上 下
17 / 21

ずっと君の味方だ

しおりを挟む
先ほどリベスといた部屋で目を覚ました私は、しばらく呆然《ぼうぜん》としていた。


「私の【本当の願い】だけが叶う力・・・・」


女神は私にどうしろというのだろう。

リベスが打ち明けた秘密に心が苦しかった。

そのことすら整理出来ないうちに、女神は私の聖女の力を明かした。


グレン殿下が以前私に仰って下さった言葉を思い出す。


「私にはどれだけ甘えてもいいんだ。愛する者に甘えてもらえることほど幸せなことはないのだから」


グレン殿下に会いたい。

私は部屋を飛び出し、王宮へ向かった。

私の突然の訪問に、グレン殿下は慌てた様子で客間に入る。

「エイリル・・・・!何かあったのか・・・・!?」

グレン殿下の顔を見た瞬間、何故か涙が溢れ出す。

涙は止まることを知らず、ただただ頬を伝っていく。

グレン殿下が私を引き寄せ、抱きしめる。

そして、しばらく何も言わずに抱きしめ続けて下さる。


「エイリル、どうした?悲しいことでもあったのか?」


涙が溢れて何も話せない私の頭をグレン殿下はそっと撫でて下さる。


「君はいつも人に気を使ってばかりいる。そんな君が私の前で泣いてくれたことが、何故か少し嬉しいんだ」

「ねぇ、エイリル。もっと私に甘えてくれ。君が泣いた後、笑顔になる手助けをさせて欲しい」

「何でも打ち明けてくれ。私は絶対に君の味方だから」


涙を拭いた私は少しずつ話し始めた。

リベスのことは話さなかったが、自分の聖女の力を打ち明ける。

「そうか。それがエイリルの聖女の力なんだね」

グレン殿下は最後まで静かに話を聞いて下さった。


「グレン殿下、私は、この力の使い方が分からないのです・・・・何が正しいのか分からない・・・・」


「もし私がエイリルと同じ能力を持っていたとしたら、もっとベルシナ国に雨を降らせたいし、国民が困っていたら力を使って助けたい。それにエイリルからの愛だって求めてしまうかもしれない」

「でもね、もしそうしたら私が亡くなった後はどうなるんだろう。やっぱり私が亡くなった後もベルシナ国が上手く回っていくような持続可能な政策を考えたい。それにエイリルからの愛は自分で勝ち取りたい」

「では、力を使う人間が悪いのか?それも違うと思う。私だって君の力を持っていて目の前でもがき苦しむ人がいたら、助けて下さいと目を閉じるだろう」

「ねぇ、エイリル。私は正解はないと思うんだ。だから、君が考えた答えを信じたい」

「何度だって言おう。私は絶対に君の味方だ」


グレン殿下が優しく微笑まれる。

「エイリル、自信を持ってくれ。君は、優しくて「強い」人間だ」

私は、胸の奥から心がぎゅーっと苦しくなるのを感じた。

そして、思い出す。

あの日、グレン殿下の持って来た花を咲かせることが出来た時に頭をよぎった言葉を。



「またこの花が咲いた頃に会いにくるよ」



私の聖女の力は、【本当の願い】しか叶わない。

【心の底から強く願っていること】しか叶わない。



私はグレン殿下に会いたかった。



今もこうして苦しい時に、顔を見たいと思ったのはグレン殿下だった。

きっともう私は自分の気持ちに気づいている。

それでも、まだ私には向き合うことがある。

私は頬の涙を拭う。



「グレン殿下、私もう一度リエナ様に会いますわ」



女神よ、貴方はこの世界を、この勝負を、ゲームと仰った。

違う。

この勝負はゲームなどではない。

この世界は、この勝負は、ちゃんと現実だ。

ゲームのようにやり直しなど出来ない。

だからこそ、悔いのないように生きなければいけない。

グレン殿下、どうか私なりの答えを最後まで見守って下さいますか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!

吉野屋
恋愛
 母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、  潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。  美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。  母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。  (完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)  

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?

青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。 二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。 三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。 四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】聖女として召喚されましたが、無力なようなのでそろそろお暇したいと思います

藍生蕗
恋愛
聖女として異世界へ召喚された柚子。 けれどその役割を果たせないままに、三年の月日が経った。そして痺れを切らした神殿は、もう一人、新たな聖女を召喚したのだった。 柚子とは違う異世界から来たセレナは聖女としての価値を示し、また美しく皆から慕われる存在となっていく。 ここから出たい。 召喚された神殿で過ごすうちに柚子はそう思うようになった。 全てを諦めたままこのまま過ごすのは辛い。 一時、希望を見出した暮らしから離れるのは寂しかったが、それ以上に存在を忘れられる度、疎まれる度、身を削られるような気になって辛かった。 そこにあった密かに抱えていた恋心。 手放せるうちに去るべきだ。 そう考える柚子に差し伸べてくれた者たちの手を掴み、柚子は神殿から一歩踏み出すのだけど…… 中編くらいの長さです。 ※ 暴力的な表現がありますので、苦手な方はご注意下さい。 他のサイトでも公開しています

処理中です...