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聖女リエナとの対面

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数日後。

私はリエナ様の住んでいらっしゃるシーラック伯爵家の前に立っていた。

リエナ様は元々平民であったが、聖女の力が発覚した後、シーラック伯爵家に養女として引き取られた。

リエナ様に事前に面会したいと手紙を送ると、すぐに了承の返事が送られて来た。

グレン殿下にリエナ様に一人で会いに行くと伝えると、グレン殿下は私を必死に引き留めた。

「今、聖女リエナに会いに行くのは危険だ。彼女がエイリルをまだ貶《おとし》めようとしている可能性もあるのだから」

「しかし、聖女リエナの力が効かないのは、この国で私だけですわ。グレン殿下、どうか私にリエナ様と向き合わせて下さいませ」

「しかし・・・・!」

「大丈夫ですわ。危険だと感じたら、すぐにその場を離れますわ・・・・グレン殿下、私は自分に出来ることがあるのに、何もしないで誰かに守ってもらうだけでは嫌なのです」

グレン殿下は、私の固い意志に最後は折れて下さった。

「危険だと感じたら、すぐに逃げてくれ。私も近くに待機しているから、必ず助けを求めて欲しい」

「ええ。必ず」

私は、リエナ様の考えていることが分からない。

それでも、知らなければならない気がしたの。

私はリエナ様の屋敷の前で大きく息を吐き、決意を固めた。

「エイリル様、いらっしゃって下さったのですね・・・・!」

リエナ様はまるで私を学園から追放したことを忘れたかのように、嬉しそうに私を出迎えた。

リエナ様は質の良い美しいドレスを着て、輝かしいアクセサリーを身につけている。

華やかな服装に見劣《みおと》りしない微笑みは、まさに聖女そのものだった。

「すぐにお茶の準備をしますわ」

リエナ様はお茶の準備を使用人に命じる。


「誰か、お茶の準備をして欲しいわ」


使用人たちはリエナ様に頼み事をされるのを心底喜んでいる様子で、誰がお茶を入れるかで言い争っている。

その光景はまるで異様だった。

その時、シーラック伯爵家の当主夫妻が現れる。

そして、私に厳しい視線を向ける。

私は、心臓が速くなるのを感じた。

私はリエナ様を虐めたとして学園を追放された。

シーラック伯爵家の当主夫妻が私を憎らしく思っていても、何一つ不思議ではない。



その瞬間、リエナ様が胸の前で手を組み、目を瞑《つぶ》る。



『お父様、お母様。エイリル様は私の大事な客人ですわ』



すると、二人は一瞬虚《うつ》ろな目をした後、私に微笑まれる。


「エイリル様、今日はのんびりと過ごして下さると嬉しいですわ」

「ああ、これからもリエナと仲良くしてくれると嬉しい」


私が初めてリエナ様の聖女の力を目にした瞬間だった。

「リエナ様・・・・あの・・・・」

「・・・・エイリル様、客間に向かいましょう?私と「二人きり」でお話したいのでしょう?」

客間には紅茶の入ったティーカップが二つと、甘いお菓子が並べられていた。

私は、リエナ様に向かい合うように椅子に座る。

リエナ様がティーカップを手に取り、そっと一口紅茶を飲む。

そして、私にも紅茶を進めるように微笑まれた。

私も一口紅茶を飲み、リエナ様に向き直る。


「・・・・リエナ様、先程の光景もそうですが、リエナ様は「言葉で人を操れる」のですか?」


「そんなの聞かなくたって分かるでしょう?だって、エイリル様は私を虐めてなどいないのですから」


「っ!では何故、あんなことを・・・・!」


「エイリル様が憎くて憎くて堪らなかったからですわ。それ以外に理由などあるはずがないでしょう?それより、街で貴方と仲睦《なかむつ》まじそうにしていたフードを被った人物は誰ですの?私に教えて下さいませんか?」

「・・・・何故、その人の正体を知りたいのですか?」

「エイリル様が憎くて堪らないと言ったでしょう?少しでも利用したいからに決まってますわ」

「そう言われて、教える人間などいませんわ」

私はリエナ様と話したことはあるが、憎まれるほどのことをしたことはない。

「リエナ様は何故、私を憎んでいらっしゃるのですか?」

「っ!それは、あんたの聖女の力が・・・・!」

「リエナ様は私の聖女の力を知っているのですね」


「っ!・・・・エイリル様ももう自分が聖女だと気づいているのでしょう?つまり、もうあの最悪な女神に出会った」

「しかし、まだエイリル様は自分の聖女の力を知らない」

「ああ、なんだ。あの女神、そこは私を優遇してくれたのね」


今のリエナ様の反応を見るに、リエナ様に聖女の力を授けたのも、あの女神のようだ。

そして、リエナ様は自身の聖女の力に加え、【私の聖女の力も知っている】。

しかし、私に教えるつもりなど少しもない様子だった。


「・・・・もうエイリル様も私に話すことはないでしょう?そろそろ帰って下さいませんか?」


そう冷たく言い放ったリエナ様は、私を屋敷から追い出した。

シーラック伯爵家の近くで、グレン殿下はずっと立って待っていらしたようだった。

「エイリル・・・・!何もなかったか!?」

「大丈夫ですわ。しかし、何も情報は得られなくて・・・・」

「そんなことは気にしなくて良い」

その時、私はあることに気づいた。

私もほとんど情報を得られなかったが、【リエナ様もほとんど何の情報も得られなかったはずだ】。



では何故、リエナ様は今回の私の訪問を受け入れたのだろう?



その思考が頭を巡った瞬間のことだった。

急に心臓が締め付けられるように痛み、呼吸が苦しくなる。

「はぁ・・・・!はぁ・・・・!」

「エイリル!」

私に聖女の力は効かない。

しかし、聖女の力以外を防ぐことは出来ない。

ましてや、「紅茶に毒を入れられたことに気づけるはずがない」

いや、本当は気づけたのかも知れない。

それでも、私はリエナ様が私を【殺したいほど】憎んでいるとは知らなかったのだ。

意識が遠のくのを感じる。

薄れゆく意識の中で、グレン殿下が私の名前を呼び続けている声が聞こえ続けた。


またあの時のように瞼《まぶた》が重く、上手く動かない。


「エイリル・フォンリース、久しぶりね」


その時、またあの女神の声が聞こえた。


「ねぇ、もう一人の聖女と話したのでしょう?どうだったかしら?・・・・まぁ結局、貴方が毒を盛られただけだったわね」

「今の所、このゲームはもう一人の聖女・・・・つまりリエナの方が優勢《ゆうせい》ね。だって、貴方はまだ聖女の力を知らないもの」


私はリエナ様に毒を盛られた。

リエナ様はそのために私を屋敷に招いたのだろう。

リエナ様は私の聖女の力のせいで私を恨んでいるようだった。


「聖女の力が知りたいの?ふふっ、でもまだダメよ。それに貴方はきっと聖女の力を知っても、【上手く使えない】。だって、【優しい】もの」

「何度でも言うわ。この聖女の力は貴方が【優しい】から授けたの。貴方が優しいからこそ、貴方にこの力を授けることは【面白い】」

「さぁ、早く目を覚まして。毒を飲んだのは幸《さいわ》い一口だけだったおかげで、亡くなりはしないわ」


女神の声が遠くなっていく。

女神の面白い試合を観戦しているかのような楽しそうな笑い声が聞こえた気がした。
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