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衝撃の言葉

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学園に来て、一週間。

記憶喪失のことは、噂で知っているようで皆優しく接して下さる。

そして今日は、私が学園に来て初日に実施した試験の結果が張り出されている日である。


「おい!誰だ!リーネット・アステリアという者は!」


誰かが私の名を大声で呼びながら、探している。

顔を拝見すると、第一殿下のレーヴィン・エイデル様である。

私が最後にレーヴィン殿下を見たのは、10年前なので随分大きくなられたと感慨深くなる。

しかし、王族である人間が公爵令嬢であるリーネットを知らないというのは社交界への勉強不足をものがたっているだろう。

もしくは、興味すらないのか。

レーヴィン殿下の隣には、淡い金色の長い髪を可愛く結い上げている少女。

「レーヴィン様が一位じゃないなんておかしいですわ!このリーネットという人が不正をしたに決まってます!」

少女の周りには、レーヴィン殿下の他にも沢山のナイトのような貴族令息達。

レーヴィン殿下も少女に甘い視線を注いでいる。

ああ、なるほど・・・レーヴィン殿下は彼女にしか興味がないのか。



「おい!早く出てこい!リーネット・アステリア!」



「ここにおりますわ」


私はゆっくりと前に出て、レーヴィン殿下に礼をする。

「おい、お前。不正をしただろ」

「しておりませんわ」

リーネットなら、きっと反論も一言だけだろう。

本当は少しこうなることは予想していた。

急に成績が上がれば怪しまれて当たり前である。

しかし、成績が良ければアステリア公爵家に箔が付く。

記憶喪失で悲しませたリーネットの両親を少しでも喜ばせたかった。


「嘘をつけ!」

「そうですわ。リーネット様、正直に話して下さいませ」


レーヴィン殿下も可憐な少女も責めることをやめない。

その時、ふと順位表を見るとレーヴィン殿下は二位であった。


「え!?」


「なんだ?」


「二位ではありませんか!」

「そうだ!今まで一位だったのに、二位に・・・」

「何がいけませんの?」

「は?」


「学んだことは消えませんわ。私たちの糧になります。絶対に」

「例えば、30位で嬉しいと思う人もいれば、悲しいと思う人もいますわ」

「2位でしたら、私の予想ですと100人中98人・・・いや99人は嬉しいですわ!」


「は?」


「だから、ものは考えようということです。つまり、どうか真面目に勉強した自分を褒めてあげて下さい」

「あ、それと、私、不正は絶対しておりませんわ」

「気になるのでしたら、教科書のどこを問題にして下さっても構いませんわ。いつでも、訪ねて来て下さい」

「良いライバルが出来て嬉しいですわ」


その光景を遠くから眺める黒髪の凛とした青年が、私に近寄ってくる。

つけている学年を示すブローチから三年生だと理解した。


「リーネット・アステリア嬢。こちらに来て頂けますか?」


そう仰り、その青年は私を遠くの空き教室まで連れていって下さる。

「あの、どうされたのでしょう?アルト・レクシア様」

「へー、俺のこと知っているんだ。話したこともないのに」

急に口調が変わり驚いてしまう。

「隣国であるヴィスタ国の公爵家の御長男について学ばない貴族はいません」

「そうかな?十分凄いと思うけど。それで、リーネット嬢はどんな魔法を使ったのか教えてくれない?」

「はい?」

「私はテストで力を抜いたから、時間が余ったんだ。だから他の生徒を後ろから見ていたけど、不正をしたものなんていなかった。君のテストは全て満点。ましてや、性格も違う」

「話したこともないはずなのに、何故そんなことが分かるのですか?」



「だって、嘘だから」



「!?」


「話したこと何度かはあるよ。君はそれを否定しなかった。つまり、それを覚えてない。もしくは【知らない】」

「記憶喪失って聞いてたから始めは受け入れようとしたんだけど、【少し頭が良すぎる】。おかしい。まるで別人が入っているようだ」

「ねぇ、アステリア嬢。君は記憶喪失?それとも、もっと興味深い何かかな?」



「ねぇ、私は君のような少女を知っているんだ」



「え?」



「君は、【リーネ・フローリア】だろう?」



ヒュッ、と喉がなったのが聞こえた気がした。

その衝撃的なことを述べたアルト様は、さらに衝撃的な言葉を続けた。



「君を殺したのは、俺なんだ・・・ねぇ、俺と結婚しない?」



心臓が異様にはやくなるのを感じる。

彼は一体何を言っているの?



「ねぇ、俺に君への贖罪《しょくざい》をさせてよ。リーネ・・・いや、今はリーネット嬢かな」

「俺と結婚してくれたら、必ず君を幸せにすることを誓うよ」



理解が追いつかなかった。

頭を整理する時間が足りない。


「そろそろ授業が始まる時間だね。教室に戻ろうか」


アルト様は美しい凛とした微笑みを私に向けて、去っていく。


ここから私のリーネット・アステリアとしての生活は大きく動き始める。
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