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第41話 君の味

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 長い時間がサラの見守りに溶けていった。

 分かったのはめちゃくちゃ寝言が多いということ。

『こわい……』

『やだ』

 なにかにうなされてるような言葉が多い。

『誰か、居ないの……?』

 そう言って天井に手を伸ばすサラ。



『助けて、助けて助けて助けて!』



 何かを掴もうと何度も作られる右手の握りこぶし。

 俺は急いでその手を包み込んだ。

 叫ばれるとめちゃくちゃうるさい。

『来た……』

 そう言ってしばらく黙る。

 顔を見てみると、閉ざされた目尻から涙が流れていた。

 ど、どんな悪夢を見てるんだ?

「あ、あぁっ、、だめだよ……」

 誰かを引き止めるように呟き。

『ダメだって言ったのに!』

 叫びながら体をガバッと起こす。

「な、なんだ!?」


 サラの呼吸は酷く荒い。周りを何度も見て、何かに怯えているように見える。


「ご、ごめん……よくうなされてるの」

「そうか」

 俺の手に気づいたサラはなぜか『ありがとう』と俺に言う。

「何かしたか?」

「夢の中でリュウキくんが助けに来てくれたんだ」

「さすがだな俺!」

「でも元凶を潰しに行くって言って……こ、こわかった……」

 そう言ってプルプル震える。

 こういう時、何も知らない俺はどうしたらいいのかわからない。

「……また、寂しい夜が続く」

 サラは投げ捨てるように呟いた。

「そんなこと言うなって」

「こんな私を知って居てくれる……?」

「居るしかねえし」

「外とは大違いだよね」

 最初はめちゃくちゃ強気な人で俺を奴隷のように使ってくるのかと思っていたが、そうでもなかった。


「ギャップに驚いてるよ」

「ベッドに居たくないのに、体調崩しちゃった。見られたくないのに、弱い所見せちゃった」

 とても申し訳ない事をした気がする。

「ごめん……」

 殺そうとしてきた人になんで謝ってんだろ、俺。

「私が弱くてダメなだけだから」

 表情一つ変えないサラはベッドに再び倒れる。

「外、出たい?」

「今は見守っておくよ」

「ありがとう……」

 さらに時間は流れていった。途中でオジサンが食器を取りに来た。

 寝言を聞きながら俺は夜を迎える。

 目を覚ましたサラがムクリと体を起こす。

「汗が凄いぞ?」

 またうなされてたんだろうか。

「それより、薬のおかげで体が軽いわ」

「よかった」

 ベッドから出たサラは軽快に跳ねて制服のスカートを揺らす。

「お礼に夜のコキュートスで一杯いかが?」

「面白そうだな」

「二人酒は面白いでしょう」

 窓に近づきながら「したことないけど」と呟いた。


 片目を閉じたいサラは魔力に気づく。

 スカーに作って貰った窓に戻る為の魔力だ。

「リュウキくん?」

「なんだよ」

「ここにある魔力知らない?」

「魔力なんてあったのか」

 懇親の嘘。本当はめちゃくちゃ知っている。

「あ、アラスかも……」

「アラス?」

「私はリュウキくんの殺害に失敗した、それで殺す気をなくした私は死んでもおかしくないの」

 物騒な言葉が飛んでくる。

「それくらいで死ぬとかないだろ」

「前に派手なミスをした男が居なくなってたわ」

「それは怖いな……俺を殺しとくか?」

「もう、しない」

 サラは人差し指を外に向ける。

 瞬きをすると青い糸が街に向かって伸びているのが分かる。

「しないのか」

「一人になるのはもう嫌なの」

「……」

「君は本当に優しくて、一生傍に居て欲しい」

 伸びていく魔力はもう目で追えない。

「俺には、スカーが居るからな……」

「えぇ、そうね」

「アイツは俺が居なかったら死んじまうんだよ」


『私も君と居る味を忘れれない』


 張り合うように言われてしまった。

「では、行きましょうか」

 サラはそう言って手を差し出す。

「ああ、そうだな」

 手を握ると魔力の糸に触れる。青い世界に取り込まれた俺達は遠い地面を眺めた。

 夜なのに人が沢山。宴はまだ続いているらしい。

 緩やかに地面に近づいて、家と家の隙間に俺達は降り立った。

 小さな路地裏で、消える瞬間を見られる恐れはない。

「私が奢りましょう、ついてきなさい」

 外では強気のサラは俺の手を握ったまま路地から出ると近くの屋台に向かった。


 四本の足で立つ簡単な屋根の元に、横にただっ広いテーブルとそれに見合ったイスの数々。

 即席で開かれた飲み会のようだ。イスは一つしか空いてない。

「リュウキくん、どうぞ」

「いいのか?」

「ええ」

 じゃあ遠慮なく……。

 座ると俺の太ももにサラが腰を下ろした。

「だ、騙された」

「騙してないから」

 それからしばらくして女性が注文を受け付けに来る。

 緑色の三つ編みが輝かしい人だ。

「あれとこれ……いつもの二つね」


『かーしこっと、今日の連れは彼氏?』


「そう見える?」

「一つの椅子に二人で座ってたらそう見えるでしょ」

 女性が一枚の紙を破ると俺に握らせた。

「それ持っててね、彼氏さん」

 そう言って女性はピューっと消えていった。

「さっきのはマリ、上位クラスで完全記憶の持ち主よ」

「へえ?」

「何もかも覚えれるから客にメモを渡して本人確認にできるの」

「すげえ友達じゃん」

 サラは「そうでもない」と言う。

「そうか?」

「表向きの友達」

 しばらく待つとマリが再び現れた。

 紙を見せると二枚の皿を机に置く。

「はい、これとこれ!」

 振り向いたサラが「いつものは?」マリに何か聞いている。


「いやー今から持ってくよ」

「そう」

 サラの胸が眼前に……ってよく見たら僅かに膨らんでるかどうかも危ういサイズ感だった。

「何を見てるの?」

「別に……」

「悲しい?」

 もしカロンのサイズだったら顔に直撃してるんだろうなあ……。

 なんて男の悩みを言えるわけもなくて。

「悲しくはない」

「ならいいけど」

 それから大きなジョッキを二つ受け取るとテーブルにドンと置いた。

「飲みましょうか」

「まて、俺が飲みにくい」

 イスは空いてない。どうしたものか。

「横を向いてみたら?」

 足ごと体を横に向けると。

 サラはこっちを向いて俺の足に座り直した。

「これならいける?」

 ミニスカだから内ももの感触がダイレクトに伝わる。

「割と」

「片手で支えて欲しいな」

 仕方なく腰に手を回してあげる。

「はい、お酒」

 ジョッキを受け取った俺はカチンとジョッキ同士を鳴らせる。

「……つまみ欲しい?」


 先にごくごく飲み始めたサラは、皿に乗った赤い果実を摘む。

 頷いた俺の口に押し込んできた。



『お、た、べ』



 その声は、やけに色気を含んでいた。








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