上 下
9 / 21

SIDE:RIBES《サイド:リベス》

しおりを挟む
SIDE:RIBES《サイド:リベス》


聖女リエナとの出会いは、一年前だった。

パシュル国を訪問した際、【蕾を花に成長させる】所を見た。



正直、つまらない能力だと思った。



見栄えは良いが、俺には必要ない。

そう思っていた。

しかし、ベルシナ国第二王子であるルーマスが聖女リエナに心酔しているという噂がパシュル国にまで届いた。

そして、その情報を交易に利用出来るか見定めるためにもう一度訪問したベルシナ国では、聖女リエナの信者が数え切れないほど存在した。

そして、ある従者に聖女リエナを調査させると、従者は何故か聖女リエナに心酔して戻ってきた。

聖女リエナは使えるかもしれない。

そう考えた私は、聖女リエナに手紙でカマをかけた。

何故手紙だったかというと彼女と話した者だけが彼女に心酔していたからだ。



「聖女リエナへ

言葉で人を操るのは楽しいかい?」



彼女はすぐにその罠に引っかかり、こちらを味方にしようとした。

「リベス殿下

私はただ皆に愛されたいだけですわ。パシュル国に害を与えるつもりなどないのです。

もしよろしければ、力をお貸ししましょう。

その代わり、私にも手を貸して下さいませ」


彼女はズル賢い人間だった。

自身の聖女の力と引き換えに、私の協力を求めた。

しかし、それで良かった。

私は優しい人間などではない。

パシュル国が良くなるためならばなんでもする、その覚悟で生きているのだから。

聖女リエナの力は使える。

私は聖女リエナと手を組んだ。

すぐに彼女を信頼するつもりはないが、今は協力するのが妥当だろう。

彼女はすぐに私にあることを依頼した。



「公爵令嬢エイリル・フォンリースを【殺害】して下さい」



それがパシュル国のためになるのならばと、私はすぐに行動に移した。

学園を追放されたエイリル・フォンリースを【わざと馬車の事故で殺した】。

馬車の車輪に細工をするよう臣下に命じたのだ。

しかし、エイリル・フォンリースの死亡を確認するために向かった時に、信じられない光景を目にした。

一度は傷だらけだったエイリル・フォンリースの身体が、辺りが光に包まれると同時に無傷に変わった。

その時、何故聖女リエナがエイリル・フォンリースの殺害を依頼したのか分かった。



エイリル・フォンリースも聖女である。



そして、聖女リエナが存在を邪魔に思うほどの能力を持っているのだ。

私は聖女リエナに馬車の事故を起こしたが、事故は失敗に終わったと伝えた。

聖女リエナは少し怒った様子だったが、私に自身の性格や能力を明かされることを恐れたのか深くは追求しなかった。

その後、わざと偶然を装って出会ったエイリルの第一印象はただつまらない人物だった。

しかし・・・・


「どうして?今のは怒ったんじゃくて、助けてくれたんでしょう?」


彼女はただ優しいだけの人間ではないのかもしれない。

いや、ただの優しい人間でも構わなかった。

その人柄は、私が持ち合わせていない眩《まばゆ》い輝きを放っていた。

パシュル国のために彼女を事故に合わせた。

我が国のためだと、間違ったことをしたつもりなどなかった。

しかし、何故だろう。

彼女を事故に合わせた自分を後悔した。


エイリルの聖女の力はまだ分からない。

ただあの時、ベルシナ国の水不足に真剣に向き合う彼女をみた時、何故か彼女の祈りが届いて欲しいと思ってしまった。



「まずは祈ってみたらどう?雨を降らせて下さいって」



ただの悪戯のような助言で、彼女は本当に雨を降らせた。

彼女の聖女の力は未だ底知れない。

聖女リエナの方が役に立つのかも知れない。

エイリルに述べた助言が頭をよぎる。


「国は優しさだけじゃどうにも出来ない。回っていかない。だから、まずは自分の実力を知って出来る範囲を考えることだ」


今、自分のことを分かっていないのは俺の方だ。

優しさなど、もっと言えば私情など、王族の私に必要ないのだ。

この気持ちは要らない。

エイリルの願いが叶って欲しいなど、彼女の笑顔が見てみたいなど、そんな気持ちは要らない。

絶対に要らないはずだ。

そう言い聞かせる自分がとても滑稽《こっけい》に感じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!

吉野屋
恋愛
 母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、  潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。  美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。  母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。  (完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)  

聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです

石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。 聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。 やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。 女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。 素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

四度目の正直 ~ 一度目は追放され凍死、二度目は王太子のDVで撲殺、三度目は自害、今世は?

青の雀
恋愛
一度目の人生は、婚約破棄され断罪、国外追放になり野盗に輪姦され凍死。 二度目の人生は、15歳にループしていて、魅了魔法を解除する魔道具を発明し、王太子と結婚するもDVで撲殺。 三度目の人生は、卒業式の前日に前世の記憶を思い出し、手遅れで婚約破棄断罪で自害。 四度目の人生は、3歳で前世の記憶を思い出し、隣国へ留学して聖女覚醒…、というお話。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

【完結】聖女として召喚されましたが、無力なようなのでそろそろお暇したいと思います

藍生蕗
恋愛
聖女として異世界へ召喚された柚子。 けれどその役割を果たせないままに、三年の月日が経った。そして痺れを切らした神殿は、もう一人、新たな聖女を召喚したのだった。 柚子とは違う異世界から来たセレナは聖女としての価値を示し、また美しく皆から慕われる存在となっていく。 ここから出たい。 召喚された神殿で過ごすうちに柚子はそう思うようになった。 全てを諦めたままこのまま過ごすのは辛い。 一時、希望を見出した暮らしから離れるのは寂しかったが、それ以上に存在を忘れられる度、疎まれる度、身を削られるような気になって辛かった。 そこにあった密かに抱えていた恋心。 手放せるうちに去るべきだ。 そう考える柚子に差し伸べてくれた者たちの手を掴み、柚子は神殿から一歩踏み出すのだけど…… 中編くらいの長さです。 ※ 暴力的な表現がありますので、苦手な方はご注意下さい。 他のサイトでも公開しています

処理中です...