた最後の言葉だった。
もう一度、シーラック伯爵家を一人で訪れた私をリエナ様は嘲笑《あざわら》った。
「それとも、私を殺しにでも来たの?」
私は何も答えない。
ただリエナ様の目の前で、目を瞑《つぶ》り、胸の前で両手を組む。
そして、あることを口にする。
『リエナ様を、殺して下さいませ』
「っ!あんた、何をっ!」
しかし、【何も起きない】
「リエナ様、私の聖女の力は【本当の願い】しか叶いませんわ。つまり、リエナ様を殺すことを【私は願っていない】」
「リエナ様、貴方の聖女の力を教えて下さい。私は貴方と向き合いたい」
リエナ様は、顔を歪《ゆが》める。
「いい子ぶってるつもりなの?余計、腹立つんだけど」
リエナ様がそう言い放つ。
私は、リエナ様に一歩だけ近づく。
「甘えないでくださいませ。腹が立たないはずなどありませんわ・・・・!」
「それでも、私はリエナ様のことをまだよく知らない。何故、リエナ様が私を殺したいほど憎んでいるのかも」
「どうか教えて下さいませ。貴方は何がそんなにも憎いのですか?」
「うるさい・・・・!うるさい・・・・!」
そう叫んだ後、リエナ様はその場に崩れ落ちる。
そして、女神に与えられた能力を震えた声で述べた。
その後、泣き叫ぶように続ける。
「苦しい・・・・!ただ、幸せになりたかっただけなのに、全然満たされない!全然足りない!」
「あんたと私の何が違うというの!?何故、あんただけ優遇されるの!?私はこんなにも苦しいのに!」
リエナ様は苦しそうに私を睨《にら》みつける。
「リエナ様、では貴方は私の聖女の力を持っていたとしたら、【何を願うというのですか?】貴方の今の願いを教えて下さいませ」
私はリエナ様と目を逸らさない。
「そんなの、もっと愛されたいに決まってるじゃない!それにもっと色んな願いを叶えるわ!私はもっと幸せなならなくちゃいけないの!」
私はリエナ様にゆっくりと近づいていく。
「では、自力で叶えて下さいませ」
「っ!」
「私は、リエナ様の前世を良く知りませんわ。それでも、貴方はほとんど何も願うことすら出来なかったほど、希望がなかったのでしょう」
「願いは希望ですわ。しかし、この世には叶えられないことも沢山ある。それでも、叶えられることも必ずあるのです」
「ねぇ、リエナ様。私だって、貴方が羨ましい。愛嬌があって、苦しみを知っていて、それを変えたいと思う勇気がある。それでも、「羨ましい」と「憎い」は違う」
「この世は平等ではありませんわ。自分に無いものを持っている人はいる。羨ましいと思わない方が無理ですわ。それでも、皆、自分なりの幸せを見つけることに必死なのです」
「リエナ様、貴方の願いが「幸せになりたい」ならば、貴方は自分で幸せを掴まなくてはいけない」
「だって、リエナ様が幸せか判断するのは、リエナ様自身ですもの。そして、リエナ様を幸せに出来るのも、リエナ様だけですわ」
リエナ様の目の前まで近づいた私は、深く一度だけ息を吐き、リエナ様に向き直る。
「リエナ様、歯を食いしばって下さいませ」
私はそう述べた3秒後、思いっきりリエナ様の頬を叩いた。
「これで許すなんて、甘いことは言いませんわ。これは私の気持ちの整理のための一発です」
リエナ様は、私に叩かれた頬に触れながら呆然《ぼうぜん》としていた。
「国王は、リエナ様の聖女の力を危険視して、リエナ様の幽閉を考え始めたそうです」
「だから、リエナ様に選んで頂きたいのです。幽閉されるか、【聖女の力を無くす】のか、どちらが良いかを」
リエナ様は何も言わなかった。
しかし、暫くして消え入りそうな声で呟いた。
「・・・・こんな力、要らない・・・・どうせ幸せになんてなれない・・・・」
私は、顔を上げ、天井を見上げる。
「女神よ、見ているのでしょう?」
女神のクスクスとした笑い声が、聞こえてくる。
「どうしたのかしら?私の愛しい聖女達」
「リエナ様の聖女の力をなくして下さいませ」
「そして、【私の聖女の力も】」
女神の楽しそうだった声色が、一気に冷たく変わる。
「それは、とても【つまらない】提案、ね?」
「リエナ様は、聖女の力を要らないと仰いましたわ。それに、私も要らない」
「何故?貴方の聖女の力があれば、もっと国をよく出来るわよ?」
「それは一時的にですわ。この国は私の聖女の力だけに頼っていては、いつか回っていかなくなる」
「そして、例え、私がこの聖女の力を上手く使えたとしても、【私はこの力を求めない】」
「・・・・それはどうして?」
「私がこの国のためにした選択が、本当に正解かなど分かりませんもの」
「私が国のために考えた願いが、間違っているかもしれない。私の願いが正しいかは誰にも分からない」
「願いに正解はありませんわ。だからこそ、叶えるのは自分の力でありたい」
女神はただ静かに私の話を聞いていた。
そして、最後に一言だけ聞いた。
「もう一度だけ、聞くわ。リエナ、エイリル・・・・貴方達はこの聖女の力をなくしたい?」
私は、頷く。
リエナ様も、小さく頷いた。
「分かったわ。消してあげる。これで、きっともう私が貴方達に会うことはないでしょうね」
「だから、最後に一つだけ」
「貴方達がこれからどんな人生を歩むのか、見守っているわ」
その瞬間、部屋が光に包まれる。
そして数秒後、光がおさまり、元の部屋に戻る。
女神の声はもう聞こえない。
聖女の力も消えた。
私は、部屋を出る前にリエナ様の方を振り返る。
「私は、自分を殺そうとした者の幸せなど願いませんわ。だから、どうか・・・・」
何故か、泣きそうになり声が震える。
「どうか、勝手に幸せを掴み取って下さいませ」
それが、私がリエナ様に向けた最後の言葉だった。
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