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大切な思い出
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重い瞼《まぶた》が軽くなり、目を開けることが出来る。
「エイリル・・・・!エイリル・・・・!」
目を開けると、グレン殿下が不安に満ちた顔で私の手を握っていた。
「グレン殿下・・・・ずっと手を握っていて下さったのですか・・・・?」
「そんなことは気にしなくて良いんだ。それより、身体は大丈夫なのか・・・・!」
「ええ。まだ少し身体が重いですが、問題ありません」
グレン殿下はあの後、倒れた私を運び、すぐに医者に私を診てもらったようだった。
「すまない。私が近くにいながら、君を危険な目に合わせてしまった」
「グレン殿下のせいではありませんわ・・・・!これは、私の注意不足です。それに、リエナ様に毒を盛られるほど恨まれていたことに気づかなかった私の落ち度ですわ」
「・・・・聖女リエナの屋敷の使用人たちに取調べを行ったが、皆、聖女リエナは一切関係ないと証言した。聖女リエナの力を考えると、使用人たちの証言が本当とは考えにくいだろう。しかし・・・・」
「証拠がないのですね・・・・」
「ああ。聖女リエナに聖女の力を使われると、証拠を集めるのは非常に難しい。すまない、エイリルがこんなに苦しんでいるのに、私は君の役にも立っていない」
「グレン殿下は私の役に立っていますわ」
「・・・・?」
「こうやってずっと私の手を握っていて下さった。それに、薄い意識の中でグレン殿下の声が聞こえたことがどれだけ嬉しかったか知らないでしょう?」
私はグレン殿下に微笑みながら、感謝を述べる。
グレン殿下は、私の微笑みを慈《いつく》しむように見つめていた。
「エイリル、少しだけ昔話をしても良いか?」
「え・・・・?」
「本当はまだ話すつもりはなかったのだが、今の君の笑顔を見たらあの時を思い出してしまった」
グレン殿下は私の手をもう一度ぎゅっと握る。
「エイリル、君は私に会ったことを覚えていないと言ったね。それは、当たり前だ。だって、私は【一度も君と話していないのだから】」
「昔、王宮で行われていたお茶会に君は招待されていた。そこで君はいつも笑顔で人に接していた。しかし、幼い君を利用しようとする貴族も多かった」
「そこで私の父・・・・国王は君を呼び出し忠告をした。「君を利用しようとするものもいる。注意した方が良い」とね。私は偶然その場を見ていたんだ。幼い娘にとっては難しい話だったが、国王はきっとフォンリース公爵家自体を信頼していたのだろう」
「君は「ご心配ありがとうございます」と微笑んだ。「どうかこれからもご忠告して下さると嬉しいです。私の立場で誰かに騙されることは、家族だけでなく国民にまで迷惑をかけてしまいます。私、それだけは絶対に嫌なのです」と続けた」
「国王は君に「君を騙そうとした人間を処罰する」と仰った。他にもその者には余罪があったようだ。だから、君にも証言して欲しいと述べた。君は小さく頷いたよ」
「ねぇ、エイリル。君は優しい人間だ。しかし、ただ優しいだけじゃない。自分の大切なものや大事なものが明確に分かっている人間だ。そして、そのものを守るためなら、きっと厳しい判断だって出来る」
「それでもね、その時の君は震えていたんだよ」
グレン殿下が私と目を合わせ、微笑まれる。
「私は、大切なものを守る人間がどれだけ強いかを知った。それでも、その出会いも思い出として終わらせなければと過ごしてきた。しかし、成長した君は聖女リエナ達に「断罪された」」
「報告を受けた私に臣下《しんか》は続けた。エイリル・フォンリースは最後まで「家族には迷惑をかけたくない」と泣き叫んだ。そして、自身の学園からの追放だけで済んだ時、エイリル・フォンリースは「とても安堵した様子だった」と」
「ねぇ、エイリル。優しい君はたくさんの大事なものを守ることに必死だ。じゃあ、誰が君を守るの?」
「私は、隣で君を守りたい。そう願ってしまった」
「優しい君は、きっと大切な人のためなら厳しい判断を下せる。それでもきっとその後に隠れてまた心を痛める。だから、どうか隣で声をかけさせて欲しい。「君の判断は間違っていない」と。私の言葉が君の勇気を出す後押しに少しでもなれば良い」
「あの日・・・・君に初めて会った幼いあの時、私は君の震える手をこうやって握ってあげたかった」
グレン殿下が私の手を握る手に力を込める。
「今、こうして君の手を握れることが私は堪らなく嬉しいんだ」
「私の守りたいものは、国民、家族・・・・そして、あの日、大切なことを教えてくれた少女。ねぇ、エイリル。私は「甘さ」と「弱さ」は紙一重だと思う。でもね、「優しさ」と「弱さ」は違うと思うんだ」
「君はまだ優しさが大半かもしれない。だから、共に強くなろう。どうか君を隣で支えさせてくれ」
グレン殿下の目は少しだけ潤んでいるように感じた。
「エイリル、これから先も私は君に愛を伝える。今の私を愛してもらえるように。そして、君と未来を歩めるように」
グレン殿下が顔を近づけ、そっと頬に口づけをした。
グレン殿下が口付けした頬から熱が広がっていくのを感じる。
「さぁ、もう疲れただろう。今はゆっくりと眠ってくれ」
グレン殿下が私の手を両手で包み込んだ。
「エイリルが眠るまでそばにいるから、安心して眠ると良い」
私は不安も怖さもあったはずなのに、グレン殿下の優しい手に安心して眠ってしまった。
「エイリル・・・・!エイリル・・・・!」
目を開けると、グレン殿下が不安に満ちた顔で私の手を握っていた。
「グレン殿下・・・・ずっと手を握っていて下さったのですか・・・・?」
「そんなことは気にしなくて良いんだ。それより、身体は大丈夫なのか・・・・!」
「ええ。まだ少し身体が重いですが、問題ありません」
グレン殿下はあの後、倒れた私を運び、すぐに医者に私を診てもらったようだった。
「すまない。私が近くにいながら、君を危険な目に合わせてしまった」
「グレン殿下のせいではありませんわ・・・・!これは、私の注意不足です。それに、リエナ様に毒を盛られるほど恨まれていたことに気づかなかった私の落ち度ですわ」
「・・・・聖女リエナの屋敷の使用人たちに取調べを行ったが、皆、聖女リエナは一切関係ないと証言した。聖女リエナの力を考えると、使用人たちの証言が本当とは考えにくいだろう。しかし・・・・」
「証拠がないのですね・・・・」
「ああ。聖女リエナに聖女の力を使われると、証拠を集めるのは非常に難しい。すまない、エイリルがこんなに苦しんでいるのに、私は君の役にも立っていない」
「グレン殿下は私の役に立っていますわ」
「・・・・?」
「こうやってずっと私の手を握っていて下さった。それに、薄い意識の中でグレン殿下の声が聞こえたことがどれだけ嬉しかったか知らないでしょう?」
私はグレン殿下に微笑みながら、感謝を述べる。
グレン殿下は、私の微笑みを慈《いつく》しむように見つめていた。
「エイリル、少しだけ昔話をしても良いか?」
「え・・・・?」
「本当はまだ話すつもりはなかったのだが、今の君の笑顔を見たらあの時を思い出してしまった」
グレン殿下は私の手をもう一度ぎゅっと握る。
「エイリル、君は私に会ったことを覚えていないと言ったね。それは、当たり前だ。だって、私は【一度も君と話していないのだから】」
「昔、王宮で行われていたお茶会に君は招待されていた。そこで君はいつも笑顔で人に接していた。しかし、幼い君を利用しようとする貴族も多かった」
「そこで私の父・・・・国王は君を呼び出し忠告をした。「君を利用しようとするものもいる。注意した方が良い」とね。私は偶然その場を見ていたんだ。幼い娘にとっては難しい話だったが、国王はきっとフォンリース公爵家自体を信頼していたのだろう」
「君は「ご心配ありがとうございます」と微笑んだ。「どうかこれからもご忠告して下さると嬉しいです。私の立場で誰かに騙されることは、家族だけでなく国民にまで迷惑をかけてしまいます。私、それだけは絶対に嫌なのです」と続けた」
「国王は君に「君を騙そうとした人間を処罰する」と仰った。他にもその者には余罪があったようだ。だから、君にも証言して欲しいと述べた。君は小さく頷いたよ」
「ねぇ、エイリル。君は優しい人間だ。しかし、ただ優しいだけじゃない。自分の大切なものや大事なものが明確に分かっている人間だ。そして、そのものを守るためなら、きっと厳しい判断だって出来る」
「それでもね、その時の君は震えていたんだよ」
グレン殿下が私と目を合わせ、微笑まれる。
「私は、大切なものを守る人間がどれだけ強いかを知った。それでも、その出会いも思い出として終わらせなければと過ごしてきた。しかし、成長した君は聖女リエナ達に「断罪された」」
「報告を受けた私に臣下《しんか》は続けた。エイリル・フォンリースは最後まで「家族には迷惑をかけたくない」と泣き叫んだ。そして、自身の学園からの追放だけで済んだ時、エイリル・フォンリースは「とても安堵した様子だった」と」
「ねぇ、エイリル。優しい君はたくさんの大事なものを守ることに必死だ。じゃあ、誰が君を守るの?」
「私は、隣で君を守りたい。そう願ってしまった」
「優しい君は、きっと大切な人のためなら厳しい判断を下せる。それでもきっとその後に隠れてまた心を痛める。だから、どうか隣で声をかけさせて欲しい。「君の判断は間違っていない」と。私の言葉が君の勇気を出す後押しに少しでもなれば良い」
「あの日・・・・君に初めて会った幼いあの時、私は君の震える手をこうやって握ってあげたかった」
グレン殿下が私の手を握る手に力を込める。
「今、こうして君の手を握れることが私は堪らなく嬉しいんだ」
「私の守りたいものは、国民、家族・・・・そして、あの日、大切なことを教えてくれた少女。ねぇ、エイリル。私は「甘さ」と「弱さ」は紙一重だと思う。でもね、「優しさ」と「弱さ」は違うと思うんだ」
「君はまだ優しさが大半かもしれない。だから、共に強くなろう。どうか君を隣で支えさせてくれ」
グレン殿下の目は少しだけ潤んでいるように感じた。
「エイリル、これから先も私は君に愛を伝える。今の私を愛してもらえるように。そして、君と未来を歩めるように」
グレン殿下が顔を近づけ、そっと頬に口づけをした。
グレン殿下が口付けした頬から熱が広がっていくのを感じる。
「さぁ、もう疲れただろう。今はゆっくりと眠ってくれ」
グレン殿下が私の手を両手で包み込んだ。
「エイリルが眠るまでそばにいるから、安心して眠ると良い」
私は不安も怖さもあったはずなのに、グレン殿下の優しい手に安心して眠ってしまった。
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