嘘憑き

第一章

1

『平成の公儀隠密』
と呼ばれる謎の組織が、脱法ハーブを販売していた業者を壊滅寸前にまで追い込んだ。

というニュースがテレビで流れていた。
幸樹はテーブルの上のリモコンを取って、テレビを消した。
脱法ハーブとは薬の分子構造を改変したもので、法律で取り締まりができない薬物のことーーだったか。
「なにが『平成の公儀隠密』だ」
『平成の公儀隠密』とは、最近世間で騒がれている慈善団体か、あるいは個人か。

慈善だか偽善だかなんだか知らないけれども、警察では介入できない性質をもつ事件に首をつっこんでは、少々荒々しい手を使って結局は検挙や逮捕に結びつけているらしい。

法に触れるような行為をしていながら逮捕されないのは、もしかしたら警察と裏で何らかのつながりがあるのか、などとも噂をされている。

だが幸樹はさほどに興味はなかった。自分とは関係のないところで起こっている話だ。
大抵の人がそうだろう。テレビのニュースで報道されていることが、わが身にも起こりえることだと親身に思える者がどれだけいることか。

幸樹はあくびをして、ソファーにふんぞり返るようにして伸びをした。
そのまま逆さ向きになった時計を見上げると、二時五分前。
あれ、もうこんな時間？
起き上って振り返って見ても時刻に間違いはない。
そろそろ時間か。
そう思っていると、ピンポンとインターホンの音が鳴った。

幸樹はソファーから立ち上がって、今見ていたテレビに臙脂のカバーをかけると、ドア横についているインターホンで応答した。

「はい」
　すると、か細い男の声が返ってきた。
『あの、今日カウンセリングの予約をとっていた町田ですが』
　インターホンのカメラには頬のこけた男の姿が映し出されていた。
見るからに幸さちの薄うすそうな男だ。
　幸樹は着物の襟を正しながら、
「どうぞ。中へお入り下さい」
と答え、ソファーに座り直した。