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彼女だけの暗号
しおりを挟む優花里は俺の家に来て確かめたいようだった。
なんとも言えないまま、授業に至る。
優花里は隣に居る。
いつもに増して優花里の鞄が膨らんでいるようにも見えた。
咄嗟に決めたわけではなさそうだ。
適当にノートを取っていると優花里が短く切った紙を差し出す。
その紙には黒い点が等間隔で書かれている。
「なんだこれ?」
『点字』
目が見えない人でも手先の感覚だけで分かるという文字。
優花里はそれを書いて渡してきたようだ。
「分からないならこれ使って」
少し大きな紙には、それぞれの点字の下に平仮名が振られている。
「ノートヤバいんだ」
「解読できたらお尻触ってもいいよ」
「これより暗号解読に取り掛かる」
俺は点字の解読に取り掛かった。
実際は渡された表を見ながら暗号の下に平仮名を書くだけの簡単な作業だった。
出来上がった文字を優花里の真似でなぞる。
おんな きみのこと つけてる。
ゾッとして取り乱す前に点字にしてくれた意味を考える。
冷静に優花里を見ると肘を立てて考える為の頬杖を突いていた。
ノートの端に紙を置いて芯を隠したシャーペンで凹ませる。
カチャンと使い終えたシャーペンを寝かせて、紙を優花里の空いた手の前に置くと紙に人差し指を重ねた。
更に中指を当てて紙を回転させる。
人差し指を最初から重ね直して指をずらしていく。
スタンプを押すようにチッチッと張り付いて離れる音がした。
優花里は俺のシャーペンを取って親指でカチカチとノックする。
どこからか紙を出すと点字を書き始めた。
優花里は薄い点と濃い点を使い分けて文字を表している。
俺がノートを取っている意味はなんなんだろう。
出来上がった点字をまた読み取った。
はいひーるのおと きみのちかくでつねに。
いまもきこえる おなじおと。
今も聞こえるなら俺にも聞こえるはず。
目を閉じて耳を澄ませると違う足音がある。
その中に1つ、ハイヒールはあって。
コツンコツンと斜め後ろから聞こえている。
そしてその位置は優花里にとっての後ろだった。
優花里から点字が届く。
ぺんおとす うしろのひとをみて。
ペン回しを真似た優花里のペンは綺麗に後ろへ落ちる。
「ど、どこに落ちたかわかんないよー」
「分かってるくせに」
俺が後ろを向くと金髪の女が視線を下げる。
マスクのせいでそれ以外分からない。
耳が正しければこの人じゃないとおかしい。
他は男だから。
しゃがんでペンを取る時に優花里のスカートを覗く感覚で、後ろの机の隙間から靴を見る。
テカテカとした黒いハイヒール。
俺は席に戻って優花里にペンを返す。
点字で分かったことを伝える。
それと同時に授業が終わる。
「うわ、ノートが……」
もしかしたら単位を落とす可能性すらあるのか?
俺だけじゃなくて優花里も?
「大丈夫、私が全部覚えてるから!」
「覚えてるのかよ」
気がつくと昼休憩。優花里と学食を食べに。
適当な定食をお気に入りの窓際で一緒に食べる。
「やっぱここだよ、今まで座られてないし」
「そうだな」
優花里には言ってないが、夕日のような逆光で食べにくい。
「しかも暖かいんだよね」
こんなに強い日差しを浴びたら暖かいに決まっている。
「日光がある気がするんだよね」
独自の見解で太陽に辿り着いている。
「いただきまーす」
優花里は小皿を手に取る。
中のおかずを全部食べると次は味噌汁を全部飲み干す。
大皿を手に取った所で優花里の隣に誰かが座る。
ハイヒールの金髪だった。
「おい、何の用だ」
俺は優花里に金髪の情報を伝える。
『私はFBIの者です』
金髪はそう言ってマスクをずらすと、優花里と同じ定食を同じように味噌汁を飲み干す。
『柏木優花里さんをテストしていました』
優花里がエビフライの尻尾を咥えてモグモグしている。
『あなたをスカウトさせてください』
パリパリとエビの尻尾が咀嚼される。
唇の油をテカテカさせながら茶色の粉をペロリと舐めとる。
「いいよ!」
「嘘に決まってるだろ」
間に入っておかしい点を指摘する。
FBIは白状しないとか。
「じゃあ英語できる?」
「できます」
そこからは何言ってるか分からなくなった。
少なくとも英語はもう使ってないことが分かった。
「これは本当だね」
何言ってるか分からなかったので信じるしかなかった。
『だが、断る!』
優花里はそう言うと千切りキャベツを大きく取って頬張る。
「そうですか」
自称FBIも千切りキャベツを頬いっぱいに詰め込む。
「変な人という誤った認識を訂正しに来ただけです」
そう言って変な人は帰っていった。
「ストーカーじゃなくて良かった」
優花里、ストーカーなのは変わらないよ。
「そういえばお尻触らせてくれるって話は?」
「危険回避の為の投資だよ」
スカートをこっそり上げて俺にだけ見えるように中身を晒す。
『触っていいよ』
囁く優花里に甘えて手が出る。
太ももに指を置く。柔らかく形を変えてジワジワ跳ね返す。
肉厚な方へ押せば押すほど沈み込み、指が挟まれて食われる。
指を揺らすと指より大きな肉が過敏にプルプル震える。
優花里が少しだけ足を開く。
椅子まで指を入れると足が閉じてムニムニと揉まれる。
「こんな手なんだね」
俺の手を嗜むように優しい声。
強く挟んでパッと太もも同士が離れる。
微かに浮いた太ももが勢いに揺らめく。
「はい、おしまい」
太ももに細くてピンク色の跡が残っている。
優花里の匂いが手に移っていた。
「点字、覚えてね?」
「覚えます」
俺は堅牢な意志を持った。
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